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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第十一章 開戦
141/155

集合

 アイゼン団長が指定した刻限。

 結論から言うと、私が申請した模擬戦の許可は降りた。

 更にその相手についても、「血気盛んで都合の良い実力者がいるよ。呼ぼうか?」と軽い調子で手配して貰えることになった。

 そういった事情で、私は例によって練兵場にて待たされているのだが……。

 何故か、私の隣に忙しいはずのでっかい獣人が立っているんだけど。


「ライオルさん……獣人国へ向けて発つのは今日の午後でしたよね? こんな所にに居ても宜しいのですか?」


 今は大体、時間的に昼前といったところ。

 各国の使節団は慌ただしく出立の準備を整えている頃だろう。

 四国会議も全日程が終了し、各国首脳は国に戻って開戦に備える運びとなっている。


「……俺だって……」

「え?」


 呟くような声と共に、肩をがっしりと掴まれる。

 ――って、凄い顔してるなライオルさん!?

 眉間に思い切りしわが寄り、歯を食いしばりつつ剥き出しにしている。

 知らない子供が見たら泣き出すんじゃないかな。


「俺だってお前と戦いてえよお! 呼べよ、俺を! それとも調整相手として俺じゃ不足だって言うのか!?」


 ああ、それでこんな顔に……。

 らしい理由に大変納得。

 次いで、私の頭の中で賑やかな笑い声が響き渡る。


(あはははは! ライオル君の顔っ……あはははは!)


 ま、アカネの場合はそうだよね……。


「……ライオルさんが相手をしてくれたら、それは私だって何の不満も不安もありませんよ。でも、ほら……もし実行したら、ルイーズさんが怒り狂いますよ」

「うっ……良く分かったな。実はもう、人づてにお前が模擬戦の相手を探してるって聞いたんでルイーズに俺が相手してもいいか言ってみたんだ。そしたらよ――」


 許可を得ようとしただけライオルさんにしてはマシなのかもしれない。

 戦闘ときたら目がないからな、この人。

 ライオルさんは私の肩から手を離し、無い眼鏡を持ち上げる様な動作をする。

 何事かと思ったが、どうやらルイーズさんの真似らしい。

 確かに彼女の癖だけど、もし見たらこれはこれで怒りそうだな。


「大規模な戦争を控えた一国の王が模擬戦? 冗談は止して下さい。もし怪我でもなさったらどうするおつもりですか? 余り我儘が過ぎると、軍での陣頭指揮の権利を剥奪はくだつしますよ――だとさ! けっ! けーっ!」

「あー……まあ、仕方ないですよね。どの道、私の調子は万全ではないのでライオルさんの御期待には沿えないでしょうが」

「んなもん戦ってる最中に復調するかもしれないじゃねえか。治療は済んでんだろ? お前なら出来る!」

「そんな無茶な」


 ライオルさんが細かな仕事を嫌う面もあり、政務官の長であるルイーズさんの持つ実質的な権限は大きい。

 四国会議では彼女が中心となってドワーフ国から大量の農具の供与を、エルフ国からは食料支援を、ガルシアからは農業の技術指導と作業人員の貸し出しを取り付ける事に成功した。

 但しこれらは獣人国の債務となり、これから長い年月を掛けて三国に返して行かなければならない。

 ガルシアは内陸なので、確か塩を長期に渡って受け取るような契約だったと記憶している。

 そんな事情もあり、これ以上仕事が多いルイーズさんに心労をかけるのは正直言って可哀想だな……と個人的には思ったり。

 なので今回は、ライオルさんに相手をお願いするという選択肢は自分の中で真っ先に却下した。

 ライオルさんだって、愚痴りつつもその辺りは分かっているんだろう。


「では、出立前に見に来ただけですか」

「おうよ。せめて見せろって言ったら追加の愚痴と苦言の後に許された。ちょっと戦うのに一々ルイーズの許可がいるなんてな……もうあいつが王で良いんじゃねえか?」

「……冗談ですよね?」

「わーってるよ、それが無理なことくらい。ったく。益々、王なんて早く辞めてやりたいぜ。全くもって割に合わん。自由に戦えないなんて俺にとっては退屈の極みだ。腕がにぶる体がなまる」

「あはは……」


 ライオルさんはここ最近、私と会う度に愚痴をこぼす様になった。

 王という立場がよほど性に合わないらしい。

 適正自体は高いと思うんだけどな……ジークと似ている部分もあるし。

 つい従いたくなるような、また手助けしたくなるようなそんな魅力。

 ……まあ、あっちの方が間の抜けた発言が多いけれども。

 しかし、こういうのも気を許されてるって言うのかな?

 ルイーズさんによると、少ない時間を使ってわざわざ私の所に愚痴りに来ていたらしいし。

 悪い気は……うん、しないかな。


「何だよ、ニヤニヤして。アカネとでも話してたのか? 居るんだろ、今」

「居ますけど……その、何でもないです。気にしないで下さい」


 おっと、顔に出ていたか。

 この癖、直んないな……気を付けないと。

 私が自戒していると、そこでようやく練兵場の扉が開かれた。

 現れたのはルミアさんで、実は彼女に立会人を頼んでくれたのもアイゼン団長だったりする。

 曰く「何かあった時に止められる人間でないと意味がないんだ。私には無理だ。体力的に」とか何とか。

 どんな相手なのか気になる発言。


「待たせたの、カティア――ん? 何じゃ、ライオルまで」

「見物に来た。あー、俺の事は放っておいてくれ」

「……儂は別に構わんがの。さて、アイゼンの頼みでカティアの相手に相応しい奴らを連れて来てやったぞ」


 うん? 奴「ら」?

 ルミアさんに続いて、疑問を裏付けるように「二つ」の巨大な影が――影が……?


「リンだ!」

「ベルなのだ!」

「「双槌のドワーフ、ルミア様に呼ばれてここに見参!」」


 っちゃ!?

 大きく見えた影は武器の所為で、実際は拍子抜けするような小柄な体躯だった。

 身の丈を超す巨大なハンマーを持った、一メートルと少しの身長。


(私と同じくらい?)


 あ、うーん……大体そうだね。

 ドワーフだよな……多分。

 凶悪というよりは、どちらかというと可愛らしい容姿の二人組がポーズを決めてこちらを見ている。

 サイドテールの髪がそれぞれ逆側にあり、明るい色の茶髪が陽光に反射して輝いている。

 揃いの鈴の髪留めは名前にちなんだものだろうか?

 くりくりとした目と少し低い鼻など、童顔で年齢を推し量ることが難しい。

 これはドワーフ族の女性共通の特徴でもあるが。

 同時に、名乗りを聞いた時点で色々と疑問が解消した。


「もしかして、国境の守備に就いているという称号持ちの御二人ですか? 随分と似ていらっしゃいますけれど、双子か何かで?」

「前半は正解、後半は否だな。双子ではないが、同郷の親友で姉妹同然に育った仲らしいぞ。で、特例で二人で一つの称号を得た変わり種だ。一人ずつの単品だと……ま、Aランク兵士相当ってとこか」

「またライオルがウチらの悪口言ってる!?」

「何だと!? もう称号持ちじゃない癖に偉そうに! 聞いたぞ!」

「ある意味では更に偉くなったんだがな……別に称号も剥奪された訳じゃねえし。有り難いことに、オヤジさんは帰って来る時は元の地位にって言ってくれたぜ。残念だったな?」

「「ムキーッ!」」


 確かに称号持ちなら相手として申し分ない。

 ルミアさんが立会人なのも納得だし、近くに居たのならアイゼン団長の言いっぷりも納得だ。

 ……なのだが、余り強そうには見えないな……。


「止さんか、お主等。一応、現在の称号持ち全員が揃うのはこれが初めてとなる訳じゃが……こうしてみると、何時の間にか女ばかりになってしもうたのう」

「まあな。引退やら戦死するばかりで総数はむしろ減ってるしな。ニール辺りには期待してるが……あいつ、どう見ても晩成型だしなあ」

「儂が称号を受け取った時は、女は儂しかおらなんだのに。大きく帝国の勢力を削り取ったティムの世代が特殊だったとはいえ」

「いいじゃないですかルミア様! 新しい王も女性、称号持ちも女性ばかりとくれば――」

「これからのガルシアは女の時代! いこーるウチらの時代ってことで! おい、そこの……えーと……後輩!」

「カティアです。リンさん、ベルさん、初めまして」


 丁寧に礼をすると、若干たじろいだような顔をされた。

 その動きが完全にシンクロしていて、双子と言われた方がまだ納得出来るんだけどな……他人同士とは思えない。

 格好もほとんどお揃いで、ハンマー以外は動き易そうな軽装である。

 対して私は、おニューのマン・ゴーシュといつものランディーニ以外は平服である。

 注文した鎧はまだ出来上がっていない。


「お前、意外と礼儀正しいな!」

「性格悪そうな目つきなのにな!」

「……」


 直ぐに怒らなかった私を誰か褒めて欲しい。

 何だろう……こう……行儀の悪い小学生を相手にしている気分だ。


(お兄ちゃん、偉い!)


 ……ありがとう、アカネ。

 私が自己紹介をすると大概驚いた様な反応をされるのだけれど、こんなにストレートに悪口を返されたのは初めてだ。

 ライオルさんが慰めるように私の背をポンと叩く。


「な。こいつら馬鹿だろう?」

「ライオルに言われたくねぇー!」

「そうだ! 戦闘バカのくせに!」

「ああ!? またボコボコにされてえのか!?」

「「もう自由に戦わせてもらえないの知ってるもんね! バーカバーカ!」」


 ライオルさんが拳を握って怒りに震えている。

 今度はルミアさんが糸目になって、その背をポンと叩いた。

 どうやら二人はライオルさんに負けた過去を根に持っている模様。


「ルミアさん……戦う前に一つ訊いておきたいのですが」

「何じゃ? 真面目な顔をして。重要なことか?」

「……称号持ちなのに御二人がドワーフ国への使者だとか、式典その他に招聘しょうへいされなかったのは何故ですか?」

「む? それは、そういう仕事に向かない位にバ――武芸一辺倒なのが主な理由じゃな。まともな挨拶も出来んあいつらでは無理じゃろ」

「ちなみに、御二人の年齢は?」

「二十の半ばじゃったかのう。記憶が確かなら」

「……………………うわぁ」

(おとなだー。でもぜんぜんそう見えないねー?)


 外見も、聞いた感じ中身もね……。

 確かにおかしいとは思った。

 ドワーフの称号持ちも居ると聞いていたのに、実際にドワーフ国へ使者に立ったのはスパイクさんとニールさんだった。

 国境に戦力を残す為とも考えられたが、情勢に余裕があった闘武会にも呼ばれなかったのは少し変だろう。


「「――何か文句あっかこらぁ!!」」


 いかん、小声のやり取りだったのだが聞こえてしまった。

 二人が息の合った動きで大槌を構えて突っ込んでくる。

 ルミアさんが慌てて止めに入ろうとするが――


「待て、お主等! まだ開始の合図は……」

「ルミア、無駄無駄。カティア、やっちまえよ。単細胞だから序列がハッキリすれば暫く大人しくなるって。いやー、あいつらの悔しがる顔、楽しみだなぁ」

「軽く言いますねー。勝てるとも限らないのに」

「はっ、言ってろ。俺の眼に狂いはねえよ。ほら、来るぜ」


 ハンマーが振り下ろされ、練兵場の地面が容赦なく吹き飛ばされていく。

 ルミアさんとライオルさんが十分に距離を取ったのを横目で確認してから、私はランディーニとマン・ゴーシュを抜き放った。

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