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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第七章 獣人の国
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奇縁と再会

 宿の中にある食堂のテーブル席を四人で囲む。

 周囲の宿泊客はそれなりに多く、中々の人数が同時刻に食事を摂っていた。

 獣人国での初めての朝食は、何と言ったらいいのか……茶色っぽかった。

 私が微妙な表情をしていると、ライオルさんが一言。


「驚いたか? 獣人は農業をやりたがる人間が少なくてな」


「ああ、それで……やけに肉が多いと思ったら」


 野菜がまるで無い訳ではないが、それでも栽培の必要が無い山菜や野草、山で採れる果物などが多いか。

 そして、その比率が圧倒的に肉の量に負けている。

 三つに区切られた皿の上で肉だけが大きくはみ出している。

 流石にパンは付いているので小麦は栽培しているのだろうが。


「む……」


「どうしました? ミディールさん」


「召し上がってみれば分かるかと」


 幾つか野菜を食べた後に、ミディールさんが顔をしかめた肉料理を私もかじる。

 ……おおう。


(何これ、しょっぱーい……)


 アカネが言うようにかなり塩辛い。

 猪の肉の様だが血抜きが下手だったのか、かなり臭う。

 そして臭いを消す為か、大分濃いめの味付けがされている。

 塩と香辛料が余りにも多い。

 味付け自体は悪くはないが、いかんせんそれが過剰だ。


「不味くはないですが……体に悪そうですね……」


「まあなあ……ガルシアの料理が如何に美味くて体に良いか分かるだろ? 大雑把なんだよな、俺が言うのもなんだが」


 この分だと、帰ったら姫様に作るお菓子のレシピもなさそうだな……。

 いっそ丸焼き系にでも挑戦するか?

 焼きリンゴとか、焼き芋とか。


(あ、食べてみたいかも)


(そう? どちらも旬は秋から冬だから、今度ね)


 意外とアカネの反応も良いので、それでいっか。

 帰る頃には秋の入り口だろうし。

 難しい顔をしていたミディールさんが口を開く。


「これはいけませんね……仕方ありません。今後は、なるべく私が食事を作りましょう」


「ミディールさん料理出来るんですか?」


「ええ。代わりと言ってはなんですが荒事の際はお願いしますよ。私は戦闘に関しては、からっきしですので」


 ミディールさんの口振りからして料理の腕には自信があるんだろう。

 こういった食事が続くのは正直辛いので、素直にお願いすることにした。



 宿を出て、馬で更に北へ。

 今更だが最終目的地は獣人国の首都であるルマニだ。


「何事もなければ二週間ほどで着く筈です」


 と言うのがミディールさんの話だ。

 ルマニの位置としては、獣人国の中部やや西方よりだったか。

 この大陸の国は、西から東に向かって開拓を進めてきた歴史から西寄りに王都や首都が集中している。


「で、今日は何処まで進むんだ?」


 ライオルさんが馬上で気だるげに肩を回しながら問いかける。

 ミディールさんは地図を広げながら経路を考えている様子だ。


「そうですね……出来ればニスモという町まで。他は小さな村が多く、泊まれる場所があるか不安です」


 確かに野宿はごめんだ。

 今はまだ夏だし季節柄、虫が多い。

 出来れば風呂にもきちんと入りたい。


(お姉ちゃん、お胸の下と脇の下、ちゃんと汗拭いた? あせもになっちゃうよ?)


(ん、大丈夫。もう慣れてるから)


 何だかんだでこの体との付き合いも長い。

 男の体では考えられなかった部分が蒸れ易いのを知った時は、ちょっと複雑な気分だったが。


「では、行きましょうか。ニスモとやらに」




 そのまま暫くして。

 街道を進んでいると、遠くで土埃が舞っているのが見える。

 魔物か?


「いや、違うぞ。ありゃ人だ! 誰かが集団に追われてる!」


 私よりも視力が良いライオルさんが人だと識別した。

 距離が迫り、徐々に私にも状況が見えて来る。

 逃げているのは一人でかなり足が速いが、相手は先頭の二人ほどが馬に乗って追いかけている。

 その後ろから小集団が走って追う形。

 このままでは遠からず追い付かれるだろう。

 

「どうするカティア?」


 ライオルさんが問い、


「私としては面倒事は避けて頂きたいのですが」


 ミディールさんが眉間に皺を寄せる。


「……一応、もっと近づいて様子を見ましょう」


 私は決めかねていた。

 追われている側が罪人だったりということも無くはないので、状況把握が先だ。


「ニャー! そこの人達、見てないで助けてー!」


 と思っていたら向こうの方から近付いてくる。

 そして、獣人はとても既視感のある桃色の髪と猫耳、猫尻尾をしていた。


「……ねえ、あれウチの国のミナーシャじゃありません? 私が二回戦で戦った」


(ホントだ、おじいちゃんを馬鹿にしたイヤな人だ!)


「あー、あのネコ娘か。何だってこんなとこにいんだ?」


「……はあ。我が国の兵士であれば、保護しない訳にもいきませんか。お二人とも」


「分かりました」


「何なんだ一体……」


 馬首を巡らせ、ライオルさんと二人で追い縋る集団の前に割り込ませる。

 その連中は栄養状態が良くないのか皆痩せ細っていた。

 乗っている二頭の馬の状態も良くない。


「何だお前ら! 邪魔しようってんならお前らの身ぐるみを剥いで――」


 ……なるほど、分かり易い発言。

 こいつらは盗賊だ。

 それも困窮して最近盗賊になった連中なのだろう。

 戦闘距離に入っているにも関わらず、武器は構えないしオーラも纏わないのがその証拠。

 人数は全部で二十人程。

 確かに相手がこんな素人でも、スピード系のミナーシャでは多勢に無勢。

 逃げるしかないのだろう。

 一撃の威力が低いと一人に手間取る間に囲まれ易い。

 しかし、これだけ痩せ細っている相手を打撃や峰打ちで倒すのは忍びないな。


「ライオルさん、ここは任せて貰っても?」


「お? 何か考えがあるんだな。まあこいつらを無力化出来るなら何でもいいぜ」


 似たような感想を持っていたであろう、困ったように頭を掻いていたライオルさんに確認を取った。

 任されたので、相手を傷つけずに無力化する方策を考える。


(アカネ、行ける?)


 心の中でアカネに呼び掛ける。

 こういう時、魔法は本当に便利だ。


(うん、いつでも)


 魔力を軽めに練ってアカネに魔法に変換してもらう。

 そうして私は炎の壁を盗賊たちの前に放った。

 見かけが派手なだけの、余り威力のないものだ。

 しかし威嚇としては充分。


「うわっ、魔法だ!」


「下がれ、下がれ!」


「ひいい!」


 獣人は魔法を使うのが苦手な種族だ。

 代わりにオーラに特化した優れた使い手が多いが、見たところこの連中は兵士でも何でもない。

 困窮した村人が身を崩したといった風情であり、そんな彼らが見慣れていない魔法を見たらどうなるか。

 結果は目の前にある。

 戦意をすっかり喪失した盗賊連中は武器を降ろして投降した。

 馬の状態の差から、逃げられないということを判断出来る程度の理性は残っていたらしい。

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