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第十一章 泉 その1

   第十一章 (クヴェレ)


     1


 地下へ降り、手前の部屋のワインセラーを通り過ぎて奥の空き部屋へ。

 中央で倒れているティルを発見。鳥かごは無残にも破壊されており、ただの木材に変わり果てていた。妖精などどこにもいない。居るのは倒れたティルだけ。いったいリヒャルトたちは何を見、何を経験したのだろうか。この光景から推測することは出来ない。

 コンラートが男らしく、臆することなく、前へ進んだ。頼もしかった。

「ティル。大丈夫かい?」

 腰を下ろしティルを介抱する。気を失っているティルは何の反応も示さない。

 ワタシの不安を感じ取ってか、「大丈夫だよ、ただ意識がないだけだから」とコンラートは薄暗い室内を明るくしてくれた。

「ここで何があったのかしら?」

「わからないけど」コンラートは顔を曇らせた。「普通では考えられないことが起こったようだ」

 地下室には壊れた鳥かごと倒れたティルがいるだけだったけど、コンラートの云う通り、静かな禍々しさが、充満、していた。

 かごの残骸に触れ、真実を視ようと考えが巡ったけど、弟の介抱が先だと思いなおした。


     ☆


 リヒャルトおじさんたちがどこへ行ったのかはわからない。自室に閉じこもったのか、外へ出て行ったのか、どっちでもいいのでワタシたちはティルをベッドに寝かせた。熱が出ていたので、気を利かせたコンラートが濡れたタオルを用意してくれた。ワタシはティルの容体が気になって看病していたかったのだけど、この場はコンラートに任せ、すぐに戻ってくるから、と残し部屋を出た。弟はしばらく様子を見なければならない。明日になればコンラートが村の医者へ連れて行くというので彼を信頼して任せる。

 向かうは、ハンナの部屋。

 一連の事件の真相を究明させるには、ハンナの病気の正体を探らなければならない、そう推理したからだ。それだけじゃなくて、はっきりさせなければ、ティルのためによくないとワタシは思った。

 このときばかりは自分の能力に感謝する気持ちをぬぐえなかった。

 ハンナの部屋の前へ着く。ドアノブを回すがビクともしない。ここでワタシはコンラートの名を叫んだ。もう、ビクビクして小声で話す必要はない。泉までも届くように、大声でコンラートの名を呼んだ。彼はすぐに来てくれた。そしてワタシが何を求めるのか、それを先読みしていて、ポケットから見なれた細い棒を取り出した。

 ワタシは笑顔で頷き、コンラートも笑顔で、カギを開けてくれた。

「ここから先はひとりで行きたいの」

 というワタシの願いにコンラートは、

「わかったよ、ボクはティルの様子を()ているから安心して。だけど、少しでも危険を感じたら、ボクの名前を叫ぶ、と約束してほしい」

 ワタシは返事を返すかわりに、頷くかわりに、彼の頬にそっとキスを送った。

 ポリポリと頭をかくコンラートの姿を見送りながら、ワタシはドアを、閉めた。


つづく

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