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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第四章 魔法都市サイラス
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地竜

 地竜が居る山はスーラ山というらしい。

 サイラスから徒歩で二時間程度。

 岩肌が多く露出した、緑の少ない山だ。 


「ライオルさん、少し聞いてもいいですか?」


 山道の途中、私はライオルさんの考えを聞いてみたくなった。


「なんだ? つうか、お前は質問が多い奴だな」


「聞ける機会があれば、なるべく何でも聞いておく主義でして」


 前世では大学生でなくなった瞬間に自分で考えろ、調べろと突き放される事が増えたからな。

 未熟な内に何でも聞いて、学んで、実践しておかないと大人になった時に中身が空っぽの人間が出来上がってしまう。

 前世の自分のように。


「大事なものを借りたまま、返せなくなったらライオルさんならどうします?」


「何だそりゃあ、禅問答か? ……真面目な話か?」


「はい」


 ライオルさんなら、私の迷いを振り切ってくれるような考えを持っている気がした。

 にしてもこの世界に禅ってあるのか?

 それとも言葉だけが一人歩きしているのだろうか。


「そうか。ふむ……借りといやあ、ティムには借りを作ったまんまだな」


「結局勝てずじまいだったという、あれですか?」


「ま、そうなんだが。そればかりでなく、奴には色々教わったからな。勝つことでそれに応えるつもりだったのさ」


「そうですか」


 相手に勝つことで教えに応える……なんともライオルさんらしい考え方だ。


「結局、今に至るまで会えずにそのままだ。情報部も、アイツに関する情報は頑として開示してくれなかったしな。だが」


 ライオルさんが一呼吸置いて私を指さした。


「お前が俺の前に現れた、カティア」


「私が?」


「ああ。お前と戦い、少しでも俺が教えられることがあるなら、ティムに間接的に借りを返したことになるかもしれん」


「かも、ですか」


「ああ。ティムがどう思うかは分からん。そもそも貸しだの借りだの思っているのは自分だけかもしれんしな。お前から見たティムだったらどうだ?」


「爺さまなら、貸しだなんて思っていないでしょうね」


「だろう? だから、俺が勝手にそう思って勝手に返すだけだ。ささやかな自己満足を手にする為にな。お前には迷惑な話かもしれんが」


「迷惑だなんて、そんな」


 確かに毎日バトルの申し込みをされるのは別として、前回の戦いで得るものは多かった。

 あのカウンターに入るときの感覚は、他では得られないものだろう。

 今だって、こうして話を聞かせてもらっている。


「だが、出来るなら借りは直接本人に返すのが一番だ。お前が借りを返す相手はどうなんだ?」


「え?」


「会えないのか?」


「……会うこと自体にリスクがある場合はどうしたら?」


「そんなものは決まってる。どんな障害があろうと会うべきだ。会ってから、また考えればいい」


「会ってから?」


「そうだ。何度でも、何度でも借りを返す方法を考えればいい。命がある限り。それに、相手が貸しだと思っていない場合もあるんだ。まずは、会わないと何も始まらねえ」


「……」


 可能なら、彼女に体を返せるならそうしたい。

 でも、ルミアさんの話から考えて、もうこの体に適応出来なくなっている彼女に体を返せたところで遠からず死んでしまうのだろう。

 火の魔力もオーラも、もう彼女に魂に供給されていないらしいから。

 ……まずは会う事、か。


「ありがとうございます、ライオルさん」


「もういいのか?」


「はい」


 どんな形でも良い。

 彼女の気持ちを聞こう。

 その上で、どんな願いでも従おう。

 死ねと言われればそのつもりだし、この体に戻りたいというなら必ずその方法を探し出すつもりだ。

 会わなければ、彼女に。

 例えそれが彼女を、人ならざるものに変えてしまう行為だとしても。


「お前が誰に対して借りをつくったかは知らねえが、肚は決まったようだな。だが、今は眼前の敵に集中しろ。……おいでなすったぜ」


 地面が揺れた。

 近くに居た鳥たちが飛び去って行く。


「ニールさん、フィーナさん!」


 後方に居る二人にも注意を呼び掛ける。

 ……?


「あの、ライオルさん、地響きはするのに姿が見えないのですが」


「よく見ろ。あれだよ」


 ライオルさんが示した方向には……岩?

 だがあの岩、よく見ると……動いている?


「グルルルルルル……」


 うわ、鳴いた。

 つまりあれが地竜か。

 岩肌に似た外殻を持っているようで、遠目には分からない。

 体長は五十メートルはありそうだ。

 更に目を凝らしてよく見ると、地竜にやられた被害者のものらしき武器や矢が体に突き立ったままになっている。


「そういえばライオルさん、鎧は?」


「ああ、予備があるにはあるが……今回はいらん。どうせ攻撃を喰らったら即死だ。ガントレットだけ持ってきた」


「嬉しくない情報どうも……まだこちらには気付いていないようですが、どうしますか?」


 岩陰に隠れつつ、やや小声でライオルさんに指示を仰ぐ。

 経験の差を考えればこの中では指揮官として適任だろう。


「なら奇襲だな。ニール!」


 ライオルさんが小声でニールさんを呼ぶ。


「自分っすか、お二人でなく」


「お前の攻撃力が一番上だろ、一撃限定なら。いいか、眼を狙え。フィーナはニールの後退援護、後は俺たちがやる」


 確かに顔の付近は岩の様な外殻が比較的少ない。

 頭の位置も低く、最も攻撃が通り易いだろう。


「もっと分かり易い弱点はないの?」


 と、フィーナさんの言葉。

 ライオルさんが答える。


「無いな。それが竜種たる所以でもある。強いて言うなら水魔法がやや効きやすいか」


「了解、水ね。ニール、お姉ちゃんを信じて飛び込んできなさい!」


「う、うっす。微力を尽くします」


「今だ、行け!」


 ライオルさんが背中をポンと叩き、ニールさんがオーラを纏い剣を抜く。

 地竜に向かい疾走する。

 ダマスカスソードから強く、激しくオーラが迸る。

 地竜はまだ気づいていない。

 行ける!


「っ!」


 ニールさんが振るった剣は、深々と地竜の顔を切り裂いた!

 良い威力だ、文句なし!


「ガアアアアアアッ!」


「フィーナ!」


 ライオルさんが叫ぶのと同時、地竜が怒声を上げながら痛みにのたうつように暴れだす。

 ニールさんは既に離脱を始めているが、巨体だけあって地竜が振り回す頭部の範囲内だ。

 危険な状態。


「この、止まりなさい!」


 フィーナさんが圧縮した水流を飛ばす!

 ……ニールさんが斬った顔の傷目掛けて。

 お姉ちゃん、容赦なし。

 とはいえ、現状では最適解だろう。


「ゴアアアアアアッ!?」


 傷口にたっぷり激流を浴びた地竜が怯む。

 と同時に、ニールさんが安全圏まで離脱するのが見えた。


「行くぞ! カティア、お前は右!」


「はい」


 再び暴れだした地竜に向かい、駆ける。

 眼を失ったことで無軌道に振り回される四肢を躱しながら近づく。

 左前足、貰った!

 黒剣を引き抜き、地竜の足に叩きつける。

 ――しかし、ギンッという音と共に跳ね返された。


「硬っ!」


 刃が通らない。

 どうやら地竜はオーラを纏っているようだ。

 殻が厚すぎてよく見えないが。

 高位の魔物はこれだから困る。

 ライオルさんは?


「オラァッ! 喰らえっ! ――まだまだぁ!」


 外殻の上から力任せに叩き潰している……。

 あれは真似できない。

 殴る度に地竜が苦鳴をあげる。

 ……では、私は魔法剣に頼るとしますか。

 地竜の攻撃を躱しながら魔力を練る。

 私は火の魔力を外に大出力で出すのは苦手だが、自分の手が触れる範囲で圧縮するのは得意だ。

 相応に時間は掛かるのが欠点だが、今の状況なら問題ない。

 黒剣にオーラを混ぜ込んだ魔力を溜める、溜める、ひたすら溜める。

 剣の周囲の空気が熱で歪み始める。

 これほどの熱を込めても黒剣は何ともなさそうだ。

 さすが謎金属、オリハルコン製。


「はあああああああっ!」


 行ける、という確信を得た私は再び地竜の左足へ。

 ドチュッという生々しい音。 

 限界まで温度を上げた黒剣は、易々と外殻を溶かしながら左足に突き立った。

 そのまま太い足を斬りつけながら走る!


「ゴゲッ、ガアッ!」


 ズン、という重い音と共に砂埃が舞った。

 次、後ろ足!

 私の魔力では、もう一度火魔法を溜める余力は無い。

 このまま決める!




 ……ほどなくして、四肢と尾を残らず潰された地竜は地に伏したのだった。

 止めはライオルさんが刺した。


「いやー、殴った殴った……ところでカティア、お前どうやってこいつの足を斬った? ――っつーか、熱いなお前の近く!」


「え? 殻を融解させる温度まで火魔法を――」


「あー、分かった、もういい。どうせ理解できん。こいつに対する攻撃のセオリーは、外殻の隙間を狙うことなんだが」


「それを言ったらライオルさんだって、外殻の上から殴りつけてませんでした?」


「…………。ニール、最初の一撃良かったぞ! 眼を潰してくれたから大分楽が出来たぜ!」


 露骨に話題を変えたな。

 自分の非常識さを棚上げしないでいただきたい。


「お役に立てたのなら嬉しいっす」


 確かにニールさんの一撃は素晴らしかった。

 継戦能力こそ低いものの、戦術的には十二分に切り札になり得ると思う。


「よっしゃ、終わったんなら帰ろう! 花火、花火!」


 フィーナさん御機嫌だな。

 この世界の花火か……一体どんなものなんだろうか。

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