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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第二章 ラザの町
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ランクと依頼

 ガタガタと音を立てて荷車をひいた一団が目の前を通り過ぎていく。

 ほとんどの者は作業服だが、その内の何人かは修道服や司祭服を身に付けている。

 支部長、ニールさんと一緒に三人でギルドに戻る途中のことだ。


「今の人達は……」


「ああ、バアル教の還流派の連中か。開拓村への支援物資を運んでいるようだね」


 反応がないニールさんの代わりに支部長が教えてくれた。

 バアル教って、あのバアル教!?


「え、でもこの国って、バアル教の所為せいで出来たようなものですよね?」 


 どうしてガルシア国内で普通に活動しているんだ。


「なんだ、お嬢ちゃん知らないのかい。あいつらはガルシア領が独立するとき、信仰を捨てきれないって奴らが作った別の組織さ」


 ぬ?

 ダオ帝国のバアル教とはどう違うんだ?

 疑問が残っている様子の私の顔を見たのか、支部長が詳しく教えてくれる。


「ま、簡単に言うとあのクソッタレな人族至上主義を取っ払って、元の豊穣神バアルを祀る本来の教義に戻る事を宣言した連中だ。で、名乗ったのが還流派」


 そういえば前世でも宗教って派閥がたくさんあったな。

 杖をつく支部長に合わせてゆっくり歩きながら会話を続ける。


「それって、反発も――」


「当然あったさ。バアル教には違いないんだ。でもあいつら、ああやって今は開拓村に支援物資を運んだり、ガルシア建国時は国とは別に難民への炊き出しなんかもしていたらしい」


 ……今までバアル教自体を完全に害悪だと思っていたけど、考えを改めなければならないようだ。

 そう単純なものではないと。


「で、その甲斐あってか今ではダオ帝国のバアル教とは別物として認められている部分もあるのさ。勿論、納得している連中ばかりじゃないがね」


 慈善事業の効果はある程度あったようだ。

 でも、それだけで信用されるほど甘くはないと。


「もう一つ聞いてもいいですか? 第一王子はバアル教を信仰していると大っぴらに言っていますけど、還流派なのですか?」


 良い機会なので疑問に思っていたことを質問してみる。


「当然そうなる。出所は分からないが、他種族嫌いって噂は立ってるがね。それでも還流派の慈善事業を個人的に援助していることもあって、実は第一王子の支持は低くない。ただね……」


 支部長が言い淀んだ。

 第一王子の支持も、私が思っていたような絶望的に低いものではないらしい。


「王家は今まで宗教色を一切出さず、特定の宗教に肩入れをしなかった。それがここにきて突然第一王子がバアル教と来たもんだ。キナ臭いだろう?」


 これは多種族国家という形態に対する配慮だと言われている。

 無宗教の者も多いが、エルフとドワーフは自然信仰、獣人は偉大な先祖を祀るといった宗教が多いと聞いたことがある。

 ガルシア王国では原則として宗教は自由となっている。

 支部長が疑っているのは第一王子が帝国と繋がっていて、ダオ帝国の密偵や工作員などが還流派を隠れ蓑にして国内で活動している可能性のことを言っているのだろう。


「しかし、どれだけ怪しくても証拠がない。更に国が種族間の関係に配慮して宗教の自由を約束しているから、第一王子エドガーを国王候補から外す大義名分が立たない。ジレンマだね」


 宗教はややこしいな。

 人のデリケートな部分に関わってくるだけに。

 バアル教だけを例外にすることも出来ないようだ。


「そういう訳だから、お嬢ちゃんには期待してる。もしものことを考えたら、第一王女のリリが王になった方が影響を抑えられるだろう」


 支部長がそう締めくくった。




「まだほうけてるのかい、ニールは」

 

 支部長の執務室に戻ってきた。

 固まったままのニールさんに支部長があきれたように呟いた。

 背中を押すと歩くんだけどね。


「おーい、ニールさん?」


 目の前で手を振っても反応が返ってこない。

 痺れを切らした支部長が前に出る。


「埒があかないね。かしてごらん」


 支部長がべしべしと強めにニールさんの頬を叩いた。

 痛そう。


「ハッ!? 何処っすかここは!? カティアさんのオーラが極級で斬った的が燃えたのは夢っすか?」


 ニールさんが復帰した。

 何時もと様子が違う話し方だ。


「しっかりしな、夢じゃねえよ。あと口調、元に戻ってるぞ」


「しまった!?」


「もしかして、素の口調はそんな感じなんですか? ニールさん」


「恥ずかしながらそうっす……そうです。騎士団に入る時に矯正したのですが、時々出てしまうんですよね……」


「良かったら、私の前では普通に話して下さって結構ですよ」


 せっかく知り合ったのだし。

 私は別に偉い人間でもないのだから、固苦しい口調を維持する必要もないだろう。


「私も以前そう言ったんだがな。元の話し方を知っている人間の前まで、畏まる必要は――」


「カティアさんがそう言ってくれるなら、遠慮なくそうするっす!」


「こいつ……」


 支部長のこめかみに青筋が浮いた。

 以前支部長に言われた時にはどうして聞き入れなかったんだ?


「随分とあからさまに態度に出すじゃないかニール。つまり、そういうことなんだろう? しかし、お嬢ちゃんは全然気が付いていないようだよ。難物だね、あれは。間違いなく苦労するよ」


「い、いえ、違うっすよ! あ、でもバレてないんすか? ちょっと安心したっす」


「このへたれが……」


 何の会話だ、これ。

 そういうことって、どういうこと?


 ……話を戻しまして。

 ランクの話だ。


「それで、私の兵士ランクはどこになるのですか?」


 支部長が椅子に座りながら答える。


「初期としては最高のBランクだ。普通は模擬戦を数戦やってから確定なんだが」


 書類を書きながら話を続ける支部長。


「あの火の魔力とオーラを複合させた剣を見れば、模擬戦なんぞ必要無いことくらい誰の目にも明らかだ。それを抜きにしても、練られた良い剣筋だった。支部長権限で模擬戦は免除だ。さっさとあんたを王都にやらなきゃならんし、あとは実戦で実力を示しな」


「ありがとうございます」


 期待には応えられたようだ。

 良かった。

 それとこちらの時間の都合も考えてくれているようだ。


「Bランク……あっさり自分の上に……うう」


「あ、あのニールさん?」


 ニールさんが落ち込んでいた。


「ほっといてやんな、ニールはまだCランクなんだ。十八っていう年齢からすると十分高いんだがな」


 ニールさんって十八歳だったのか。

 一つ上。

 自分の中身の年齢で換算すると……いや、やめておこう。

 後は、そうだな。


「ランク毎の強さが良く分からないのですけど……」


 一応聞いておこう。

 支部長が腕組みをする。


「そうだね……王国軍の規模が小さいのは知ってるかい?」


「はい」


 少し前にニールさんに教えて貰ったことだ。

 人に教えて貰ってばかりだな、私。


「人数が少ない分、あそこは質を求める。志願できるランクはD以上がこれにあたる。ちなみに兵士ランクの下限はGだ」


 人数の分布はわからないが、これは流動的なものだろう。

 確かにそう聞くとCランクでも十分高いのだろう。


「で、Bランクならもうエリートクラスだね。誇って良い。ただし、優秀な兵士がなれる最高のランク、なんて言われていてね。Aランク、Sランクともなればもう有名人やら軍の重役やら、英雄クラスだ」


 つまりBから先に大きな壁がある、という事らしい。

 うーん。


「さて、あんたに任せる最初の仕事だが……ニール、この町での滞在期間は?」


 必要な事は話したとばかりに、支部長が話を切り換えた。


「あ、はいっす。二ヶ月後にある王都の闘武会で次の王を発表すると、スパイク様が仰っていたので……二、三日以内には移動を開始したいっすね」


 すっかり口調が砕けたニールさんが答える。

 立ち直り早いな。


「フム、そうか。では――」


 と、そこで扉がノックされた。


「支部長、いらっしゃいますか? 情報部の者です」


 情報部? 何だろう。


「入れ。他の客が居るが、知っていて来ているのだろう」


「勿論、存じていますとも」


 話からして私達にも関係あることのようだ。

 ドアを開けて男性が入ってくる。

 えーと、この人……

 自信ないけど、多分ナナシさんだ。

 以前とはまた髪型やら雰囲気が違う。

 しっかり町人風の格好をしている。


「ナナシさん! ……ですよね?」


「ほお、三度目とはいえ見抜きますか。やりますね、カティア殿」


 合っていたらしい。

 しかし、どうなってるんだこの人。

 年齢も全然読めないし。


「え、カティアさんが知ってるってことは、自分と一緒に王都から来た情報部の方っす……ですか?」


「ニール君は相変わらずですねぇ。ガッカリです。あと、いつもの口調で良いですし、私のことはナナシと呼んでください。面倒なので」


 ナナシさんがニールさんに皮肉を飛ばす。

 と、そこに支部長が口を挟む。


「知り合いなのは分かったから、用件を言いな」


「せっかちですなぁ。カティア殿向きの仕事を持ってきたのですよ。強制の任務ではありませんが、出来るだけ受けていただきたい」


 私向きの仕事?

 何だろう。


「おい、情報部経由ってことはまさか――」


 支部長は思い当たる節があるらしい。


「ええ。例の王子派貴族の関与が疑われている、盗賊のアジトが発見されました」


 盗賊か。

 それも、貴族の不正がらみらしい。

 私が軍属になって最初に戦うのは、どうやら人間になりそうだ。


「それで、何故それが私向きの仕事なのですか?」


「その前に、カティア殿は盗賊どもが何を盗んでいると思いますか?」


 ナナシさんが問いかける。

 何ってそりゃあ……


「普通に財産とか、食糧とかじゃないんですか?」


 ナナシさんが口元を歪める。


「違いますな。奴らが盗むのは――人です。特に弱い女子供ですね」


 ひ、と?

 予想外の答えだった。


「ご丁寧に警備の手が回り難い開拓村を狙って、ですな。そして貴族が作ったルートを利用してダオ帝国に売り飛ばしている。勿論売った金の何割かは貴族の懐へ。行き着く先は奴隷商か娼館です。いやー、反吐が出ますなぁ」


 本当に不愉快に思っているかどうか分からない表情でナナシさんが語る。

 対して、私は心底不愉快だ。

 開拓村の、特に開拓初期は魔物への対処で手一杯の所が多いと聞く。


「お、目が据わりましたな、カティア殿。受ける気になりましたかな?」


 身近な存在である開拓村が標的になっていると聞いて危機感が急激に高まる。

 落ち着け。

 確かにそいつらは気に入らない。

 でも自分に出来る仕事かどうか、冷静に判断しないと。


「……まずは、話を全て聞いてからです。支部長さんも、ニールさんもそれで良いですか」


「ああ、それでいい。だが、ギルド支部長としてはなるべく能力の高い者に任せたい案件だ。それは覚えておいて欲しい」


 支部長が頷いた。


「自分もいいっす。カティアさんの意志に任せるっす」


 ニールさんも同意してくれる。


「よろしいですか? では……」


 ナナシさんがそれを聞いて軽く目を細め、説明を始めた。

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