至高の宝剣
目まぐるしい状況に動揺を引き摺りつつも、旅支度を始めることにする。
寝台と小さな箪笥、数冊の本が置いてある質素な私室を見回す。
剣術中心の生活をしてきた為、物が少なく殺風景である。
本も魔法の指南書だったりするし。
こんな調子なので、持ち出すものは特になかったりする。
「服装だけ整えれば良いかな……」
気持ちを切り替えるために一人つぶやいた。
ある程度は村で用意するんだろうし。
麓にある村……カイサ村では、魔物退治を請け負う代わりに食糧等を都合して貰っていた。
親切な人が多いので、旅立つにあたって多少の融通は利かせてくれるだろう。
いつも魔物退治に使っている皮装備一式とブロードソード、それからマン・ゴーシュを腰に提げ、爺さまの元へ戻る。
「爺さま、準備できました」
居間に戻り、声を掛けた。
ほとんど間を置かずに爺さまも自室から出て来た。
見慣れない剣を手に持っている。
「おう、来たかカティ。発つ前にこいつを渡しておく」
言いながら、一目見ただけで尋常ではない装飾の剣を渡してくる。
「何です? この豪邸が建ちそうな剣は」
受け取りながら、少し大袈裟な反応を返す。
「これはワシが称号を受けた時に先代国王のスパイクが下賜した剣じゃ。銘は失われているので判らんが王家の宝物庫にあった以上、宝剣の類であることは間違いない」
うぇっ!? 全然大袈裟じゃなかった。
建つよ、下手したら城が!
王家の剣だもんよ!
……でも、このタイミングで渡すってことは――
「もしかして、私の身分証代わりですか?」
王城まで行って印籠よろしく見せろってこと?
「いや、違う。その剣には王家の紋章が入っておらんし、そもそもスパイクとは今も手紙のやり取りはしとるから、カティの容姿も伝えてある。それに、会ってワシの話をすれば直ぐに本人かどうかは判るじゃろう。」
と、いうことは――
「そいつは実用品じゃ。それも二つとない、な」
抜いてみよ、と爺さまが目で促すので、鞘からゆっくりと引きぬく。
――輝く黒い刀身が現れた。
刃渡りは80センチほどで、今まで使っていたブロードソードよりも長く、バスタードソードよりは少し短い。
初めて見る金属の質感だ。
「城の学者の話ではオリハルコンである可能性が高い、という推論らしい。失われた金属である以上、確かめる術はないがの」
ファンタジー金属の王様じゃないですか~。
驚きすぎて疲れてきたぞ……
えーっと、気を取り直して……ごほん。
「ありがとうございます、爺さま。身の丈に合わない武器と言われない様に努力しますね」
「うむ。剣は使ってこそじゃ。どんどん使えぃ」
これだけの剣をポンと渡す爺さまの豪胆さに色々言いたいことはあるけれども、私は感謝の念と共にその剣を受け取った。
「それにしても、爺さま一度もこの剣使ってませんでしたよね。何故です?」
前言と矛盾するので聞いてみた。
「そりゃお前、そんな目立つ剣を振ってて誰かに見られたら一発で身元が割れるじゃろーが。剣を下賜されたのは式典中じゃし。鬱陶しい馬鹿貴族共から遠ざかりたいから隠居しとるのに」
あー。確かに。
平民出にも関わらず剣一本で近衛に、しかも王の側近の位置に居た爺さまは近衛騎士団員以外の貴族に嫌われていたらしい。
前に話していた。
特に家名を名乗ることを許されてからは酷かったらしい。
この国では基本的に人族の家名持ちは貴族だけなのだ。
私も表舞台にでたら同じ目に遭うのでは?と思ったが、下山しながら話す、と言っていた内容に含まれている可能性が高いので黙っておく。