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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第六章 闘武会
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終わりと始まり

「姫様、しっかり!」


「……カティ……やっぱりアカネみたいな精霊……羨ましいかも……フフ……」


(リリちゃん、大丈夫……?)


 頭に手を当てたまま、ゆっくりと立ち上がる姫様。

 冗談混じりの言葉で心配させまいとしているようだが、かなり辛そうだ。

 大精霊による魔法の反動に加えて兄であるエドガーの暴挙による心労が積み重なり、精神的な疲労はかなりのものだろう。

 しかし、それでも彼女はこの場に来た。

 今掛けるべき言葉は……きっとそれらを気遣うような言葉ではない。


「姫様の啖呵、格好良かったですよ。魔法も……お見事でした」


「……そう?……もっと褒めてくれても、いいよ……?」


「あはは、スパイク様みたいですよ。……ルミア様、後のことはお任せしても?」


「うむ。ライオルとニールも一緒にリリを連れて城に行け。フィーナは儂と負傷者の治療を」


 水魔法が使える二人は、観客席の方へ。

 リング付近も、バアルの眷属の死体を調べるためにやがて慌ただしくなるだろう。

 出て行く私達と入れ替わるように数人の兵士と情報部員が入ってきた。

 相手を知る上で、氷魔法で凍結したのは良かったのかもしれない。

 私達四人は姫様と共に王城に戻った。

 一刻も早く休ませた方が良いだろう。




 闘技場の襲撃による死者は約八十人。

 エドガー王子の行方を追った兵達も行方不明であり、最終的な死者は更に増える可能性が高い。

 二百人からなる襲撃者である眷属の数から考えれば奇跡的な数字だが、家族を失った者にはそんなことは関係ない。

 王都は混乱と悲しみに包まれた。

 王家から国賊を出したという事で王家を非難する者も居たが、姫様が命懸けで鎮圧に当たった事を知るとやがて矛を収めた。

 ただ、王子が逃げた方角や目撃情報などから帝国の関与は決定的となった。

 戦争の予感を更に高める悪いニュースだ。

 そんな状況の中、意外な事に闘武会の再開……決勝はあんな形だったが、実質優勝した私が称号持ちに挑戦できるという例のアレに関して、その実現を望む声が市民の間から多く出た。

 発起人となったのは、今回旦那さんを亡くした二コラさんという女性で「死んだ旦那もきっと賛成してくれる」と、私にも直接その話をしに会いに来てくれた。

 闘武会はガルシア王国にとって平和の象徴だ。

 戦時中は開かれない、人が死なない戦いとして実態はスポーツに近い。

 だからこそ、そんな大会を最後まで――そんな声が王都に溢れ、襲撃から二週間後の今日。

 私がルミアさんに挑戦する最終戦が実現する運びとなった。


「皆様、お久しぶりです! 本日は、優勝者特別戦が沢山の市民の声に応えて実現しました!」


 前回と同じリングアナウンサーの挨拶に、会場中の観客が大きな歓声を上げた。


「我々は戦いを否定しません! 故に、だからこそ、今日ここに到るまでこの国は残ってきました! さあ、特別戦もとびっきり熱い戦いを期待しようではありませんか!」


 再び大きな歓声が上がった。

 暗い事件を吹き飛ばす様に、高らかに。


「リング東、挑戦者カティア・マイヤーズ! 受けて立つのは西、ハイエルフの杖のルミア! もう何も言う事はありません! 間もなく試合開始です!」


 試合開始の鐘が鳴る。

 私は向かいに立つ小さな体を目指して全速力で駆けだした。

 彼我の距離は二十五メートル。


「む、流石に対魔法使いの定石は知っておるか」


 剣士が魔法使いに向かう時は、様子を見ずに素早く詰め寄る事が上策とされる。

 通常の魔法は魔力の練り……すなわち、溜めに比例して威力が上がる。

 自分のオーラを貫通する程の魔法を受ければ、剣士の負けが確定する。

 故に、開始と同時の接近が重要。


「じゃが、儂を並の魔法使いと同じにして貰っては困るのう」


 ルミアさんが杖を掲げた。

 氷の刃が三本飛来する。


(お兄ちゃん、中級魔法だよこれ!)


(アカネ、魔法剣!)


 この短時間の魔力チャージで中級か。

 一流の魔法使いでも下級まで、下手をすると発動できない程度の時間しか与えていないのだが、これは大変そうだ。

 ランディーニで氷を斬り落とす。

 あと十五メートル!


「もひとつ、ほれ」


 足元が隆起する。

 リングがたわみ、足を取られそうになり慌てて踏ん張った。

 土魔法か!


「どんどん行くぞ」


 火球が飛んでくる。

 数は四つ。

 私は隙を作らない為、敢えて火球を体で受けながら進んだ。

 あと五メートル!


「ほう、やはり火には強いか。ではこれを」


 ルミアさんの前に水の壁が出現した。

 まるで滝の様なそれを魔法剣で斬り裂き、全て蒸発させる。

 もう一歩で決着!

 だがおかしい、妙に簡単過ぎる。

 私がルミアさんだったら、このタイミングで……。

 念の為、もう一度ランディーニを振った。

 何もない「二人の間の空間」に向けて。


「何じゃと!?」


 見えない何かをオーラで弾く感覚に背筋が寒くなる。

 恐らく風魔法だったのだろう。

 魔法で個人的に一番厄介なのは、見えない風の刃だ。

 未熟な魔法使いなら視線や手の動きで分かるが、ルミアさんのそれはほとんどノーモーションだった。

 もし気付けなければ、恐らく……。

 そして、距離がゼロになった。


「……ふう、儂の負けじゃな。良くも悪くも、魔法使いと剣士の戦いは一瞬じゃのう。何故、風魔法に気付いた?」


「爺さまが言っていました。勝利を意識した瞬間にこそ隙が出来ると。確信を得られない時は剣に聞け、だそうです」


「ほう、剣に?」


「まあ、私も意味は余り分かっていないんですけどね。何となく、あそこに剣を振った方が良い気がしました」


「ティムらしい言葉じゃの……いや、見事! 審判、儂の負けじゃ! 降参、降参」


 杖を下して背を向けた。

 儂は痛いのはゴメンじゃ、と呟きながらルミアさんが審判を呼ぶ。

 そして闘武会の全日程の終わりを告げる鐘が鳴らされた。


「決着ー! 短い試合でしたが皆様、納得の行く素晴らしい内容でした! 息をもつかせぬ連続魔法を華麗に潜り抜け、武の頂に立ったのはカティア・マイヤーズ! 今ここに新たな伝説と、五人目の称号持ちが誕生しました!」


 会場が拍手と大歓声に包まれた。

 大量の紙吹雪が撒かれ、楽器が一斉に鳴らされた。

 面映ゆさと達成感で、少し足が震えた。


(おめでとう、お兄ちゃん!)


(ありがとう、アカネ)


 こうして私は、ようやく爺さまと同じスタートラインに立ったのだった。

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