第九章 お喋り その4
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ティルは全力で駆けだした。その行動を見守るリヒャルトたち。追おうとはしない。リヒャルトは無表情に、フランシスカは口端を吊り上げながら、ただ、立っていた。
ティルは出口へと通ずる扉へたどり着くと途方に暮れた。手は背中で固定されており、ドアノブまで届かないのだ。ティルはあきらめて背後を振り返った。
リヒャルトの口真似をするフランシスカが呼びかける。
「さあ、妖精に云うんだ。ハンナを治せと」と鳥かごを指さした。「見えないが、ここに居るんだろ?」
ティルの視線が部屋の隅々を見回す。脱出の助けになりそうな道具を探すが、この部屋には鳥かごと台座以外何もない。しかし、ティルの眼はある物体を捉えた。すかさず走り出して床に落ちていたライトをくわえ、光をフランシスカの眼に当てる。小さな悲鳴を上げ、手で光をさえぎるフランシスカ。その隙をついてティルは再びドアへ、今度は失速せずに身体をぶつける、が、微動だにしない。二歩下がって再び体当たり、今度はティルの身体がはじかれて床に尻もちをついた。
「怪我しちゃうわよ。ティルちゃん」
態勢を崩しながらティルはライトをフランシスカに向けた。
「眼がチカチカチカチカあはははは眼がチカチカチカチカあはははは」
そのままティルは、光の線をリヒャルトに向ける。彼は鳥かごを持ち上げ、大きく振りかぶっているところだった。
「何するの? やめて」
無情にも、ティルの悲鳴は闇に消えた。
ガシャン! とハンドライトが落ちる。
ガシャン! と鳥かごが破壊され、その欠片がはじかれ、ティルの頬を傷つけた。
つづく




