王都からの手紙
「なあカティ。お主、ワシの代わりに王都に行ってくれんか?」
日課の鍛錬を終えて井戸の前で汗を拭っていると、突然爺さまが言った。
「王都ですか? 随分と遠いですね。それに代わりとはどういう意味ですか?」
爺さまがやや渋い顔をする。言い辛いことなのだろうか。
代わりということは、本来であれば爺さまでなければ意味のない用事ということになる。
「ワシが昔、近衛騎士だったことは話したじゃろう。先代国王のスパイクとは長く戦場を共にした戦友でな」
その話なら以前にも聞いたことがある。
国王と臣下という立場を超えた友人だったらしい。
そこまで聞いて察する。
「もしかして、昨日村で受け取った手紙は……」
やけに豪華な装丁と上質な紙をしていた。
配達人も村に普段来る者ではなかったし。
「うむ、要は召集令状じゃな……どうやら現国王であり、先代の息子であるアラン王が後継を指名せずにポックリ逝ってしまったらしくてな。先代は後継者候補であり、三人いる孫、第一王子エドガー、第一王女リリ、第二王子カリルの中で、孫娘のリリを後継に推したいらしい。その後ろ盾としてワシの支援が欲しいようじゃ」
どうやら王都では政変が起きているらしい。
初耳だった。
これだから田舎の山奥は……。
それと、ここまで聞いた限りではこの国は長子相続ではないらしい。
指名権を持っていた王が亡くなったので、支持者を集めて王を名乗る大義名分を得る必要がある、ということらしい。
「それでどうして爺さまが呼ばれるのですか?もう隠居しているのに。それに元近衛騎士が一人戻った所で影響は小さいのでは?」
「ワシは国民人気が高かった。今はどうか判らんが、こうして手紙が来る以上はまだ影響力があるのじゃろう。当時は剣聖とか呼ばれとったよ」
……ん!? 今、凄い中二ごころをくすぐる単語を言わなかった?
「剣聖? 爺さま剣聖とか呼ばれてたの?」
「現役の時の話じゃよ……言っておくが自分で名乗った訳ではないぞ!」
へー……結局その称号が恥ずかしくて、最初は渋い顔をしていたらしい。
話の流れを考えると説明する必要があるからね。
かっこいいと思うけどね、剣聖。
むふふ。
「ええい、年頃の娘がして良い表情じゃないぞい!やめんか!」
「――うわっ! 木剣投げないで下さいよ、危ないでしょ!」