帰ってくれ勇者様
「部長、食堂いきましょ。食堂。早くしないとB定売り切れちゃいますよ。」
「シッ。お前、あまり教室内で騒ぐな。静かにしてくれ。」
「何言ってるんですか。早くいきましょう。」
俺は無理やり手を引かれ、教室から連れ出された。
あの日から4日。俺の手を引き食堂への道を闊歩する愛善信ことアイン・ゼノンは、クリムファクト学園2年D組の生徒にジョブチェンジしていた。つまり、俺と零次のクラスメイトになっていた。なんでこんなことになったのか、それを説明するには4日前のあの時を振り返らなければならない。
零次と清満の策略にはまり、ゼノンは部室で『レジェンドファンタジー』をプレイすることになった。操作方法や進み方など、隣で零次と清満が説明しながらプレイしていったわけだが、RPGが二、三時間でクリアできるはずもなく、気づけば校内のほとんどの灯りが消えている時間になっていた。
俺たちも帰ろうとしたのだが、いかんせん部室には一人のお荷物がいたわけで、そいつの処理に困っていると、突然部室のドアが開かれた。現れたのは、ファンタジー研究部顧問であり、クリムファクト学園国語教師であり、この学園の陰の権力者であり、全ての元凶である工藤麻理亜である。
顧問の登場で、問題解決かとお思いか?普通の顧問、教師であれば、他校の生徒がいることを注意して追いだすか、またはそれなりの対応をしてくれるのだろうが、いかんせんうちの顧問にはそれは当てはまらない。
俺は後悔、そして反省した。なぜ、時間に注意していなかったのか。なぜ、もっと厳しい対応をしなかったのか。せめて、部室ではなく学校の外に連れ出しておくべきだったと。
俺は恐る恐るマリちゃんの顔を見ると、案の定新しいおもちゃを見つけたかのように、目をキラキラと輝かせていた。俺たちが何を言うまでもなく、マリちゃんはゼノンをじろじろと眺め、触り、その剣や防具に感嘆の声をあげていた。
俺がなんとかマリちゃんをなんとか引きはがすと、ゼノンはぐったりとしていた。ひとまずマリちゃんを椅子に座らせ、俺たち一連の事を説明した。すると、マリちゃんはためらうこともなくこう言った。
「わかった。まかせなさい。」
その自信満々の言葉に、俺たちは一気に不安にかられた。マリちゃんのその自信には、嫌な予感しかしない。いや、正確にはマリちゃんが部室に現れてから嫌な予感しかしていなかったのだが。
結局その日は、ゼノンは部室に泊ることを許可され、俺たちは翌日早朝に集合することになった。その日は、俺たちの泊まり込み用の寝袋をゼノンに貸し、何やら不気味な笑みを浮かべるマリちゃんに引かれ部室を後にした。
翌日、まだ朝靄が晴れないうちに俺たちは部室に集まったわけだが、既にゼノンは起きており、ゲームを進めていた。しばらくすると意気揚々とマリちゃんが部室のドアを開けた。俺はマリちゃんの手にぶら下がったものを見て頭痛がした。その手には、俺たちが今着ているものと同じデザインの服が、掲げられていた。
マリちゃんはゼノンにそれを着させると、他にも学校指定の鞄やら上履き、教科書、その他もろもろの学校生活に必要なものをゼノンに渡した。そして、生徒手帳を取り出すと、俺たちに見せてきた。そこには、〈クリムファクト学園高等部2年D組 愛染信〉と書かれていた。俺がマリちゃんにどういうことか尋ねると、マリちゃんはニコニコしながらそれに答えた。
どうやら、昨晩のうちにどういう手を使ったのか分からないが、学園長、理事長、その他各所の許可を取り、データを捏造改ざんし、ゼノンを編入生として迎える手続きを済ませたらしい。
まぁ、その外見から教師生徒問わず男を魅了し、かつ俺たちの前以外では
優秀な女教師として振る舞い勝ち取った信頼から、学校を裏で操っているマリちゃんにすればそれくらいはたやすいことだろう。
だが、そんな方法なんかどうでもいい。肝心なのは理由である。マリちゃんはこう説明した。
とりあえず、ゼノンを外に放り出すわけにはいかない。そして、ゲームもやらせなきゃいけないし部室にいてもらうことはやぶさかではないが、他の生徒に見つからないとも限らない。それに、こっちの学校生活に慣れれば、もしかしたら楽しくなって勇者をやめてくれるかもしれない。その他諸々の理由から、当分この学校の生徒として生活してもらうとのことだった。
なるほど、つまり、マリちゃんが異世界人の勇者で遊びたいから手
元に置いておくために、学園の生徒になってもらったというわけですね。わかりました、まぁ学園の生徒になってもらうのはいいでしょう。ですが、俺に押し付けるのはやめてください。なんで俺と同じクラスなんですか?既にD組には零次もいるし、それだったらバランス考えて清満のいるA組にしてください。それのが、二人ずつで綺麗じゃないですか。
「そこは部長の役目でしょ。ゼノン君はうちの部所属になってるから。」
清満と零次はドンマイと言わんばかりに俺の両肩に手を置いた。その満面の笑みくらい隠せ。後で覚えておけよ。
とまぁ、そんなこんなで、ゼノンは俺たちと同じように学校生活を送るようになった。
ちなみに寝泊まりは部室でしている。あいつの持ち物の中に、向こうの世界の通貨があり、それが金貨だったのでマリちゃんがそれを売りに行って、得た金を生活費としてゼノンに渡してある。だが、清満いわく、売った量と現在の金の価格から考えて、ゼノンの手に渡った額はおかしいとのことだった。マリちゃんに問い詰めたら「手数料よ、手数料」と逆ギレされた。まぁゼノンが「それくらいいいですよ」と許したのでいいのだが、教師がネ
コババするのはいかがなものか。
とまぁ、こんなことがあって今に至る。
「いやぁ、ギリギリセーフ、まだありましたね。」
俺たちはそれぞれのお盆を持って、空いていた食堂隅のテーブルについた。俺はラーメン、ゼノンはお目当てのB定食を無事ゲット出来たようだった。
「うわぁ美味しそう。これは何ですか?」
「あ?それはコロッケだ。で、そっちはシューマイ。」
「コロッケ・・・うまっ。美味いですね、部長!」
「わ、わかったからでかい声出すな。」
すっかりこっちの食べ物に夢中になってしまったゼノンは、毎日俺を連れて食堂で飯を食っている。で、毎回俺がその食べ物の説明をしているのだ。ちなみに同じクラスなのになぜ零次を誘わないかというと、あいつは昼休み女子からの弁当攻撃の相手をするので手一杯なのだ。今日は4限終了のチャイムと同時にダッシュでどこかへ消えていった。清満は知らん。A組は成績優秀者が集められたクラスで、休み時間でもペンの走る音と、ページのめくれる音しか聞こえないので、声を掛けるどころか近づく気にもならない。
そんなこんなで、結局俺はゼノンのお世話係になってしまったわけだ。
「なんかお前、たった三日でずいぶん馴染んでるな。」
「そうですか?多分それはこの学校の皆さんのおかげですよ。すごい友好的で、みんなとても親切です。わたしがこうして馴染めているのもそのおかげですよ。」
ゼノンはそう言いながら、味噌汁をすすった。そのちょっと様になった動きがなんかむかついた。
「こっちの生活に馴染むのはいいが、レジェファンはどこまで進んだんだ?昨日でだいぶ進んだからもう少しだろ?」
「あとどれくらい残っているのかは分かりませんが、今朝なんとかキャニオンっていう場所は抜けました。」
「ああ、それならもうすぐだ。今日中に終わりそうだな。」
「そうなんですか?楽しみです。」
楽しみ・・・ね。こっちとしてはクリアした後のお前の反応の方が楽しみだ。
その日の放課後の部室。俺たち4人はテレビの前に並び、画面を食い入るように見ていた。映し出されていたのは『レジェンドファンタジー』のクライマックス。魔王を倒した勇者が、国王よりその成果を讃えられているシーンだった。
「・・・・・・」
「・・・やっぱいいな、レジェファンは。」
「そうだね。久しぶりにみると、やっぱ感動するね。」
ゼノンの隣に並びながら、あーでもないこーでもないと文句を言いながら鬼軍曹と化していた零次に清満も、そのエンディングを見て感動しているようだった。
確かにこのストーリーはしっかりと作りこまれているし、感動するのも結構だが、俺たちにとって大事なのはそれじゃない。
「で、どうだ?勇者辞めたくなったか?」
俺はゼノンに聞いた。ゼノンは首を横にふった。
「いいえ、全く。むしろ、勇者としてのモチベーションが上がりましたよ。」
ああ、なんかわくわくするな。と言いながら、ゼノンはその場で筋トレを始めた。おい、お二人さん。どこが、「これやれば勇者やめたくなる」だよ。
「まぁ1はね。さすがに王道と呼ばれるシリーズの第一作目。そりゃこれだけだったらそう思うのも仕方ないよ。」
零次はあっけらかんとそう言うと、今度はゼノンに向けてこう言った。
「ね、どうだった?君がやってる勇者がどんな道を辿るのか、分かった?」
「はい。やはり私が勇者になったことは間違いではないと確信できました。ああやって、私も世界を救えるのですから。」
「そう。でもさ、よく思い出してほしいんだけど、ホントに勇者が世界救ったって言えるのかな?君さ、最後のボス戦のこと思い出してよ。君の勇者、真っ先に瀕死になってたよね。ほとんど残りの戦士、魔法使い、アサシンの三人だけで倒してたよね?あれ?勇者、魔王倒してなくない?」
「そ、そういえば・・・」
今度は清満が言う。
「そのくせまるで自分が倒したかのように、手柄と名誉は勇者が独り占め。最悪だな。死ね。」
「え?そ、そんな・・・」
「まぁまぁ冗談は置いておいて・・・」
零次がゲーム棚からソフトを一つ取り出し、ゼノンに渡す。今度は『レジェンドファンタジー2』だ。
「まだ、勇者の運命は終わっていないよ。今度は今の続編、この2をやってもらう。」
「これはさっきのやつの続きってことですか?」
「そうだよ。君も一番気になっているであろう世界を救った後の話だよ。」
「そうですね。あの後どうなるのか気になりますし。」
「おけおけ、じゃあ早速始めよう。」
零次がソフトを入れ替え準備をする。ゼノンはさっきの零次と清満からの辛辣な言葉なんて忘れたかのように、わくわくしている様子がわかる。それを後ろから見ていると、清満が振り返り、俺に向かって親指を立てた。
悪い笑顔だな、まったく。
「お、始まりました。」
オープニングムービーが流れ、前作と同じ曲が聞こえてくる。「おぉ」と歓声を上げるゼノンの隣で二人はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
本編が始まると、ゼノンが疑問の声を上げた。
「あれ?これ、前作と勇者違いませんか?」
「ああ、そりゃ違うよ。だって前の話から2年後の話だからね。」
「え?2年後の話で勇者変わってるんですか?前の勇者は一体どこに?」
「ゲームを進めていけば分かるよ。」
清満にそう言われ、ゼノンは納得がいかない様子だがゲームをプレイし始めた。確か、前の勇者が出てくるまでは少しかかるはずだ。それまで、というか後はあの二人に任せよう。俺は椅子を並べてその上に横になった。最近忙しくて少し寝不足だ。ちょっと寝かせてもらおう。
「クソッ、なんでそんなの当たるんだよ!!」
俺はゼノンの叫び声で目が覚めた。時計を見ると、一時間ほど寝ていたようだ。身体を起こし、その声を上げた奴のほうを見ると、今にもコントローラーをぶん投げかねないほど激昂していた。
俺が起きたことに気付いた零次に、どうなってる?とジェスチャーで伝えると、零次は笑いを堪えながら画面を指差した。画面はモンスターとの戦闘シーンで、勇者のステータスの欄は真っ赤に染まっていた。既に瀕死になったようだ。
「いや、何なんですかこいつ。ホントにこれが勇者なんですか?使えなさすぎですよ。こいつ絶対学校卒業してないですよ。」
ゼノンはひたすら文句を言っていた。どうやら勇者の能力の低さに怒っているようだった。
「ふぅ・・・なんとか勝てましたが、ホントにこいつ使えないですね。邪魔なだけなんですけど。なんでパーティーから外せないんですか?」
戦闘を終え、ゼノンが不満を漏らす。
「それは俺たちも常に思っていることだ。文句は開発者に言うんだな。」
清満がそう答えると、ゼノンはコントローラーを操作しながら言った。
「そもそも、なんでまた魔王が世界征服をしているんです?前に倒して世界は平和になったはずじゃないんですか?」
「前の魔王とはまた別の魔王だからな。世界の脅威は一度だけとは限らないだろ。」
「でも、たった2年でまた脅威にさらされなくても・・・って、だから前の勇者はどうしたんです?また戦うべきでしょう?」
「慌てるな、確か次の街で出てくるから。ほら、もう街が見えてきた。」
画面上には、映画で良く出てくる寂れた街のようなグラフィックが映し出されていた。
ゼノンの操るキャラクター達がその中に入っていく。街の中も薄暗く、建物もボロボロで街というよりも廃墟と言った方が正しいようだった。
「こんなところに勇者がいるはずないですよ・・・」
ゼノンはぶつくさと漏らしながら、街の住人から情報を聞き出そうと会話コマンドを繰り返している。
「てか、街も街なら住んでる人もそれなりですね。なんですか、あのひげ面の小汚い住人は。ぜったい有力な情報なんか持ってないですよ。」
「ああ、あれが前の勇者だよ。」
零次がさらっとそう告げた。しかし、ゼノンはそれも冗談としか思っていないようだった。
「まさか。そんなわけあるはずないじゃないですか。仮にもあんなにカッコよかった勇者がこんなところにいるわけ・・・」
そう笑いながら、その男に話しかけるゼノン。だが、残念、そいつは本当に前の勇者なんだ。
「なっ・・・」
繰り広げられる会話文を目で追いながら、ゼノンは絶句した。両隣りでは、零次と清満が満面の笑みを浮かべていた。ああ、ああ、そんなに嬉しそうな顔しちゃって。
「そんな・・・馬鹿な・・・」
元勇者の話を聞き終えたゼノンはがっくしと肩を落とした。
元勇者が語った話はこうだった。2年前、世界を襲った魔王を退治した勇者は、国王以下世界中の人から讃えられ、英雄として崇められた。そして、国王の娘の姫様と婚約をし、国王から授かった褒美の金で裕福で幸せな生活を送った。
その後もしばらくの間は、各地から講演の依頼や、イベントなどのゲストとして呼ばれることで収入を得て、順風満帆な人生を歩んでいた。
しかし、そんな生活に思考が麻痺して勘違いをしてしまた勇者は、姫がいながらも何度も浮気をくりかえし、勇者としての訓練も怠った。その噂が広まり、国王は激怒し姫との婚約も解消、勇者としての称号も取り上げられ、その人生は一気に急転落。そして、今のような廃墟の街でひっそりと暮らす生活になった、ということだった。
たった2年の間にこんなに波乱万丈な日々があったなんて、このゲームの開発者はずいぶんと鬱憤か何かが溜まっていたのだろうか。さすがにゲーム内の設定にしてもひどすぎるだろ。
「どう?わかった?」
ショックのあまり力が抜け、今にもコントローラーが手からこぼれそうな状態のゼノンに零次が声をかけた。
「ショックかもしれないけどさ。これが現実なんだよね。これが勇者の成れの果てさ。」
いや、現実じゃないから。ゲームの話だからね。
「こ、これがあの、勇者なんですか?」
「そうだよ。さっき話聞いたでしょ?勇者だった男が金と名誉に胡坐をかき、女におぼれた末の姿がこれだよ。」
「それも、人に任せきりで魔王倒してたからな。人に任せて手柄は横取り。金に溺れ、女に溺れ、しまいには全てを失った。とんだクズ野郎だな、勇者は。」
「そんな、勇者は皆同じみたいに言わないでくださいよ。」
ゼノンが声を振り絞って反論する。だが、零次と清満の口撃は止まらない。
「苦労して成った割には収入は低い、命がけ、周りには自分より強い奴らが集まってきてうだつが上がらなくなる。そんな状況で、神経すり減らしながらようやく勝ち取った幸せだけど、その幸せに喰われて落ちるその人生。馬鹿らしくならないか?」
「・・・」
「それに、あんなに苦労して仲間を集め、鍛えて、命をかけて守った平和が、たった2年で元通りの混沌とした世の中に戻ってしまうんだよ?あの苦労は何だったんだって話だよね。」
「・・・」
「おそらく、この元勇者も考え、悩んだんじゃないか。こんなにも早く平和が崩されるなんて、あの2年前の冒険には意味があったのかって。もしかしたら、国民からも色々と非難されたかもな。ちやほやされて調子のって勇者としての責務を忘れるから、こうしてすぐ魔王に襲われるんだってな。」
「・・・・・・」
「それじゃあ全てを放りだしたくなる気持ちもわかるよ。世界のために戦って、そんな風に言われたんじゃ、何のためにも、誰のためにも働かないで、世界の隅でこっそりと息をしていた方がよっぽど気が楽かもしれないね。」
「・・・・・・」
調子に乗り始める二人の間で、ゼノンの肩が小刻みに震えてきた。これは助けに入るべきかと一瞬考えたが、零次と清満にアイコンタクトで制された。
「まぁ、お前が同じようになるとは限らないけどな。だが、こうなる可能性が高いってことだ。さ、じゃあ続きやろうぜ。」
清満がそう促すが、ゼノンはコントローラーを握ったまま動かない。
「どうしたの?続き、やらないの?・・・でもまぁ、割に合わない仕事だよね。」
「そうだな。それだったら神社で神と人間の間で動いていた方が楽だ。」
「幸四郎は?」
零次が俺に聞いてきた。俺はこう答える。
「俺は・・・なりたくはないな。今は。」
そう。今は。昔はなりたかったさ。勇者にも。だけど今は、他にもっと面白いものがあるから。それに、世界を救うような勇者が必要ない世界にいるからかもしれないが。平和な世界に、世界を救うようなやつは不必要だ。
「だよね。ほら、幸四郎もああいって・・・」
ゼノンに話しかけていた零次の声が止まった。何事かと思って見てみると、ゼノンが床に突っ伏して泣いていた。
「え?どうしたの?君」
零次の問いかけに、ゼノンは声にならない声で答える。
「ヴァタシガゴデマデジャッデグヴァ」
「いや、ちょっと何言ってるかわからないから。一旦落ち着いて。」
ホントに何言ってるか分からなかった。ていうか、なんで泣いたんだよこいつは。
「私が・・・私がこれまでしてきたことって意味があった事なんですかね?皆さんの話を聞いて・・・この元勇者の話を聞いて、疑問に思ってしまったんです。勇者って、本当に必要なんですかね?」
ゼノンは涙と鼻水を垂れ流しながら、俺たちにそう尋ねた。その顔は勇者とは思えないほど汚かった。とりあえずティッシュを渡し、落ち着かせる。
「おい、どうすんだよ?」
俺は小声で零次に言う。零次は困惑した顔を俺に向けた。
「まさか泣くとはね。ちょっとからかっただけなんだけどな。」
「ていうか、こんなので普通泣くか?ますます勇者に向いてないことを立証してるじゃねぇか。こいつは。」
清満があきれ顔でそう言った。たしかに、こんなことで泣いていたら勇者なんか務まらないだろうに。
だが、そんな風に呆れているばかりではおれず、仕方なくなだめることにする。
「ま、まぁ色々思うところはあるかもしれないけど、とりあえず泣くのはやめろよ。勇者が人前で泣き顔見せるもんじゃないだろ。な?」
俺、なにしてるんだ?まるで子供相手になだめているみたいだ。
「ぶ、ぶちょう・・・」
「所詮あの元勇者が話しているのはゲームの中の事だからさ。そんなに真にうけるなよ。」
「ですが・・・」
それから色々となだめるも、ゼノンはグチグチグチグチと泣きごとを言い続けた。うん、お前、やっぱり勇者向いてないわ。仕方ない。ここは、対琴音で培った伝家の宝刀を抜くしかないか。
「ああ、もうわかった。じゃあ飯でも食いに行こう。美味いもん食えばそんなことどうでもよくなるから。特別に奢ってやるから。」
お前の方が金持ってると思うけどな。
「マジで?太っ腹だね幸四郎。」
「人に親切にすれば、それは自分に帰ってくるという。さすがだな、幸四郎。」
「誰もお前たちまで奢るとは言ってねぇ。」
むしろお前達が奢るべきなんだよ。こうなった原因はお前らにあるんだからな。
「いや、ここは部長としては部の団結のために身銭を切る場面でしょ。」
「そうだな。なら、こいつの歓迎会ってことで丁度いいんじゃないか?な、部長?」
ウザいこいつらはともかく、確かに歓迎会というアイデアは悪くない。まぁ、歓迎している相手ではないけど、マリちゃんの命令とはいえ、同じ部室で活動しているわけだから、それなりに人間関係を円滑にしておくことは大切なわけで、そのためにみんなで飯を食うというのは悪くないだろう。
「どうだ?皆で飯いかないか?」
俺は再度ゼノンに尋ねた。ゼノンは既に立ちあがり、出かける支度をしていた。
「いいですね。行きましょう。」
もしかしてこいつ、別に心配する必要ないんじゃないか?そうこうしているうちに、俺以外の三人はそそくさと部室から出ていった。
そんなこんなで、俺たちは飯を食いに学校を後にした。学校周りには何もないので、駅の方まで出ることになる。何を食うか色々と検討したが、結局俺の懐具合と相談して、ファミレスに入ることにした。
平日とはいえ、ファミレスには学校帰りの学生やらカップル。親子連れなどが溢れており、とても賑やかだった。俺たちは、ウェイトレスに案内され、窓際のテーブルについた。お絞りと水の入ったコップを貰い、ようやくひと段落つけた。
「おいゼノン、さっきから何キョロキョロしてんだよ。」
俺は向かいの席に座るゼノンに注意する。ファミレスに入ってから、というより学校の外に出てからずっと、ゼノンはあっちへフラフラこっちへフラフラ、チョロチョロキョロキョロとじっとしていなかった。
「いや、すみません。なんかどれも初めて見るものばかりなので。」
まぁそうだろうな。あの狭い部室内ですら色んなものに興味持ってたから、街なんて出たら気になるものばかりだろうに。
「でも忠告しておくけど、こっちの世界であまりじろじろと色んなものを見ない方がいいよ。捕まるから。」
零次がメニューを広げて眺めながらそう言った。
「え?何でですか?」
「こっちの世界は色々と世知辛いんだよ。ちょっと見てただけでやれ痴漢だ、やれ変態だなどと呼ばれる始末だよ。下手すれば逮捕だよ。」
「そ、それは危険ですね・・・」
「そ。だから気を付けてね。」
零次に脅かされ、ゼノンは視線を動かすことをやめた。まぁ、零次自身は何も心配する必要ないんだけどな。逆に見られる側だし。
「まぁ、色々気になるのも分かるが、とりあえず何食うか決めろ。」
俺はゼノンにメニューを渡す。
「これ全部、作ってくれるんですか?」
メニューを開くなり、ゼノンは目を見開いた。
「ああ。だけど選ぶのは一つだけにしてくれよ。金あんまりないからな。」
「わかりました。一つだけですね・・・うーんどれにしようか。これも美味しそうだな・・・あ、これも気になる。くっ、選べない・・・」
ゼノンはぶつくさ独り言を漏らしながらページをめくっていく。多くのメニューから選べない様子を見て、清満が隣からメニューを奪ってゼノンに説いた。
「ああもう、ファミレス初心者のお前に、俺がメニュー選びの極意を伝授してやる。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
「よし、ではいくぞ。まず、このページ、肉系は除外だ。」
「え?一番メインじゃないんですか?お肉は。」
「まぁ写真を見た限りではとても美味そうでボリュームあるように見えるが、この値段でライス、スープは別料金。コストパフォーマンスは最悪だ。それに、肉食いたかったらちゃんとしたところに行った方が美味く食える。よって肉系は選ばない。次に、フライ系。これも同じく論外。衣だけ伊勢海老、中身はオキアミの海老フライなんか食いたくないだろ?デザート系もお勧めは出来ないな。特にパフェ。器の半分がコーンフレークのパフェなんて、俺はパフェとは認めない。」
「では、一体何を食べれば良いのですか?」
「まぁ、パスタとグラタン系なら値段くらいの価値はあるかなとは思うが・・・」
「なるほど、このページですね。さすがの考察です。」
ゼノンは言われたようにパスタ&グラタン系のメニューのページを開いて、まじまじと一つ一つの写真を眺めた。
「でもまぁ、外食でそんなこと考えたら野暮ってもんだ。よって、自分の食いたいものを食う。これが一番の極意だな。そういうわけで、もう呼ぶぞ?」
そう言って清満は呼び出しボタンを押した。店内にピンポーンと鳴り響き、ウェイトレスが注文を聞きに来た。
「僕はエビドリア」
「俺はハヤシオムライス・・・」
清満が俺に向かってメニューを指さす。俺に頼めってか?相変わらず俺ら以外には人見知りだな。
「あと、たらこスパゲティを。お前は?決まったか?」
俺はゼノンに尋ねる。
「えっと、えっと・・・じゃあこの、季節の野菜のスパゲティというものを。」
「あ、あとドリンクバー4つ。お願いします。」
俺がそう言うと、かしこまりましたといってウェイトレスは去って行った。
「ドリンクバーってなんですか?」
ウェイトレスが去ってすぐ、ゼノンが尋ねてきた。
「飲みもの飲み放題の事だよ。ほら、あそこで自分の好きな飲みものを注いできて、好きなだけ飲めるんだよ。」
「へぇなるほど・・・」
ゼノンは興味深げにドリンクバーコーナーを眺めた。
「じゃあ、一緒に取りに行くか?俺が教えてやる。」
またも清満はそういうと、ゼノンを連れて飲みものを取りに向かった。
「それにしても、彼、ずいぶん適応力は高いよね。」
二人が席を立ったあと、零次がその姿を追いながら話しかけてきた。
「そうだな。クラスの連中ともなんだかんだ馴染んでるしな。すっかり学校生活を満喫してやがる。」
「コミュニケーション力はなかなか高そうだもんね。そもそもコミュ力ないやつは学校帰りの生徒を待ち伏せして話しかけたりはしないか。」
「その割には心弱そうだけどな。あいつは。でも、お前らの計画ももう終わりだな。まさかあんなに泣かれるとは思ってなかっただろ?」
「そうだね。あれにショック受けて勇者の無意味さに気づいてくれればいいなと思ってやったんだけどね。まさか泣かれるとはね。」
そう言って零次は苦笑いを浮かべた。まぁ、確かにあの光景を見れば苦笑いしかしようがないわな。
「で、どうするのさ?幸四郎。僕たちの計画は失敗したけど、次は幸四郎の番でしょ?」
「は?何がだよ?」
「彼に勇者をやめてもらうための策さ。まさか、ずっとこのまま勇者を匿うつもり?まぁ工藤先生の命令だから仕方ないとはいえさ。」
「うーん・・・」
「とりあえず勇者辞めてもらわないことには、ややこしいことになるよ、きっと。」
「脅かすようなこと言うなよ。」
「まぁ、既にこの状況がややこしいんだけどね。」
「まぁなぁ・・・」
この状況、ややこしいと言わずになんて言うのか。これまでの人生で最高にややこしい状況だよ。
「お待たせしました。」
ゼノンが両手にコップを持って戻ってきた。
「どうぞ部長。コーラです。」
「あ、わりいな。」
そう言って渡されたが、それは確実にコーラの色ではなかった。
「おい、清満。お前が飲め。」
「おいおい、何だよ。せっかくこいつが持ってきてくれたのに。」
「僕のも、キヨが処理してよ。」
零次も清満にコップを渡す。零次のは緑というか茶色というか、異様な色をしていた。
「はぁ・・・お前、余計なこと教えるなよ。」
「余計なことって何だよ?ごく一般的な儀式じゃないか。誰しも一度はやることだろ?」
そう言って清満は俺と零次にコップを返してくる。
「まぁ、やったことはあるけどもさ・・・」
「だったらいいじゃねぇか。なあ?」
「はい。とても勉強になりました。その人その人の体調や好みにあった味に調合してあげる。なんていう仲間意識。心やさしい習慣なのでしょうか。」
ほらな。と言いたげな顔で、清満が俺を見て笑う。
「いや、そんな習慣ないからな。こいつの言うことの半分は信じるな。」
そう忠告してストローを口にくわえる。不味い。不味いので、俺は一気に流し込んだ。
「お待たせいたしました。」
そんなウェイトレスの可愛い声とともに、注文した料理が運ばれてきた。色々あってすっかり腹が減っていたので、それぞれの前に置かれるなり、すぐに胃袋にかきこんだ。そこは一応俺らも男子高校生なので、湯気を立てていたパスタやらドリアは一気に胃袋の中へと消えていった。
だが、ただ一人ゼノンだけは、ひと口食うたびに「美味い」やら「頬が落ちるとはこのことか」とかリアクションを取っているため、俺たちが食い終わる頃にはまだ半分しか減っていなかった。
「おい、美味いのは分かったから、もう少し静かにしろ。周りに迷惑かかるだろうが。」
こいつがリアクションを取るたびに、周りからの痛い視線が刺さる。まだ褒めているからいいものの、もしもこれで料理がゼノンの口にあっていなかったりしたら、店員に追いだされていたことだろう。
「すみません。つい、感動が言葉に出てしまいまして。」
ゼノンは照れくさそうにそう言うと、本当に美味そうに野菜のスパゲティを食べ進めた。
「しかし、ファミレスでこれだけ美味い美味い騒ぐって、向こうの世界では一体どんなもの食ってたんだよ。」
その食べる様子をみて清満が呆れたような、感心したような、どっちとも取れる表情を浮かべた。
「向こうの料理ですか?向こうの世界でもパンやご飯、肉を焼いたものなどは一般的にたべられていますよ。でも、恐らく肉の種類とか味付けとか、色々と違うんでしょうね。こっちの世界の方が美味しいです。いろいろと手が掛けられているのがわかります。」
「肉の種類が違うって、肉は牛とか豚とかじゃないの?」
「もちろんそれらもいますが、そういった種類が食べられるのは上流階級の人達だけですよ。一般家庭では主に食用ドラゴンの肉を食べてますね。」
「ドラゴン?逆にそっちの方が高そう何だけど。」
零次が驚きの声を上げる。
「ドラゴンは治癒力が高いので、食べる分だけ肉を削いでも、しばらくすると再生しているので生産が簡単なんですよ。」
ドラゴンの肉かよ。なんか想像できないな。
「まぁ私の場合ドラゴンの肉でも買うのはもったいなかったので、野生のドラゴンとか捕まえて食べたりしましたけど。」
ゼノンはそう笑いながら残りのパスタを口に含んだ。野生のドラゴンって・・・本当にいるんだな。じゃあ道歩けば動く土人形とか、でかい蜘蛛とか出てくる可能性もあるってことか。恐ろしいな。
「へぇ、やっぱ世界が変われば違いはでてくるんだねぇ。」
零次がしみじみとそう漏らした。
「はい。似ているところももちろんありますが、やはり違いの方が新鮮ですので、目に付きやすくなりますね。あ、でも、正直ここだけの話、女性はこちらの世界のほうが美しいです。」
「え?それまじか?」
清満が食い付いた。ナイスフィッシュ。
「はい。なんていいますか、こちらの人の方が見た目に気を遣っているというか、周りからの評価を重要視している感じがします。それに、あのように同い年くらいの女性が集まってキャッキャと話をしているのを見ると、ちょっと交ざりたくなります。とても楽しそうですから。」
そう言って隣の女子高生4人グループの様子をゼノンはチラリと見た。そんなゼノンの肩を叩き、清満が真剣な表情で教えを説く。
「いいか?確かに可愛いかもしれないけど。あまりホイホイと心を許すなよ。これはアドバイスだからな。やつらは裏で何考えているのか分からないモンスターと一緒だからな。ああやって楽しく会話しているように見えて、実は裏ではひどい罵り合いが繰り広げられてるからな。」
「え?あんなににこやかな様子なのに?」
「そうだ。それが奴らの罠であり、凄いところだ。普通、相手を貶そうとしたらそれなりの表情が出てもおかしくないはずなのに、奴らはそれを平然とやり遂げる。それに、あいつらは「叫んで仲間を呼ぶ」「訴える」「既成事実を作る」などの即行魔法を使ってくるからな。あまり近寄らん事だ。ああいうのに近づけるのはほれ。」
清満が零次を親指で示す。
「こういう、見た目が神様に贔屓されたようなやつらだけだ。」
「不公平な世の中ですね。」
「「まったくだ」」
それには俺も同意だ。
「でも、こっちの世界は賑やかでいいですね。街中がきらびやかで。」
ゼノンは窓の外を見てそう言った。街は既に街頭や看板が灯りをともし、道行く人も増え賑やかになっていた。
「そうか?俺たちからしてみればこの街なんてまだまだ田舎だけどな。」
ズズズッとストローを吸いながら清満が言う。
「そだね。アニメショップも少ないし、ツンデレ喫茶はまだないしね。」
「そうなんですか?私からすれば色んなお店があって興味をひかれます。」
「じゃあちょっとぶらぶらして行くか?」
俺がそう言うと、ゼノンよりも先に清満が反応した。
「いいな。ちょっとゲーセン覗いていこうぜ。」
「じゃあその次はアニマニアね。『エンパニ』のミカエルフィギュア予約しないとだから。」
「よし、そうと決まれば善は急げだ。行くぞ。幸四郎、零次、ゼノン。」
その声を合図に、俺たちは席を立った。結局、ゼノン以外の分も俺が払った。もう、あいつらの前では迂闊なことは口にしないようにしよう。
その後、俺たちはゲーセンやらアニメショップ、レコードショップに電気屋など、色々な店を回った。毎回大げさなリアクションではしゃぐゼノンをなだめるのが大変だったが、家に帰ってベッドに横になった時に気づいた。なんだかんだで、俺も楽しんでいたことに。
翌朝、教室でボーっといると、始業のチャイムギリギリにゼノンが駆け込んできた。一番近いところに住んでるくせに、時間ぎりぎりの重役出勤とはいいご身分だ。
一限目を終えた休み時間、零次と話をしていると、ゼノンが俺たちのところへやってきた。
「お二人とも・・・おはようございます。」
「ああ、おはよう・・・って、お前どうした?」
ゼノンの目の下にはハッキリと隈が出来ていた。誰がどう見ても、寝不足なのは明らかだった。
「なに、昨日寝れなかったの?あんなにはしゃぎまわってたのに。」
零次が聞くと、ゼノンは頭を横に振った。
「いえ、眠かったことは眠かったんですけど、昨日あの後戻ってからゲーム再開したんですけど、やってたらやめ時がわからなくなっちゃって、結局最後までクリアしちゃおうってなって、今朝、ようやく終わったんです。」
「ああ、だからあんなギリギリだったのか・・・馬鹿かお前。」
「すみません。つい・・・でも、キヨさんも二日三日の徹夜はざらだって言ってましたし。」
「キヨの場合は特殊だから、あまり参考にしない方がいいよ。でも、よく再開する気になったね。あのゲームがきっかけで幸四郎が散財する羽目になったのに。」
いや、あの原因はお前らだからな。そこんところ勘違いするなよ。
「確かに一瞬気は引けましたが、とにもかくにも全て終わらせて、世界を救わなければ何も分からないと言い聞かせ、やってみたんです。」
「ふーん、で、どうだったんだ?何か感じたりしたのか?」
俺が尋ねると、「はいっ」と力強く頷いた。
「クリアして色々と考えました。あの勇者の使えなさ、勇者の存在意義、パーティー内での勇者の立ち位置、将来性、勇者として一生終えた場合の生涯年収、今の授業中ずっと考えてました。」
いや、授業中は授業の事考えろよ。
「それで一つ、決心したことがあります。それを伝えにきました。」
授業中に一体何を決心したって言うんだ?
「私、勇者休業します」
「休業?」
「はい。しばらくの間、勇者という身分から遠ざかって見ようかと。」
「ねぇ、これって僕たちの作戦が成功したってことでいいのかな?」
零次が耳打ちしてきた。どうなんだろうか。でもまぁ、勇者としての仕事をやらないってことは、成功したと言ってもいいんじゃなかろうか。
「そりゃいいことだな。さっさと帰ってゆっくり世界が変わっていく様を見届けろよ。」
俺がそういうと、ゼノンはきょとんとした顔で俺を見返した。
「え?向こうの世界には帰りませんよ?」
「は?勇者休むんなら、こっちの世界で仲間探すこともしなくていいだろうが。じゃあこっちの世界にいる理由もないだろ?」
「いえ、休んでるだけですから、復帰した後のためにも仲間は探さなければなりませんし、なにより、こちらの世界の色々なものを学ぶことで私自身成長できるような気がするんです。なので、これから当分の間、皆さんと一緒にこちらの世界を堪能したいと思います。」
「いや、思いますじゃなくて・・・」
零次も隣で肩をすくめた。
「あの、御大には今朝報告してあります。」
「御大って?」
「顧問の先生です。今朝、丁度会ったのでそう伝えたら、快く許していただけました。それで、今後は御大と呼ぶようにと言われたので。」
馬鹿かあの顧問は。何が御大だよ。ってまた勝手に許可してるし。どうせ面倒事は俺らに回ってくるんだからな。
「先生がそう言ったんじゃ、僕らにはもうどうすることもできないね。」
零次は諦めたようにそう笑った。
「あの教師め・・・」
「何?幸四郎が抗議してくれるの?」
「抗議しても聞くようなたまかよ。あの女は。」
「じゃあどうするのさ?」
どうするもこうするも、なぁ・・・
「わかった・・・じゃあ今日から正式な部員ということで扱うからな。覚悟しとけよ。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
ゼノンはそう頭を下げると、俺たちの手を強く握った。
「じゃあ、キヨさんにも伝えてきますね。」
「あ、おいA組はまだっ・・・」
俺の制止の言葉も聞かず、ゼノンは教室を飛び出していった。
「これからもよろしくね。我らが部長さん。」
零次は笑いながら席へと戻って行った。零次が言っていた通り、ややこしいことになった。
俺は、これからのことを考えて重くなった頭を支え切れなくなり、机に突っ伏した。
こうして勇者は、俺たちの仲間となった。
普通逆だろう。なんで勇者の方から仲間になるんだよ。




