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勇者様おことわり!

 翌朝、ゼノンからのメールで俺はいつもより一時間も早く学校についた。朝飯も食わず、顔もろく洗わずに家を飛び出た。ゼノンは恐らく清満に教わったのだろうか、パソコンのメールをいつの間にか使えるようになっているようだった。突然、部室のアドレスからメールが来たことに何事かと驚いたが、それよりもなによりも、問題は文面だ。何だ?ドラゴンが飛んでいるって?


 飛んでいた。それはもう、我が物顔で、学園の敷地内を縦横無尽に飛び交っていた。もう目を疑うことすらも放棄した。

 俺が門をくぐり、空を見上げていると、零次と清満もやってきた。

 「おい、なんだあれは?」

 「いやー、ドラゴンだね。オーソドックスな。」

 「お前らのところにもメール来たか?」 

 二人が頷く。

 「僕はまた冗談かと思ってきたんだけど、これはまぁ見事なものだね。」

 「それよりも、俺を叩き起こしたあの馬鹿はどうした?」

 清満がイライラしだすと、遠くからその張本人の声が聞こえた。

 「おーい、みなさーん。おはようございます。」

 「おはようございますじゃねぇ!」

 走り寄るゼノンの腹に、清満が右拳をねじ込む。

 「ぐ、ぐふぅ・・・って、い、いきなりなにするんですかぁ?」

 「それはこっちのセリフだ。いきなり朝早くにメール送りやがって。」

 ゼノンは腹を押さえうずくまりながらドラゴンを指さす。

 「朝起きて、カーテン開けたらいきなり飛んでるんですもん。これは、皆さんにお教えしなければと思いまして。」

 「いや、出来れば教えて欲しくなかったな。」

 しかしまぁ、これはどう考えても俺らに関係なくはないだろうな。律義に、学校の敷地内から出ないように飛んでるもんな、あのドラゴン。

 「まぁでも、どうする幸四郎?ここまでの経験だと、どう考えてもうちが処理する羽目になりそうだよね?」

 「なりそうというか、しなきゃヤバいだろうな。ドラゴンがいるなんてことになったら学校内の騒ぎどころじゃ無く、世界中のニュースになるぞ。」

 だよなぁ・・・しかし、俺だってドラゴンの対処法なんて知らないし。

 「あれはどう考えても、あっちの世界から来たものだよな?と、とりあえず、あの井戸に行ってみるか。何か、あるかもしれないし。」

 とりあえず状況を整理することが必要だ。僅かでもヒントが欲しい。

 というわけで、我々はあの林の中の井戸へと向かった。一応念のため、ドラゴンに見つからないように、上から姿を隠せるルートで進んだ。ドラゴンは上空で火を口元から覗かせながら旋回している。

 無事、ドラゴンが襲ってくることなく井戸までたどり着くことが出来た。言いだした俺が言うのもなんだが、正直ヒントになるものなんて何もないだろうなと期待していなかった。しかし、行ってみると井戸の前に一つぽつんと、アナ―セルが転がっていた。すぐに拾い開けると、中身は姫からの手紙だった。俺は肩すかしをくらった気分で、零次に手紙を渡す。零次は迷惑そうな顔をしながらも手紙を受け取り、読み始めた。すると、零次が俺の肩を叩く。

 「ちょ、ちょっと幸四郎。これ・・・」

 俺は零次に呼ばれ、横から手紙を覗きこむ。

 

〈愛しの紅様へ

 紅様、お元気でしょうか?あ、あと他のカス共も無事息をしているのかしら?

 それはそうと、大変なことになりました。あのヘタレが魔王を倒したという情報が届きましたが、それが偽りであると父上にばれました。心やさしい紅様のことですので、魔王も傷つけることなくどうにかする方法を探されたのだと思いますが、父は激怒し、魔王を呼び付け処刑いたしました。

 それだけでは留まらず、勇者とそれを助長したそちらの世界にも制裁を加えると、ドラゴンを送りこみました。

 いずれ、父自身もそちらに乗り込むと言っていますので、どうか、くれぐれもお気を付けください。いざとなったら、あのヘタレを盾にしていただいて結構ですからね、紅様。                      紅様公式ファンクラブ会長より

 ps. あの写真を見せたところ女中もすっかりファンになり、ファンクラブは現在11名まで増えました。〉

  

 お、おいおいおいおい・・・これは・・・・・・

 「幸四郎・・・これ・・・」

 「あ、ああ、ま、魔王が・・・」

 「クソッ、マジかよ!?」

 「ねぇ、それより写真ってなんのこと?」

 「清満、これは魔王の・・・」

 「ああ、恐らく雇い主にばれたんだろうな。」

 「ということは、雇い主っていうのはつまり・・・」

 「ああ、国王ってことだな。」

 国王が、魔王を雇っていた。その事実に一番驚いたのは、ゼノンだった。

 「そんな・・・なんで国王が魔王を?何のために?」

 「何のためにって・・・そんなの簡単だろ。」

 俺でもそれくらいは想像できる。

 「そうだね。よくあると言えば、よくあることだね。多分、こっちの世界でも行われていることかもしれないよ。それよりも、写真って何?」

 「だからどういうことなんですか?」

 「だからよくあることだ。いいか?国の経済が大きく動くのはどういう時だと思う?何らかの危機に襲われた時なんだよ。災害でも、人災でもなんでもな。対応や復旧などの際に大きな金を動かすことが出来る。そして、復旧したあとも国民の雇用も多く確保できる。お前の通ってたって言う学校もその一つだ。平和な世界に勇者も戦士もいらないだろ?それに、その学校の教師、事務員、清掃員など、その学校一つだけでも何人もの人が職を得ている。簡単に考えてもそれくらいの経済効果はある。それプラス、自分で魔王を雇うことで国民からの信頼、支持を得ることができる。天災は自分でコントロールすることのいつ来るのか把握することも出来ないからな。自分で魔王を雇って、世界を襲わせる。どこをどの程度、どんな形で襲うのかもある程度指示してな。それが分かっているから、それに対する国王としての対応も的確に素早く出来て、それを見て国民は有能な国王であると思い込む。っていうことだな。」

 清満が説明すると、それでもゼノンは信じられないといった様子だった。

 「でも、もしそれがばれたら、信頼どころか不信感が生まれるのでは?」

 「ばれたらな。だったらばれないようにすればいいだけの話だ。だから、今回も魔王を処刑したんだろうな。」

 「つまり、口封じということですか?」

 「みたいなもんだろうな。あと、誰かに姿を見られるのを防ぐためとかか。」

 「そんな・・・」

 ゼノンは少なからず、ショックだったようだ。自分を勇者に任命した国王が、そもそもの元凶だったなんて知ったらそりゃそうなるだろうな。でも、今はそんなことを案じている暇は無い。俺が言おうとしたことを、零次が言った。

 「でも、そんなショックを受けてる暇は無いと思うよ。だって、多分次は君がやられる番なんだから。だから写真って?」

 ゼノンは「え?」と顔を上げる。零次がずっと写真について叫んでいるが、今はそれについて構っている場面ではないので無視する。

 「手紙にも書いてあっただろ?勇者にも制裁を加えるって。あと、こっちの世界にもか。別にお前を手助けしたつもりはないんだけどな。」

 「完全にとばっちりだな。」

 と清満が呆れる。

 「じゃあ、あのドラゴンも?」

 「おそらくは、そのために国王が送りこんで来たんだろうな。きっとお前の匂いでも覚えさせて、それを探すようにしつけでもしたんだろ。」

 だから、この学園以外には出ていかない。つまり、ゼノンはどこにも逃げることは許されない。もしあんなのが街中にでもいったら、それこそもうどうしようも無くなる。まだ学校だけの方がなんとかなりそうな気がするからな。

 「じゃ、じゃあ一体どうすればいいんですか?」

 「勇者だったら自分で考えろと言いたいところだが、まぁこんな事態じゃ考える余裕もないか。」

 と清満は少し意地悪そうに続ける。

 「まぁ、お前が自分の身をささげてあのドラゴンに喰われでもしたら全て解決。とは、今回はいかなそうだな。こっちの世界にも制裁を加えるって書いてあるし。」

 「そうだね。それで済むんだったら今すぐにでも解決なんだけどね。」

 「ちょ、ちょっと、お二人ともそれは」

 「冗談だよ、冗談。で、幸四郎、どうしよっか?」

 零次がいつもの笑みを浮かべながら俺に振ってくる。どうせ、零次も何か考えているのだろうが、こいつはいつもまず俺に考えさせるのだ。こんな時くらい、たまにはお前が仕切ってくれてもいいのに。

 「とりあえず、あのドラゴンをどうにかしなきゃまずいだろ。誰かに見られたら大変・・・」

 俺がそう話していると、遠くから女のものと思われる悲鳴が聞こえてきた。

 「言ってるそばから、だね。」

 零次が笑う。いや、笑っているところじゃないぞ。でも、まだ登校時間にはだいぶ早いはずだが・・・

 「部活の朝練だね。確か女子バレー部、来週試合あるとか言ってたし。」

 朝練か。くそっ、完全に頭になかった。まずい、なんとかしてごまかさないと。

 「本当は、別に僕らがどうにかしなくてもいいはずなんだけどね。でも、そうはいかないんでしょ?幸四郎。」

 「ああ、あんなの絶対にまず俺らと関わりがあると思うだろうな。」

 特に会長とかはな。

 「じゃあどうする?」

 清満が俺に聞いてくる。どうするもこうするも、今はこれしか・・・

 「とりあえずごまかす。ゼノン、お前は部室に戻って、最初お前がこっちに来た時の格好に着替えてこい。早く!」

 「え?は、はい。わかりました。」

 ゼノンはそう言って校舎に向かって走る。

 「清満はここで、ドラゴンの動きと井戸の様子を監視してろ。で、零次は俺と一緒に来い。」

 清満は頷き、零次は俺の後についてくる。俺は、悲鳴を上げた女子達の元へ駆け寄る。

 「すみません。驚かせちゃいました?」

 俺はおどけた風に声をかける。女子達の中には腰を抜かしたのか、地べたにへたり込んでる人や、物陰に身を隠す人もいた。一人が俺を見て、「ああ、ファン研の人ね」と言った。

 「いやー、ちょっと短編映画の撮影してましてね。あれね、実はラジコンなんですよ。本物に見えます?驚いたでしょう?ほら、あれがキャスト。これからあれがドラゴンを退治するシーンなんですよ。」

 俺は昇降口から出てきた、勇者の格好に身を包んだゼノンを指さしながら説明した。すると、女子達もファン研ならやりかねないと思ったのか、すんなりと納得してくれた。ただ、一人が携帯で写真を取ろうとしていたので、俺は即座に手で遮る。

 「すみません。ネタばれ防止のため、撮影はご遠慮ください。」

 俺はぎこちない笑顔で携帯をしまわせる。その生徒は一瞬怪訝な表情を浮かべたが、文句を言うことなく鞄の中に携帯をしまってくれた。

 俺がホッとしていると、後ろから「おーい」という声がした。

 「幸四郎、一体何をするつも・・・」

 零次が後ろから俺追いついた。すると、再び女子達は悲鳴を上げた。しかし、さっきのとは明らかに違った。

 「キャー、紅君。なんでここに?」

 「朝から紅君に会えるなんてラッキーね。」

 「あー、これもラジコン?ラジコンじゃないわよね?」

 一瞬で撮り囲まれた零次が助けを求める目で俺を見てくる。俺はとりあえず輪を一か所切って身体をねじ込み、零次の前に立つ。

 「あーすみません、こっちも撮影禁止でお願いします。」

 俺はアイドルイベントの警備員にでもなったかのような感じだった。しかし、それでも納まらなかったので、俺は零次に一つ、重大な役目を与えることにした。

 「あー、これからちょっと重要なシーンの撮影に入るので、まだ校内に入るのは遠慮してもらえませんか?大会前で練習したいのはわかるんですけど。零次を置いておくので、雑談でもしててもらえませんか?」

 俺がそう言うと、女子生徒達はすんなり了承してくれた。それとは反対に、不満たらたらの表情で零次は俺を睨んできた。俺は零次に耳打ちする。

 「悪い。少しこれから来る奴ら含んで校門のところで足止めしてくれ。頼む。部の事なんだからお前にも責任はある。ということで、少しの間我慢してくれ。」

 零次は少しの間、考えるように俺の顔を睨んだが、結局渋々ながらオッケーしてくれた。

 「分かったよ。その間に、ちゃんとどうにかしてよね。」

 俺が「オッケー任せろ」と言うと、零次は女子達を連れて校門の外に出て行った。よし、これで少しは時間が稼げた。

 振り返り、元いたところへ走っていると、ポケットの中の携帯が震えた。俺は走りながら電話に出る。

 「はいもしもし。あ、マリちゃん?どうかし・・・え?ああ、うん。そう、ゼノン絡みで。てか、マリちゃん今日学校来るの早いね。え?ああ・・・・そ、そうですか・・・ああうん。どうにかしなきゃまずいでしょ。え?あ、うん。そこでお願いなんだけど、先生方が来ないように教員用の通用門を封鎖してくれない?ね、お願いします。マリちゃんなら出来るでしょ?え、うん。ありがと、じゃあお願いします。え?わ、わかりました・・・はい。では。」

 マリちゃんからだった。いつもはもっと遅い時間に登校するのに、今日は徹夜でゲームしてて中途半端に寝ると起きれそうになかったので、せっかくだから早く来たらしい。なんで今日に限って、と思ったが、よく考えれば一番最初に来たのがマリちゃんで良かったかもしれない。とりあえず、教師が入ってこれないように、マリちゃんにお願いしておいた。結構高い代償を払うようになったけどな・・・

 元の場所に戻り、清満と、先に戻っていたゼノンと合流した。ドラゴンは相変わらず上空を飛んでいるだけで、特に何かをする様子はない。対処するなら今のうちしかない。俺はとりあえず零次のこととマリちゃんのことを報告する。

 「なるほど、じゃあある程度時間はありそうってことだな。」

 俺は清満に頷き返す。だが、時間はあってもこれから先の有効手段がまだはっきりと思いつかない。でもそんなことを言っている暇は・・・

 「こっからどうするかだな。ゼノン、お前、戦えないか?」

 俺がそう聞くと、ゼノンは慌てて首を横に振った。

 「む、無理ですよ。あんなのと戦うなんて。」

 「でも、俺の見た感じあのドラゴンはレベル10ちょっとってところだな。オーソドックスな感じ、ノーマルタイプにドラゴンだしな。だからまぁ、お前でもなんとかならなくはないんじゃないか?とりあえず回復薬は使いまくるしかないだろうけど。」

 清満はドラゴンとゼノンを見比べてそう言った。

 「いや、回復薬なんか持ってきてないですし・・・ってなんで押すんですか?」

 「とっととエンカウントして、あのドラゴン引きつけとけよ。あまり空飛ばしとくのもまずいし。」

 「え?エンカウントって?ちょっと・・・」

 そんな押し問答が続いていると、不意に井戸の底から声が響いた。

 「ふはっはっは、相変わらずだな。アイン・ゼノン」

 俺たちが振り返ると、井戸の上部から金色に輝く王冠らしきものが見えてきた。

 「誰だ?って、まぁなんとなくわかるけど・・・」

 「このタイミングでやってくるとは、なんという漫画的展開。」

 俺と清満がそう言うと、井戸から一人のえらい派手な服を来たちょっと太ったおっさんが転がり出てきた。その姿をみて、ゼノンが目を見開く。

 「あ、あなたは・・・」

 「はっはっは、このわしを覚えているか?アイン・ゼノンよ。」

 「どうせ、国王だろ?」

 「ああ、国王だな。」

 それはもう、誰がどう見てもそうとしか見えない格好だし、それ以前にこのタイミングでこの登場の仕方を考えると、それしか考えられないだろ。

 「よくぞ、分かったな。この世界の住人よ。」

 「こ、国王、なぜここに?」

 ゼノンが戸惑いながら国王に聞く。なぜ?て、さっき手紙に書いてあっただろうに。

 「何故かと?決まっておろう。貴様を消すためだ。そして、ついでにこの世界も貰って行く。」

 清満が俺の顔を見る。俺は頷く。

 「「な、なんだって―――?!」」

 空気を読んで一応驚いてみました。

 「あの魔王を懐柔し、わしの計画を台無しにしてくれた当然の報いだ。自分たちの浅はかな考えによる行いを後悔することだな。」

 そう高笑いする国王を、俺たちは感心の目で見ていた。本当にこんなセリフ吐いてこんな笑い方をするんだな。小物のラスボスって。止まることのない高笑いにも飽きたので、話を先に進めさせてもらうことにする。

 俺は、笑っている隙を見て国王の背後に回り込むと、首に腕をかけ一気に国王を地面に叩き伏せた。

 「ぬおっ・・・ぐはっ・・・」

 国王はうめき声を上げた。倒れた国王の上に清満がどしっと馬乗りになる。

 「とりあえず、あのドラゴン。帰してもらっていいですか?」

 清満がメガネをクイッと上げながら、国王の顔を見下ろす。

 「ふん、そ、そうはいくものか。貴様らにはそれ相応の報いを受けてもらわねばならん。」

 国王はそう言うと、何やらごそごそと身体を揺らすと、服のポケットから何やら水晶のようなものを取り出した。

 「そ、それは、龍玉?!」

 それをみてゼノンがそう叫んだ。

 「龍玉?なんだそれ?」

 「あれは、ドラゴンを操る道具です。ドラゴンはあれを持っている人の言うことを聞くんです。」

 「そうだ。やれドラゴンよ。この者どもを焼き払え。」

 国王がそう叫ぶと、上空をただ飛び回っていただけのドラゴンが、こちらをめがけて一気に降下してきた。

 「ちっ、清満、そいつは頼んだ。ゼノン、こっちに来い。」

 俺はゼノンを連れて走る。すると、ドラゴンは方向を変えて俺たちを追いかけてきた。人数が多い方を狙うのか、もしくはただゼノンがいるからなのかは分からないが、とりあえず追いかけてくるのならラッキーだ。いや、ラッキーではないな。

 「ど、どうするんですか部長?こっち追ってきますよ。」

 ゼノンが装備をガチャガチャと鳴らしながら俺の後についてくる。

 「わからん。とりあえずあの場から離してみたけど、冷静に考えればあの龍玉を奪えば済む話だった。」

 「ちょ、どうするんですか?いまさら戻れないですよぉ。」

 「と、とりあえず、逃げろ。いま考えるから。」

 俺は走りながら、なんとかする方法は無いかと考えた。が、走りながらで到底いいアイデアが浮かぶはずもない。仕方なく俺は携帯で清満に電話する。

 「清満、その国王から龍玉を奪えないか?え?井戸に投げ入れられた?!じゃ、じゃあこいつどうするんだよ。もう操れないってことか?・・・うわっ。」

 いきなり俺の横を炎がかすめた。どうやらドラゴンはとうとう攻撃に出てきたようだ。

 「大丈夫か?!ゼノン!」

 俺は後ろに振り返りながらそう声をかけた。

 「うわっ!」

 その瞬間ゼノンは石につまずき転がった。なんというタイミングでこけるんだこの野郎は。もうここまで来るとなにかしらに祟られているとしか思えない。

 ドラゴンは飛ぶのをやめ、地に足を付けるとゼノンに向かって口を大きく開く。口内に炎の塊が出来上がっていくのが確認できた。まずい。

 俺は走る方向とは逆に踏み込むと、ゼノンの元へ駆け寄る。

 「ゼノンっ!盾貸せ!いから早く!」

 俺はゼノンから盾を受け取ると、転がるゼノンに前でしゃがみ、盾を構えて防御の体勢をとる。その瞬間に、ドラゴンの口から大きな炎の塊が放たれた。

 「あっちい!」

 直撃は防げたものの、若干俺の髪の毛に引火して、少し前髪が焦げた。ゼノンから借りた盾はすっかり真っ黒焦げで、ボロボロになってしまった。これ、絶対に安物掴まされたぞ、こいつは。俺はそのゴミと化した盾を放り捨てる。一度は攻撃を防いだものの、ドラゴンは未だやる気満々と言った様子である。あまり張りきらなくてもいいものを。

 そんなドラゴンとは反対に、こちらには戦う意欲も、道具も方法も持ち合わせていなこの状況で一体どうしろって言うんだろうか。ドラゴンはじりじりと俺との距離を詰める。

 俺がドラゴンとのガン付け合戦に負け、視線を落とした瞬間俺の後ろから何かが飛び出した。あの馬鹿だ。

 「てぇぇぇいっ!」

 ゼノンは飛び出しながら剣でドラゴンの足を狙った。ドラゴンは一度鳴き声を上げながらよろめいた。

 「ゼノン?!」

 「逃げてください、部長。ここは私が喰い止めます。」

 ゼノンはドラゴンに剣を向け構えながらそう言った。

 「しかし・・・」

 「大丈夫です、これまで、部長達は異世界から来た私に親切にしてくださいました。そして、今回は私の世界が起こした問題です。ならば、私がどうにかするのが筋というもの。違いますか?」

 いや、違いはしないけど・・・お前がそう張りきってくれてもなんだか無性に不安なんだが・・・

 「さぁ、ここは任せて、早く逃げてください。」

 ゼノンはそう強く叫んだ。この状況、一応ファンタジー研究部部長である俺は、一体どんな判断をすればいいのか。

 「そうか。任せた。」

 俺は、振り返り駆けだした。あいつがああ言うんじゃ、精々頼らせて貰うことにする。

 3分。とりあえず3分持ってくれればいい。

 俺は渡り廊下のドアから校舎内に入ると、階段を駆けのぼり二階に行く。そして、誰もいない廊下を走る。少し行くと、窓の外の下にドラゴンの姿が見えた。今まさにゼノンがドラゴンに切りかかったが尻尾で叩かれ、剣は宙を舞って地面に刺さった。そして、ドラゴンは倒れるゼノンに向かって、再び炎の球を吐きだそうとしていた。なんとか、持ってくれたみたいだ。

 俺は廊下の窓を開け、縁に足をかけると、一気に窓から飛び出した。

 「うぐっ・・・って、うわっ」

 なんとか無事、ドラゴンの背中に飛び移ることができた。ドラゴンは驚き、身体を揺らして暴れた。俺は振り落とされないように二本の角を掴んで体制を整えると、ゼノンに叫んだ。

 「おい、ゼノン。走れ。清満の方まで逃げろ。早く。」

 ゼノンは、ドラゴンの頭に居る俺に一瞬驚くも、小さく頷くと立ち上がり走り出した。すると、それに気付いたドラゴンは再び翼を広げ、飛んでゼノンを追いかけた。やはり、ゼノンを狙うように初めに命令されてでもいたのだろうか。頭に俺が乗っているにもかかわらず、ゼノンを追いかけまわす。途中、何度か口から炎を出したが、出す瞬間俺が両手で掴む角で顔の向きを変え、ゼノンには当たらないようにした。

 少しすると、前方に相変わらず国王の上でえらそうに座る清満と、異世界の門である井戸が見えてきた。頭にある一つの考えに賭けてみようと思った。馬鹿げた考えかも知れないが、いちいち検討し直している時間もない。思いついたことをどんどん試してみるしか、切り拓く道はなさそうだった。

 「ぶ、部長ー、ここまで来ちゃいましたけどー、どうすれば?」

 ゼノンが走りながら叫ぶ。俺も叫び返す。

 「ゼノン!服を脱げ!」

 「ええ!?」

 ゼノンは驚きの声を上げた。しかし、俺はさらに叫ぶ。

 「いいから!早く脱げ!早く!」 

 ゼノンは「うわぁ――」と叫びながら、結局服を脱ぎ出した。なんだかんだ言いながら、言うことに従ってくれるのはこいつの数少ないいいところだ。

 「ぬ、脱ぎましたけど、どうしたら?」 

 「それを井戸に放りこめ!」

 「ええ?なんでです?」 

 「いいから!頼む。言うとおりにしてみてくれ。」

 俺がそう叫ぶと、ゼノンは「ええいままよ」と脱ぎたての服を全て、井戸の中に放り投げた。すると、ドラゴンは一度高度を上げたかと思うと、まるでその服を追うかのように、井戸の穴めがけて一気に急降下した。どうやら、俺の第一の賭けは当たったみたいだ。このドラゴンが犬みたいにゼノンの匂いに反応しているのなら、その匂いがついた服でもどうにかできるのではないかと考えた。部室で生活するようになってから、ゼノンは毎日運

動部用のシャワーで身体を洗うようになった。そのため、匂いも多少こっちの世界のものになっていた。しかし、国王がドラゴンに覚えさせたゼノンの匂いは、向こうの世界に居た時のもの。なので、最初に着てきた勇者の格好であれば、向こうの世界の時の匂いが多く残っており、本人よりもそっちに反応してくれるのではと、考えたのだ。

 だが、問題は次だ。異世界の門を通ってドラゴンはこっちの世界にやってきた。しかし、どう考えても井戸の穴より遥かにドラゴンは大きく、普通には通れるはずはない。だが、井戸も壊れた様子はない。ということは、もしかしたら、異世界の門であるあの井戸は、通るものによりその入り口の大きさを自在に変化させるのではないかと考えたわけだ。

 そうこうしている間に、もう目の先に井戸があった。

 「部長!」

 「幸四郎!」

 ゼノンと清満が同時に叫ぶ。 

 「せいっ・・・っと」

 俺はタイミングを計ってドラゴンの頭から飛び降りた。着地には失敗し、地面に転がる。

 「ぐはっ、いてぇ」

 腕を強く打ち痛みが走ったが、それより今はドラゴンだ。俺が井戸に目をやると、信じられないことに井戸の入り口が、まるで風船の口のように伸び広がり、ドラゴンを飲みこんでいった。ドラゴンのしっぽまで納まりきると、その口は何事もなかったかのようにいつもの井戸の大きさに戻っていた。

 どういう原理かは全く理解も説明も出来ないが、とりあえず、結果としてはドラゴンを元の世界に送り返すことは出来たようだ。

 「や、やった―」

 ゼノンが両手をあげて喜ぶ。

 「よし、ナイスだお前ら。」

 国王にまたがったまま、清満も手を叩く。俺も安堵の息を吐いた。すると、ポケット野中の携帯が震えた。零次からだ。もうそっちに行ってもいいか?とのことだったので、俺は構わないと伝え電話を切った。

 「くそう。よくも・・・」

 国王が悔しそうに顔を歪めた。清満の下で。

 「後は・・・こいつをどうにかするだけだな。」

 清満は国王の頭から王冠を奪うと、指でくるくるとまわし始めた。俺は国王の頭の上に立ち、思いっきり見下ろす。

 「国王、なんでこんなことをしたんですか?」

 「ふん、そんなの。貴様らがわしの計画の邪魔をしたからに決まっておろう。」

 「邪魔?別に誰にもバレてないし、問題ないだろう。」

 「わしはリスクを背負ったままというのは嫌いなんだよ。」

 「だから、魔王を殺したというのか?」

 「そうだ。奴を野放しにしておくのは危険だからな。」

 「こ、国王様・・・」

 ゼノンが悲しい瞳を国王へ向ける。これまでの信頼も威厳も、ゼノンの中では全て崩れ落ちていくようだった。

 「なるほど。じゃあ僕達も危険は排除した方がいいってことだね。」

 「お、来たか。」

 零次が合流し、無事ファン研は全員揃った。

 「そうだな。俺たちも国王を習って危険は徹底的に排除しておくか。なぁ?」

 清満の問いかけに、俺も頷く。

 「ふんっ、そうだ。自らに危機をもたらしそうなものは、徹底的に叩きのめしたほうがいい。貴様ら、良かったな。その歳でこんなに大事なことを学べて。」

 国王が笑う。敵に囲まれ、取り押さえられているというのにこんな余裕ある笑い方を出来るなんて、そこはさすがと言っておくべきだろうか。だけど、俺たちはもうそんな笑い声を聞いて一緒に笑えるほど元気ではない。

 「じゃ、そういうことだからチャッチャと済ませようぜ、幸四郎。」

 「そうだな。おい、ゼノン。」

 俺はゼノンに手を伸ばす。

 「その剣貸してくれ。」

 「え?は、はい。これですか?」

 俺はゼノンの手から剣を受け取り、両手で構える。意外にずっしりと重みがある。これをあんなに振りまわすのは、もしかしたら結構大変なのかもしれない。だけど、今回は別に振りまわす必要はないから大丈夫だ。止まっているものを狙うんだからな。

 「な、何をするつもりだ?」

 国王が、何か感づいたのか、慌てて俺たちの顔を見回した。気づかなければ良かったものを。

 「何って、危険を排除するんですよ。ね?」

 「ああ。あんたが言ったんだろ?何を今さら。なぁ?幸四郎。」

 「そういうことだ。あんたにとって魔王が生きていることが危険であったように、俺たちにとってみればあんたが生きてることが危険なんですよ。いつまたドラゴンなりもっと強いモンスターなんかを送りこまれるか分かったもんじゃないですからね。だったら、その危険の種は摘んでおかなきゃだめでしょ。」

 俺たちがそう言うと、国王は明らかに動揺し始めた。

 「ちょ、ちょっとまて。わ、わかった、もうお前たちのことは許そう。な?だからもうわしを離してくれ。すぐ帰るから。」

 「生憎、僕たちの中でのあなたへの信頼度はゼロなんです。そんなパラメーターでは、ここであなたを解放するなんて選択肢は選べないんですよ。」

 ごめんなさい、と零次が謝る。

 「まぁ、俺らとの信頼度を上げるイベントなんて起きなかったけどな。」

 清満がそう言い、零次と笑う。国王の顔に、一気に汗が噴き出てきた。

 「というわけです。覚悟してください。」

 俺はそう言うと、両手で持った剣を頭上に振り上げた。

 「お、おい、待て。待てよ。は、話を、話を聞いてくれ。な?」

 国王が何やらごちゃごちゃとわめいているが、そんな言葉で俺たちの気が変わるわけはない。俺は、国王と目が合ったので、二コリと笑った。そして、一気に振り下ろす。

 「だ、ちょ、ちょっとま・・・・・・」

 剣は、国王の頭の先をかすめるかぐらいのきわどい軌道で地面に刺さった。本当はもっと離れるように振り下ろすつもりだったが、思ったより重くて軌道が逸れてしまった。

 零次がしゃがんで国王の目の前で手を振る。

 「おーい、もしもし?あー、気絶してるわ。」

 零次は制服のポケットから油性ペンを取り出し、それで国王の顔に落書きしながらそう言った。そして、今度は清満が何かに驚いて跳ね上がった。

 「うわっ、汚ねぇ。こいつ漏らしやがった。」

 見てみると、国王のズボンに染みが出来ており、そこからほのかに湯気が立ち上っていた。

 「あちゃー、これは国王としていかがなもんだろうね。てことで、記録記録。」

 零次はそう言うと、携帯でその国王の姿を撮影した。そしてすぐに、俺たち全員と、部室のパソコン用のアドレスにそれを送った。

 そう言えば、さっきから一人静かになった奴がいる。俺は、そいつの隣に並び声をかける。

 「やっぱり、ショックだったか?自分を勇者に任命してくれた国王が、実は黒幕だったなんて。」

 俺が真剣な表情でそう優しく声をかけたにも関わらず、ゼノンはあっけらかんとした表情で振り向いた。

 「え?いや、まったく。もともとあまり好きじゃ無かったんで。このおっさん。態度でかいし、嫌味すぐ言うし、話は長いしで。なので、今かなりすっきりしてますよ。」

 ゼノンはVサインを俺に向けてきた。なんか、少しでもこいつに気を使ったのがもったいなく感じてきた。こいつは結構、図太い神経の持ち主なのかもしれない。

 俺がそう呆れていると、国王がもぞもぞと目を覚ました。

 「お、起きたか。」

 清満が国王の頬をペチペチと叩く。

 「あ、あれ?わし、生きているのか?」

 「そうだよ。よかったね、僕たちが慈悲深い人間で。感謝しなよ。」

 「まぁ、社会的には死んだも同然だけどな。」

 清満は笑いながら国王にさっき撮った写真の画像を見せる。

 「な、これは!」

 国王が手を伸ばし携帯を取ろうとするのを、清満はすらりとかわす。

 「これをそっちの世界にばらまいたらどうなりますかね?」

 「後は、何を言いたいか分かるよな?」

 俺がそう聞くと、国王は黙りこくった。

 「というわけで、分かったらとっとと帰ってもらえますかね?」

 「わ、わかった。」

 国王は素直に頷き、井戸の(へり)に足をかけた。

 「国王っ!」

 振り返る国王の顔に、ゼノンの拳がめり込む。

 「忘れものだっ!」

 「ぬおっ」

 国王は体勢を崩し、そのまま井戸の中へと落ちていった。

 「国王様。いままでお世話になりました。私からの、最後の献上品です。」

 ゼノンは悲しげな目で井戸の底を眺めながらそっと、そう言葉を漏らした。その背中は、どこか大きな壁を越え、一周り成長したアニメや漫画の主人公のように大きく感じた。そして、ちょっと格好よく見えた。姿が真っ裸じゃなければな。服脱げと言ったのは俺だけど、まさか下着を穿いていないとは・・・その姿では、ただの変質者の発言にしかならな

い。どこまでも残念な奴だな、お前って男は。



 後日談。あの日以来、俺たちはいつも通りの生活を送っている。勇者に始まり、姫様、魔王、ドラゴン、そして黒幕の国王と、なんとも珍妙な来客にかき回されていたが、幸いそういう迷惑な訪問客は訪れていない。

 あの後、俺たちの動きはいつになく迅速だった。まず、清満は部室にゼノンの制服を取りに行き、ゼノンに着させた。さすがに真っ裸の姿を誰かに見らたら言い逃れできない。

 即座に生徒会室、または職員室。下手したら警察に呼ばれかねない。そして、俺と零次はドラゴンによって荒らされた植木や花壇をそれっぽく元に戻した。折れた枝は井戸の中にぶち込み、ドラゴンが吐いた炎によって焦げたところには土をこすりつけてただ汚れただけに見えるようにごまかした。まぁ、ごまかしただけなのですぐにばれてしまうだろうけど。で、それから何事もなかったかのように、登校してくる生徒に交ざっていつもの朝に

合流した。

 そういうことで、今回の騒動は一応一段落したわけだが、正直その後始末の方が厄介だった。まず、朝練が出来なかった謝罪として、今度の試合に応援として零次を派遣することになった。女子バレー部の部長から依頼され、俺は快く了承した。これはまぁ、別にいい。零次がちょっとお出かけするだけの話だ。あいつはもう少し休みの日に出歩いた方がいいからな、うん。

 で、厄介だったのはもう一つの事だ。俺たちは、近いところに魔王が潜んでいたことを忘れていた。あの時、生徒は零次によって足止めしていたが、学校に来るのは生徒だけじゃない。教員も学校には来るのだ。で、そっちを足止めしてもらったのが、何を隠そう大魔王、工藤麻理亜である。

 あの日の放課後、俺たちはマリちゃんに呼び出された。呼び出された通りに行くと、マリちゃんは「はい」と俺たちそれぞれに服を渡してきた。すっかり忘れていたが、朝マリちゃんに電話した時に、教員の出入り口で足止めする代わりに、マリちゃんのお手製コスプレ衣装写真集のモデルをやることを条件とさせられたのだった。ただコスプレ衣装を着るだけで何をそんなに嫌がることがあるのかとお思いか?確かに、普通のコスプレであれ

ばちょっと恥ずかしい思いをするだけであり、そういうのが好きな人にとっては逆に嬉しいことかもしれない。しかし、マリちゃんの作る衣装はどれも、きわどいのだ。基本的に布のある面積が狭い。しかも、要所要所の大事な部分に限って、肌が見えている場合が多い。下手をすればポロリとこぼしてしまいそうな衣装なのだ。それを着て、校内の至る所で撮影。しまいには、テンションあがったマリちゃんは学校を出て、公園や道端でも撮影

をしようとする。当然、俺たちに断れるはずもなく、仕方なく、心はもう失くしたものとして、人形のようにマリちゃんの命令に従ってポーズを取り続けた。終わった時には、俺たちの顔は恥ずかしめを受け続けた、まるで事後のような顔になっていたことだろう。

 それらの事があり、俺たちはどっと疲れを溜めこんだ。ああ、そう言えばロボ研の奴らもしつこく話しかけてきたっけ。とっさについたドラゴンはラジコンであるという嘘をどこで耳に入れたのか、是非その作り方を教えてくれ。いや、一緒にロボコン世界一をめざそう。とか、俺たちを勧誘してきた。当然断ったけどな。なぜなら嘘だから。

 そんなこんながあり、俺たちはう今こうして、部室で零次作の美少女ドンジャラを四人で囲んでいる。

 「あー、それにしても、やっぱりこうやってゆっくりできる日はいいねぇ。僕たちには、あわただしく何かに取り組むなんて真似は似合わないよ。ね、幸四郎?」

 「ああ、そうだな。あとは・・・って、一つ気になってることいいか?なんで、こいつここにいるの?いつまで居るつもり?」

 「え?私ですか?」

 「そう、お前。」

 俺はジャラジャラと牌を混ぜるゼノンを指さす。

 「ちょっと、指ささないでくださいよ、こんな至近距離で。」

 ゼノンは俺の指を握り、上へ反らした。

 「痛ってぇなくそ。で。いつまで居るんだよ?早く帰れよ。もう世界も平和になったし、勇者やらなくても済むんだから、こっちにいる理由もないだろ。」

 「いやいやいや、仮にも国のトップである国王にあんなことしちゃったんですよ?のこのこと戻れるわけないじゃないですか。」

 「それは自業自得だろ。俺たちは何をあそこまでするつもりは無かったんだし。」

 「そうだね。さすがにあれは無いよね。仮にも国王なわけだし。」

 「権力あるものに逆らうなんて愚の骨頂だな。」

 「そ、それは・・・」

 「で、これからどうするつもりだよ。まさかずっとここにいるわけじゃないよな?」

 「え?そのまさかですけど?」

 ゼノンは何を当然のことをと言わんばかりに、自然に言い放った。

 「ふざけんな。もう俺らにも用は無いはずだろう。とっとと出て行けよ。」

 「それはできません。御大のご命令ですからね。私はもうすでにこの部の一員なのです。それに、こっちの世界にはまだまだ面白そうなものがたくさんあります。美味しいものも。それらを研究し、向こうの世界にいずれ伝えるのが私の当面の使命であります。なので、部長、今後ともよろしくお願いします。」

 そう言ってゼノンは深々と頭を下げた。俺は頭を掻き、零次と清満を見やる。

 「仕方ないんじゃない?すっかり学校にも馴染んじゃってるし。」

 「こいつ、とりあえずマリア様の名前だしときゃどうにかなると思ってるんじゃないか?まぁ、どうにかなっちゃうんだけども。」

 確かに、マリちゃんが手放しそうにないな。それに、学校にも友人が出来ていることは確かだ。それを急に引き離すのはさすがに可哀想か。

 すると、突然部室のドアが開き、琴音が飛び込んできた。なんか久々の登場だな。

 「皆元気―?」

 「琴音、一体何の用だ?」

 「あ、幸ちゃん。うん、さっき会長から伝言頼まれちゃって、至急生徒会室に来いってさ。この前の朝のことについて話があるって。」

 俺は頭を抱えた。珍しく生徒会から何もってこないと思っていたのに。俺は渋々立ち上がり、部室から出る。

 「行ってらっしゃい。幸四郎。」

 「達者でな。」

 「部長、お元気で。」

 三人は思い思いに好き勝手な言葉で俺を送りだした。自分らは呼ばれてないからって、気楽な奴らだ、くそが。

 「幸ちゃん、私も途中まで付いて行ってあげる。」

 琴音が俺の隣に並ぶ。こいつもお気楽そうな笑顔だ。まぁ、琴音には関係ないことだしな。

 とにもかくにも、どうやら異世界からの元勇者は、当分こっちに居座るつもりらしい。至極迷惑な話だが、こうなってしまってはもう受け入れるしかなさそうだ。あの日、あいつがやって来た時、無理にでも追い返しておけばこんなことにならなかったのではと思うことはあるが、いまさら後悔しても仕方あるまい。しかし、前に進むためには反省は必要だ。

 なので俺は、この反省を生かし、今後こういうことが起きないように、対策として部室の前に看板を立てようと思う。

 「勇者様お断り」

と、でっかく書いた看板を。


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