第08話「夜襲」前編
いつも、虹翼の翼 ~元おじさんの異世界冒険記~をお読み頂きまして誠にありがとうございます。
今回の話も、増し増し状態でして……気が付けば文字数も27,622文字となっておりまして、本来は一話内で終わらせる予定でしたが、私の語彙不足の為余計な台詞や説明が多く入り、読み難くなっている可能性もありますが、多少でも呼んで頂けたら、書いたかいもありますので、今週も宜しくお願い致します。
政和達がこの視界、アク・エリアスに転移してから、一週間が経過しそんな中、人々が寝静まった深夜に、その重大な事件が起きた……
◇◆◇◆
時系列は若干戻るが、深夜にその重大な事件が発生するまでの間に、エリアスが神の世界に戻ると言う事で、四日目の日中に簡単な送迎会を開き、エリアスを送り出すが、その際に彼女がエリザベートに向かって『私が居ない間は、エリザベート貴女が政和さんを助けるのですよ』と言い残し神の世界へ戻って行ったのは、記憶に新しい。
その後の政和達は、平穏無事な日々を送り、彼らは毎日冒険者ギルド本部に顔を出し、魔の樹海の依頼をこなして、その成果も右肩上がりで伸びて行き、冒険者ギルド本部内では、期待の飛び級新人として噂される様になっていた。
そして、時系列は戻り、その日の深夜に重大な事件が発生すると知らずに、何時もの様に政和一行が冒険者ギルド本部に顔を出し、依頼掲示板に入り出されている依頼を見ていると、カウンターの女性が政和に声を掛けて来た。
「ウチダ様……ウチダ様、お話したい事があるのですが、少々お時間を取らせてしまいますが、宜しでしょうか?」
政和は頭の上に『???』と幾つもの?マークを浮かべながも、近くに居た豊達に一言『何か呼ばれてるみたいだからちょっと行ってくる』と、自分に声を掛け声を掛けて来た受付カウンターの女性の元へ歩み寄る。
「はい。時間的には、まだ余裕がありますので、大丈夫ですが……俺に用とは何でしょうか?」
「わざわざ、お呼び立てして申し訳ありません。実はウチダ様達にお話をしておきたいと言う事なのですが、魔の樹海の、魔獣や魔物達がここ数日変に活性化している様なのです。ですので魔の樹海へ入られる方々にこうして聞き取り調査の様な事をしているのですが、なにかお気づきの点とか、御座いますか?」
「些細な事かも知れませんが、先日受注したゴブリンの巣の殲滅ですが、巣の数が異常な数になっていて、大量の巣の殲滅とゴブリンの大量討伐と言う状態結果になったのは、ご存知ですよね?」
「ええ。いくら繁殖力の強いゴブリンとも言えど、巣の数が五十近く……そしてゴブリンの数も千匹近くですよね? それをたった六人のPTだけで無傷で殲滅してきたのは、かなり驚かされましたが……ゴブリンの巣は多くても十前後なのですが、その五倍と言うのは、些か気になる事ですよね?」
「まぁ、確かに数は多いなと思いましたが、巣の殲滅くらいならチョットしたコツさえ掴めれば、意外とあっけなく終わりますよ?」
と言いながら、政和は肩を窄めて戯ける様な仕草を見せた。
「それは、ウチダ様のPTだから言える事であって、他のPTでしたら確実全滅しているか、そのままクエストを放棄するくらいなモノですよ?」
「まだ、我々はエリュシオーネ皇国に来てから日が浅いですし、魔の樹海に生息する魔獣や魔物の事を全く理解してないと言うのもありますので、自分達の感覚ではこんなモノか? 程度でしか無いんですよ……」
「あの……こんなモノか程度で千匹近くのゴブリンを、余裕で討伐しまくるDランクのPTはウチダ様以外には、居りませんし普通は、AランクやSランクの方々達が口にする様な言葉ですよ?」
「はぁ……そうなんですか? 失礼しました」
先日、政和達が受けた依頼はゴブリンの巣の殲滅と言う事もあり、わざわざ魔晶石を回収する必要も無いと言う事で、取った殲滅作戦は先ず、足音を立てずに魔獣や魔物に接近出来る事から、カミューとミュアの二人が、政和謹製のダマスカス鋼製のサバイバルナイフを手に持ち、門番のごとく巣の出入り口付近に立つゴブリンの背後に回り込み、どこぞの特殊部隊だと言わんばかりの行動で、片手で口元を抑え顎を上げさせ即、サバイバルナイフで喉元を掻き切り、即時その場を離れると同時に、武志が数発の【手榴弾】と言う火魔法を撃ち込み、巣を丸ごと爆破して破壊をするという、何ともエゲツの無い殲滅方法を行っている。
余談になるが、武志の使った火魔法の【手榴弾】は、政和が攻撃魔法の威力は距離に依り減退しないのか? の一言で減退の無い魔法を作り出せないかと、発言者の政和と共に試行錯誤して作り上げた魔法が【手榴弾】で、これには特徴があり簡単に言えば、撃ち放ってから目標に着弾するまで全く威力が減退しない事と、範囲攻撃も想定しており、爆発までの時間を設定出来る事から、使い方に依っては、かなり使い勝手も良く込める魔力に依って、威力の微調整も出来る為、武志自身もかなり気に入っている魔法の一つでもある。
そんな感じで次々とゴブリンの巣を爆破破壊をして行き、運良く? 逃げ出す事に成功したゴブリン達も、後方で待機して居た政和、豊、宏明の三人の手に依ってほぼ次々と瞬殺と言った感じで、殲滅されたのは言う迄も無く、簡単に言ってしまえば、政和達にとって単純なルーチンワーク。
『ゴブリンの巣を殲滅するだけの簡単なお仕事です』と言った感じであった上に、巣を丸ごと潰して行ったと言う事もあって、狩った数も相当数になり報酬も通常以上の金額を手にしていた。
「まぁ、そんな訳で、魔の樹海での注意と昨日受けた依頼の、オークの討伐にオーガの討伐、それにバーサク・ベアーの討伐などの成功と、予想以上の成果を上げたウチダ様のPT全員のランクをCランクとし、一ランク引き上げる事となりました」
「は、はぁ……ありがとうございます……」
「何か、感激した様子が伺えませんが、他のPTですとランクが上がると皆様が一斉に飛び上がって喜ぶものですから、私としてはウチダ様の余りの感激の無さに、拍子抜けしてるのですが」
「い、いやだなぁ……ランクが上がって嬉しくないって事は全く無いですよ?」
「じゃ、何で他のPTの皆様の様に感激してます! って感じが無いのでしょうか?」
「そうですね……登録時の二階級飛び級スタートした上に、登録からたったの一週間でDランクからCランクへ上がっても、やった! とか、感激だぁ! と言った感覚になれなくて……正直な感想を言うと普通に上がったのねと言った感想しか無いのですよ」
「確かに、皆様の実力を見れば、普通にSやSSランクだと言っても差し支えの無い実力を、多分お持ちだと思います……だからこそ、その感想に至るんだと思います」
「自分達の、実力がどの程度なのか、まだ推し量れてない部分もあるのかも知れませんが、今の状況で納得する事無く、これからも頑張っていきますよ」
「そう言って頂けると、私共としても助かります……ところで話は変わりますが、本日の依頼の方は、もうお決まりですか?」
「いえ、まだここへ来たばかりで、依頼の貼り出される掲示板を見て、受ける依頼を探していたところで、声を掛けられたものですからまだ決めてませんよ」
「でしたら、ウチダ様のPTへ是非お願いしたい依頼があるのですが、見て頂いても宜しいですか?」
そう言いながら、受付の女性職員は、カウンターの引き出しの中にある依頼書の束を取り出しその中から、一枚の依頼書を引き抜き政和の前に提示し説明をする。
「この依頼なのですが、皇都から街道沿いで三十コロの距離に在るイーストリーと言う村が在るのですが、そこまでの商隊の護衛をお願いしたいのです」
「なるほど……一度仲間と話し合ってみますので、暫く待ってもらっても良いですか?」
「はい。分かりました」
女性ギルド職員の返事を待つと、政和は未だに以来の貼られている掲示板の前で、あーでもないこーでもないと繰り返している、宏明達の前に行くと、今ギルドの女性職員から聞いた話を、全員にする。
「ふむ……皇都から街道沿いに行って三十コロの距離に在る村までの商隊の護衛か……儂は悪くないと思うぞ?」
「そうですね。距離的に言っても、そんなに離れている訳でもないし、私もその依頼を受ける事は賛成ですよ」
「武志はどうだ?」
「うん。僕も構わないと思うよ」
「カミューとミュアは、どうだ?」
「私達には異存はありません」
「なら、商隊の護衛の依頼は全員で受けても良いって事だな?」
「そうなりますね」
「了解! じゃその依頼を受けるから、一旦全員分のギルドカードを預かるぞ」
政和が全員に向けてそう言うと、各自がギルドカードを取り出し、そのまま預けていき全員分を一時預かった政和が、先程依頼の話をしてきた女性職員の元へ向かう。
「お待たせしました。仲間に話をしたところ受けると言う事で、全員分のギルドカードを預かって来ました」
「はい。ありがとうございます。先にランクの昇格手続きを行ってから、依頼の手続きを行いますので、そのまま暫くお待ち下さい」
「分かりました。この場で待っていれば良いですね?」
「はい」
その間、政和は大人しくカウンターの前の椅子に座り、手続きが終了するのを待っていると、目の前の女性職員は、手慣れた様子でテキパキと手続きを行い、それが終わると政和に声を掛けた」
「大変お待たせ致しました。こちらが皆様のギルドカードで、依頼内容はこちらの羊皮紙に詳しく書かれておりますので、一読願います様お願い致します」
「分かりました。それで、商隊の出発は何時頃になるのでしょうか?」
「この建物を出ると、右斜め先に冒険者ギルド本部と似た商業ギルド本部の建物が在りますので、そこには既にイーストリー村へ、向かう商隊の竜車が着いているかと思いますので、護衛の依頼主でもあるダン・ミール氏が居るかと思いますので、先程お渡しした羊皮紙を見せれば、詳細を教えてくれるかと思います」
「はい。分かりました」
政和がそう女性職員へ返事をすると、今まで座っていた椅子から立ち上がると、みんなの元へ戻り、先に全員のギルドカードを返し今聞いた話をみんなに話すと、そのまま連れだって冒険者ギルド本部の右斜め先に在る、商業ギルド本部へと向かうとそこには既に三台もの竜車が横付けされており、竜車の引く荷台へ荷物を積み込んでいる最中だった。
そんな中一人の四十代半ば過ぎと思われる男性が、荷の積み込みの指示を出しているのが見受けられ、政和はこの人が依頼主だと当たりを付け、その人物に近付き声を掛ける事にする。
「あの……すみません。商隊護衛の依頼を出したダン・ミールさんでしょうか?」
「はい。私がダン・ミールですが、何かご用でしょうか?」
彼はそう言いながら政和の方へ振り向く、見た目は政和の身長と大差は無く、若干細身で比較的小綺麗な服を着ており髪は金の短髪で、目鼻立ちは碧眼と高めの鼻そして一番の特徴は、カストロ髭だろうか? 如何にも温和な商人とした感じの人物であった。
「忙しいところお声をお掛けして申し訳ありません。私は冒険者ギルド本部で商隊護衛の依頼を受けましたPT『レインボー・ウィング』のリーダ、マサカズ・ウチダと申します」
自己紹介をしながら頭を下げる政和。
「これはこれは、ご丁寧にありがとう御座います。私はこの商隊の長をしているダン・ミールと申します」
互いに自己紹介をし終え、イーストリーまでの詳細な説明を受ける政和は、話の内容を聞いて些か神妙な顔をしていた。
「皇都から三十コロの距離と言えば、竜車でもそんなに時間は掛かりませんよね? それで何故護衛を付ける必要性があるのですか?」
「その理由は、街道の一部が魔の樹海近くを通っており、時折魔獣や魔物が出没するんですよ」
「なるほど……その為の護衛と言う事になるんですか」
「有り体に言えばそうなりますが、中にはイーストリー村まで距離が短いと言う事もあって護衛を付けないで、行こうとする商人も居るのですが、そう言うのに限って盗賊や魔獣に魔物などに襲われたと言う話を仲間内からもよく聞きますので、例え三十コロ程の道程だとしても私は、不用心な事をせず護衛を付ける事を選択した訳です」
「話は分かりました。では我々は各竜車の荷台に二名ずつ分乗して、不測の事態に備えると言った感じで良いですか?」
「はい。それで結構です」
「分かりました。では私は一度メンバーのところへ戻って、打ち合わせ後三台の荷台に各二名ずつが分乗して乗り込む形を取りますので、よろしくお願いします」
そう言い残し政和は一度、みんなの元へ行きミールとの話を全員にした後、分乗する荷竜車を各自指定していく。
先頭はカミューとミュア、真ん中は政和と豊、最後尾は宏明と武志で割り振り終えるとそのままミールの元へ再び戻り乗り込む荷竜車を伝え、暫くの間荷物の積み込みが終わるまで、その場で待つ事にする。
「しかし、たった三十コロの距離の間に、魔獣や魔物に果ては盗賊の襲撃があると言うのは、正直驚きだな」
「ですね……私達の暮らして居た世界では無いのですからそう言う事もあるのでしょう」
「だのぉ。所変われば品変わるでは無いが、一番のネックは魔の樹海近くを街道が通っていると言う事だの」
「だね。そこら辺も含めて僕達が何とかしないとダメかも知れないね」
◇◆◇◆
そんな風に話をしている彼らの姿を、冒険者ギルド本部三階の一室から、見下ろすかの様に見ている一人の男が居た。
「守備の方はどうなった?」
「はっ! 守備は全て万端整っていますので、奴らがイーストリー村到着する事は無いかと思いますが、もし仮に到着したとしても別の者が動いて、奴らを確実滅ぼすでしょうが、その際に一緒にイーストリー村まで巻き込んでしまっても、本当に良かったのですか?」
「構わん。高々家屋数が五十数戸人口にして多く見積もっても三百人程度の命だ。それを我々の同胞に捧げられるのだから、喜ばしい事ではないか?」
「確かに、我らが同胞に捧げられる命は、同胞の復活の為我らにとっても大切なモノで御座いますよ」」
「そうだの。我らが同胞の為の命は、幾万、幾十万、幾百万在っても足らんくらいだからの」
「左様で御座います。早く我らが同胞の復活の日を迎えられる様に、我々もまた動かねばなりません」
「ところで、帝国の方はどうなっている?」
「帝国のバーゴン閣下は、準備は予定通りに進んでいると仰っておりました」
「そうか……我々の同胞の悲願達成までもうまもなくだの!」
「左様で御座いますね」
◇◆◇◆
冒険者ギルド本部三階の一室で、そんな会話が繰り広げられているとは知らずに、政和達はミールから、出発の準備が整ったとの知らせを受け、早速予定通りに荷竜車の荷台部分に二人ずつ乗り込み皇都を出発したのであった。
政和達を乗せた荷竜車の速度は、約にして時速三十キロ程で、自転車を早く漕いだ程度で何も無ければイーストリー村まで、一時間ちょっとで到着する筈であった。
だが、何故かこの日に限って魔の樹海から離れている街道筋であっても、魔獣の襲撃があったりと誰かの手に依る仕業だと、思わざるを得ない状況が続いており、魔獣や魔物の襲撃がある度に政和達は、荷竜車の荷台部分から飛び降り殲滅を繰り返し、殲滅が終わるとまた同じ荷竜車の荷台に乗り込み、PTの音声チャットで会話を繰り返していた。
『なぁ、この辺ってまだ皇都からそんなに遠くない場所なんだが、こんなに魔獣や魔物が出て来るって事あったか?』
『私達が、冒険者として活動し始めてから初めてだと思いますよ?』
『儂も、普段魔獣や魔物を見掛けるのは、魔の樹海に入って暫く歩かんと見掛ける事は無かったと思うが』
『うん。今日に限って変だよ。ここまでに来るまでの間に既に五回は襲撃されてるよ?』
『そうだよな……このまま魔の樹海近くを通る時は、要注意だな』
『そうだね。なるべく魔の樹海の方に意識を向けておこうよ』
『武志の言う通りだな! みんな魔の樹海に一番近づく前から、なるべく意識をそっちに持っていく様にしてくれ』
『『『了解!』』』
『カミューにミュアはそのまま引き続き、周辺警戒を頼む』
『『畏まりました』』
政和は、ボイスチャットを使いそんな会話を繰り返しており、全員に魔獣や魔物、盗賊について警戒する様に指示を出す。
そんな中、同じ荷竜車の御者台に座っているミールへ政和は話し掛けていた。
「ミールさん。つかぬ事をお伺いしますがこの地域で、こう何度も魔獣や魔物に出くわす事ってあるのですか?」
「いいえ。私もイーストリー村まで何度も行商で行った事がありますが、まだ皇都に近い場所で、何度も襲撃に遭ったと言うのは初めての経験ですよ……それに皆さんが護衛に付いてくれて本当に良かったと思っていますし、皆さん全員が本当にお強いと、感心していたところですよ」
「ミールさんに、そう言って貰えるだけでも助かります。我々が護衛に付くと魔中や魔物の襲撃が増えるなんて噂が立ったりでもしたら、初の護衛依頼でそれ以降護衛依頼の話が、来なくなると言う事にも繋がりかねませんからね……」
そう言いながら政和は肩を窄め、半ば溜め息交じりの言葉を吐く。
「そんな事はありませんよ! 皆さんが護衛をしてくれたおかげで、何度も襲撃に遭っているにも関わらず、荷物自体は無傷で済んでいるのですから、そう気を落とさないで下さい」
「はぁ。ありがとう御座います……依頼主のミールさんに、そう言って貰えるだけでも多少なりとも気が楽になりますよ」
「しかし、今まで何度も護衛依頼を出して来ましたが、皆さんの様なお強い方々が居たとは知りませんでしたよ」
「そうなのですか? 私達よりランクが上の方が大勢いらっしゃるでしょう? そう言う方々には、依頼を出された事は無いのですか?」
「いえ、もちろんありますが、金銭面的なモノもありますし、それに長距離の護衛なら兎も角、短距離の護衛でしたら皆さんのランクでも十分やってくれるだろうと判断した上で、依頼を出したのですが思っていた以上の働きを頂いて本当に助かっていますし、今後も長距離の移動がある際でも、安心して皆さんに指名依頼として出させて頂きますので、宜しくお願いします」
「あっ! いえ。 こちらこそまだまだ駆け出しの冒険者ですが、ミールさんのご期待に沿える様にがんばりますので、こちらこそ宜しくお願いします」
ミールと政和が話をしている中、カミューからボイスチャットで、前方一キロ先にウォーウルフの群れが現れたと知らせが入った。
『カミュー! ウォーウルフの群れの頭数は分かるか?』
『はい。約二十頭程の群れの様です』
『了解! カミューとミュアは、引き続き警戒に当たってくれ!』
『『畏まりました!』』
「ミールさん。またウォーウルフの群れ襲撃っぽいです。距離は一コロ先らしいですが、安全の為に、約五百モートル手前で荷竜車を停止させて下さい」
「わかりました……しかし、皆さんの情報伝達の早さには驚きを隠せないですね」
「そうなのですか?」
「ええ。普通は大声で情報の遣り取りを行っているのですが、皆さんを見ていると、一切言葉を発してませんし、それでも意思の疎通が取れているのが不思議なのですよ」
「ああ……それに付いては、また後でと言う事で、先にウォーウルフの群れを片付けてしまいますので、そろそろ荷竜車を停車させて下さい」
「あっ! そうでしたね。分かりました直ぐに止めさせます」
「では、我々はウォーウルフの群れを殲滅してきますので、暫くこのままでお待ち下さい」
政和がミールにそう言い残すと、そのまま荷竜車の荷台から飛び降り、豊に後ろの荷竜車の荷台に乗っていた宏明、武志を伴って、約五百メートル先に屯するウォーウルフの群れに、一気に【アクセル】を使って接近し一度群れを追い越すと、その場で大声でウォーウルフの群れを、挑発し群れ全体の注意を引きつけ、武志の火魔法を群れの中に向けて撃ち放ち、着弾と同時に一気に炸裂する。
豊も矢の雨を降らせながら移動を繰り返し、宏明は二人の攻撃から逃れたモノを片っ端に切り伏せ、政和もまた武器を《虹翼ハルバード》に持ち替え、広範囲で首を切り落として殲滅していく。
各自の連携で約十分足らずで三十数頭も居た群れは、完全に殲滅されつくされ全てのウォーウルフが地に伏すと、戦闘は終了となり手持ちのナイフを使い魔晶石と毛皮を回収していき、魔晶石と毛皮を剥ぎ取られた後の死骸は魔の樹海の方に放り投げ、街道に残ったのは彼らの血の跡のみ。
その後は各自【クリーン】と唱え、体や武器に付いた血を綺麗に落とした後、また荷竜車に戻ると、ミールに向かって『お待たせしました』と言って何事も無かった様に、また荷竜車の荷台に乗り込む。
この時、ミールは遠巻きながら何度目かとなる彼らの戦闘の様子を見ていたのだが、余りもの早業で本当に政和達が、Cランクの冒険者なのか信じられないと言う気持ちと、連携の取れ具合に心底関心をしており、政和に声を掛けられている事さえも暫くの間気が付かなかった。
「ミールさん……ミールさん!」
「はっ……はいっ! な……何でしょうか?」
「あっ! 戻ってから何度か声を掛けていたのですが、何か気が付かなかった様なので、大声を出してしまって申し訳ありません」
「いえいえ。私に声を掛けたというのは、どの様なお話でしょうか?」
「今さっき、狩ったウォーウルフの魔晶石と毛皮はどうしましょうか? もし売り物になるのでしたら、このままお譲りしますよ? 魔晶石の方は良いとしても、毛皮の方がそれなりに傷付いているので、売り物になるか分かりませんが、何かしらに使えるのでしたらお譲りしますよ」
「あぁ、その事でしたか……魔晶石の方は幾らあっても足らないくらいですし、毛皮は傷付いている部分を避けて縫い合わせれば、十分に使い物になりますので、そちらの言い値で買い取りますよ」
「そうですか……では全部で銀貨二枚でどうでしょうか? 魔晶石も毛皮も見た目あまり品質の良い物とは言い切れませんので、私としてはそれくらいが妥当かと思いますが、如何ですか?」
「そんなに安くて良いのですか?」
「ええ、我々はギルドの方からそれなりの報酬も入りますので、ミールさんさえ良かったら、その金額で買い取って頂ければ助かります」
「分かりました。ではウチダさんが言われた金額で買い取らせて頂きます」
「毛皮の方は、武志の火魔法と宏明の攻撃に、私の断頭でそれなりに痛んでいたりしますので、無理に押し付ける様な形になってしまって申し訳ありません」
「いえいえ。そんな事ありませんよ! 確かにウチダさんの言われる様に毛皮はそれなりに傷んではいますが、全く使えないと言う事はありませんので、ご安心下さい」
「そう言って頂けると助かります」
「では、買い取り金額の銀貨二枚です」
「はい。確かに」
ミールは魔晶石と毛皮の買い取り金額の銀貨二枚を政和に、手渡しながらこの先の道程を気にしていた。
「ところで、ウチダさんはこの先の道程ですが、どう考えておられますか?」
「そうですね……私としては、一番の難関は今移動している街道が魔の樹海の側を通る時が、危ないのではと考えてます。それに正直に申し上げて今までの、魔獣や魔物の襲撃は誰かの悪意を感じるのですよ」
「それは、どう言う意味でしょうか?」
「今から話す話は、この場で留めて頂きたいのですが、私達が冒険者になってから一週間しか経っていないのですが、その間に私達の動向を窺うかの様な動きをしている輩が居るのです。これは私の推測でしか無いのですが、今回の連続襲撃も、私達の動向を窺っている輩の仕業では無いかと考えています」
「ちょっ! ちょっと待って下さい! 今ウチダさんは冒険者になってから一週間しか経ってないと仰ってましたが、普通一週間でCランクになると言う事は無いですよね? それに先程から何度も目にしているウチダさん達の、連携の取れ方を見ていると、到底冒険者を始めて一週間ですとは言い切れない動きをしてましたし、たった一週間でFランクからCランクに上がると言うのは、不可能じゃ無いでしょうか?」
「だから、先程私は、ミールさんにはこの話はこの場で留めておいて下さいと、お願いした理由はそこにあるのです。私達も本来はFランクスタートになる筈でしたが、とある理由によりDランクからのスタートになっているんです。Cランクに上がったのも先日受けた依頼でゴブリン巣を殲滅すると言う依頼で千匹近く狩っているんですよ。その結果でCランクに上がったんです」
「ゴ……ゴブリンをたった六名のPTで千匹も狩ったなんて到底信じられませんし、そんな偉業が出来るのは、SSSランクのPTと皇城の騎士団が総出で出ないと無理じゃないですか?」
「まぁ、普通に考えればそうですが、私達の時は偶々運が良かったのか、ゴブリンの巣が、そんなに広くない範囲で点在してまして、それを一つずつ魔法で潰していっただけなんですよ? 偶には漏れもありましたが、それも漏れなく狩り取っていきましたから、なんなら証拠をご覧に入れましょうか?」
自分の着ている服のポケットからギルドカードを取り出し、ゴブリンの巣殲滅時の数字をミールに見せる政和。
ギルドカードに表示されているその数字は、九百八十二匹と表示されており近くに居た豊のギルドカードも、同じ様に見せると全く同じ数字が表示されている事に、ミール自身は驚きを通り越し、正に驚愕と言った表情を二人の前で見せていた。
「ほ、本当に、千匹近くものゴブリンを狩る事の出来るPTの方々が、目の前に居られるとは何とも幸運! 私は今までの人生の中でこれまで女神エリアス様に、感謝をしたいとは思った事はありませんでしたが、今回ほど真に感謝を捧げたいと思った事はありません。どうかウチダさんを始め他のメンバーの方々に女神エリアス様の、ご加護があらん事を心よりお祈り致します」
普段からエリアスの言動を、よく知る政和一行はミールの言動を見て一様に『エリアスさん、ここに真の信者が一名増えて良かったね』と言った感想しか思い浮かばなかった。
「ミールさん。感動に浸って居るところ申し訳ないのですが、もうそろそろ街道が一番魔の樹海の近くを通りますので、一応は警戒をお願いします」
「分かりました」
『カミュー、ミュア! 魔の樹海の方で何か動きはあるか?』
『はい。旦那様。まだそれらしい動きは感じられませんが、魔獣や魔物の一部が街道近くに、集まりだしている様な気配が感じ取れます』
『了解した! 多分俺達が、一番近くを通る時に一斉に襲い掛かる感じになるだろうから、なるべく魔の樹海近くになったら、俺達だけ徒歩で移動して誘い出してみるか?』
『そうだの。儂もそれがミールさんの商隊を守るのに適した行動だと思う」
『じゃ、何時ものごとく政和の案に乗っかる感じで行きましょうか?」
『うん。了解!』
『カミューとミュアの二人は念のため、ミールさん達の荷竜車に残っていてくれ! もし俺達が離れている間に、何かあれば即ボイスチャットで呼びかけてくれ』
『『畏まりました』』
「ミールさん、まもなく魔の樹海近くを通る事になりますが、その前にこの辺で荷竜車を止めて待機してて貰っても良いですか?」
「わかりました」
「一応念のために、先頭の荷竜車に乗る二人を残しておきますので、何かあったら即二人に声を掛けて下さい」
「はい。何かあれば直ぐにウチダさんのお仲間にお声をお掛けしますので」
「では、私達は徒歩で魔の樹海近くを歩きますので、多分それで魔獣や魔物が動き出す筈でしょうから、なるべくここを動かない様にして下さい」
「みなさんのご武運を祈ってます」
「ありがとうございます。それじゃみんな行くぞ!」
「「「おおぉぉ!」」」
他の三人も、政和の声に呼応するかの様に小さいながらも雄叫びを上げ、荷竜車の荷台から飛び降りると、政和の後ろに付き街道を歩く――それと同じくして魔獣や魔物達も移動を始める。
やがて双方共に最も近い位置に到着し互いに見遣る。
魔獣や魔物達の動きは半分は己の本能に従い、もう半分は何者かに操られているかの様に、政和達を己の敵と認識し一斉に襲い掛かってくる。
その総数約四百! ウォーウルフを筆頭に、バーサク・ベアー、ゴブリン、そして初お目見えのオークと言う構成で、まず最初に政和達の前に躍り出たのは、ウォーウルフの群れで数は百五十! こいつらは、ほとんどそこら辺の犬っころと一緒で、塊になって襲い掛かって来るが、これは豊や武志の良い的にしかならない。
武志の手加減知らずの火魔法で、焼かれ悲鳴すらまともに上げられず、火と言うか炎の渦に巻き込まれていく。
次に豊の矢の雨を浴びせ掛けられ次々と地に伏していき、それに追い打ちを掛けるかの様に、武志の炎の渦がウォーウルフに襲い掛かかれ丸焼きにされていく。
この状況自体端から見れば十分にカオスな状況なのだが、それに気が付かない振りをしつつ、襲い掛かって来るウォーウルフの群れを二人だけで殲滅していく様子は、初めて見る人間なら必ず自分の目を疑うだろう。
だが、その様子は事実目の前で繰り広げられており、正に二人の独壇場なのだ。
普段なら必ず手を出している政和や宏明でさえも、完全に武志と豊に場を任せている。
そしてウォーウルフの群れを完全に殲滅し終えた二人は、政和と宏明にバトンタッチとばかりに片手を挙げ、それに応えるかの様に同じく片手を挙げタッチをし、場を入れ替わる。
次に出て来たのは、バーサク・ベアーが五十頭で、政和がこの世界に転移してきた時に、豊と武志を助ける為に初めて戦ったのが、この魔獣である。
政和自身初めてバーサク・ベアーと戦った時は、無我夢中で戦っており倒した時に使った武器を覚えていなかった政和は、今回は冷静に判断をし《虹翼のハルバード》を選択して、範囲と単騎の両方でも動ける様にし、宏明は相変わらずの《虹翼のツヴァイハンダー》を手に持ち既に構えて、何時でも攻撃を繰り出せる様に身構えている。
実は、政和と宏明のコンビネーションも抜群で、先に宏明が前に出ると《虹翼のツヴァイハンダー》を地面に突き刺し、雷属性で宏明が行使できる攻撃魔法の一つ【エリアスタン】を前方位で打ち込むと、すかさず【アクセル】を使った政和が宏明を追い越し、バーサク・ベアーの前に立つと《虹翼のハルバード》を、真横に振りかぶり五頭を一気に上半身と下半身の二つに別ける。
その後は、宏明も加わり二人で襲い来るバーサク・ベアーの、返り血も気にせずぶった切りまくり、デカいだけの良い的とばかりに切りまくり全頭を倒し終えた時の二人の様子は、全身返り血を浴びて真っ赤に染まっていた。
バーサク・ベアー全頭が地に伏した頃、ゴブリンとオークの混成部隊と言うには、かなり語弊があるが、その二種合わせて二百匹が一斉に錆びた斧や棍棒を振り回しながら、四人へと襲い掛かってきた。
全身バーサク・ベアーの返り血を浴びて真っ赤に染まった、政和と宏明は『どうせまた返り血を浴びて真っ赤になるのなら、このままで良い』と言い放ち、普段なら必ず【クリーン】を使って返り血を落とすのだが、今回はそれすらせず政和だけが武器を《虹翼の剣》の二刀に持ち替えた。
「そう言えば、オークは顔が豚面なだけあって食えるらしいから、なるべく痛まない様に豊の弓でヘッドショットを狙ってくれ!」
「了解しました!」
「俺と、宏明、武志で先にゴブリンを片付けるから、適当にのんびりやってくれ」
政和が豊にそう指示を飛ばし、豊は華麗にバックステップとサイドステップを踏みながら、次々とオークの頭を狙って、ヘッドショットを決めていく中、政和、宏明、武志の三人はゴブリンに狙いを定めて殲滅にかかる。
政和と宏明はまるで剣舞を舞うかの様に、ゴブリンの棍棒や錆びた斧を剣の腹の部分で受け流し、そのまま首を跳ね飛ばし、心臓を一突きで倒していき、武志も豊と同じ様にバックステップとサイドステップで華麗に舞いながら、ゴブリンを丸焼き又は氷の矢で串刺しにしていく。
やがて、ゴブリンの殲滅が終わると、政和が欠食児かと思うくらいの笑顔を浮かべながら『肉の食い放題だどぉ!』と叫びながらオークの群れに突っ込んでいった!
その様子を見ていた宏明と武志の二人は『政和は相変わらず肉の事になると目の色を変えるな』と呟きを残し、政和の後を追い同じくオークの群れに突っ込むが、武志だけは若干離れた位置に陣取り、氷の矢でヘッドショットを決めていき、政和、宏明は、剣で心臓を一突きしていく。
さながら剣舞とステップのジェノサイドダンスと言った方が正しだろう。
次々とオーク達が地に伏し、四人の華麗なるジェノサイドダンスも終わりを迎える。
そして今度は、政和がオークだけを次々とアイテムボックスへ放り込んでいく。
実は、この作業はオークの血抜きをする時間が無いのと、魔晶石を取り出す時間が惜しいと言う事もあり、先にオークだけをアイテムボックスに入れる事で、肉が傷む事が無くなるのだ。
オークの全てをアイテムボックスに入れ終えると、食用にならないゴブリンと、フォーウルフの解体を約三十分程で終わらせると、四人は両手には大量の魔晶石と毛皮を手に持ち、ミールの元に戻ってきた……勿論だが戻る前に【クリーン】を使って全身に飛び散った血糊を落とし、政和は武器を《虹翼のハルバード》にわざわざ持ち替えて、もう一度【クリーン】と念じ綺麗に血糊を落としていた。
「みなさん。お疲れ様でした。お茶を用意してありますので、一息入れて下さい」
「ありがとうございます。ミールさんに気を遣わせてしまって申し訳ありません」
「いえいえ! とんでもない! みなさんが護衛をしてくれたからこそ、こうやって私達や荷も無事でいられるのですから、お茶ぐらいでそんな事を言わないで下さい」
「はい。ありがとうございます」
「ところで、今みなさんが手に持たれている、魔晶石と毛皮ですがもし宜しければ譲って頂く事って可能ですか?」
「大丈夫ですよ。あとまだ取り出してませんが、オークの分もありますので、そちらも含めてお譲りしましょうか?」
「えっと……オークの分と仰いましたが、数は如何程ですか?」
「オークは現在アイテムボックスに入れてますが、数は百です」
「分かりました。そちらも合わせて譲って下さい。それとオークの肉もかなりな量になるかと思いますが、そちらはどうされますか?」
「そうですね……オーク肉は必要な分だけこっちで貰って、残りはお譲りしますよ」
「ありがとうございます。これから向かうイーストリー村も一応は狩猟で生計を立てているのですが、魔物の肉となると中々手に入りませんし、オーク肉は煮てよし、焼いてよし、干し肉としてもかなり重宝されていますので、大変喜ばれるかともいます」
「そう言う事でしたら、かなり大量になるかと思いますので、存分に使って下さい」
「ありがとうございます」
「と……そろそろ出発しないと、このままですと到着が夕刻頃と言う事になり兼ねないですよ?」
「あぁ! そうですね。急がないと村の方々も待っていますし、直ぐに出発しましょう」
「分かりました。火の始末だけはしないと、火事の元になりますからね……あと使った椀はどうしましょうか?」
「椀の方は、こちらで回収しますので、火の始末だけお願いできますか?」
「はい。分かりました……ポットのお湯が残っているからそれで消せば良いか? ミールさんミトンはありますか?」
「ミトンでしたら、ポットの側にありますので、そちらをお使い下さい」
政和は、ポットの側にあったミトンを手にはめると、そのまま両手でポットを持ち残った湯で火を消し、最後に念のためと荷台にあった火消し砂を、振り掛け火の始末を終えた。
「ミールさんこっちは、火の始末は終わりましたよ」
「あっ! 分かりました。ポットとミトンは、そのまま荷台に載せておいて下さい」
「了解しました」
全員の出発の準備が整い、政和達が各自担当の荷竜車の荷台に乗り込むと、荷竜車は静かに動き出し、先程大量の魔獣や魔物と戦った場所を何事も無かったかの様に通過し、一路イーストリー村へと街道をひた走り、ようやく村が見えてきたが、政和達はごく普通の村をイメージしていたのだが、実際は魔の樹海からそう遠くないと言う場所に村が在る為か、村の外郭に沿って魔獣や魔物除けの高くぶ厚い石塀が築かれており、また塀に沿って幅が十メートル、深さも十メートル程の空堀も掘られその底には、先を尖らせた木の杭がまるで剣山の様にびっしりと突き立てられており、ちょっとしたした要塞的な雰囲気を醸し出している。
「はぁ……村と言えど、この高くてぶ厚い石塀や深くて幅のある空堀まであるとなると、本当に要塞って感じですね」
そんな風な感じの、感想を漏らす政和に御者台に座っていたミールが村の説明をし始めた。
「初めてここを訪れる方は、みんなウチダさんと同じ感想を漏らすのですが、地理的な事を説明すると、大概は納得しますよ」
「確かに、この村の位置だと魔の樹海からそんなに遠くないですよね? と言うかそんなに頻繁に、魔獣や魔物の襲撃ってあるんですか?」
「それが、結構あるみたいなんですよ、一応この村は主に狩猟を生業としていますが、それ以外に、麦や大麦、その他数種の野菜も栽培していますので、雑食性の魔獣や魔物が夜に畑を荒らすと言う事が、多いらしいのですよ……ですので一部の畑は村の中に造ってあったりもしますが、それでも塀を壊してでも村内に入ろうとする魔獣や魔物が後を絶たないみたいです」
「なるほど……ある意味、中々厳しい環境なんですね」
「そうなんですよ……ですから私もこうやって、この村にとって少しでもお手伝いが出来ればと、定期的に訪れる様にしているんです」
「しかし、今日は、色々とあって遅くなってしまいましたね……何か我々の所為で余計に時間が掛かってしまってすみません」
「いえいえ、気にしないで下さい。もし今回の護衛がウチダさん達のPTではなかったら、イーストリー村まで無事に辿り着けたかどうか……確かに到着した時間は、遅くなりましたが、無事に辿り着けましたし、それに思わぬ副産物も手に入りましたから、私に取ったら結果的に良かったと思いますよ」
「そうですか……そう言って貰えると助かります」
「そろそろ、夕暮れで門の方も閉まりますので、急いで中に入りましょう」
「そうですね」
「村内に入ったら、このまま村長宅に向かいますので、みなさんも一緒に来て頂けませんか?」
「それは、構いませんけど……理由を伺っても良いですか?」
「ごく単純な事ですよ! 今夜の宿の話を付けておきたいと思っただけですよ」
「あぁ! そう言う事ですか、うっかりしてました。そう言う事でしたら一緒に窺わせて頂きます」
政和達の乗る荷竜車は、先に走る荷竜車の後に続き村長宅へ向かい、そのまま入り口扉前に荷竜車を横付けすると、ミールは今まで座っていた御者台から降りると、続いて政和一行も降り、荷竜車を他の従業員へ任せミールは、村長宅の扉をノックしながら声を掛けた。
「到着が遅くなって申し訳ありません。ミールです。村長はご在宅でしょうか?」
扉の奥の方から『はーい。今開けますので少し待ってて下さい』と女性の声が聞こえ扉が開け、顔を出した女性は見た目六十を少し過ぎで、白髪交じりのブラウン系の髪を頭の後ろで団子状に纏めた髪型をし、体型は如何にも田舎のお母さんですと言った感じのぽっちゃり体型、顔は皺も目立つが優しそうな感じのする青い目と薄赤い頬が特徴の女性だった。
「あらぁ! 今回の到着は本当に遅かったですね? てっきり今日の到着無いのかと思ってましたよ」
「本当に、遅くなって申し訳ありません。こちらに向かっている途中何度も魔獣や魔物の襲撃に遭いまして……それで遅くなってしまいました」
「えっ!? 何度もってミールさんにはお怪我とかは無いんですよね?」
「ええ。勿論怪我などは一切しておりませんし、予定の荷も全て大丈夫ですのでご安心下さい」
「それなら良いのですが……ところでミールさんの後ろに居られる方々は、どちら様ですか?」
「あっ! ご紹介が後れて申し訳ありません。今回私達の護衛をして頂いているウチダさんとそのPTのメンバーの方達です」
「そうなんですか! 皇都からの護衛大変だったでしょう。私はマーサ。マーサ・マクシミリアンと申します」
そう言ってお辞儀をするマーサの前へミールと入れ替わる様な形で立ち自己紹介をする政和。
「初めまして。私は今回ミールさんの護衛でご一緒させて頂いているマサカズ。マサカズ・ウチダと申します」
そう政和が自己紹介をしお辞儀をしている最中に、奥の方から若干しゃがれた男性の声が聞こえ『なんじゃ! うるさいのぉ! 玄関先で立ち話をしてないで、中に入って貰えば良いじゃろう』その声を聞いたマーサが『あらっ! ごめんなさいね。さっ中に入ってちょうだい』と言って口元に手を当てながら、自分のうっかりを誤魔化す女性は何処でも居るモノだなと、そう思いながらも政和は口にせずミールの後に続きゾロゾロと、村長宅に入っていた。
◇◆◇◆
ミールの商隊と護衛役の政和一行が、イーストリー村に到着した同時刻の皇都冒険者ギルド本部三階の一室では、ギルド本部マスターのアームストロングが政和一行襲撃の詳細を、自分が放った影からの報告を受けていたところだった。
「な、何だとぉ! 例の者共への襲撃に悉く失敗しているだと!? 大量の魔獣や魔物を持ってしても、奴らには傷一つ負わす事が出来なかったと言うのか?」
「は、はい……街道の道すがらに、こちらの方で操った魔獣や魔物を伏せて、奴らが通る度に襲撃を仕掛けましたが、全て狩り取られております」
「な、何と……奴らの強さは我々の予想以上……いや、今まで現れた《虹翼の翼》を持つ者以上だと言えるな」
「その通りかも知れません。現に、魔の樹海に最も近くを通る街道側の樹海に、数にして四百程の魔獣や魔物を潜ませ、奴らが通った時を狙って襲撃を掛けさせましたが……こちらも全くと言って良い程効果が無く傷一つどころか、他の魔獣や魔物と同じ様に狩り尽くされました」
「よ、四百もの魔獣や魔物を操ってまでもして、襲撃を仕掛けたにも関わらず完全に無傷で通り抜けるとは、俄に信じがたい……」
彼の頭の中では、今まで読んだ《虹翼の翼》を持つ者に関する書籍の内容が思い起こされていた。
しかし、相当数の書籍を読み漁っているだろう彼の頭の中には、政和達ほどの強さを持った者のと一致する記述を、一切思い起こせ無かったのである。
だが……一致する記述を一切思い起こせ無かった事に依って、彼はある考えに辿り着く。
「ま……まさかと思うが、奴らは今まで現れた《虹翼の翼》を持つ者よりも更に高位の者である可能性があるぞ! もし仮にもワシの考え通りだとしたら、今まで我々の同胞を復活させる為に心血を捧げてきた先任達に、申し訳が立たない。ここは何としてでも奴らを完全始末しなければならない。早速上に知らせるのと同時に、夜襲でも何でも構わん! 一切方法は選ばなくて良い! 必ず奴らを完全始末しろ!」
「では、魔の樹海に君臨する者を使いましょう……ちょうど今頃良い具合に仕上がっていると思いますので、夜襲には持って来いかと思います」
「なるほど……その手があったか! なら実行は全てお前に任す! 必ず奴ら全員の息の根を止めるのだぞ!」
「はっ! この私めにお任せあれっ! そして必ずや奴らの目に物見せてやります。! 我らが同胞の為に!」
「我らが同胞の為に!」
二人はそう呼称すると一人の男は影に塗れ姿を消し、部屋にただ残ったアームストロングは、政和達に対する怒りによってワナワナと震える拳に、知らず知らずのうちに拳に力が籠もったのだろう。
その強く握られた拳は、手の爪によって傷付けられ血が滴り落ちていた……。
◇◆◇◆
ちょうどその頃、政和達はイーストリー村の村長宅のへと通されると、リビングに居た六十代半ばくらいの男性と、見知った感じで挨拶をしていた。
村長と思われる男性は見た目、髪は若干禿げ上がっているものの、まだまだそれなりの量を保持しており、髪色は金髪で白髪が目立ちにくい感じであった。
また、顔立ちは如何にも頑固そうな感じをしており、立派な口髭を蓄えており、服装は如何にも農夫と言った感じの服装で、麻のシャツにブラウンのズボンをサスペンダーでつり下げ履いており、腰掛けている椅子は所謂安楽椅子と言われる前後に揺れる椅子である。
「ダリル村長ご無沙汰しております。今回は到着が遅くなり申し訳ありません」
「いや、それは構わないのだが、先程妻と玄関先で話をしている声が聞こえていたのだが、今回は、こちらに向かう途中で何度も魔獣や魔物に襲われたらしいのぉ?」
「はい。今回ほど何度も襲われたと言う経験が無く、商隊の護衛に付いてくれたウチダさん達のお陰で、無傷でイーストリー村に到着する事が出来ました」
「そうか……無事で何よりだ。兎も角立ち話も何だ適当に腰掛けてくれ」
「はい。ありがとうございます」
ミールが村長に対して礼を言いながら空いている椅子に腰掛けると、政和達も適当に空いている椅子へ腰掛けた。
「ところで、ここに来る途中に何度も魔獣や魔物に襲われたと言って居ったが、そんなに襲われたのか?」
「ええ。こちらに来るまでの間に、都合七回程でしょうか? 多分そのくらいは襲われていますね」
「な、七回もか!? それで良く無事で居ったな?」
「今回は、本当に運が良かったと言うか、ウチダさんのPTが護衛に付いてくれなかったら今頃は、街道の片隅で屍を晒していたと思います」
「ウチダ殿と言ったかのぉ? お前さんのお陰でミールは、無事にイーストリー村まで辿り着けた。本当に感謝してるぞ」
彼は椅子から立ち上がり、政和の両手を包み込む様に握ると、ブンブンと上下に振り出し、本当に感謝しているのだと伝わる仕草だ。
政和の正直な感想は、お隣の国の主席と世界一の国の大統領が顔を合わせ、カメラ目線で如何にも親密な関係ですよと言う、アピールをしている様な光景が頭の中を過ぎっており。
ここだけの話、もし仲間内だけでしか居なかった場合、同じ様な仕草をしたら悪のりした三人がカメラを構える仕草を交え『すみませーん! 目線をこっちにもくださーい!』などと言いながら、あちらこちらに移動しているシチュエーションが、容易に想像で出来てしまう自分が、悲しいと感じてしまった政和であった。
「い、いえ。私達は冒険者としての商隊護衛の依頼を遂行したまでですし、ここまで感謝される程の事でも無いと思いますが」
「いや、ところが違うのじゃよ。このイーストリー村は皇都から三十コロと言う近さでありながらも、中々こうやって行商で出向いてくれる商人が居らんのじゃよ。ワシらの生計は主に狩猟と農耕で賄って居るが、それだけでは手に入らない物も多い。そんな中、定期的にこの村に行商で来てくれて、ワシらの為に必要な物を売ってくれ、またその逆に買い取ってくれもする。ワシらの村にとっては本当の意味での生命線なのがミールと言う存在なのじゃよ」
「そうだったんですか……ちょうどこの村に到着する前に、魔獣や魔物の襲撃に遭ったのですが、その中にオークが百匹程居まして……ミールさんにお分けする分を除いて、もし良ければ、この村の方々にお分けしましょうか?」
「い、今、な、なんと言った?」
「ですから、オークが百匹と言いましたが?」
「お前さん達だけで百匹ものオークを倒したと言う事か?」
「いえ、正確に言えば、ウォーウルフの群れが百五十にバーサク・ベアーが五十頭、
そしてゴブリンが百匹にオークが百匹で、合計百五十匹+五十頭です」
「つ、つまり、お前さん達だけで四百もの数の魔獣や魔物を倒したと言う事か?」
「本当に、正確に言えばあと百くらいは増えるんですけどね」
「たった六人のPTで五百もの数の魔獣や魔物を倒すなんて到底信じられん」
「いいえ。ダリル村長、ウチダさん達は一切嘘は言ってませんし、私もこの目で倒すところを目にしてますから、間違いはありませんが、ただ一つだけ訂正があります。五百もの数の魔獣や魔物を倒したのは、ウチダさんと他三人の方達の四人だけで倒しています」
「それが、本当の事なら凄い事じゃぞ?」
未だに信じられない様な顔をしている村長の前に、魔晶石がぎっしりと詰まった袋を置くミール。
それを見た村長は更に目を見開きながら驚き、危うく椅子ごとひっくり返りそうになったところを、村長の近くに座っていた武志が咄嗟に、椅子を支え難を逃れる事が出来た。
「分かった! 分かった! これだけの証拠を見せ付けられれば信じ無い訳にもゆくまい……ところでさっき、オークの肉が百ほど有ると言って居ったが、その肉も見せて貰えるのかの?」
「ええ。勿論。今すぐお見せ出来ますが、ただまだ血抜きをしてませんし解体もまだ行ってませんので、丸ごとで宜しければお見せしますよ」
政和はそう言いながら、アイテムボックスから一匹のオークを丸ごと取り出すと、村長は更に驚き、傷のほとんどが頭部か胸の一カ所に集中している事に、目を丸くしていた。
「今日は本当に驚かされっぱなしじゃわい。ばーさん! お客人にお茶も出さずに何しておる。早くお茶を差し上げてくれ」
村長にそう言われるまで、近くに立って遣り取りを見ていたマーサは『あらっ! 私とした事が、ごめんなさいね。今お茶をお出ししますね』と言って奥の厨房へ入っていた。
「しかし、これだけの大きさのオークだと、ワシら二人だけでは食べ切れんぞ?」
「その事に関してですが、幾つか保存方法がありますので、明日明るくなってから解体する時に、お教えしますよ」
政和はそう言いながら再びオークをアイテムボックスに放り込んで、肉の傷みを防ぐ。
「そう言えば、お前さんらはまだ夕食はまだ摂って居らんのだろ? もし良かったら一緒にどうじゃ?」
ミールは異存は無く『宜しければご一緒させて下さい』と言っており、政和も村長宅で夕食を摂る事には異存は無い。
他の連中は? と言うとそちらの方も異存が無い様で、口々に『ご相伴にあずかります』と言っていた。
「おーい! ばーさんや!」
「はーい! 何ですか? そんなに大きな声で言わなくても聞こえてますよ……で、何ですか? いきなり大きな声で呼んで」
「いや、お客人もまだ夕飯を摂って無いと言うのでな、それを伝えたかっただけじゃ」
「多分、そうなるだろうと思って、多めに作りますので大丈夫ですよ。それと遅くなりましたがお茶です。どうぞ」
各自で『どうも』と言いながらお茶を受け取り自分の前に置き、銘々にお茶を飲んでいた。
「そうだ。今日の宿だが、いまちょうど誰も使っていない空き家がある。そこを使ってくれれば良い」
「分かりました。私達六人はそちらを使わせて頂きます」
「ミールの方は、いつも通りに、この家で良いのだろう?」
「はい。私達は御者役の従業員を含めて四人ですので、こちらにご厄介になろうかと思っております」
「なら、今夜の宿の方は決まりじゃの? あとは夕食を食べてゆっくりしていってくれたらそれで良い」
ミールの商隊の面々と政和一行はお世話になりますと、ダリル村長に頭を下げ、その後出された夕食を残らず食べ尽くした後、政和達は空き家に移動をして、そこのリビングでくつろいでいた。
「しかし、昼間の魔獣や魔物の襲撃の数々は、どう考えても邪神教の連中が絡んでると思うんだが、どう思う?」
「そうじゃのぉ。まだ確証は無いものの、そっち方面からの襲撃だと踏んでいた方が良いかも知れんな」
「この村に到着する前に遭った襲撃も普通じゃ考えられない組み合わせでしたからね」
「うん。ウォーウルフやゴブリン、バーサク・ベアー辺りは、そんなに深いところに生息してないけど、今回初お目見えのオークは、ゴブリンなんかより奥で生息してるんじゃないかな?」
「だよなぁ……それに、変に統率が取れていたというか、お前達が戦っている間は、様子見をしていたのか、ただ待機をしていたのか分からないが、最初のウォーウルフが完全にやられるまで、一切動きを見せなかったのも、引っ掛かる点なんだよ」
「確かに、言われてみればそうでしたね……政和達がバーサク・ベアーを狩ってる時に、一緒に飛び出せば良いものの、それすらせずずっと待機状態でしたからね」
「そう考えると、やっぱり何者にかに操られていたって考えるのが筋なんじゃ無いかな? って僕は思うよ」
「だよなぁ……魔獣や魔物を操っていた連中が、この間俺達の跡を付けていた奴と何かしら関係があると思うんだよな」
「旦那様には、ご報告が遅くなって大変申し訳ないのですが、我々の跡を付けてきた者の戻り先が分かりました」
「おぉ! でかした! で、場所は何処だったんだ? やっぱり冒険者ギルド本部か?」
「はい。旦那様の仰る通りで、冒険者ギルド本部でした」
「やっぱりそうか……これは俺の感だが、もしかしたら俺達が寝静まったのを待って、魔獣や魔物を使って、この村ごと襲撃と破壊を目論んで居る可能性があるぞ」
「となると、かなり厄介な事になりますね」
「そうじゃの。まだ寝るには時間が早いが、いざって時の為に早めに休んでおくか?」
「そうだね。僕もその方が良いと思う」
「それじゃ、各自準備だけして、一時解散して仮眠を取ろう」
「「「「「了解!」」」」」
政和以外の了承の声を聞き、各自は何時でも飛び出せる体制を整え、いざという時の為に仮眠を取るのであった。
◇◆◇◆
イーストリー村住民の誰もが寝静まった深夜……静かに物音一つ立てずに村の周囲に近づく者の多数の影が蠢く。
多くの蠢く影に気が付いた夜番担当の村人が、慌てて堅牢な石壁から地上に降りると櫓に駈け登り、吊されている鐘を木槌を持ち有りっ丈の力で叩き村中に緊急事態の発生を知らせる。
政和達も、カーン! カーン! カーン! カーン! と打ち鳴らされる鐘の音で一時の仮眠から目を覚ますと同時に飛び起き、その足で村長宅へ向かうと既に何人かの村人達が村長宅前に集まっており、こんな深夜に何事かと不安げな表情を浮かべている。
そんな中、起きて着替えた村長が扉を開けて外へ出て、集まった村人に声を掛ける。
「皆の衆、緊急事態じゃ! 村の周囲を魔の樹海の魔獣や魔物達が取り囲んでおる。男衆は家族の安全を最優先させ、家の中に隠れる様に伝えるのじゃ! 決して無闇に外に出ない様にするのじゃそ!」
村長が集まった村人にそう語り掛けると、銘々に行動をし始め住民全てが家の中に隠れ潜んだ。
その場に残った政和達六人と村長夫妻、ミールと従業員の合わせて十二人は、一旦村長宅のリビングへ入り、ミールとその従業員に村長の妻のマーサを除く七人で、現状の把握と対応を話し合う事となった。
「ウチダ殿、先程村の周囲を警備していた者から聞いた話じゃが、完全に村の周囲は魔獣や魔物達因って取り囲まれた状態じゃ。数はハッキリしないものの、相当数居ると言う事らしい……で、頼み……いや、依頼と言って良いじゃろう。今村の周囲を取り囲んでいる魔獣や魔物達を退治して欲しいのじゃ。報酬はそんなに出せんが、どうか頼めんかのお?」
切実な表情をした村長が政和達に向かって、深々と頭を下げる。
「ダリル村長。私達に対する報酬は気にしないで下さい。むしろイーストリー村の住民達の安全を最優先して下さい。今村が置かれている現状には、私達も思い当たる節がありその節の一端に私達が含まれている事も確かです」
「今の状況の一端にウチダ殿達が含まれて居ると言うのは、どう言う意味じゃ?」
「理由に関しては、今は詳しくお話する事は出来ませんが、端的に言うと私達は邪神教を騙る者に付け狙われているのです。ですので私達の所為でイーストリー村の住民のみなさんを、危険に晒す様な事になってしまい誠に申し訳ありません」
政和が椅子から立ち上がり、村長に向かって深々と頭を下げるのを見た他の者も慌てて椅子から立ち上がり、同じ様に頭を深々と下げる。
「いやいや、ウチダ殿や他の方々達も頭を上げてくれ、このイーストリー村は度々魔獣や魔物に襲われる事があるでのぉ、今回の襲撃の原因がウチダ殿達のあるとは言い切れんのじゃよ。だから気にせんでくれるかの? しかし邪神教と言うのは、確かこの大陸の中央に在ると言われている、ガルマール帝国とか言う国が、国教として信奉していると言われている宗教だと聞いた事があるが、それが何故にまたエリュシオーネ皇国内で関係してくるのじゃ?」
村長に頭を上げる様に言われ、政和達は頭を上げ椅子に座り直すと、そのまま政和が村長の質問に答える。
「私達も、まだ完全に確証は得てませんが、どうもエリュシオーネ皇国内に邪神教の信者と思しき人物が居る様なのです。その者はどうも邪神を復活させようと目論んで居る様で、どう言った理由か分かりませんが私達が邪魔な様で、私達全員を消しに掛かって来ている様なのです」
「なるほどのお……理由はともあれウチダ殿達が、邪神教の信者に付け狙われてる事は、良く分かった。じゃがしかし、今の現状をどうにか打開せにゃならん。皇都に救援を要請しに人を送りたくとも、村の周囲を囲まれている状況では手も足も出せん上に、このまま何もしなければ、ただ嬲り殺されるだけじゃ」
「皇都への救援要請なら、私の方で考えがありますので、任せて頂ければ必ず救援が来ますし、今は何よりも村の安全を最優先させなければなりません。いつ外の奴らが攻撃を仕掛けてくるとも分かりません」
「そうじゃな。ウチダ殿の言う通り村の安全を最優先せにゃならん。申し訳ないがどうか村を救ってくれんかの」
「分かりました。必ず村を救って見せるとお約束しますので、どうかご安心を」
「すまない。助かる。ワシらはウチダ殿達と同じ様に戦う事は出来んが、無事を祈る事は出来る。だからどうか無事で戻ってきてくれ」
「はいっ! 必ず無事に戻ってきますし、村は絶対に守りますので暫くの間辛抱して下さい」
政和が村長にそう言い同時に椅子から立ち上がり『みんな行くぞ! 準備は良いな?』と声を掛ける。
その声に対しみんな一様に頷き準備は万端だと言う事を伝える。
『それなら行くぞ!』と言いながら扉の方まで行き、一度村長達の居る方に振り返ると『行ってきます』と声を掛け扉を開け政和一行は外へと、飛び出して行った。
「さぁてと……どうすっかなぁ? 先ずはエリーに連絡を入れてエリーザに神託で救援要請を出して貰うか?」
「そうですね。それが一番手っ取り早い方法だと思いますよ」
と、豊を含めた五人も政和の意見に賛成を示しており、早速政和はエリアスに連絡を取るべく頭の中で【携帯】と念じ続けて【アドレス帳】と念じエリアスの番号を探し、即座にコールをすると普段聞き慣れたコール音では無く、流行の音楽が流れるコール音が政和の頭の中に鳴り響き幾ばくかの時が経った頃『はい。エリアスです』と、聞き慣れた声が響いた。
『[エリーか? 遅い時間に電話して申し訳ない。緊急事態発生だ! 悪いけどエリーザに神託を下ろして、イーストリー村が魔の樹海の魔獣や魔物達に取り囲まれていると伝えてくれないか?]』
『[政和さんの方は、まだ大丈夫なのですよね?]」
『[ああ。まだ向こうさんは、攻撃を仕掛けて来ないがそれも時間の問題だと思う。だからなるべく早めに、エリーザに知らせてやって欲しい]』
『[分かりました。エリーザに神託として、政和さんからの救援要請があったと伝えておきます。で、話は変わりますが村を取り囲んでいる魔獣や魔物達って何者かに操られている可能性って無いですか?]』
『[その可能性は、十分にあり得ると言うより、多分邪神教の信者の仕業だと思う]』
『[やはり、邪神教が動き出し始めたんですね……これはなるべく早く対処しないと取り返しの付かない事になりますね]』
『[ああ。だから今回の襲撃の首謀者を見つけ出さなければならないが、今は村の周囲を囲っている魔獣や魔物達の殲滅が先になるから、今直ぐにでもエリーザに連絡を頼む]』
『[分かりました。直ぐにでもエリーザに連絡をします]』
『[申し訳ないけど、頼む]』
『[はい。政和さんに伝え忘れてましたが、一応ですが政和さんも一部限定で神託を下ろす事は可能なんですよ]』
『はぁ!? そう言う事はもっと早く言って欲しかったなぁ……と言う事はエリーザにも神託を下ろす事が出来ると言う事か?]』
『[ええ。勿論出来ますよ]』
『[分かった。今は余裕が無いから落ち着いたら、神託として連絡を付けておくよ]』
『[はい。そうしてあげて下さい。では、私の方はエリーザへ政和さんからの救援要請があったと伝えておきます]』
『[宜しく頼む]』
『[では、また何かありましたら直ぐに連絡を下さい]』
『[了解]』
政和がそう返事を返すと通話が切れ、エリアスの声は聞こえなくなり、取り敢えずは一つは終わったと一安心をし、そして宏明を始めとする全員にアリアスがエリザベートへ神託として救援要請を出す事を伝えた。
「そんじゃ、次だが今日は雲一つ無い満月で月明かりが在ると言えど、暗い事には変わりは無い。だから俺と……武志! お前も確か光球は撃ち上げられたよな?」
「うん。政和ほどの大きさの光球は撃ち上げられないけど、それなりの数は撃ち上げられるよ」
「なら、大丈夫だな。と言う事で、俺と武志とで光球を村の石壁沿いに上空五十メートルの高さで撃ち上げるから、それを合図に殲滅を開始してくれ」
「「「「了解!」」」」
「それじゃ、各自石壁の上に上がってくれ!」
その声に合わせて全員が、石壁の上に上り政和と武志が【光球】と念じ直径四メートルから五メートル程の光球を、次々と撃ち上げると今まで薄暗かった村の周囲が、一気に光球に依って明るく照らし出されると、魔獣や魔物達の様子が分かる様になったところで、突然『にぎゃぁぁぁ!! %ぐ@&$る#!?』と珍しい人物の悲鳴が響き渡った。
悲鳴を上げた本人(政和)は大の虫嫌いで特に、蜘蛛や百足にヤスデと、何処のご家庭に必ずと言って良い程、生息しているGと渾名される黒光りする虫も嫌いで、政和が最初に光球を撃ち上げ周囲を見た時に、一番始めに目に入ったのが最も嫌いなな蜘蛛であり、しかもその大きさは優に五メートルを超える大きさの、ジャイアントスパイダーを目にした瞬間に、何とも珍妙な悲鳴を上げてしまったという訳である。
政和の珍妙な悲鳴を聞いた他の面々は『ふぅ……政和[旦那様]【ご主人様】の虫嫌いは相変わらず【[ですね]】だな』と溜め息交じりの声を漏らしていた。
そんなこんなの珍騒動があったものの、概ね予定通りに光球が撃ち上げられ、完全に村の周囲を明るく照らし出すと、村の周囲の状況が分かる様になり、政和が嫌いな昆虫系の魔物は無視して、それ以外で目に付くのが魔の樹海の中央寄りに生息していると思われるワイバーンや、ケルベロスに双頭のジャイアントスネークetc……
他にハーピーなども含まれて居るかと思われたが、ハーピーは鳥類に含まれるらしく夜間は活動出来ない様であったが、珍しい部類に含まれるのがジャイアントバット所謂大型の蝙蝠などの夜間でも活動出来る、魔獣や魔物が多く含まれており、全体の数も相当数居ると予想された。
村の周囲の状況が、確認出来たところで何気に宏明が政和に声を掛けた。
「のぉ。政和。お前の虫嫌いは今に始まった事じゃないのは知っているが、少しは落ち着いたらどうだ?」
「お、落ち着けと言ってもなぁ……お、俺のも、最も嫌いな蜘蛛が混ざってるんだぞ! しかも、体の模様が黒と黄色の縞模様の女郎蜘蛛タイプだぞぉ! こうなったら蜘蛛から先に焼いて、焼いて、焼き尽くしてやる!」
と、何とも危ない発言を漏らす政和……本来政和はタンク職なのだが、時と場合に依っては、魔法職も熟せるハイブリッドタイプであり、今回は若干冷静さを失っている事も影響し、更に眼も据わり両の手の平には、既にそれなりに魔力が込められた火球が出現しており、何時でも撃ち出せる体制になっていた。
冷静さを欠いた政和の姿を見た宏明は慌てて宥めに入ったのは、言うまでも無い。
「政和! この中で一番の長が冷静さを欠いて居る状態で、どう戦えと言うんだ? お前は沈着冷静な儂らの司令塔だろうがっ! たかがデッカい蜘蛛を見ただけで冷静さを欠いていたら、この先お前に長を任せる事が出来なくなるぞ!」
「そうですよ。宏明の言う通りこの中で最たる長なのですから、その長であり司令塔でもある政和本人が、冷静さを欠いていたら私達が安心して戦えないじゃ無いですか? 兎も角今は落ち着いて下さい!」
「そうだよ。政和。宏明や豊の言う通りだよ。早く何時もの冷静沈着な政和に戻ってよ! この場は政和の判断一つで状況が変わるんだから、僕達を安心させてよ」
「旦那様」
「ご主人様」
珍しくも政和本人が、他の五人に宥め落ち着かされると言う状況になったが、その事により何時もの冷静さを取り戻し、両の手の平に出現していた火球も徐々に収まり、据わっていた両の眼も何時も通りに戻ると、いきなり政和は全員に向かって頭を下げた。
「みんな、俺が冷静さを欠いて居た事で心配を掛けた。申し訳ない。俺はもう大丈夫だ! 状況的にザッと見ると、完全に俺達を狙っている事は確かだ。だけど狙っているのは俺達だけとは限らない。この村をそして住民全てを無傷で守り通すぞ!」
「「「「「了解!」」」」」
「俺の予想だが、多分、ジャイアントスパイダーやジャイアントスネーク辺りが、足場を作って空堀を越えさせる筈だ。だから先ずはその辺を集中的に潰して行く。そして空の方だが……」
「来い! ヴェルドラード!」
政和とヴェルドラードは魂同士の繋がりがある為、瞬時に召喚が可能で、政和がヴェルドラードの召喚を念じると同時に、上空には巨大な虹色に輝く魔方陣が現れ、その中から同じ様に輝く粒子が次第に集まり巨大な龍の姿になる。
「主よ呼ばれるのを待ち侘びていたぞ!」
「ヴェルドラード。お前を待たせてしまって申し訳ない。今回のお前の役割だが、上空を飛ぶ魔獣や魔物を全て狩り尽くしてくれ……そして余裕があればで良いが、村に侵入しそうなモノが居たらそいつらの始末も頼む」
「承知した! 久し振りに暴れられるからのお。手加減なしで良いな?」
「ああ。村を完全に無傷で守れるのなら、手加減は無用だ! あと、皇城の方からも救援が来る筈だから、その人らを巻き込まない様に注意してくれれば、好きに暴れて良いぞ」
「主の許しも出た事だ。一暴れと行ってくる!」
「おう! 行ってこい!」
ヴェルドラードは、久し振りに手加減無用で暴れられると知ると速攻で政和の側を離れ、上空を飛ぶ魔獣や魔物を咆哮を吐きながら次々と駆逐していく様は、ある意味圧巻であった。
「さて、上空の方はヴェルドラードに任せて、俺達は地上の魔獣や魔物達を殲滅していくぞ! 先ず宏明! お前は多分足場を作るであろうジャイアントスパイダーやジャイアントスネークを、集中的にぶった切っていってくれ!」
「分かった!」
「次に豊! お前はもし足場を利用して侵入してくるモノが居たら、所構わず射殺せ!」
「分かりました」
「そして武志! お前は石壁の外で蠢く全てを焼くなり、煮るなり、炒めるなり、揚げるなり好きにして構わないから、目に付いたモノから片っ端に片付けて行ってくれ! ただし見方は攻撃するなよ?」
「政和。料理じゃないんだからそこまではしないけど、兎も角見方以外のモノは全て処分しておくよ」
「最後にカミューとミュア、お前達二人は夜目がが利くから、索敵をしてくれそして隠れているモノが居たらそのまま攻撃しても構わない」
「畏まりました」
「で、俺だが今回は試したい魔法もあるから、魔法攻撃と剣のハイブリッドで行く。取り敢えず俺からの指示は以上になるが、何か質問とかあるか? 無ければこのまま散開するぞ?」
「儂は無いからこのまま行くぞ」
「私も同じです」
「僕も同じだよ」
「私達も皆様方と同じで御座います」
「OK! それじゃ全員の無事を祈って……散開!」
政和の声に合わせて、各自がバラバラに散り広がり石壁の前の空堀の前にいた魔獣や魔物達の中へと躍り出た瞬間であった。
そしてこの夜襲での出来事は、後に書かれた歴史書『虹翼の翼』の中の一幕【六人と一頭対一万の魔獣と魔物との一夜の戦い】と言うサブタイトルを付けられ、劇にもなった出来事である。
今回のお話は如何だったでしょうか? 毎回書いていて少しずつでも良くなればと思っておりますし、書き方の上手い方の作品を読ませて頂いて勉強もしているつもりですが、中々進歩が無いと言うか……少しでも多くの方に読んで貰える様にと思いながら書いて居りますので、これからも皆様からのご意見ご感想、ダメだしなどを感想に書いて頂けたらと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
そして、出来ましたらお気に入りユーザ登録をして頂けると、時々書いている活動報告の方も読んで頂けるかと思いますので、合わせてよろしくお願いいたします。
次話予告
第09話「夜襲」後編 2014/05/04 更新予定ですが、GWで早く書き上がった場合は 2014/05/03 に更新出来れば更新しますので、よろしくお願いいたします。
2014/04/27
誤字脱字の修正と、一部削れる部分を若干削りました。