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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第一章 旅立ち
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村長一家

 ザックさんの家、いや、屋敷といった方が良いかな。

 屋敷は広い。

 別に村長として権力が強い訳ではなく、商人を泊めたり用事のある領の役人が泊まるので客間が結構あったりするのだ。

 ちなみにカイサ村はラザ領という場所に属している。

 村長宅は石造りであり大雑把な所は土魔法で、細かな部分は手作業で造ってある。

 前世の石を積み上げて固める方式とは大体同じだ。

 ただ、細かい部分まで建てるのは魔法では難しいのだ。

 表面も滑らかに仕上がらない。

 もし魔法だけで家を建てるなら、超人的な魔力とイメージの制御が必要になってしまうだろう。

 先程の村の土壁も仕上げは手作業である。


 それはさておき、今、私達は客間に居る。

 ハンナさんがカモミールティーを淹れてくれた。

 ……うん、良い香り。

 この村の名産品でもあり盛んに栽培されている。

 商人もそれを目当てに商隊を組んでやってくる程だ。

 村の周囲の土壁の所為で湿気が溜まり易いので、風魔法が栽培に大活躍している。

 この世界は植物や動物の生態が前世とそっくりである。

 まあ、それらに名前を付けたのは元は私と同じ世界の住人だろうけど。

 お茶を飲んでいると突然客間のドアが勢いよく開かれた。

 ハンナさんに良く似た顔で、栗色の髪を三つ編みにした少女が現れる。


「カティ! 来てたんなら声を掛けてよ!」


 村長さんとハンナさんの娘のローザだ。

 歳は十五歳。

 ハンナさんがそれを見て少し困った顔をした。


「ローザ、お行儀が悪いわよ」


「あ、ごめんなさいかあさん。ティムさん、おはようございます。カティも」


 ……ハンナさんに見た目は似ているが、ローザはとても活発だ。


「うむ、おはようローザ。お邪魔しとるよ」


 爺さまが挨拶に応じた。


「おはよう、ローザ」


 私も返事を返す。

 と、そこで私の恰好を見たローザが目を三角にした。

 なんだ?


「カティ、髪ぼさぼさじゃない! 今すぐこっちに来なさい! ティムさん、カティを借ります!」


「おー、持ってけー」


 ……あー、いつもは鍛錬後に櫛でかすくらいはするんだけど、今日は慌てていたので忘れていた。 

 ちなみにその櫛もローザから譲り受けた(押し付けられた)ものである。

 この二つ下の友人は何故か私の身嗜みにうるさいのだ。

 あと、爺さま、ローザ。

 私はものじゃないです。

 有無を言わさずローザの部屋に連行された。


 私の部屋と違って小物が多く、女性らしいローザの部屋に入る。

 ローザはおかんむりだ。


「まったくカティは……」


 ぶちぶち言いながら、私を無理やり椅子に座らせ、髪をいていく。

 人にやってもらうとくすぐったいな。


「ごめんなさいローザ。でも今日は忘れていただけですよ?」


「前も同じこと言ってたじゃない、あんた」


「そうでしたっけ?」


 最低限はやっている……つもりだ。 


「こんなに綺麗な赤毛なのに勿体ない。しっかりしなさい、女でしょ。私より年上なのに」


 ぼやくローザ。

 逆にこの娘は何時の間にか、しっかりした面倒見の良い姉御肌になってたんだよなぁ。

 年下なのに。

 もしかして私のせいか?

 それと中身は男です。


「ちょっと長いわね。後ろで縛るわよ」


「あ、はい」


 腰まであった長い髪をポニーテールにされた。

 動きやすそうだし良いかも。

 素直に礼を言っておく。


「ありがとう、ローザ」


 ローザがプイッと顔を逸らして言う。


「別に良いわよこれくらい」


 ……お?

 照れてるのか?

 照れてるのかな?

 ん?ん?

 ――顔を見ようと回り込んだら額をはたかれました。




 それから二十分程してザックさんが戻ってきた。

 場所は客間である。

 この国の人間は茶系の髪が多い。

 ザックさんもこげ茶色に白髪の混じった髪で、いつも困ったような顔をしている優しい人だ。

 恰幅が良いが、見た目に反して村の指揮だけでなく村人と一緒に農作業しているのを良く見かける。

 その甲斐あってか村人からも慕われている。

 年齢は確か五十歳の少し前だったかな。

 爺さまの詳しい来歴を村で唯一知っている人でもある。

 他の村人は爺さまが武人であることを知っている程度だ。

 故に、現在は三人で話をしている。

 王都からの手紙のことや、私が代わりに行くことも話した。


「そうですか……未だ剣聖の名は衰えず、ということですか」


 ザックさんの第一声がそれだった。

 ザックさんが見たのは壮年期の爺さまの筈だが、それでも魔物の群れを蹴散らした姿が目に焼き付いているらしい。


「わかりました。カティアさん、村で出来る限りの準備をしていってください。しかし、ローザが寂しがりますな」


「ありがとうございます、ザックさん。そうですね……爺さま、やはりローザには事情を話せませんよね?」


「いや、構わんぞ。お主が目立てばいずれ出身地などばれる。隠せば卑しい出自かと疑われるでな。それに、ここラザ領の領主は第一王女派じゃ。もう常駐兵の要請はしてある。第一王子派が何かしようとしてもある程度は大丈夫じゃ。誰にでも、とはいかんがローザになら話しておいても良いじゃろう」


 ? 手回しの早さに違和感を覚える。


「もう兵士を要請って、王都から手紙が来たのは昨日だった筈では?」


「ああ、すまん。話しておらんかったな。あれは王家からの正式な要請だと対外的にも知らせるための目立つ手紙でな。実務的な話は情報部ともラザ領とも既に済んでおる」


 ……私が断らないことは読んでいたらしい。

 随分と思い切った事後承諾である。

 まあ、断ったら爺さまが無理矢理でも行こうとするだろうし、それを見たら結局行っていたと思うがね!


「じゃあ、後でローザには話しておきます」


 どうやら出て行った後の村の心配はしなくて良いらしい。

 残る話は爺さまの新居の件だな。


「ザックさん、爺さまはどこに住むのですか?」


 ザックさんが破顔しながら答える。


「もちろん我が家ですよ!」


 爺さまが慌てた。


「待て待て聞いとらんぞ! どっかの空き家とかではないのか!?」


「当たり前じゃないですか。別の家ではティムさんのお世話を出来ません!」


「しかしじゃな、そこまで面倒をかけるわけにも……カティからも何か言ってやってくれ」


 そこで私に振るのですか。

 うーん。


「良いじゃないですか、爺さま。ザックさんとハンナさん、ローザが一緒なら私も安心です」


 これは正直な感想だ。

 ザックさんも我が意を得たりと乗っかってくる。


「そうですよ! それに遠慮なさらないで下さい。この村がティムさんに受けた恩は、この程度で返しきれるものではありません!」


 この世界の農地開拓は命懸けであり、常に魔物との戦いなのである。

 それを一手に引き受けた爺さまに対してザックさんが感じている恩義はいかばかりか。

 爺さまは少し唸り、悩んでいたがやがて折れた。


「……では世話になる。ありがとうよ、ザック」


 爺さまの今後の生活も大丈夫そうだ。

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