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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第三章 武の町トバル
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修行方針

 ミズホさんに連れられて来たのは、道場の傍にある師範用の寮の一室だ。

 普段から客室として利用している部屋らしい。

 荷物を整理していると、ミズホさんから強い視線を感じる……。

 顔を向けると、いかにも聞きたいことがあります! と言わんばかりの顔をしている。


「……ミズホさん、何か聞きたいことでも?」


 仕方ないので水を向けてあげた。


「はいはーい、カティアさんー。どうやって大先生をその気にさせたんですかー? 普段は絶対人に教えたがらないのにー」


 名前で呼んでくるのは、自己紹介を案内の道々に済ませたからだ。

 と、そこで荷物の整理を終えたフィーナさんが会話に混ざってくる。


「いやあ、それがね。あのオジサンがカティアちゃんに惚れちゃって」


「え、大先生が女性に興味をー?」


「うんうん。カティアちゃんの下半身をそれはもう舐め回すような視線で」


「ひええ、大人の世界ですかー?」


「フィーナさん、意地悪ですよ」


 わざと誤解を招く言い方をしてからかっているな。


「見込まれたのは、私の剣の腕ですよ。下半身の筋肉のつき方とか歩き方を見て声をかけたらしいです。勝負したいと言われたので渋っていたら、あちらから交換条件として何か、という事だったのでニールさんのオーラの訓練をお願いしたんです」


 しかし、改めて言葉にすると変態的な観察眼だな。

 町中の群衆の中から武道経験者を割り出す……対象があからさまな殺気でも放っていない限り、私にはとても真似出来ない芸当だ。

 それとも、強い人と会う経験が多ければ出来るようになるんだろうか? 


「なあんだー。ようやく大先生が戦い以外のことに興味を持ったと思いましたのにー」


 独身なんだろうか、あの人。


「でも、そんな条件を引き出すなんてお強いんですねー」


「強いっすよ、カティアさんは! それはもうべらぼうに!」


 今の発言は着替えを終えたニールさんだ。

 修行しやすいようにか軽装になっている。

 当然、泊まるのは別室だが私達の着替えが終わったので中に入っている。

 しかし、べらぼうって。

 余りいい意味では使われない表現なんだけど、ニールさんの事だから恐らく他意はないのだろう。


「それになんといってもあの剣せ――」


「ニールさん、それ以上は……」


「――あっ、そうっすね。すみません」


 なんというか、知っている人や聞かれた場合は良いのだが、不必要に自分から剣聖の弟子だと触れ回るのは避けたい。

 爺さまの名前を笠に着ていると思われたくはないのだ。

 それに、人によっては良くない印象を受けるかもしれない。

 ニールさんは察してくれたようだ。

 まあ、放っておいても情報部が勝手に広めてしまうだろうし。


「? 良く分かりませんがー、ニールさんの修行が無事終わったらカティアさんは大先生と戦うんですよねー?」


「そうなりますね」


「じゃあ、門下生の皆にも教えてもいいですかー? 大先生が交換条件を出してまで戦いたいだなんて、すごいことですよー」


「出来れば静かなところでひっそりと戦って終わらせたいのですが」


 目立ちたくないでござる。


「駄目よ、カティアちゃん。多くの人に見てもらったほうが都合が良いのは分かってるでしょ」


 止められてしまった。

 分かってます、分かってますよう。

 というよりも、ニールさんもフィーナさんも私が勝つ前提で話しているのが怖い。

 もし負けたらどうするんだ。


「うふふー。じゃあみんなに話しちゃいますねー。楽しみですー」


 ああ、行ってしまった。

 戦いの観戦を楽しみにするなんて、ああ見えてあの子も武闘派なんだなあ。




 荷物の整理を終えて道場に戻ると、打ちひしがれた様子の門下生が何人か増えていた。

 そうか、まだ試合をしていたのか……。

 と、それ以外に私の姿をみてひそひそと話す声が聞こえる。


「あの人? 男の方じゃないんだよね?」


「赤毛の人って言ってたし、そうでしょ」


「強そうには見えないけど」


「美人ではある」


「でかい」


 でかいってのは身長のことだよね?

 大勢に注目されるのは何度やっても慣れない。

 というかミズホちゃん早いな、噂を広めるの!

 ここに居る門下生達は、もう私がライオルさんと戦う予定だという話を聞いたようだ。

 しかも、もうミズホちゃんの姿が見えないってことはここには居ない人にまで話を広めている……?


「おう、来たな。じゃあ早速始めるぞ」


「はい、よろしくおねがいするっす」


 私達の姿を認めたライオルさんが修行の開始を宣言した。

 私とフィーナさんは隅っこで見学モード。


「んじゃ、取り敢えずオーラを見せな」


「うっす」


 ニールさんがオーラを発する。

 うん、いつも通り凄いオーラ量だ。

 周りで見ていた門下生からも感嘆の声が上がった。

 が、ライオルさんだけは不満げな表情。


「ほう、並のオーラ量じゃねえな。だが……欠点を挙げても?」


「はい、一つも余さずお願いしたいっす。自分の未熟さは承知の上なんで」


「そうか? んじゃ遠慮なく。まずその垂れ流しのオーラは何なんだ? ほとんど体に留まってねえじゃねえか、勿体ねえ。それからオーラのムラがひでえ。防御が薄っぺらくなってる箇所が多い。見るやつが見たら弱点として狙われるぜ。それから――」


 うわあ。

 ライオルさんの駄目出しが続く。

 確かにニールさんのオーラ制御は甘い。

 今迄は良くも悪くもオーラの量で誤魔化しが効いていたんだろう。

 だが、意外だったのはニールさんが特に動じた様子もなくその指摘をすべて聞き入れていることだ。

 それだけ本気で強くなりたいということなのか。


「ニールったら珍しくマジな顔しちゃってまあ……誰のせいかなー、ん? ん?」


「何ですかフィーナさん。つつかないで下さいよ」


「ほっぺやわらかー」


 と、ようやくライオルさんの話声が途切れた。


「てな所か。自分に出来ねえこと、至らない点、自覚できたか?」


「……はい。お言葉、胸に刻んでおくっす」


 おお、ニールさんが頼もしく見える。

 いつになく男らしい感じだ。


「おい、カティア、フィーナ、こっちこい」


 ライオルさんが呼ぶ。

 何だろう?


「何よ、オジサン。ニールの修行にアタシ達必要なの?」


「ああ、他人の目から見た普段のこいつの様子を知りたい。ニール、一旦席を外せ」


「うっす」


 ニールさんが私達が座っていた辺りに移動していく。

 こちらを見ていた他の門下生達は、話してばかりで暫く動きが無さそうな様子を見てそれぞれの修練に戻っていく。

 さてと。


「何が聞きたいんですか?」


「ズバリ、あいつの集中力に関してだ。ニールと戦ったことは、カティア?」


「つい最近、一度だけ」


「で、その時どうだった?」


「どうって……そうですね。序盤は驚くような動きをしたんですが」


「ふむ」


「後半は崩しやすかったですね。わざと隙を見せたら簡単に油断してましたから」


「なるほど。フィーナ、どうだ?」


「そうね。昔から勉強でも何でも、集中し過ぎるのか力が入り過ぎるのかすぐバテるのよね、あの子。飽きっぽいとかそういうんではないと思うんだけどね」


「つまり、短時間なら深く集中出来ると。よし……ニール、戻ってこい!」


 考えが固まったのか、ライオルさんがニールさんを呼び戻す。


「おまえ、さっきオーラ量を生かしての一撃必殺が理想だって言ったよな?」


 それは、この前ニールさんが思いついた戦法だったな。

 そこまで話したのか。


「はいっす」


「だったらもうワンポイントだ。お前、外した場合や効かなかった時の事を考えてねえだろ? 一撃を放った後は必ず離脱しろ、相手と距離を取れ。相手がどんな状態だろうとも、だ」


 考えてみれば当たり前だが、毎度片道切符では危険極まりない。

 オーラの話だけをすることも出来たはずなのに戦法の改善点まで出してくれるとは、この人は戦闘に関しては一切の妥協を許さないらしい。

 非常にありがたいことだ。


「それが出来るようになるまでのオーラ制御をみっちりと叩き込む。それで条件達成ってことでいいか?」


「はい、お願いするっす!」


 方針が決まった。




「いいか、これは俺の持論だが。オーラの訓練には段階がある」


 ライオルさんによるオーラの訓練段階は以下の通りだ。

 一、オーラを戦闘可能な量まで引き出す。

 二、オーラで全身を均一に覆う。

 三、オーラの無駄な放出を抑える。

 四、オーラの密度を上げる。

 五、オーラの配分を動きに応じて変える。


「と、こんなところか。ニール、おまえ自分がどこでつまずいているか分かるか?」


「えっと……二番目、っすかね」


「そうだ。今回はそれと三まで出来るようになったら最低限だ。逆に、お前の場合は四と五が出来なくともそれなりに通用するだろう」


「どうしてっすか?」


「お前の唯一にして最大の長所である膨大なオーラがそれらを補ってくれる。いいか、これは普通では考えられんことだぜ」


 それぐらい破格であるという証左でもあるが。

 ニールさんがごくりと喉を鳴らす。

 と、同時に少し嬉しそうだ。

 さっきから駄目出しの嵐だったからな……。


「だが、どんなに優れた力でも使いこなせなければ意味はねえ。で、肝心の修行法だが――」


 ライオルさんのオーラ理論は非常に分かり易く、また納得のいくものが多かった。

 普段からどうすれば強くなれるかを深く考えているからだろうか?

 本人にその気はなさそうだが、本当なら指導者に向いているのかもしれない。


「――うえっ!? まじっすか……」


「本気なの? そんな方法……」


 あ、肝心な話を聞いてなかった。

 何だ、二人とも動揺している様子だが。


「フィーナさん、ライオルさんは今なんと?」


「カティアちゃん聞いてなかったの? それがね――」


「……え!?」


 ライオルさんが提案した修行法は驚くべきものだった。

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