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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第六章 闘武会
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準々決勝

 大会二日目。

 この日は準々決勝まで行われる。

 二回戦を勝った私は次の試合も戦う必要がある。

 しかし――


(もう、だめじゃないのお兄ちゃん! あんまり強くなかったからいいけど、すっごく強い人が相手だったらどうするの!?)


 私はアカネからのお説教を受けていた。

 

(はい、仰る通りです……)


(ティムおじいちゃんだって、へいじょうしんが大事だって言ってたもん! 自分が原因でお兄ちゃんが怪我したらきっと悲しむよ……)


(……そうだね、ごめん)

 

 アカネが吸収した私の記憶や知識は穴だらけなのだが、そういった大事な記憶はしっかりと持っているらしい。

 耳に痛い言葉がビシビシと飛んでくる。


(反省した?)


(うん、大分)


 爺さまも言っていた。

 「戦いが終わればどんな感情を表すのも自由だが、戦闘中は決してそれを出すな」と。

 死んでしまったらもう泣くことも笑うことも出来ないからって。

 きっと戦争の事を指しているのだろうけど、命が掛からない戦闘だからと言って手を抜いていい理由にはならない。

 悪い癖がついてしまう。


(じゃあ午後もがんばろうね。わたしもがんばるから!)


 つくづくアカネが居てくれて良かったと思う。

 叱ってくれる相手というのは貴重だ。

 ……自分よりはるかに年下の幼女に説教されるというのは、それはそれで情けない気もするが。




 休憩、昼食を挟んで午後にはまた試合だ。

 全く疲れを見せないリングアナウンサーがハイテンションに声を張り上げる。


「さあ、準々決勝第三試合! リング東には、もはや説明不要! 最強のルーキーにして優勝最有力候補! 魔法剣士カティア・マイヤーズ!」


 よかった、今回は例の恥ずかしい褒め殺しは無いようだ。

 今後もこの調子で頼みたい。

 もちろん勝って次があれば、の話だが。


「対する西側……セサル領出身、冴え渡る技を武器にここまで勝ち上がって来ました! Aランク兵士、ヤタ!」


 ヤタと呼ばれたその男性は全身黒づくめだった。

 黒い髪に黒い外套、そして長身痩躯ちょうしんそうく

 黒髪だが和風の顔ではなく彫りが深い。

 大物の武器は持っていないが、一体どんな戦い方をしてくるのだろうか。


「さあ、間もなく試合開始です!」


 鐘が高らかに鳴らされる。

 ヤタさんが外套を軽く払うと――背中から漆黒の大きな翼が飛び出した。

 翼ってことは獣人の中でも鳥人と呼ばれるタイプだ。

 しかも背中に羽がある……これは非常に稀である。

 鳥人は腕が翼になっているのが大多数だが、彼はちゃんと人族と同じ腕もある。

 腕があるという事は攻撃手段もそれだけ増える。

 油断せずに私もすぐに二本の剣を抜いた。


「疾駆」


 一言そう呟いたように聞こえた。

 羽が大きく動いて体を急加速させてくる。

 ――またスピード系か!

 しかも前の試合のミナーシャ以上、目で捉えきれないほどの速度だ。

 嫌な予感がする方向に向けてマン・ゴーシュを動かす。

 ギンッ、という金属音。

 何時の間に出したのか、短剣を握った腕が私の脇腹を狙っていた。

 僅かに嫌な汗が流れるが、兎も角カウンターチャンス!

 ランディーニで逆袈裟に斬りつける。


「飛翔」


 しかし真上に跳躍……いや、飛んだ相手には届かなかった。

 羽を広げて十メートル程の高さを飛んでいる。


「……」


 そして私を探るようにゆっくりと斜め上あたりを旋回する。

 嫌な間の取り方だ。

 あれだけの速度を持っていて、防がれたと見るや戦い方を変えた。

 どうやらかなりの慎重派らしい。

 試しに牽制として炎弾を幾つか放つが――やはり当たらない。


「……このまま時間切れでも狙う気ですか?」


 判定になった場合、消極的な戦いをしていた方が圧倒的に不利だ。

 相手もそれを分かっていない筈はなく、


「笑止」


 とだけ呟いた。

 何を狙っている?

 暫く旋回した後、ヤタさんは不意に急上昇した。


(お兄ちゃん、だめ!)


 私はその様子をただ見てしまった。

 ヤタさんが上昇した先には……たった今、雲の間から顔を出した太陽の日差しが。

 直射日光に目が眩む――!

 まずい、このタイミングで必ず攻撃が来る!

 私は目を閉じたままリングの上を大きく横っ跳びした。


「失策!」


 相手の攻撃は運良く当たらなかったようだ。

 助かった。

 今ので仕留めるつもりだったのか、やや焦ったような声が上から聞こえた。

 しかしまだ目が回復しない、このままではまずい。


(アカネ!)


 やむを得ずアカネの力を借りることにする。

 恐らく、何をするべきかは分かっている筈。


(うん、お兄ちゃん! さあ、気合をいれるよー!)


 上空から、迫り来る羽音が聞こえてくる。

 だが、まだ焦っているのか音も殺気も隠しきれていない。

 先程までは羽音など聞こえていなかった。

 私は時間を稼ぐためにランディーニを大きくその方向に振った!


「!」


 手応え無し。

 しかし一度退いて行く気配を感じる。

 今の内に魔力を練り上げ、もう一度来る前に――出来た!

 私はマン・ゴーシュを手探りで鞘に納め、ランディーニを地面に突き立てると両手を広げた。

 自分を中心に、炎の渦が巻き起こった。


「何事!?」


 炎の結界が身を護る。

 両手を広げたのは魔法の維持の困難さから、神経を集中するためだ。

 簡単な魔法なら視線でコントロール出来るが、緻密なものほど視線に加えて手や杖で操る必要がある。

 それに単純に密度の薄い炎では簡単に突破されてしまう。

 手から伝わる魔法の感覚を頼りに、同じ状態をキープする。

 そのまま目の回復を待つ。

 何とか目が慣れてくると、自分が思っていた以上に燃え盛る炎の壁が目の前にあった。

 やけに熱いと思ったらこれだよ!


(アカネ、気合入れ過ぎ! 抑えて抑えて)


(ごめんなさーい! でも、もう遅いかも……)


 ……え! 

 アカネの言葉通り火が益々燃え盛る。

 結界はリングの上に半球状でほぼ密閉してある。

 このままでは酸素が一瞬でなくなってしまう。

 自滅は流石に間抜けすぎるだろう。


(お兄ちゃん、どうせならこのまま――)


(……まあ、うん。相手のオーラ量から考えれば大丈夫だとは思うけど)


 予定変更。

 炎をそのまま持ち上げる。

 幸いまだこの結界は私達の制御化にある。

 火力調整は出来ていないが、こうなってしまえば関係ない。

 空を飛んでこちらを窺うヤタさんに向けて……


「?」


 投げつけた。


「! ……回避……!」


 当然躱されるが、先程まで一方的に攻撃されていたのだ。

 今度は相手にも同じ目にあって貰う!

 回避行動を予測しつつ炎の塊を火の鳥の形に変えて移動させる。

 左手一本でコントロールしつつ、しつこく追い回させる。

 じりじりと、相手のオーラを焼いていく。


「……っ! 挺身ていしん!」


 そのまま飛ぶ内に数度炎に炙られたヤタさんは、捨て身の覚悟でこちらに向かってきた。

 だがそれは予測の範囲内。

 地面に刺さったランディーニを右手で抜き、相手の持つ短剣を捌いて胴を蹴りつけた。


「がっ!」


 痩身の軽い体が容易たやすく吹き飛ぶ。

 そして吹き飛んだその先で、火の鳥がヤタさんの体を抱擁した。

 魔法をコントロールしていた左手を握りしめる。

 瞬間、炎が爆ぜた。

 ……炎が収まった中から現れたヤタさんは、五体満足ではあったがオーラがほとんど感じられなかった。


「……敗北」


 呟き、私に背を向けた。

 片腕を抑えながらフラフラと審判の元に歩くと一言。


「降参」


 と、そう告げたのだった。


「決着ー! 遠近攻防、まるで隙無し! 魔法も一流、いえ、超一流と言えるでしょう! 視界を奪われてからの逆転劇は見事の一言! 勝者、カティア・マイヤーズ!」


 終了の鐘が鳴らされた。

 ……たたえられたけど、魔法の制御に関してはもっと練習が必要な気がする。

 日光の位置に気を使わなかったのも良くないし、また反省会かな、これは。

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