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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第三章 鉱山都市キセ
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剣舞

「場所はどこで?」


「ここで良い。おい、お前ら!場所を空けろ!」


 確かに工房内は広いが……。

 道具を除ければ問題ないか。

 こちらの様子を窺っていた職人たちは結構な数だ。

 やはりヴァンさんの状態を気に掛けていた者が多いのだろう。

 大声で指示を出したヴァンさんに対して皆どこか嬉しそうだ。


「親方! 復活を待ってましたぜ!」


「親方の怒鳴り声が無いと物足りませんぜ!」


「親方!」


「うるせぇ! さっさとやれ!」


 これがこの工房の本来の姿なのだろう。

 心なしか、工房全体の動きが良くなったような気もする。

 職人達がテキパキと道具を片付けて場所を空けた。


「さて、見せてくれるか? どこまでやってくれる?」


 どこまで、というのは秘伝の技であったり、自分の手の内を見せたがらない剣士が居る為の配慮だろう。


「隠すようなものはありません」


 爺さまに教わったのは、ひたすらに基本、基本、基本。

 愚直なまでに基本による積み重ねである。

 特別なのは、爺さまの圧倒的な経験量からくる戦闘への心構えくらいである。

 それがある意味秘伝のようなものだ。


「ありがたい。じゃあ、実戦をイメージして本格的にやって貰っても良いか?」


「はい」 


 親方が促した。

 瞬間、職人達の視線が殺到する。

 この視線の量、ラザの町の訓練場以来か。

 二度目なので然程緊張はしない。

 腰を落とし、目の前に敵がいると想定してオーラを纏って剣を抜く。

 右手による片手持ち。

 実戦をイメージということで、マン・ゴーシュを左手に。

 左手を前にして半身で構える。


「……!」


 工房内に緊張感が満ちる。

 剣を持ったことで、徐々に周りの状況が気にならなくなる。

 普段、訓練でやっているイメージトレーニングと同じようにする。

 仮想敵は、私が知りうる最強の相手……腰を痛める前の爺さま。

 更にそこから全盛期を想定して、二倍程度の速さを持っている状態をイメージする。

 今は白髪で真っ白の髪も、イメージの中では出会ったころの黒髪のオールバックに戻る。

 武器はブロードソード、両手持ち、構えは正眼。


「行きます」


 昔から先に仕掛けるのは何時だって私からだった。

 イメージの中でもそれは一緒だ。

 こちらの剣の方が長いので、リーチを活かして右手の黒剣で斬りかかる。

 しかしなんなく剣を捌かれ、体勢こそ泳がなかったものの、私は隙を埋める為に左手のマン・ゴーシュで突きを狙う。

 爺さまはカウンターが得意だ。

 一瞬でも隙を見せればその時点で敗北が決まる。

 かといって自分から攻めに回れない訳ではない。

 受けながら時折極小のモーションで攻撃に来る。

 それをマン・ゴーシュで必死に捌く。

 捌いた後は黒剣で攻撃!

 攻撃の手を緩めないのは単純に私が守勢に回ると勝機が見出せないから、こうなるだけだ。

 だから私は攻める、攻める、それも間断なく。

 左右の剣でひたすら攻める。


「っ!」


 イメージの爺さまが僅かに見せた、小さな、小さな隙。

 私はそこに右手の黒剣で全力の突きを捻じ込んだ!

 ……だが。

 首筋に剣を添えられる。

 左手の短剣での防御は、間に合わなかった。

 イメージの爺さまがニカッと笑った。

 ――まだまだじゃな、と言われた気がした。

 勝てなかった、か。

 一・八倍速までなら勝てるんだけどなあ……。

 突きの体勢から戻り、剣を鞘に納めた。


「美しい……」


 呟いたのは誰だったか。

 その声を皮切りに、静まり返っていた工房内に歓声が上がった。


「すげえな! 良いもん見れたぜ!」


「俺、何でもいいからパリーイングダガーを作りたくなってきたぜ!」


「受け流しにはあんまり使ってないように見えたけど、間合いによってはありなのか」


「揺れ……!」


 いや、最後の奴はなんだよ。

 お前はどこを見ていたんだ。


「カティアちゃん、お疲れ様。なんだか剣を持って踊っているみたいで格好良かったよ!」


「あ、フィーナさん。踊って? そうですか」


 そう見えったってことは体がよどみなく動いていたってことだろう。

 だったら、自分的には及第点の動きだ。


「お疲れ様っす。いやあ、自分も剣を振りたくなってきたっす!」


「あ、ニールさん。ヴァンさんはどうしましたか?」


「カティアさんの様子を見た後、何か猛烈な勢いでメモを取ってるっす」


 メモ?

 あ、戻ってきた。

 確かに紙の束を持っている。


「お前ら! 仕事に戻れや! ほら、散った散った!」


 ギャラリーを散らした後、私に声を掛けてきた。


「いやあ、たまらんな! アイディアが湯水のように湧いてくるぜ! さっきまで何もやる気が出なかったのが嘘みてえだ」


「ご期待にはそえましたか?」


「予想以上だった! ありがとうよ!」


 来た甲斐があったか、良かった。


「ところでよ。お前さんの剣筋、何か見覚えがあるんだけどよ……。もう一回、フルネームを教えてくれるか」


「カティア・マイヤーズです」


「! やっぱりそうか。お前、ティムの縁者か!」


「はい、弟子です。爺さまを御存知ですか?」


「弟子……か。色々と納得だぜ。知ってるも何も、あいつの剣を打ってたのは俺だぜ! いや、正確に言うと俺とマークの野郎が打った剣の、出来の良い方を使うって形だったが」


 ここ、鍛冶屋ヴァンは国の注文を大口で受けている所だ。

 近衛騎士をやっていた爺さまと知り合いでも不思議はないか。

 昔はマーク武器店と鍛冶屋ヴァンが競って武器を作っていたという話は聞いたことがある。

 国で武器のコンペのようなことをしていたのかもしれない。


「その剣は、王家にあった剣だな。昔見た剣だってのに、俺も耄碌もうろくしたもんだぜ」


「こんなにインパクトのある剣なのにね」


 フィーナさん、その一言は……。


「ぐっ! 言ってくれるな。だが、今回その剣に救われたのは確かだぜ。昔の鍛冶技術にいつまでも負けてる訳にはいかんだろう!」


 まあ、何はともあれヴァンさんがやる気を取り戻してくれたようで何よりだ。


「そう言う訳で、ニールに作る剣も特別製にするぜ」


「特別製っすか?」


 ニールさんの目が輝く。

 ヴァンさんの顔も悪戯っ子のように楽しそうだ。

 フィーナさんは少し呆れた顔をしている。

 フィーナさんの顔、あれにそっくりだ。

 前世で小学生の頃、男子がロボットアニメの話で盛り上がっていた時のことだ。

 たまたま近くに居た女子の山田さんの表情にそっくり。


「まずは、材料なんだが。坑道の閉鎖はまだ解けないんだな?」


「そうですね。私達も明日から調査に入ります」


「そうか。実はな、五番坑道でしか採れないウーツ鋼ってやつがあってな」


「五番坑道ですか」


 私達が入るのは、六番坑道だ。

 もしかしたらと思ったが都合良くついでに取ってくる、とはいかないか。

 まあ、発生源を何とかすればそちらも閉鎖が解けるかもしれない。


「それを材料にしたいんだが、ちぃと在庫が足りんのだ。だからそっちが解決してからの材料待ちだな、残念ながら。仕方ないんでニールには間に合わせに武器を貸し出す」


「あ、ありがとうございます」


「バスタードソードだったな? ウチの店から好きなのを持って行って良い」


「鍛冶屋ヴァンの武器を持てるんすか? やったっす!」


「おいおい、少ししたら俺が打った武器を持つんだぜ? そんなんで大丈夫か?」


「あ、そうでした。震えてきたっす」


 今日のニールさん、浮かれまくっているな。

 新しい武器が嬉しいのだろうが、怪我とかしないと良いけど。


「えっと、では今日は失礼しますね」


「おう。吉報を待ってるぜ。ま、ティムの弟子なら心配はいらんとは思うがな!」

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