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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第三章 鉱山都市キセ
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鉱山都市キセ

 魔物の異常行動を見たので一路、鉱山都市キセに向かう。

 ラザの町を出てから、野宿と小さな村での宿泊を挟んでの到着となった。

 荷馬は厩舎に預けた。

 鉱山都市キセは、鉱床が大量に発見されたキセ山に造られた都市だ。

 その規模は圧巻の一言で、鉱床(鉱物が集まっている場所)が分散していることから露天掘りこそしていないが、坑道がいくつも存在している。

 山の麓に固まっている都市部の中はどことなく熱気があり、鍛冶場と思われる場所からは鉄を叩く音がする。

 鉱物の産出地で鍛冶もやってしまえという考えはこの国らしいと言えるかも。

 ただ、それが導くこの都市の短所が一つある。

 私達は都市の、恐らくメインストリートとなっている場所を歩いているのだが、


「かなりうるさいですね」


「え、カティアちゃん何か言った?」


「あ、いえ、大きな声で話さないと聞こえないなー、と」


 フィーナさんと話しながら声のボリュームを調整する。


「あー、そうだね!」


 騒音といってもいい音が堪える。

 雑然とした街中は余り区画による整理がされていない。

 作業音がこれでもかと鳴り響いている。

 あちこちから大声もするし、田舎者にはちょっと辛い。

 露天商も多く、騒がしさに拍車がかかっている。

 料理用の金物から生活用品、農機具、武器まで多種多様な金属類を売っている。

 良く言えば活気がある。


「食べ物の屋台も多いね」


 フィーナさんの言葉には同意したいが、良い匂いに空腹感が出てきた。

 見た感じ屋台が多い反面、普通の食事処の店舗は余り無さそうだ。

 忙しそうに行き交う人通りを見るに、腰を落ち着けて食べる人が少ないからだろうか。


「報告が終わったら見て回るのもありっすね」


「そうですね。緊急の用件が無ければ」


「嫌なこと言うわねカティアちゃん。本当になりそうだからやめて!」


 まあ、行ってみなければ分からない。


 結果、緊急の用件はなかったが兵士ギルドで依頼を受けることになった。

 最近、坑道で魔物に分類される巨大ワームが大量発生しているとのこと。

 アイアンピルバグの移動はワームが原因である可能性が高いらしい。

 既に問題は起きていたということのようだ。

 そのため、ワームの駆除と発生原因の調査を手伝って欲しいというのが今回の任務だ。

 しかし、また虫かあ。

 正直生理的にキツイ。

 道中のアイアンピルバグの死骸の処理もきちんと頼んでおいた。

 この都市からそう遠くない場所なので、問題なく済むと思う。

 屋台の連なった場所に戻って行く。


「うえー、また虫ぃ? カティアちゃんは平気なの?」


 フィーナさんが舌を出してぼやいた。

 似たような考えを抱いたらしい。


「私も苦手ですよ。ニールさんはどうですか?」


「ニールは子供の頃、虫好きだったよね? よく捕まえてた」


「いえ、今は普通に苦手っすよ。大体、魔物の虫と小さい虫を一緒にされても」

 

 それもそうだ。

 しかし、虫取り少年のニールさん……。

 イメージぴったりだな。

 領主の息子らしくはないが。


「取ってきた虫が逃げ出して、レン姉さんの顔に止まったりしたから凄く怒られてたわよね」


「なんで子供の頃の恥部をカティアさんに晒すんすか! やめて下さいっす!」


 この二人の会話は和むなあ。

 聞いているだけで楽しい。


 二人の会話の聞き役に徹している間に、屋台のエリアへと戻ってきた。


「あ、ガレットおいしそう」


 これはフィーナさんの言葉。

 他にもワッフルとか、フルーツ菓子のような甘いものに反応している。

 屋台で目に着くものを挙げるとエスカルゴ、アランチーニ、ソーセージ、ドネル・ケバブに中華まん……うん。

 前世の食文化がごっちゃごちゃだ。

 非常に混沌としている。

 お、あれはまさか。

 見覚えのある食べ物を見つけたので近付いていく。


「いらっしゃい」


 エルフのおじさんが似合わないねじり鉢巻をしている。

 酷く違和感のある組み合わせだ……。


「おじさん、これって」


 球状の焼き物を、プレートの上で鉄の串でくるくると回している。


「たこ焼きだよ! 一つどうだい?」


 やっぱりたこ焼きか!

 日本のものもあって嬉しい。

 これは是非食べておきたい。


「ひとふね……じゃない、一つ下さい」


 単位を間違えた、いや、前世だと合ってるんだけど。

 とにかく間違えたのはちゃんと舟型の器に乗っているからだ。

 これ、何の素材で出来ているんだ?


「はいよ! ……熱いから気を付けてな。毎度!」


 お金を払って受け取る。

 六個入って百ルシ(千円くらい)か、ちょっと高いな。

 この国は内陸だから仕方ないか。

 海産物は主に南の海に面しているエルフの国から輸入していると聞いたことがある。

 水魔法で作った氷を量産して、鮮度を保ちながら輸送しているとか。


「カティアさん、何を買ったんすか?」


「たこ焼きです。食べますか?」


「あ、アタシも食べる」


 屋台のおじさんが気を利かせて串を三つ付けてくれたので、二人にも渡す。

 鰹節も青海苔も乗っていないソースのみのシンプルなものだが、どうかな?


「ん、おいしいっす」


「ホント! 初めて食べたけどおいしいわね」


 外はカリカリ、中はトロトロで前世の味が完全再現されている。

 この世界で食べたのは初めてだから十何年かぶりの味だ。

 はー、おいしい。

 タコの鮮度もそこそこ。

 その後、私達は他の屋台も回って腹を満たした。

 今度は自分達で調理してたこ焼きを食べたいと言うフィーナさんにせがまれ、私は何時の間にかタコ焼き用の小さめの鉄板を一組買わされていた。

 どうして自分で買わないんだ……?

 ニールさんはそれを見て苦笑していた。


 そこそこの値段の、治安の良い表通りにある宿を取った。

 割り当ての部屋に行き、そこで荷物をようやく降ろした。

 時間があるので夕刻までニールさんの新しい武器を三人で探しに行く予定だ。

 坑道の調査は明日から。

 皮鎧を外して固まった体を伸ばした。


「おお、ニールが見たら鼻血出しそうな光景……あ、へそちら」


「何言ってるんですか? フィーナさん」


「なんでもなーい」

 

 個室の空きが無かったので、フィーナさんと宿は同室だ。

 美人と一緒だから、少し緊張するが。

 気にしない、気にしない。

 自分に言い聞かせる。

 気にし過ぎると、この人は鋭いから何かに気付きそうだからなぁ。

 頭の結び目が突っ張ってきて痛いので、髪を降ろしておく。

 フィーナさんも装備品を外し、杖と貴重品だけを持った。

 私も一応、剣は持っていくことにする。

 部屋に鍵を掛け、二人で宿を出ると既に軽装になったニールさんが待っていた。


「で、ニール。当てはあるの?」


「そうっすね。鍛冶の二大名工って知ってるっすか?」


「えーと、ヴァンさんとマークさんでしたっけ?」


 鍛冶屋ヴァンとマーク武器店。

 二大名工の店は、そのままこの国の武器の二大ブランドとなっている。

 量産品は弟子たちが、特注のものや高級品は店主が手ずから作っていると聞く。

 どちらも大きな工房を持っているらしい。


「ええ。そのお二人の店がここにはあるので、せっかくですから見ておきたいっす」


「では、どちらのお店に?」


「マーク武器店は残念ながらマークさんが引退してしまったので、鍛冶屋ヴァンに行こうと思うっす」


「じゃあ、いきましょ。場所は分かってんの?」


「あ、宿屋の店員に聞こうと思って忘れてたっす……」


 そうか。

 じゃあ、その辺の地元民っぽい人に聞くか。

 ん?

 フィーナさんの後ろに妙な気配が――


「お困りですかな?」


「きゃあ!」


 フィーナさんが悲鳴をあげて飛び退いた。


「ナナシさん、またですか……」


 ナナシさんだった。

 キセに先回りしていたようだ。

 普通に登場出来ないのか?

 今日は行商人風の格好である。


「鍛冶屋ヴァンでしたら、屋台通りの先の十字路を右ですぞ」


「えっと、それだけを言いに来たんすか?」


 手間は省けたけど。

 ニールさんの疑問通り何かあるのか、ナナシさんが目を細める。


「いえいえ、まさか。今回のワームの増殖、やはり自然のものではなさそうです」


「つまり、帝国の関与があると?」


「ええ。折角ですから、カティア殿達にはワームの発生源と思しき坑道を調査していただこうかと」


 発生源が分かったのか。

 解決に一歩前進した感じだ。


「ちょっと待って、そこって一番危険な場所ってことじゃないの!?」


 フィーナさんがナナシさんに噛みつく。


「発生源ですからなあ、必然、数は多いでしょう。あ、これは坑道の地図です」


 対してナナシさんは涼しげな顔をしている。

 地図を受け取った。

 うーん、細かくて見辛いなあ。


「ふざけないでよ! 少しぐらいカティアちゃんの安全も配慮しなさいよ!」


「フィーナ・ラザ殿、それはカティア殿が判断なさることです。我々は強制しておりません。ただ、カティア殿の能力なら問題ないとして依頼をしているだけです」


「……」


 激していたフィーナさんがナナシさんの突き放すような言葉に沈黙した。

 心配してくれているのはありがたいが、確かに強制されている訳でもない。

 若干その場に気まずい空気が流れる。


「坑道はそう広くありませんから、大人数を投入すればいいと言う訳でもないのです。引き受けて下さいますかな?」


 特に断る理由も無いが、一応予防線は張っておこう。


「手に負えない時は撤退しますから、出入り口の封鎖をお願いできますか?」


「引き受けて下さるのですな。封鎖に関してはお任せ下さい」


 フィーナさんが不安そうな顔で服の裾を掴んでくる。

 可愛らしい仕草に少しだけときめいた。


「カティアちゃん、良いの?」


「はい。フィーナさんのお気遣い、嬉しかったですよ」


「もうっ!」


 痛い!

 照れ隠しなんだろうけれど、背中に平手打ちはやめてほしい。


「お二人も嫌でしたら、私に付き合わなくても良いんですよ?」


「見くびらないでよね! カティアちゃんが行くんならアタシも行くわ!」


「自分もっす。どの道、放置できない問題っすよ、坑道が使えないのは」


 二人も行くと言うなら、撤退の見極めは慎重に行わないとな。

 駄目そうならすぐに逃げよう。


「と、いうことで。ナナシさん」


「受けてやるわよ! ありがたく思ってよね!」


 おっ?

 フィーナさんがなんだか偉そうだ。


「では、お願いします」


 ナナシさんがフィーナさんをスルーしてこちらを向いて答えた。

 フィーナさんがムッとした顔をする。

 この二人、もしかして相性が悪いんじゃないだろうか。


「あ、それとですな」


 去ろうとしたナナシさんが振り返った。


「まだ何か?」


「鍛冶屋ヴァンの店主、いや、親方と呼ぶんでしたかな? まあ、とにかくそのヴァンの仕事が不調らしくてですね。出来ればそちらも解決して下さると助かりますな。国の兵の武装に関わります」


「そうなんすか!? いや、でもそれは無茶ぶりじゃないっすか?」


 店に興味を持っていたニールさんが反応する。

 うん、鍛冶のことなんてよく分からないぞ。

 私に職人の不調をどうにか出来るとも思えない。


「カティア殿の能力なら問題ないとして依頼をしているだけです」


 キリッとした顔で言うナナシさん。


「いや、それさっき言った台詞っすよね。今使うと台無しっすよ?」


「いえいえ、本当に私の勘ではカティア殿が適任です。では、これで」


 そう言うと、ナナシさんは有無を言わせず去って行く。

 ええー……。

 ワームの件は良いが、本当に適任なのか分からない依頼まで押しつけられてしまった。

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