表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第六章 闘武会
66/155

決勝

 決勝を待つ選手控室の中で、私は準決勝を振り返っていた。

 キョウカさんとの戦いは私も得るものが多かった。

 自覚の無かった沢山の感情への気付き。

 最初は爺さまへの恩返しの為としか考えていなかった王都行きだけれど、旅をする内に、いつの間にか私はこの国とそこに生きる人達を好きになっていたらしい。

 旅に出てから色々な人に出会った。

 ニールさん、ラザの兵士ギルドの支部長、最初の任務で会ったダンさん、ミーナさん。

 領主邸ではゲイルさん、そしてフィーナさんと。

 キセでは鍛冶屋のヴァンさん、沢山のお弟子さん達。

 トバルではライオルさん、ミズホさんと道場の人達。

 サイラスではルミアさんと。

 他にも、旅の途中で沢山の人達に出会った。

 もちろん善人ばかりではなく、中には盗賊や無法者も居たが。

 今まではずっと、身近な人達……爺さまや村の人達とさえ穏やかに暮らしていければそれで良いと思っていたんだけどな……。


(ティムおじいちゃんは、お兄ちゃんがそうなるって分かってたのかなあ?)


(……もしかしたら、そうかも)


 経験も年齢も、私に比べて遥かに上の人だ。

 前世の分を足しても遠く及ばない。

 視野の狭い私を見てどう思っていたのか……今となっては推し量るのは難しい。

 一方でこの感情は諸刃の剣だ。

 要は欲なのだ、より多くの人々の平穏を望むという事は。

 自分が成せる許容量を超えればあっさりと身の破滅を迎えるだろう。

 出来るのだろうか、私に……。

 爺さまのように……。


(大丈夫だよ、お兄ちゃん! わたしも一緒だよ!)


(ありがとう。……ふふ、私達は二人だもんね。考えてみたら誰よりもずるい存在なのかもしれないね)


 アカネが傍に居てくれる限り、心が折れる気は全くしない。

 支えてくれる大事な存在が誰よりも近くに居る。

 それに、この国は私が一方的に守らなければならないような弱い国じゃない。

 だから、あくまでも国に住まう一人の人間として力になりたい。


「カティア殿。少し、いいですか?」


 考え事を纏めるのに没頭していたら、ミディールさんが声を掛けてきた。

 重要事項の連絡役として、相変わらず城と闘技場を何度も往復しているらしい。

 苦労しているな。


「決勝の相手なのですが……どうも素性が掴めません」


「情報部が素性を掴めない? 一体どうして」


「どうやら、エドガー王子が一枚噛んでいるようでして。お気を付けください、カティア殿。事故を装って貴女を殺しにこないとも限らない。もしくは……」


「もしくは?」


 何か懸念があるのか、眉間に皺を寄せるミディールさんだったが……やがて首を横に振った。 


「いえ、考え過ぎですね。称号持ちが二人揃い、警備も厳重。この状況で分かり易い手段に出るほど愚かではありますまい、忘れて下さい」


「……」


 口にこそ出さなかったが、王子によるクーデターなどだろうか。

 確かに仕掛けるにはリスクが高すぎるタイミングだが……一応、頭の隅には残しておこう。


「相手は毎試合オーラ切れを誘うという、奇妙な結果で勝ち上がっています。充分ご注意を」


 エドガー王子はバアル教越しに帝国と通じているという疑惑があるにせよ、決定的な証拠は掴ませていない。

 つまり情報部の動向は読み切られている可能性もある。

 何が起こるにせよ次の試合、油断は出来ないようだ。

 気を引き締めていくとしよう。




 決勝の相手は全身甲冑に剣を持っていた。

 一刀で戦うオーソドックスな剣士タイプのようだが、中には一体どんな人間が入っているのだろうか。

 王子の一党であるならバアル教関係者、貴族、もしくは帝国の人間ということもあり得る。

 もう見慣れたリングアナウンサーが拡声器を取る。


「泣いても笑ってもこれが最終戦、決勝です! 東、魔法剣士カティア・マイヤーズ!」


 コールされた直後、割れんばかりの歓声が体を叩く。

 さすが決勝、みんな盛り上がってるな。


「素晴らしい歓声です! 彼女の人気のほどが窺えます! 運営側の者として片方に肩入れするのはどうかと思いますが……私も大好きだぁぁぁ! さあ、次!」


 ……。

 頼むから、普通に紹介して。


(お兄ちゃんどうしたの? 背中かゆいの?)


「リング西は謎の全身甲冑! 全身鎧の代表格と言えば拳のライオルですが彼は上に居ます! よって別人! 赤く輝く剣で対戦相手全員をノックアウトしてきました!」


 赤い剣……?


「では……いよいよ試合開始です!」


 疑問の答えは鳴らされた鐘と共に目の前にあった。

 赤い、まるで血を吸ったかのような禍々しい大振りの剣。

 鞘から抜いたそれを、ゆらりとした動きで迫り、振って来る。

 何の躊躇ちゅうちょもなく近付いてきた?

 ――まるで呼吸が読めない。

 私はランディーニで赤い剣を受け止めたが……。


「ぐうっ……!」


 力が急速に抜けていく。

 理由は定かではないが、このままでは良くない。

 どうにか残った力で赤い剣を振りほどいた。

 その瞬間。

 ドクン……。

 赤い剣が鳴動して、一際赤く光った気がした。

 まさか――


「オーラを、吸収した……?」


 一人一人波長が違うオーラを吸収?

 しかし現にオーラは減っているし、先程の感覚は嘘ではないと告げている。

 私の中の警戒度が瞬時に最高まで膨れ上がる。


(アカネ、手加減できる相手じゃなさそうだ。全力で行く)


(でも、どうするのお兄ちゃん?)


(あの剣は危険だ。触れないようにしつつ、まずは甲冑の頭部を剥ぐ)


 これだけ正体を隠しているのだ、見られたくない素顔なり素性なのだろう。

 だったら、頭部を狙って相手の動きを制限する。

 そのまま甲冑を外せればよし、駄目でも他の部分の防御は疎かになる。


(じゃ、行くよ)


(がってんしょうち!)


 最初にお決まりの炎弾を数発。

 しかしそれらは全て赤い剣が吸い取った。

 光が増す。

 その一連の動きに特に目立った反応が無い辺り、観客には普通にオーラで弾いているように見えるのだろう。

 

(魔法も吸うの?)


(みたいだ。力も増しているようだし、不用意に魔法は撃てないか)


 マン・ゴーシュも抜いて両剣に火魔法を点火。

 回避重視の足運びで全身甲冑に近づいていく。

 相手の身長は百八十センチほど、幸いリーチはそこまで不利ではない。

 動きが読みにくい相手だが……よく見てかわすしかない。

 間合いに入る。

 全身甲冑は横薙ぎに剣を振るってきた!

 私は限界まで引き付けて、一瞬だけマン・ゴーシュで赤い剣の軌道を逸らしつつ、相手の膝元に一気に屈み込んだ。

 髪が数本持っていかれ、刹那の接触だというのにオーラも魔力も大幅に持っていかれる。

 目をしっかりと見開き、ランディーニで甲冑のすね当て部分を狙った。

 カシャン!

 火で相手のオーラを削りつつの斬撃だが、何か妙な手応えの無さ。

 しかし相手は膝をついている。

 そのまま頭部の兜をマン・ゴーシュのガードで殴り飛ばした。

 兜がリングの上を転がっていく。

 そこには――


(お、お兄ちゃん……これ……)


 人間の頭部など無かった。

 在ったのは暗闇だ。

 甲冑の中には、ただ黒い霧のようなものが詰まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ