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終章 すてきなお家ですね

   終章 ダス イスト シェーネス ハウス(すてきなお家ですね)


 予言を阻止しなければならない運命の夜。起きているのはワタシとコンラート、それからティルの三人だけだったので、キンスキー家全体が息をひそめているように静かだった。

 ワタシたちがいっしょにいると両親は姿を現さないので、ワタシとコンラートのふたりは廊下にでた。

 部屋の前でコンラートが胸に下がっているロケットをワタシに手渡した。彼の眼を見上げると、コクリと頷いたので、ワタシはロケットのふたを開けた。優しそうな女性と純粋な笑顔を浮かべる少年が映っていて、もう一度コンラートの顔を見上げると、彼はリヒャルトおじさんたちを起こさないように静かに語り出した。

「ボクと母さんだよ。でも、母さんは二年前に行方不明になったんだ。警察の手を借りて、いろんなところを捜索したんだけど、けっきょく行方不明のままなんだ。手掛かりなし、だけど、そのロケットだけが、森に残されていたんだ」

 ワタシは何故、コンラートがロケットを手渡したのか、その真意を理解した。

「どんな結果が出ても、恨まないでね?」

 ………………一生に一度、出来るかどうかの………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………着飾って……………………………………………………軽やかな………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………というのが真相よ。


 コンラートはしばらく黙ったまま眼を閉じていた。やがて、何かがふっきれたように、満面の笑みを浮かべてワタシにお礼を云った。その笑顔は、ロケットに残っていた母親の笑顔にとてもそっくりだった。

「母さんは妖精を信じていたから、とても心配していたんだ。だけど、ほっとした。ありがとう、アムール。ボクはなんとしても、キミのためにティルを守ってみせるよ」

 なんて優しい言葉だろう、なんて嬉しい言葉だろう、ワタシは泣きそうになったので、コンラートの肩に頭を乗せて顔を見られまいとした。そのときだった。

 部屋から聞こえてくる音。ボソボソと、だけど多数なのだとわかる、会話だった。

 両親はベランダから中に侵入したのだ。そしておそらく、ベランダからティルを連れ出すつもりなのだ。

 ドアを開けて叫んだ、「お父さんお母さん、あなたたちはもう死んでいるの、住む世界が違うのよ。だからティルを連れて行か――」

 言葉がそこで途切れた。それ以上、続けることが出来なかった。

 茫然としているワタシの横にコンラートが駆けて来て止まった。

 コンラートは部屋の中を一瞥(いちべつ)してすぐに窓際へと走り出した。カーテンを払いのけ、カギを開けてベランダへ。カーテンがふわりと戻ってコンラートの姿が消える。それを見届けたあと、ワタシは弟に云う。

「ティル。どうしちゃったの…………」

 天井の一角を見つめているティル。だけどその瞳は何も映していない。

 すぐにコンラートが戻ってきてティルの前に片膝をつき、肩を揺らす。

「どうしたんだ? 大丈夫か? お父さんとお母さんは外へ出て行ったのか?」

 違う! そうじゃない!


 おとうさんの……


 大きくなったわね

 なんでお姉ちゃんは連れて行かないの?

 実は死んでいなかったんだよ

 迎えに来たの

 どこに行くの?


 おかあさんの……


 妖精さんと会ったんだよ

 お別れはすんだのかしら?

 準備は出来たか?

 お姉ちゃんはダメなの?

 妖精はかわいかった?

 妖精は今どこにいるんだ?


 ティルの……


《ここにいるよ》


 三人の声は、小さなひとつの身体から、繰り出されていた。


     ☆


 リヒャルトおじさんたちは、ハンナのためになると云い、都会へ移り住むことになった。

 アムールにはとても感謝している、だからここに棲みたいならそのまま棲んでいいよ、と云ってくれたので、ワタシはその言葉に甘えることにした。もしも出て行けと云われたとしても、ワタシは断固として拒否するつもりだったのだけど。


 だってこの屋敷には妖精が棲んでいるんですもの。

 ワタシは彼らの存在を信じている。

 何故なら、ワタシは妖精の奇跡(きせき)を実際に目撃(・・)した(・・)のだから。


 今はまだ妖精と会話とかコミュニケーションとか出来ないし姿も見られないけれど、いつかは可能になると思う。努力すれば、きっと実ると、信じている。

 これから、家の手伝いをすることになったコンラートといっしょに三人暮らしが始まる。

 そしていつか妖精に、ティルを……大切な弟を、治してもらう。


 治してもらう。


 コンラートが神妙に云う。

「ティルって昔、交通事故で頭を打ったんだよね。いっかい、病院で診てもらおうよ?」

 だけどワタシはそれに対し、眼を吊り上げた。



 奇跡……①常識では考えられない神秘的な出来事 ②みな平等にかならず訪れること









                妖精屋敷に棲む姉弟 了


ご愛読、ありがとうございました。楽しんでいただけたら幸いです。

次は、短編でも。

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