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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第五章 王都ガルシア
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訓練

「行きますよ、ライオルさん」


「おう、全力で防御すりゃいいんだな?」


 アカネの精霊化から一週間。

 そして闘武会の開催は一週間後。

 私はライオルさんに軽い訓練をお願いした。

 場所は王城に併設されている練兵所で、屋内だ。

 理由としては、ここ暫くの休養などからくる練度の低下への懸念。

 それと一つ、試しておきたいことがある。

 快く引き受けて貰えたが、ライオルさんによると


「次に戦う時用の情報収集」


 だそうだ。

 黒剣「ランディーニ」を抜いて構える。

 

(アカネ、準備は?)


(出来てるよ)


 アカネを戦闘に巻き込んでいるのは、本人の申し出があった為だ。

 私は最初、断った。

 しかし「お兄ちゃんの前世が特別なだけで、この世界で戦わずに生きている人はいないよ」という一言の前に撃沈した。

 何も言い返せなかった。

 ……しかし、考えてみれば今迄とやることが変わるわけではない。

 ただ、私はアカネを守りつつ爺さまへの恩返しをするだけ。

 守る対象がこうして意思疎通出来るようになった分、更に気合は入るが。

 ……まず、ランディーニにオーラを。

 そして魔力をアカネに預ける。

 

「マジかよ……」


 ライオルさんが呟いた。

 ランディーニの周りを炎が渦巻く。

 一目で分かるほど、今迄の魔法剣とは隔絶した力が込められている。

 この体を使った際のアカネの魔法制御の資質。

 更に精霊としての力が重なり、私一人で魔法を発動していた時と火の威力は比べ物にならない。

 既に地竜を斬りつけた時の、時間を掛けて上げた温度を優に超えている。

 ライオルさんの鉄篭手付きのクロスアームブロックに向けて――


「せいっ!」


 振り下ろした。


「ぬおおおおおおおっ!?」


 火の魔法剣(強化型)は一瞬でライオルさんのオーラを削り取り、腕に引火した。

 ……。

 いかん。


「ちょちょちょ、アカネストップストップ!」


「あぢぢぢぢ!」


(あ! ごめんなさいー! でもお兄ちゃんも消せるでしょ?)


 あ、そうか!

 何となく制御を全て任せている気になっていたが、感覚が違うと告げている。

 以前の魔法剣と同じように念じると、火が消えた。


「フィーナさん、治療を!」


 水魔法の回復は、切り傷や火傷などの外傷には良く効く。

 直ぐに消火した為ライオルさんに火傷は見られないが、念のために診て貰おう。


「はいはい、お任せー。にしてもカティアちゃんは、これ以上強くなって何がしたいの?」


「在って困るものではないですし。慣れない力ほど危ないものはありませんから」


「おい、俺の心配は……?」


「あ、ごめんなさい。火傷しませんでした?」


「腕毛が燃えた程度だから問題ねえが。これ、まともに当たったら即死じゃねえか?」


 確かに。

 ライオルさんほどのオーラを一瞬で消し飛ばし、無防備な体に引火した。

 ということで結論。


「……人に対して使うもんじゃないですね」


「おい、そんなもん受けさせんな」


 しかし、練習時はここまででは無かったんだよな。

 どうもアカネ側の制御が安定しないのか、出力にも波がある。

 今のは高い方に嵌った感じだ。


「あーあ、益々倒しづらくなりやがって」


「その割には嬉しそうですね、ライオルさん」


「当たり前だろ。次に俺と戦う時はそれ、ちゃんと使えよ。一撃でも当たったら終わりなんて最高じゃねえか。シビれるぜ」


 実質ニ対一みたいなものだが、いいのだろうか?


(ライオルくんが何言ってるか分かんないよ、お兄ちゃん)


(大丈夫、時々私も理解不能だから)

 

 地竜の時も嬉しそうに一撃受けたら終わり、なんて言ってたし。


「はい、治療終わり。カティアちゃん、ミディールが終わったら連絡したいことがあるって言ってたわよ」


「ミディールさんが? 何だろう。何処に居るか聞いてます?」


「さあ? アタシはたまたま会っただけだから。面倒なら無視すれば?」


 仲悪いなあ。

 だが、情報部からの連絡だろうから放っておく訳にもいかない。


「いえ、行きますよ。お二人とも、ありがとうございました」


 練兵場を後にした。



 ミディールさんを探して城内を歩く。

 あ、衛兵さんが居るな。

 ちょっと聞いてみるか。


「あの、ミディールさんがどちらに居るかご存知ありませんか?」


「……いえ、知りませんね」


 ? 何だろう。

 妙な距離感というか……。

 一言で言うと、非常にそっけない。

 その後、他の人にも聞いてみたが似たような反応が返ってくる。


「ミディールさん」


「――ああ、カティア殿。お待ちしていました」


 結局、ミディールさんは自力で見つけた。

 情報部の執務用に割り当てられている部屋だ。

 以前、城内を軽く案内された時の記憶を頼りに辿り着いた。

 どうやらミディールさんは机で事務作業をしていたらしい。

 この人はこう見えて情報部長の息子で、王都に居る場合は父親の補佐をしているとか。

 聞かされた時は驚いた。

 肝心の情報部長には会ったことは無いが。


「二人分のお茶を」


 ミディールさんが品の良い執事にお茶を注文する。

 四十代くらいの背の高い執事が、優雅に一礼をして部屋の奥に下がっていく。

 対面式のソファーを勧められたので、二人で座る。


「さて、カティア殿。城内の兵の貴女への態度について、何かお気付きになりませんでしたか?」


「態度? どこか、よそよそしいというか……あ、ミディールさん。わざと居場所を告げずに私を呼び出しましたね」


 そもそも呼び出し方が不自然というか、不親切でらしくなかった。


(? どういうこと?)


(城内の兵士の態度を見せるために、居場所を隠して探し回らせたってこと。まっすぐ此処に来たとしても、練兵場からは反対側でしょう?)


(うん。でも、どうしてそんなことしたの?)


(それはこれから、説明すると思うよ)


「率直に言いましょう。城内の兵たちはカティア殿に対して不信感を持っています」


「不信感?」


「はい。強いと言ってもあくまでそれは噂。まだ闘武会も先ですし、実際に兵達が実力を見た訳ではありません。その得体の知れない女性が、先代国王や姫殿下と親しげにしている。何となく面白くありませんし、兵によっては何らかの危機感を抱いても不思議はないでしょう?」


「そうですね。王都に来てからは、客室で寝込んだり、スパイク様や姫様と歓談しているだけですからね……」


 考えてみれば、信頼を得られるような事を何もしていない。

 この状態で何か信じろと言っても薄ら寒いだけだ。


「そこでカティア殿には――全員、打ちのめしていただきましょう」


「は?」


 おかしいな。

 今、とっても野蛮な解決法を聞かされた気がするのだが。


「全員、打ちのめして――」


「二回言わなくていいですから。聞こえています」


「そうですか? 結局の所、我が国は実力主義です。武力を頼りに仕事をする兵士にとっては尚の事、強いという事はそれだけで信頼に値する。強ければ、ああ、噂は本当だったのだ、と強さ以外の部分も含め、全て勝手に信用してくれます」


「そういうものですか?」


「そういうものです。このままでは闘武会以前に、兵達の統率に響きます。早めに手を打っておく方がよろしいでしょう」


「……分かりました。段取りは、情報部そちらで?」


「はい。大規模訓練と称して、出来る限り多くの兵を集めましょう。明後日には可能でしょうから、そのつもりで」


 妙なことになったな。

 そんなに上手く行くのだろうか。


(空手の百人組手みたいだねー)


(……そうだね。相変わらず変な知識ばっかり拾っているね、アカネは)


「それは楽しみですね。私も是非、拝見したいものです」


 お茶を運んできた執事さんが、静かにカップを置いた後に話す。

 この執事さん、訓練を見たいだなんて武術の経験でもあるのだろうか。


「貴方にはスパイク様との詰めの協議が残っているでしょう……父上。そろそろ悪ふざけを御止めになっては?」


「えっ!?」


 ミディールさんは明らかに執事さんの方を見てそのセリフを言った。

 じゃあ、この執事さんが情報部長……!?

 情報部の人間は普通に登場出来ないのか?


「あの、どうして執事服を御召しに……?」


「趣味、ですかな」


 趣味……?

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