表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹翼の翼 ~四人の元おじさんの異世界冒険記~  作者: Balon
第一章 エリュシオーネ皇国編
8/10

第07話「コーヒーと魔法の理」

 今回は、少し書き方を変えてみました。

 今までは主人公視点で書いて居たのですが、今回は他の方が書かれて居る様に別視点での書き方にしましたので、かなり違和感があるかと思いますが宜しくお願いします。


 そして、予定より早く書き上がった為、予約投稿日を一日前倒しして19日のお昼の投稿とさせて頂きました。

政和達が部屋を持した後、一人の男――エド・アームストロングがただ一人本部長室の机の前の椅子に座ったままだった。


 彼は、元冒険者でもありその中でも最高ランクSSSランカーだったが、四十代半ば過ぎの頃に受けた依頼が元で大怪我をし、その後冒険者を引退せざるを得なくなってしまった。

 しかし、当時のエリュシオーネ皇国冒険者ギルド本部長が長く患っていた病気が元で引退する事になり、その後を引き継ぐ様にエド・アームストロングが、冒険者ギルド本部長の役職に就く事になった。


 それから約七年、冒険者ギルドの最高位ギルドマスターの肩書を持ち、現在までやってきたが実はそれは仮初めの姿でしか無く、本当の彼は邪神教の信者でありその中でも幹部クラスと言っていい程の実権を持っており、政和達が本部長室を辞した部屋の中で、ただ独り言を呟くかの如く部屋で、影の様に潜む人物に命令を発した。


「ふむ……数百年ぶりの《虹翼の翼》を持つ者達か……以前我々の先任となる方々達が邪神様達を復活させようとしたが、毎々(ことごとく)邪魔をされ先任となられた方々は、半ば組織的に壊滅に近い状態まで、追い詰められた……しかし此度こそは我々の悲願を達成させねばならない……早々に彼らの動向を調査し、上に報告するのと同時に隙あらばその場で始末しろ」


「はっ! 確かに承りました」


 部屋の影に潜む男がそう言葉を発すると、静かに影に姿をくらますのを確認すると、エド・アームストロングは僅かに座っている椅子の背もたれに体重を掛けると同時に『今度こそは我々の悲願を達成せねばなるまい……我々に取って邪魔者は消し去るのみだ』と一人呟くと、瞼を閉じる。



 ◇◆◇◆



 一方、政和達一行は本部長室を辞し一階へ戻り、諸々の手続きを済ませ翌日から冒険者活動をすると、受付カウンターで対応を行ってくれた女性に告げ、ギルド本部建物から外へ出て次の目的地【青い猫みみ亭】へ向けて、東門目抜き通りを目指し皇都内で何本か走る内目抜き通りを、歩いていた。


「しかし、今日は本当に参ったなぁ」


「ですね……まさか全員が全属性適応で、三階に置いてある上位の計測器でも私達の魔力量が計りきれなかったってのも凄いですね」


「確かにのぉ、大概なのは政和だけかと思っていたら儂らまでもが、それに巻き込まれていたとは、流石に驚いた」


「うん。僕も大概なのは政和だけにして欲しいと思っていたのに、同じ枠内に居る自分に驚いたよ」


「俺達全員富に魔力量計測で、計測器の計りを余裕でオーバーキルしたのも驚いたが、武具屋以外の冒険者ギルド本部でもカミューとミュアはケット・シー族と言われていたけど、お前達そんな種族知ってたか?」


「いえ、私達は普通のロシアン・ブルーかと思っておりましたけど、そんな種族に分流されるとは思いもよりませんでした」


「ええ。私も頭の上に無数の『?』マークが飛び交っていましたし、実際に居るんでしょうね……」


「まぁ、俺に取ったら昔から変わらずの、カミューとミュアだからあまり深く考える必要は無いと思うがな?」


「旦那様に、そう言って頂けるだけでもありがたいです」


「はい。私も兄と同じ気持です」


「そういう事だからこれからもよろしく頼むぞ!」


「「はい!」」


 そう言えば、冒険者ギルド本部を出てから装備を着けたままだと思いだした政和は、全員に向かって裏路地に入って装備を外そうと口を開いた。


「ところで、冒険者ギルドも出たし一回いま着ている装備を外さないか?」


「そうだのぉ。じゃそこの横道に逸れてサクっと外そうかの?」


「そうしましょう」


「うん」


 全員が装備を外す事を了承した事を確認し政和一行は、歩いていた目抜き通りの横道に一旦逸れて、ササっと今まで装備していた装備を外しアイテムボックスに放り込み、政和自身も服装も皇城を出た時の物に戻しあと、全員をも同じ様に皇城を出る前の服装に戻した事を見遣ると、また全員で目抜き通りに戻りブラブラと東門目抜き通りへ向けてて歩きだす。


 そしてようやっと東門目抜き通りにぶち当たり、政和は目的の店は何処だ? とキョロキョロしながら探していると、東門目抜き通りを少し城壁方向へ下った左側に目的の店のを見つけ『おっ! 目的の店を発見!』と言い、全員に目的の店を見つけた事を告げ『早速店に入ろうぜ!』と言いながら一人で早速店の中に入っていく政和。

 残りの一行も慌てて政和に続いて店の中に入って行くと、猫獣人の女性店員が『いらっしゃいませ!』と声を掛ける。


 そして一人の猫獣人族の女性店員が、店入り口の扉前に立つ政和一行の所まで近づいてきて『何名様ですか?』と尋ねてきた。

 

 その中で政和の従者として、ケット・シー族と称されるカミューが政和の前に立ち『全員で六名です』と告げると、同じ猫獣人族の女性が一瞬驚く素振りを見せるが、直ぐに立ち直ったのか『六名様ですね。只今お席をご用意致しますので、暫くお待ち下さい』と言って、その場から立ち去り慌てた様子でテーブルを繋げ六名分の席を用意し終え、また政和一行の元へ戻って『お待たせしました。お席のご用意が出来ましたのでご案内致します』そう言いながら、政和一行を用意した席へと案内する。


 一行はそのまま女性店員ついていくが、何故か緊張した様子で『こちらのお席でよろしいでしょうか?』と訊いてくるが、カミューが従者としての受け答えとして『大丈夫ですよ』と言って政和を先に奥側の席に着かせ、隣は宏明に豊が座り、向かい側の席に武志、カミューとミュアが座ると『ただいまお品書き(メニュー)をお持ちします』そう言って去って行く女性店員を見た、政和は何気に不思議そうに『なぁ、今俺達を席まで案内してくれた店員だけど何と無く緊張している感じがあったんだけど、俺の気の所為か?』などと言っており、それに対して一同も同意する言葉を発しており、如何にも不思議だと言った感じで待っていると、先程の女性店員がお品書きを持って政和達が座っているテーブルの上に木の板に書かれたお品書きを置いて『ご注文がお決まりの頃にまた伺います』と言って立ち去って行った。


「なぁ豊、この店に入ってから凄く馴染み親しんだ香りがするんだが、俺の思い過ごしか?」


「いえ、私も凄く飲みたいと思っている飲み物の香りだと思いますよ」


「宏明や武志はどうだ?」


「儂か? 儂はたまにしか飲まなかったからなぁ……でも今日はいいぞ」


「僕も、久しぶりに飲みたい感じだよ」


「OK! 飲み物は決まった。あとは甘いモノだが正直言って何がいいのかよく分からん」


「そうですね、そう言う時は素直に訊いたほうがいいかもしれませんよ?」


「そうだな……あっ! カミューやミュアは飲みもは何がいいんだ?」


「私達は、旦那様と一緒で大丈夫です」


「そうか、それなら店の店員を呼ぶぞ?」


「いいぞ」


「うん、僕もOKだよ」


「私も同じです」


 全員が注文するモノが決まった事を確認した政和が手を挙げて、近くに居た店員を呼び全員の注文が決まった事を告げる。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「えっと、店に入ってからずっと気になっていたんだけど、この香りって何の香り?」


「あっ! この香りですね。カーフィーと言う飲み物の香りです」


「じゃ、それを人数分と、何かお勧めの甘味はあるかな?」


「本日ですと、アププルの実のパイ包み焼きがお勧めです」


「うん、それも人数分と別に持ち帰りとかって出来る?」


「はい。出来ます」


「持ち帰り分はパイをまるごとで、それ以外はここで食べていくからそれでお願い」


「はい。ではご注文を確認します。カーフィーが六名様分にアププルの実のパイ包み焼きを切ったものが六名様分ですね。それと持ち帰り用は切らずにパイをまるごとで宜しいですね?」


「うん。それでお願い」


「はい。畏まりました」


 政和が全員分の注文をし終え、皇城で待つエリアスとエリザベートへの土産用の、アププルのパイ包み焼きをカット無しのホールで持ち帰る事を店員に伝え終えると、早速先程の雑談の続きとばかりに、口を開く。


「俺は気分的に、街中の喫茶店に来ている気分なんだけど」


「ああ! それ分かります。私も何と無くそんな感じがしてました」


「宏明と武志は、あまり喫茶店は利用しない方だっけか?」


「そうだのぉ、儂の場合はド○ールとかが多いのぉ」


「僕は、マ○ド○ルドが多いかな?」


「武志が、そっち方面だとは思わなかったな。俺や豊は余りそっち方面は行かないんだよ、たまに打ち合わせで昼飯を抜いてしまった時は使ってたけどな」


「そうなんだ」


「ああ。むしろ俺は、宏明と同じ様にド○ールに行くことも多かったしな」


 政和達はそんな他愛もない話をしながら、注文した品がテーブルに運ばれて来るのを待っていると『お待たせしました。ご注文のお品をお持ち致しました』と言いながら、政和達の前へ、木製のソーサーの上に乗せられ同じく木製の椀に入れられた黒い褐色の熱を持つ飲み物が置かれ、その横には木製の皿に盛られたアププルの実のパイ包み焼きが並べられる。


 ソーサの上には木製のさじも添えられており、テーブル中央には白い液体の入った木の壺が置かれ同じ様に、黒砂糖と思わしき粉が入った木の壺が置かれる。

 勿論アププルの実のパイ包み焼きが盛られた皿には、フォーク……ではなく木のヘラが添えられており、このヘラを使ってカットし挿して食べるのだと判断させられる。


 全員分の注文の品をテーブルに並び終えた店員が『以上でご注文のお品はお揃いでしょうか?』と尋ねると、女性店員にカミューが『持ち帰り用のアププルの実のパイ包み焼きは、帰りに受け取れるのですか?』と尋ねると、また先程と同じ様に、女性店員が緊張した面持ちで『は、はい。お帰りの際に焼きたての物をお渡し致します』とカミューに伝える。


「分かりました。では、帰りに持ち帰り用のアププルの実のパイ包み焼きを受け取りますので、宜しくお願いします」


「は、はい。畏まりました」


 そう言って、その場から立ち去ろうとした、女性店員を政和が呼び止めた。


「あの、ちょっと待って貰えますか?」


「はい。何でしょうか?」


「いや、大した事では無いのですが、貴女がうちの従者と話をしている時、変に緊張した感じで受け答えをしていたので、それが気になって声を掛けたのですが、うちの従者と貴女と何か立場的な差でも在るのですか?」


「えっ!? 今お客様は、こちらの方を従者と仰いましたが、まさか本当にお客様の従者でいらっしゃるのですか?」


「ええ。間違いなく私の従者ですよ?」


 政和がそう返答すると、今まで話しをして居た女性店員が額に手を当て今にも卒倒しそうになるのを、慌ててミュアが支えると『あ、ありがとうございます』と言ってミュアに深々とお辞儀をする女性店員。


 それを見た政和が『ミュアが、女性店員を支えてくれて助かった』とミュアに声を掛けると『いえ。咄嗟の事でしたが、どうにか間に合いました』と言いながら、卒倒しかけた女性店員を立たせ直していた。


 どうにか、ミュアに拠って支えられ倒れかけた状態から復帰した女性店員は、またもや驚いたかの様子で、政和に尋ねた。


「あ、あの……大変失礼な事をお訊きしますが、もしかして今わたしを支えてくれたこちらの方も、お客様の従者でいらっしゃるのですか?」


「ええ、今貴女を支えている彼女も私の従者ですよ」


 また政和がカミューの時と同じ様に、返答すると再び信じられないと言った感じで、額に手を当てながら卒倒仕掛ける女性店員を、先程と同じ様に支え直すミュア。


 その様子を見ていた、カミューとミュアに政和を除く一同から、今の状況はいったい何だと言う様子が見受けられたが、その中で一人だけ自動復帰した豊が女性店員に質問をする為に、声を掛ける。


「あの、この中のケット・シー族の二人が政和の従者である事は、私達全員が証明出来ますが、貴女の様子を見ていると、同じ猫獣人族でありながらも二人に対して過敏に反応している様子が見受けられるのですが、それには何か理由でもあるのですか?」


「はい。人間族のお客様方は、余りご存じない事かも知れませんが、わたし達猫獣人族の中では、ケット・シー族の方々は別格であり、人間族で言う成れば王族と称した方が良いかも知れませし、してや人間族の方々にかしずく事もありませんし、従者に成る事もありません。ですがこちらのお二人が、お一人の人間族のお客様の従者である事が余りにも信じらなかったものですから、お客様に大変ご迷惑をお掛け致しました」


 豊に説明をし、最後には深々と頭を下げた猫獣人族の女性店員の姿を見たミュアが、自分の手で支えている彼女に対して声を掛ける。


「私達は、ケット・シー族でありながらも、決して強制されたりしてあるじである政和様の従者になったのではありません。私と兄はご主人様に大恩があり、その証として自ら望んで、従者となったのです」


「そうだったのですか……失礼ですが、お名前をお尋ねしても宜しいでしょうか?」


「はい。構いませんよ。私の名はミュア・ロシアンそして兄のカミュー・ロシアンです」


 二人の名を聞いた猫獣人族の女性店員は、三度みたび卒倒しかけ三度ミュアに支えられ『大変失礼しました』と言って深々とお辞儀をし、改めて口を開いた。


「ロシアン家と言えば、ケット・シー族の中では真の王族と言われるお家です。例え人間族のお客様の従者に成られたと言っても、そんなお家の方に直接お会い出来るとは思っておりませんでした」


 そん中、何度目かとなる深々としたお辞儀をする彼女に対して政和は声を掛ける。


「貴女の真摯なる態度には、我々一同感服しました。これからもこのお店は贔屓にさせて頂きますので、宜しくお願いします」


「ありがとうございます。店主も喜ばれるかと思います。後ほど店主の方からもご挨拶に伺わさせて頂きます」


 と言いながら、深々としたお辞儀をした後、その場を後にした彼女を視線で見送りやっと一息つけると思った政和一行であった。


「しかし、何気に凄い事になったな」


「だのぉ。まさか政和の従者である二人が、そんな立場だったとは儂も些か驚いた」


「ですね。私も二人の立場を聞いて驚きましたよ」


「うん。僕も同じだよ」


「それを言うのであれば、私達、兄妹も正直言って驚いてるのですが……」


「確かにそうだろうな。主である俺でさえ驚いてるんだから、二人が驚くのも納得するわな」


 一様にカミューとミュアの立場の事に驚いている一同だったが、何か肝心な事を忘れていたと思い、自分達の前に並べられている飲み物と食べ物の存在を思い出し、多少温くなっているだろうと思いつつも、木製の椀を手に持ちその飲み物の香りを嗅ぐと、政和と豊の二人が心底嬉しそうな笑顔を浮かべる。


「豊! やっぱり、俺達が思っていた飲み物に間違いないな?」


「ですね。これこそ私達が、求めていた物ですよ!」


 そう二人が求めていた物……今二人が手にしている椀に入れらている飲み物は、カーフィーことコーヒーそのモノであった。


 二人は、先ず一口目を口に含むと香りを楽しみ、二口目でコクと酸味、そして苦味を楽しみ、三口目はテーブル中央に置かれた、ミルクと思しき液体と黒砂糖を入れ、椀に添えられた匙で適度にかき回した後に、三口目を口にするともう顔はほとんど蕩けそうな顔をしており、その二人の様子を見ていた宏明と武志は、心の中でお前達二人はそんなにコーヒーを求めていたのか……と言った共通認識を持っていた。


「なぁ、豊、この苦味と酸味にコクは、俺的に言うとブラジルをベースにマンデリン辺りをブレンドしたんじゃないかと思うがどうだ?」


「うーん……そうですね……私の感想はブラジルは確実でしょうが、ブラックで飲んだ感想としては、若干の甘みも感じたのでモカマタリも多少は絡んでいるんじゃないかと思いますよ?」


「ああ、言われてみればそうだな……モカマタリは俺の好きな品種だからな、これはもう一杯お代わりで欲しいところだな」


「ですね。その前に目の前にあるアププルの実のパイ包み焼きを食べてみましょうよ?」


「だな」


「のぉ、政和に豊、お前達二人は、よくそんなにコーヒーの品種が出てくるなと、こっちが感心するぞ」


「うん。僕も同意見だよ。と言うか二人共コーヒーに関して詳しすぎるって」


「そうか? コーヒー好きなら当り前だと思うが? これでこの場で煙草が吸えたら文句はないんだが、何と無く吸える雰囲気じゃないから、自重はしておくがな」


「まぁ、政和に関しては、自分で生豆を買って来て、自前で焙煎しておまけにブレンドして自分好みのブレンドコーヒーを淹れてるくらいですから、政和を前にしてコーヒーの事でどうのこうの言うのは、諦めた方が得策ですよ?」


「そうだのぉ……政和のコーヒー好きは今に始まった事ではないし、取り敢えず目の前のアププルの実のパイ包み焼きを、食べてみよう」


 宏明の言葉を聞いた一同は改めて目の前に並べられている、アププルの実のパイ包み焼きを食べる。


「ふむ……儂の感想が間違っていなければだが、このアププルの実のパイ包み焼きは、率直に言って、アップルパイかのぉ?」


「だな……しかも、シナモンなしのな」


「宏明の言う通りですね……確かにこの味はアップルパイですね」


「うんうん。でも不思議とカーフィーにあうね」


 そんな感じで談笑しながら、カーフィーことコーヒーを飲み、そしてアププルの実のパイ包み焼きことシナモンなしのアップルパイを食べていると、政和達の席へ一人の猫獣人族の女性が近づいて来た。


「ご歓談中失礼致します。当甘味処【青い猫みみ亭】へ、我々猫獣人族にとっての王族でいらっしゃるケット・シー族のお客様がお越しと、聞き及びご挨拶にと思い寄らさせて頂きました」


 政和達に話し掛けて来た女性は、年の頃で四十歳前後だろうと思われ、髪の色は薄い茶色で肩口より少し下の位置で綺麗に切り揃えられ、白いブラウスに黒のロングスカートの腰回りには、濃いブラウン系のエプロンを着け縞模様のある頭の上の耳と、長い尻尾が特徴の猫獣人の女性が立っており、政和は誰? と言った感じで目の前に立っている女性へ声を掛けた。


「あの……どちら様でしょうか?」


「あっ! 私としたことが、とんだ失礼をしてしまい申し訳ありません。申し遅れましたが、わたくし当甘味処【青い猫みみ亭】店主、ネリー・コレットと申します。以後お見知りおきをお願い致します」


 と言うと、政和達へ深々と頭を下げ、そして改めてカミューとミュアへ同じ様に頭を下げた。


「わざわざ、挨拶にいらして頂いてありがとうございます。私は二人の主、マサカズ・ウチダと申します。そして私の従者の名は、カミュー・ロシアンとその妹ミュア・ロシアンです」


「左様でございますか……マサカズ・ウチダ様にカミュー・ロシアン様、お妹様のミュア・ロシアン様で御座いますね。今後共宜しくお願い致します」


 この店に入ってから何度目かとなるお辞儀を受け、政和とかミューにミュアも立ち上がり、同じ様にお辞儀をし政和はコレットへ話し掛ける。


「いえいえ、こちらこそ宜しくお願いします。ところでコレットさんが挨拶に来られたついでと言っては何なのですが、今私達が飲んでいるカーフィーですが、出来たら結構なのですが、カーフィーの豆を譲って頂く事って可能でしょうか? 勿論代金はお支払いしますし、煎る前の豆でも構いませんのでお願い出来ませんでしょうか?」


 と政和から聞いて、目を見開き驚いた様子を浮かべるコレットを見遣った政和は、そのまま言葉を続ける。


「カーフィーは、私達も慣れ親しんだモノであり、私達が居た所ではカーフィーをコーヒーと称して日常的に飲まれており、コーヒーの実は赤く実自体は食用としても一部地域では食べられていますが、主にそのコーヒーの実のつまりになりますがそれを天日干しした物を、生豆きまめと称しコーヒー専門店に行けば手軽に買える物でしたし、勿論焙煎……言い方を変えると煎ったと言えば良いでしょうか? そう言った豆も専門店以外でも買う事が出来ました。私の場合は生豆を買って自分で焙煎して、他の種類の豆を混ぜ自分好みの味を作り出し、それを粉状に砕いた物を布に入れ、熱い湯を少しずつゆっくりと掛け流しながら、コーヒーの粉が膨らむのをゆっくりと待ち抽出した物を飲むのが、私の唯一の楽しみでした。多分ですが、コレットさんも私と同じ事をされているのではないでしょうか?」


 政和の話を聞いたコレットは、更に驚きの色を濃くし『どうしてそれを?』とでも言いたげの様子だった。


「はい。今ウチダ様が仰られた通りです。ごく最近になってですが、カーフィーの実の種も利用出来るのではないかと、私共で色々と試行錯誤して創りだしたのが、今皆様が飲まれているカーフィーです。そしてカーフィーの作り方もウチダ様が仰られた通りです」


 コレットの言葉を聞いて政和は満面の笑みを浮かべると。


「やはりそうでしたか、もしよろしければコレットさんがカーフィーを淹れている様子を拝見させて頂いても宜しいですか? 正直言うともう一杯お代わりが欲しいと思っていたところだったので、お願いで出来ませんか?」


「はい。余り広くない厨房ですが、それでよろしかったらどうぞ」


「ありがとうございます。じゃ、豊、お前も一緒に来るか?」


「勿論行きますよ」


「他はどうする?」


「儂らは、ここでゆっくりしてるから、コーヒー好きの二人で行って来ればいい」


「うん。政和と豊の二人で行ってくるといいよ」


「そっか、じゃ、行ってくる。豊、行くぞ」


 政和がそう言うと、豊も一緒にコレットの後について厨房へ入っていった。


「しかし、コーヒー好きの連中はそう言うところを見るのが好きなのかのぉ?」


「僕は、コーヒーよりお茶って方だから、あの二人が楽しそうな顔をしている事だし、僕らはここで、のんびりとアププルの実のパイ包み焼きを食べてようよ」


「そうじゃのぉ」



 ◇◆◇◆



 コレットの後に付いて余り広いと言えない厨房へ入って来た政和と豊は、この世界に来てから初めて厨房らしい厨房へ入ると、周りを見渡しレンガで組まれたかまど見てやはり中世のヨーロッパ風だなと思い至るのと同時に、持ち手の無い鍋やその他の調理器具に驚き違和感を感じながらも、どうやって調理するのだろうと考えつつ、コレットがコーヒーを淹れる様子見ることにした。


「ウチダ様ともう一方……」


「あっ! 紹介が遅くなって申し訳ありません。彼は私の古くからの友人でユタカ・カドヤと申します。もし宜しければ残りの二人の紹介も後ほどしましょうか?」


「はい。カーフィーを淹れ終わりましたら、ご紹介頂けますでしょうか?」


「分かりました。紹介は後程と言う事でそれでは申し訳ありませんが、コレットさんがカーフィーを淹れる様子を拝見させて頂きます」


「畏まりました」


 彼女が返事を返すと、先ず持ち手の無いポットに水の入った木桶から水を注ぎそのまま竈の上に置く。

 次に竈近くの木製の作業台の上に置いてある石で出来た乳鉢の様な物に、焙煎されたコーヒー豆を入れ同じく石で出来た突棒を使い豆を砕き粉状にしていく。

 見た目的に中挽き程度になった所で粉を目の細かそうな布の袋に移し、その袋を太さ五ミリ程度の針金を輪にしそれに高い足を三本付けた様な物の、輪の部分に粉が入った袋の口の部分を折り返した後、熱湯を掛け流している間にずり落ちないよう木製の洗濯バサミの様な物で三箇所を挟んで固定し、その下に木製の椀を置くと、今度はおもむろに、まるで厚手のミトンの様な物を手にはめたかと思うと、そのまま竈まで行き湯を沸かしていたポットを、厚手のミトンをはめた両手で持ちそのまま元に戻ると静かにゆっくりと熱湯をコーヒーの粉の上に掛け流していくと、ゆっくりとコーヒーの粉が膨らんで来る。


 そして椀にはチョロチョロとコーヒーが抽出されていきある程度椀にコーヒが溜ると、一旦ポットを作業台の上に置き、すかさず空の椀に置き換えそれを数度繰り返し六名分のコーヒーを淹れ終わる。


「如何だったでしょうか? これが私供のカーフィーの入れ方で御座います」


「なるほど、参考になりました。ありがとうございました。ではコレットさんが淹れられたカーフィーは、私と豊の二人で席まで持っていきますので、このままこの場で待っていて頂いても宜しいですか? お礼と言っては何ですが、私がコレットさんへ一杯淹れさせて下さい」


「分かりました。この場でお待ちしていれば宜しいのですね?」


「ええ。お願いします」


 政和はそう言い残し、豊と一緒に淹れたてのコーヒーをトレーに乗せ席へと運び終えると、また厨房へ戻りコレットに声を掛ける。


「お待たせしました。コレットさん。煎られてない生豆はありますか? それと生豆に種類があるようでしたら、何種類か用意して下さい」


「はい。今ある豆は三種類しか無いのですが、それでも構いませんか?」


「ええ。構いません。それと豆を煎る為の道具はどれになります?」


「こちらの鍋と木べらになります」


「ありがとうございます」


 コレットに礼を言うと、政和は用意された生豆を見てほぼ感で三種類の豆の配分を決め、そのまま竈前に行き竈の上に乗せられた持ち手のない、中華鍋の様な鍋に生豆を入れると、木べらで慎重にかき混ぜながら煎られる豆の色と微かに聞こえるパチッパチッと豆が爆ぜる音に、耳を研ぎ澄ませる。

 最初は白かった豆の色が段々と茶色に変わりやがて濃い琥珀色に変わると、先程彼女が使っていたミトンを使い鍋を竈から外し、そのまま乳鉢へ煎られた豆を注ぎ入れ使っていた鍋は竈脇に置き、はめていたミトンを外しから乳鉢の前に立つと、石の突棒を使い豆を磨り潰していく。

 政和は豆を細挽きと言われるかなりきめ細かい粉にすると、その粉を袋に移しコレットがコーヒーを淹れた時と同じ様に、高い足が付いた輪に粉の入った袋の口を折り返す様に引っ掛け木製の洗濯バサミで三箇所を固定し空の椀を置くと、竈で蒸気あげるポットをミトンをはめた両手で持ち元に戻り、最初は粉の中央にゆっくりと熱湯を注ぎ粉が膨らみだすと今度は、円を書く様にゆっくりと注ぎポットを竈脇に戻すと、アププルの実のパイ包み焼きをカットして食べる時に使う、未使用の木べらを使い軽く袋の中の熱湯と粉をかき混ぜ、コーヒーが椀に溜るのを待ち一杯目が溜ると、即座に二杯目の空の椀を置きまた溜るのを待ち、コーヒーを淹れ終えると政和はようやく口を開く。


「一杯目の椀はコレットさんで、二杯目の椀は豊の分だ」


「おっ! 久し振りに政和の淹れたコーヒーを飲めますね」


「カドヤ様は、ウチダ様が淹れられたカーフィーを何度も飲まれているんですか?」


「ええ。政和の家に行く度に、味見役をさせられてましたので、かなりの頻度で飲んでますよ」


「そうだったんですか」


「因みに、政和が淹れたコーヒーは、一口目は何も入れずにそのまま飲んで下さい。そのほうが一番味と香りを楽しめますので」


「わかりました」


 豊に言われた通りに、コレットはブラックのままで一口目を口にするとその味は彼女自身今まで味わった事のない味わいで、そしてコーヒーその物の持つ芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。


「ウチダ様の淹れられたカーフィー……いえ、コーヒーは私自身今まで味わったことのないものです」


「でしょ? 二口目ですが砂糖と……あの、白い液体は何ですか?」


「白い液体? ああ! それはムーと言う草食の動物の乳です」


「なるほど、では改めて二口目以降は砂糖とムーの乳を入れて飲んでみてください。多分味わいがグッと違ってくるかと思いますよ?」


「はい。わかりました」


 また豊に言われた通りに、砂糖とムーの乳を入れ木の匙でかき回した後に二口目を口にするコレットは、一口目を飲んだ時との違いに驚きを隠せないでいた。


「あの……カドヤ様に言われた通りにして二口目を飲んでみたのですが、本当に一口目と違いますね……何と口にしたら良いのか分かりませんが、私自身の感じで言いますと優しくて気持ちがホッとすると言ったらいいでしょうか? そんな感じすらするものでした」


「そうなんですよ。政和が淹れたコーヒーは、何も入れていない時と砂糖とミルク……あー……ミルクとは牛と言う草食の動物の乳の事を私達の居た場所で言うので、そこは聞き流して貰って結構なのですが、簡単に言ってしまえば、一杯で二度美味しいと言う事になりますかね」


「確かに、カドヤ様の仰られる通りです。本当に一杯で二度美味しいですね」


 そんな二人のやりとりを、黙って見ていた政和は好きなコーヒーの香りに包まれながらマッタリした気分になっていたが、そんな中厨房に宏明が顔をだした。


「のぉ、政和と豊、コーヒー談義に花を咲かせるは良いが、そろそろ戻らんと午後からもやる事があるだろう?」


「あー! そうだったな。わるい、わるい、直ぐ行くから待っててくれ」


「わかった。あまり遅くなるなよ?」


「了解。と言う事なので、今回はこの辺でお暇しますので、先程注文していたパイと、後で来たら余裕のある範囲で結構なんですが、生豆を譲って頂けませんか?」


「分かりました。パイの方は直ぐにお持ちしますので、お席でお待ちください。それと豆の方ですが、大した量はお分け出来ませんが、パイと一緒にお持ち致します」


「ありがとうございます。このお店は本当に気に入りましたので、贔屓にさせて頂きます」


「いえ、こちらこそ……それと不躾ぶしつけなお願いなのですが、ウチダ様のお時間のある際で構いませんので、美味しいカーフィー……いえ、商品の名を改めてコーヒーとさせて頂きますが、そのコーヒーの淹れ方を教えて頂けませんでしょうか?」


 生粋の猫好きでコーヒー好きな政和としては、来て二度美味しい店の店主から深々とお辞儀までされてお願いされている事に、否はなく断る要素が全く無い政和はコレットからのお願いを、一つ返事で承諾をした。


「分かりました。私で良ければ美味しいコーヒーの焙煎……つまり煎り方から、数種類の豆の混ぜ方に豆の挽き方、そして淹れ方の一から十までお教えしますが、コーヒーに関しては本当に奥が深いので、気長に付きやって下さい」


 一緒に居た豊も政和の言葉を借りるかの様に、口を開く。


「私も、かなりコーヒーが好きですが、政和に付き合って色々とやっていくと本当に奥が深い事がよく分かりましたので、コレットさんもその奥の深さに驚かない様にして下さいね」


「はい。心得ておきます」


「では、豊と一緒に席に戻っていますので、パイが出来上がりましたらお願いします」


 政和が豊を伴って厨房を後にすると、コレットは早速アププルの実のパイ包み焼きを作り始める。


「四人とも、待たせてしまって申し訳ない」


「全く、政和といい、豊といい、二人共本当にコーヒーが好きだのぉ」


「うん、うん。この二人でコーヒーの話をしていたら、一日でも足りないくらいなんじゃないかな?」


「おいおい、俺と豊はそんなに酷いか?」


「「酷い!」」


 宏明と武志の二人に一刀両断された政和と豊はその後、コレットが焼きたてのアププルの実のパイ包み焼きとコーヒーの生豆を持ってくるまで、二人に弄り倒されていた事はここだけの話である。


「お待たせしました。お持ち帰り用のアププルの実のパイ包み焼きとコーヒーの豆をお持ちしました」


 コレットが持って来たアププルの実のパイ包み焼きは、大きな葉に包まれており持ちやすい様に、麻の紐で軽く縛ってあり、そして生豆は少し小さめのコンビニ袋サイズの麻の袋にそれなりの量が入れられた三種類の生豆が一緒に届けられた。


「わざわざ、ありがとうございます。と言うか生豆をこんなに分けて頂いて大丈夫ですか?」


「はい。大丈夫ですよ。それに今回はウチダ様に、本当に美味しいコーヒーを入れて頂きましたので、それのお礼も含めてです」


「そんなぁー! お礼される様な事はしてませんし、本当にお気持ちだけでも良かったんですよ」


「この豆がお気持ちの印って事では駄目でしょうか?」


「分かりました。コレットさんのお礼のお気持ち確かに受け取りました。と言う事でお会計をお願いしても宜しいですか?」


「はい。皆様のお飲み物とお食事の分とお持ち帰りの分を合わせまして、六千イエンになります」


「あの……それって豆の分が入ってませんよね?」


「いえいえ、先程も申し上げた通り豆はお礼の印ですので、お気になさらないで下さい」


「そうですか……分かりました。ではこれでお願いします」


 政和はそう言って、銀貨二枚をコレットに手渡すと、ボイスチャットを使い『このまま店を出るぞ!』と言いながら、まるで逃げ出すかの様に店を出た政和達は、そのまま皇城へ向けて歩き出した。


 だが――この時、政和達の跡を影に紛れながら追う男の存在に気が付く者は、後にカミューが政和に忠言する迄、誰一人と居なかった。



 ◇◆◇◆



「しかし、コレットさんにお金を渡したかと思ったら、ボイスチャットでいきなり『このまま店を出るぞ!』ですからね」


「皆を慌てさせたのは、すまないと思ってる……と言うか、あの場でコレットさんに銀貨二枚を渡したから、それで何か言われると不味いと思ってな」


「銀貨二枚って……政和、渡しすぎじゃないですか?」


「豊、儂はそうは思わんぞ?」


「うん、僕も宏明に一票」


「何で、私が悪くなるんですかぁ!」


「豊、よく考えてみろ? この世界でコーヒーを飲ませてくれる店が他に在ると思うか? それに、コーヒー豆自体もそんなに量は無い筈だ。それを鑑みても銀貨二枚は妥当だと思うぞ?」


「そ、そうですね……」


「まだ俺達が、この世界に来てから日が浅い上に、この世界の経済観念を理解していないのも確かだ……それに何処に行っても需要と供給と言う物がある。物の需要が高くなれば物の価値が上がり、逆に需要が下がれば物価値がが下がる……この世界にコーヒーが完全に根付くとは言い難いが、その中で俺達にコーヒーを提供してくれる数少ない店だ……今回コレットさんに渡した銀貨二枚の価値は、俺達の気持ちでもあるがそれと同時にコーヒーがこの世界に、根付く事を願っての先行投資という名の布石だと思って貰えれば、お前も解りやすいんじゃないか?」


「確かに……政和の言う通りですね。と言うか政和! 私達と同じ理系な筈なのに、何故に経済の文系も語れるんですか!?」


「ん? そんなモノは沖田さんの下に長く居れば自然に身に付くものだろうに? と言うか、お前ねぇ! 幾つものプロジェクトや案件を抱えていて、それの予算配分や人員の数に納期を考えていれば、俺が言った事は容易に思いつくと思うが? お前自身がその辺の事を毎回俺に丸投げしたツケだと思うが? さぁ! 角屋副部長答えは如何に?」


「はい……すみません……直属の上司である内田部長に丸投げしてきた結果だと思います」


「分かればよろしい! と言うか上司に余計な仕事を丸投げする部下もどうかと思うがな?」


 そう言いながらジト目で豊を見る政和は、如何にも楽しそうな顔をして居たのは言わずもがなである。


「政和! 私を余り虐めないで下さいよぉ! 本当に反省してるんですから!」


「ならばよし!」


 政和と豊が珍しくふざけ合っている光景の中、カミューがふと何者かがこちらを探り付けて来る様な僅かな気配を感じ取り、ボイスチャットで『旦那様、極めて微かな気配ですが、我々の様子を伺いながら跡をつけて来る男の気配がありますが如何致しましょうか?』と報告を政和へ上げた。


『そっか……冒険者ギルド本部を出た辺りから、俺も極めて微かな気配を感じていたが、気の所為だと思い込んで流していたが……で、どうする? このまま泳がせるか……それとも裏路地に引きずり込んで始末するのが良いか、どっちがいい?」


『多分、このまま始末したとしても、トカゲの尻尾切りにしかならないかと思うがのぉ?』


『そうですね……多分我々が一斉にかかれば簡単でしょうが、私達の動向を探る者の事は知らぬ存ぜぬで吐かない可能性も高いでしょうし、この中では一番敏感に反応できるのは、カミューさんとミュアさんでしょうから、二人にマーキングしてもらって置いて暫く泳がせておきましょうか?』


『僕も、豊の意見が一番得策だと思うぞ』


『了解。じゃ、カミューにミュア、お前達二人はミニマップでのマーキングの仕方は解るな? 一応、俺の方でもマーキングだけはしておくが、俺達の跡を追ってくる奴の動きの確認は、二人に任せる』


『『はい。畏まりました』』


『なら、マーキングだけしておいて、このまま暫く泳がせよう。で、俺達の動向を探ってるって事は、多分邪神教の連中か、それ以外だとすると不正を働いているやつらのどちらかだと思うが……俺は、邪神教絡みだと思うし、どうも冒険者ギルド本部マスターが臭い気がするんだよな』


『そうだのぉ。今現在完全に正確にないせよ儂らの能力値を把握しているのは、冒険者ギルド本部マスターのみ……そう考えると、不正面か邪神教のどちらかだの』


『私は、邪神教と見ていますが、向こうが直接的に手を出してくるまで、泳がせましょう』


『そうだね。僕もその線で泳がせた方が良いと思うよ』


『了解。カミューにミュア、もう一度言うが、俺達の動向を探っている奴のマーキングと動向の確認も含めて頼むぞ』


『『畏まりました』』


 ふざけ合っているフリをしながらも、ボイスチャットで方針を決定した一行は、そのまま何事も無く、皇城の東門に到着し、首から下げている通行証を取り出し僅かに魔力を通し、門の前に立っている騎士に提示すると、出かける時と同じ様に、ビシッと音がする様な敬礼をし、一行を何事も無く皇城内に通す……その様子を影の様な希薄な存在を持ち得て政和達の動向を探っていた男も、皇城内に入られては手が出せないと考えが至ったのか、一旦その場を後にし、彼の者を放った者の所へ報告に戻った。



 ◇◆◇◆



 皇城内に入った政和達一行は、出迎えのメイドに拠って後宮へ通されるのと同時に、エリアスとエリザベート、そしてシェリーに政和達一行が戻ったことを知らせ、部屋に来るようにと伝える事も忘れなかった。


 一行が政和の部屋に入り、暫くしてから部屋の扉をノックされ政和が『開いてますからどうぞ』と声を掛けると、扉が開きシェリー、エリザベート、エリザベートの順で部屋に入り部屋のソファーに全員が腰を掛ける。


「「皆様おかえりなさい『ませ』」」


 と、女神とその巫女の二人は、ほぼハモって政和達へ声を掛ける。


「二人共ただいま。どうにか冒険者ギルド本部で登録してきたよ……ただ結構面白いこともあったけどね」


「うん。そうだね。ある意味面白い事と言えば面白い事だね」


「確かに、面白い事がありましたね」


「じゃのぉ」


「何ですか? みなさん揃って冒険者ギルド本部で面白い事があったって、口を揃えて言ってますが、いったい何があったんですか? マサカズ様教えてください」


「まぁ、それを話す前に、三人にお土産を買って来たから、それを渡すからその後に詳しく話すよ」


 話の内容を知りたがっている、二人を宥めながら政和はアイテムボックスから一つの包と三つの麻袋を取り出し、そのままテーブルの上に置いた。


 政和がテーブルの上に置いた包からは、甘い香りが漂っており、その香りに過敏に反応した女性三人の視線は、その包に集中しており、今直ぐにでも包に手を出しそうな雰囲気を醸し出しているのを、感じた政和はシェリーに言って包を開けてお茶の用意をする様に頼むと、今まで見た事の無い様なキビキビとした動きで、お土産の包を開け速攻でお茶の準備をして戻ってきた。


「これが、あの【青い猫みみ亭】のアププルの実のパイ包み焼きですか……」


「本当に美味しそうですね……政和さん達はお店で食べられたのですか?」


「勿論! しっかり食べてきたよ。なのでこれはエリーやエリーザ、そしてシェリーさんの三人で食べると良いよ」


「ありがとうございます。シェリーが戻り次第、三人で頂かせていただきますね」


「うん。そうして」


「ところで、この三つの麻袋は何ですか? 何か豆の様な物が入ってますが」


「あっ! それね。エリーは多分知っていると思うけど、俺達の故郷でよく飲まれていたモノの豆だよ」


「もしかして……コーヒー豆ですか? しかも煎られてない物ですよね? 政和さんはコーヒー豆を煎って、挽いて、抽出まで出来るんですか?」


「政和は、それをほぼ趣味にしてましたから、政和が淹れたコーヒーを飲んでしまうと、暫くの間他のコーヒーが飲めなくなるくらいですからね」


「そうなんですか? それなら是非とも飲んでみたいと思いますが、道具とかって足りるんですか?」


「一部の道具は代用できるけど、一部の道具は作らないと駄目だから、今直ぐにと言うのは難しいかな?」


「あの……皆様が仰られてるコーヒーと言う飲み物ってどんなモノなのですか?」


「エリーザには、カーフィーの実って言えば解るかな?」


「えっと……確か赤い実の食べ物ですよね? それがどうかされたのですか?」


「うん。実はそのカーフィーの実の種子……所謂種の事なんだけど、それを天日干ししたのが、今ここにある状態の豆なんだよ……で、この後に幾つかの手間を掛けてやると、芳醇な薫りと苦味や酸味、そして微かな甘味が感じられる飲み物になるんだよ」


「へぇ……そうなんですか。この白い豆がそんな美味しい飲み物になるとはにわかに信じ難いですが、マサカズ様がそう仰るのならそうなんでしょうね」


「まぁ、今回は今直ぐって訳には行かないけど、近いうちに飲まさせてあげるよ。それと出来たらで良いんだけど、ムーの乳と砂糖も用意しておいてくれると、助かるかな?」


「ムーの乳は、よく料理で使いますし、肉も美味しいので良く食べられますよ。あと砂糖も国内で生産されているので、手軽に手に入りますので、ご安心下さい」


「あと、鍛冶やその他の作業が出来る様な場所って皇城内には在るかな? もし在るんだったら今度使わせてもらいたいんだけど」


「鍛冶とかですか……昔使っていた様な作業場なら在りますが、私も詳しい事はあまり存じませんので、父上に直接訊かれた方が宜しいかと思います」


「了解。その辺も含めて皇王に直接訊いてみるよ」


 政和がエリアスやエリザベートに他の面々と雑談をしている最中に、速攻でお茶を用意したかと思われるシェリーがお茶や銀製の皿にナイフとフォークを乗せたワゴンを押しながら戻ってきた。

 流石は、甘い物に目がない女性陣は動きが早い上に、最近有名になりつつある甘味処のパイと聞けば、その動きも倍以上になるのだろうと、政和は心の中で思っていた。


「あまリ食べ過ぎると、昼食が食べ成られなくなるぞ?」


「「「大丈夫です! 甘いモノは別腹ですから!」」」


 と、綺麗にハモる女性三人……まぁ世の中、女性三人集まればかしましいと言うけど、可哀想な事にミュアの存在が忘れてるから、シェリーにミュアにも分けてあげる様に言うと、『勿論ミュア様の分も御座いますよ』と言う、シェリーからのありがたいお言葉があっ事は言わずもがなであるが、特にミュアは先程も同じパイをコレットの店で食べている上に、まだ時間は昼前……つまりこの後に軽めながらも昼食が控えており、それも含めて食べると言う事は、後からお腹周りに余計なモノが付いて、泣く事になっても知らないぞ? と、政和は口こそ出さなかったが、心の中ではアププルの実のパイ包み焼きを、美味しそうに食べる四人の女性に向かって、ご愁傷様と手を合わせていた。


 政和がそんな風に心の中で考えながらも、そろそろ午後の予定も決めなければと思い直したのか、パイを美味しそうに食べる四人の女性から視線を外し、ただお茶を飲むだけに止めていた男達に声を掛ける


「なぁ、午後の予定だが、朝にここを出る時に話し合った通りの予定で良いか?」


「そうですね。午後から皇城の図書館でこの世界の魔法関係を調べると言う話でしたね」

「そうだったのぉ。で、どの様に調べるんだ?」


「魔法関係で、この中で詳しいのは武志と俺、続いて豊と宏明の順になるか……カミューはどうなんだ?」


「私は、余り魔法を使った事が無いので、詳しい事は分かりませんが、お手伝いはさせて頂きます」


「分かった。武志は専門が魔法だが、お前も何と無く気が付いているかと思うが、俺達の使う魔法と、この世界の魔法は別物だと思って居た方が良いと思うが、お前はどう思う?」


「うーん……こればかりは調べてみないとなんとも言えないけど、引っ掛る点が幾つか在るんだよね……例えば属性魔法を使うのに魔晶石を必要とするのか、それと威力が思っていたよりも強くない等々かな?」


「確かに……俺達が初めてこの世界に到着した時に、ユアンの土魔法を見たけど足止め用の穴と言って掘れた穴の大きさが、直径で三十五センチ程で深さは多分五十センチくらいだろう? しかも詠唱をしてでの発動だからな……そう考えるとこの世界の人々が魔法が有用だと考えないのも、頷けるが……なんかもっと他に原因があるんじゃないか?って思うんだよな? まぁ、それについては昼食を摂ってからだな……と言う事で俺は一服してくる」


「おっ! 政和が一服するのなら儂も行くぞ」


 何と無くゆるい感じで午後の予定のの話を纏め、自室のテラスへ宏明を伴って一服をしに行く二人を、残った三人の男達は目線だけで見送っていた。



 ◇◆◇◆



 政和達が皇城の自室のテラスで一服を楽しんでいる頃、先程まで影に紛れて彼らの動向を伺っていた男が、冒険者ギルド本部の本部長室でアームストロングに報告をしていた。


「して、彼奴らの逗留先は分かったのか?」


「はっ! 彼の者達は皇城に逗留している様子で、現時点で直接的に手を出すのは難しいかと思われますが、彼の者達が寝静まった頃を狙ってなら、暗殺も容易かと思われます」

「そうか……彼奴らが何も知らずにここに登録に来たのは僥倖ではあったが、見るからに底の知れない魔力量と適正魔法の豊富さを考えると、生易しいモノではないぞ? やるのであれば一気に方を付けるのだ! いいな?」


「はっ! 心得ております」


「では、行くがいい……我らが同胞の為に!」


「我らが同胞の為に!」


 アームストロングが、報告を終えた男の気配が影に紛れて消えるのを感じ取ると、彼はまた独り言を漏らす。


「彼奴らの能力の全ては分からなかったが、我らが同胞の悲願を邪魔立てする者であれば、容赦なく我らが同胞に依る悲願を達成為の贄になってもらう!」


 アームストロングの言うと言うのは、同胞は邪神教そのモノであり悲願は邪神の復活である。

 彼らにとっては本当の神と言って差支えのない存在であり、その邪神の力を持ってこのアク・エリアスの全てを、支配しようと目論んでおりその為には、幾千、幾万、幾十万の命が失われ様とも当の彼に取っては、ほんの些細な事であり本当の意味で邪神が、世界を統一する事を願って止まないのであるが、邪神が復活する事に因って彼も含め本当の意味で、人が住む事が出来ない世界になってしまう事を彼は知らない。



 ◇◆◇◆



 その頃、政和達は昼食を取る為に皇族専用の食堂に来ていたのだが、メイドであるシェリーはこの場では給仕に徹しており、彼女以外の三名の女性は食堂に来る前に、たらふくパイを食べたにも関わらず出されて昼食は全て完食し、尚且つデザートまで完食している有り様で、いったい女性の体の何処に今まで食べた物が入るのかと、一人呆れ顔をしていた。


「しかし、本当に女性の神秘と言うか、ここへ来る前にかなり大ぶりのアププルの実のパイ包み焼きだったと思うが、それを綺麗に完食してきちんと昼食まで摂ってデザートまで食べきるとは……流石に恐れ入ったと言うか、後から色々な意味で無くはめになっても、俺は知らないぞ?」


「政和さん。それは気にしたら負けと言う奴ですよ? 昔から言うじゃありませんか? 女性にとっては、甘いモノは別腹と」


「い、いや、確かにそれは昔から聞く言葉だけど……余り食べ過ぎるとだな……エリーやエリーザ、それにミュアにシェリーさんの色んな部分が悲しい事になるんじゃないかと、俺は心配して言っているんだが……」


「私は、これでも女神ですからそう政和さんが心配される様な事はありませんのでご安心下さい」


「はい。私も皇女ですので、マサカズ様のご心配される様な事にはなりませんので、ご安心下さい」


「わ、私もそれなりに身体を動かしていますので、ご主人様の心される様な事は一切ありませんのでご安心下さい」


「私も、ミュア様と同じで、仕事で身体をそれなりに動かしておりますので、大丈夫です」


「まぁ、みんながそう言うのなら、そうなんだろうけど甘いモノを食べ過ぎて、後から泣くはめになって、俺に文句を言わなければそれで良い」


「だのぉ。儂も政和と同意見だ」


「そうですね。私も政和が女性四人に冤罪で詰め寄られる姿は見たくはありませんので、私も、政和と同意見とさせて頂きます」


「うん。僕も皆に一票」


「失礼ながらも、私もミュアの兄として旦那様に一票を投じたいと思います」


 食堂に居る皇族の男性を除き、政和を含む五名の男性陣にダメ出しをされた、シェリーは何時も以上に仕事をし、ミュアは鍛錬をしに行って来ますと言って外へ出て行き、エリザベートとエリアスは、自室に閉じこもり部屋で何やらやっていた事をここに記しておく。


 昼食を摂り終えた、政和達だったが先程女性陣へのダメ出しをした影響で誰一人と一緒に付いてくる者は居らず。

 別のメイドに依って、皇城内の図書館へと案内されていた。


「こちらのお部屋が皇城内で最大と言われている図書館でございます。因みに別室でが御座いますが禁書も保管されており、そちらをお読みになりたい場合は、別の者をお呼びくださいませ」


「わかった。それと出来たらで良いのだが、属性魔晶石と属性を書き込まれていない魔晶石があったら一個ずつで良いから持ってきて欲しい」


「畏まりました」


 政和達を案内した、メイドは一礼するといつもの様にキビキビとした動きでその場を去って行き、図書館に取り残された五名は、床から天井までびっしりと並べられた本棚の蔵書に圧倒され、そして各階に在る本棚の数にも圧倒されていた。


「なぁ……この本の中から、魔法関連の本を探さなければならないのか?」


 かなり、呆れた様子で他の面々に声を掛けた政和は、背中に変な汗をかく感覚があり司書みたいな人は居ないのかと、キョロキョロしてみると入り口から入って左側にカウンターがあり、そこに司書らしき女性が座っているのを見つけると、先程まで背中にかいていた汗が一気に引き、早速司書らしき女性が座っているカウンターに行く事にした。


「あの、すみません。今各属性魔法の書籍を探しているのですが、どの辺りにあるか教えて貰っても宜しい?」


「各属性魔法の書籍と申されても、多種多様に御座いますのでお探しの本を具体的にお伝え願いませんか?」


「そうですね……八属性の初級から神級までの本を読みたいのですが、何処にありますかねぇ……」


「そちらの関係の書籍でしたら、この奥の階段を上って頂いて、三階に在る書籍がお伝え頂いた書籍になるかと思います」


 カウンター前に座る司書は左手で奥の方を指し示し、階段が在る旨を政和達に伝え尚且つ探している本がその階段を上って三階に在る事も同時に伝えた。


「分かりました。また何かわからない事があったら訊きに来ても良いですか?」


「はい。なんなりと」


「ありがとうございます」


 司書にお礼を言って、先程指し示された階段を目指し三階まで上っていくと、ところ狭しと本棚が並べられ、その棚には各種属性の本が各級別に並べられているが、特に初級に関してはツッコミどころ満載というか、各属性の初級本の背表紙には【これで、あなたも火の魔法使い!】とか【超簡単火の魔法が使える本】や【楽々簡単初級火の魔法使いに成れる本】と言った感じで、どこぞの大型家電量販店に在る書籍売り場かとツッコミを入れたくなったが、その中で一冊だけ他の本と毛色が違う本があり背表紙には【火の魔法の理・初級編】とだけ書かれており、何気に手にとって中身を確かめると、政和がイメージして居た通りの内容であり、他の皆にも各属性でこれと同じ本を探すように伝えると共に、政和も自分が居るエリアで、各級の本を集めていくと、他の皆も同じ様に各属性の本を集め終えた様で、現時点では一人一属性ずつ持っていて残り三属性も、政和、武志、カミューで集め、それを一階に在る広間に置かれた長テーブルに積み上げ、全員がちょっと一休みと言った感じで、椅子に座った。


「しかし、政和が示した本は、明らかに他の本とは毛色が違いますね」


「だのぉ。他の本は如何にも、どこぞの大型家電量販店の書籍売り場で売っている様なタイトルの物ばかりだったからのぉ」


「そうだね。僕なんかはタイトルを見た瞬間、破り捨ててやろうかと思ったくらいだからね」


「おお! 珍しく武志が過激な発言をしているが、実際にやらなくて正解だったぞ? 実際にやってたら結構問題に成ってたと思うから、我慢して正解だったな」


「うん……我慢して正解だったと思うよ、おかげで政和がいい本を見つけてくれたし、とりあえず、初級編から読んでみようよ」


「そうだな、じゃ各自初級編から読んでみて、気になった事はメモ……って言ってもメモする紙がないか……じゃ気になった事が出たら、その場で声を掛けるって事でいいか?」


 政和がそう締め括ると、各自が頷き同意の意思を示す。


 その後は各自で、初級編から読み始めるが、各自が初級編を読み始めて数分しか経っていないのに既に、船を漕ぎ始めている宏明の存在に気がついた、武志が指を使って何処かの海兵隊ばりの攻撃指示のサインを無言で送ってくる。


 豊と政和はそのサインをサインで了承し、手に持っていた本の背表紙を使い、武志、豊、政和の三人同時攻撃を食らい、宏明はようやく目を覚ました。


「お前らなぁ! 三人揃って分厚い本の背表紙で頭部直接攻撃は酷くないかのお?」


「シッ! 声がでかい! 図書館では静かにしましょうって習わなかったか? それに俺達が本を読みだして、数分も経たないうちに船を漕ぎ始めるっていうのが間違ってる」


「す、すまん……どうも昔からこういった分厚い本を読むと数分で寝てしまう癖があってだな……その影響だ。反省している」


「分かれば良い。次に寝たらそのまま、外に放り出すからな?」


「わ、分かったから、今度こそはしっかり読むから、そんなに怒らんでくれ……」


「なら良い。次は本当に容赦しないからな?」


 宏明を叱り飛ばしている間に、先程図書館に案内をしてくれたメイドが各属性の魔晶石と属性の無い魔晶石を手に持って戻ってきた。


「お待たせ致しました。こちらがご所望された魔晶石になります」


「あっ! ご苦労さん。その魔晶石はこのテーブルに置いてくれれば良いから、それと一つ訊きたいんだが良いかな?」


「は、はい。何で御座いましょうか?」


「俺が訊きたいのは、このテーブルに置かれた魔晶石の加工は、皇城内でやっているのか、それとも城下町の魔法具店でやっているかどっちだい?」


「魔晶石に関しましては、品質に依り皇城内で加工して使用する場合と城下町に在る御用達の店に売却する二つがあります」


「と言う事は、今ここにある物は、品質的にはいい方になるんだ?」


「左様で御座います。こちらにお持ちした物は、だいたい上の下から上の中位のものばかりです」


「ところで、貴女は魔法が使えるか知らないが、魔法を行使する際に何故魔晶石の付いた指輪を付けていなければならないか、その理由は分かるかい?」


「以前、魔法が使える者に聞いたところに依ると、属性の付いた魔晶石の指輪を付けていないと、魔法自体の威力も弱い上に、余計に魔力を消費するとか何とか聞いた事がございます」


「なるほどね……ありがとう。だいたいの事は分かったから、元の仕事に戻っていいよ」


「はい。また何か御座いましたらお呼びください」


「ああ。そうするよ。ご苦労さん」


 メイドに礼を言って下がらせた政和は、テーブルの前に座っている全員に向き直り口を開いた。


「と言う事らしいけど、どう思うよ? 魔晶石を付けなければ、魔力の消費が多い上に威力も小さい……だけど魔晶石を付けると、消費魔力が少なくなり、威力も強くなるって……家電で言えば、コンデンサとブースターって感じがするんだよな……あと別の言い方をすれば、プログラムのバグに対しての修正パッチって役割だな」


「なるほどのぉ……政和の言う通り家電的な考えれば、それが相応しいだろうしプログラミング的に見れば、バグに対した修正パッチとも取れるのぉ」


「政和の言う通りですね……私もプログラム的な発想すれば、バグのあるプログラムに対して修正パッチを当てたって感じですね」


「僕から言うと、リコール寸前の車の持ち主に対して、宥めすかして点検ですと言ってこっそりと部品交換をしました的な感じもするけどね」


「そう言えば、かなり昔にMが付く大手自動車会社が、リコール隠しをやって大問題になった事があったなぁ」


「うんうん。僕の感なんだけど、この世界の魔法の理は、皆が言うモノに告示するんじゃないかと思うよ?」


「なるほど……んじゃ、ちょっと試してみるか」


 政和がそう言うと開かれた本に書かれている魔法陣の上に手をかざしながら、珍しく詠唱を唱えだした。


『我、マサカズ・ウチダの名において命ずる。魔法の理を示せ! ――【ソース表示(ビュー・ソース)】――』


 詠唱が終わり魔法が発動すると、空中には如何にもエディタを使った表示と言わんばかりの、薄緑色に縁取られた表示窓が出現しそれをみんなが見える様に向きと表示位置を変える。


「さてと、かなり中二臭のする詠唱をしてまでソース表示を行ったんだが、当然、豊ならこれを見て分かるモノがあるだろう?」


「そうですね……一見すると明らかにプログラム言語ですよね? しかもC++で書かれてますよね?」


「ああ。そうだ。しかもろくにデバックすらやってない、バグだらけのな」


 また政和は説明しながら詠唱をする。


『我が名において命ずる。世界の炎よ我が指に炎を灯せ! ――【着火ライター】――』


 続いてそのまま、先程のソースを表示した詠唱を開始しそれを終えると、また同じ様にソースが窓表示される。


「この魔法は、この間、宏明が唸りながら成功させた魔法なんだが、この火の魔法の本の初級の魔法と何ら変わらない。だが、二つのソースを良く見比べて欲しい。俺の方とこの本の方バグがあるのはどっちだ?」


 プログラム言語に対しての知識が、かなり追いつかない宏明と武志は、まるで間違い探しをするかの様に二つのソースを見比べていく。

 豊は豊で、今まで培ってきた知識を持ってバグを引き起こす原因となっているコードを探していく。


 幾ばくかの時間が過ぎた時頃に、三人が一斉に「「「あっ!」」」と声を挙げた。


「ようやく気が付いたか?」


「はい。政和の魔法のソースとこの本の魔法のソースを見比べて、よく分かりましたよ。特にここ、発動命令指示の後の魔力消費の演算系が間違っているのと、威力数値の設定が異常に低く指定されていますね……それから他にも幾つかバグに絡みそうなコードが見受けられます」


「だのぉ……儂と武志のプログラム知識は政和と豊の足元に及ばないが、それでも昔BASICを使ってゲームを作ったかいがあったのか、それとなく違うんじゃないかと思える程度のモノは、分かった」


「僕も宏明と同じだね」


「で、こっちが、加工された火属性の魔晶石のソースだ。これも含めて見比べてみると良い」


 言われた通りに見比べる三人……暫く経ってから盛大に溜息を吐いたのは、豊だった。


「これって完全にバグ修正パッチじゃないですか!? この魔法のソースだけだと威力減加えて魔力消費増! そうなれば属性魔晶石と言う名のバグ修正パッチを使うのも当たり前ですよね……」


「確かに、豊の言う通りなんだが、俺としてはまだ引っかかる部分があるんだよ」


「と言うのはどう言う事ですか?」


「俺達は、ユアンの土系攻撃魔法を見ているよな? あの時何級とは言ってなかったが、明らかに弱すぎるんだよ」


「あぁ……確かに言われてみればそうですね」


「だのぉ。一応は足止めにはなっていたが、見た目かなり弱いと思ったのは間違いない」

「うん。僕から見ても、あの魔法が仮に初級の初級ですよ。と言われたら素直に信じるくらいの弱さの魔法攻撃だったよ」


「じゃ、皆に一つ質問をするが、魔法を行使する時に何故詠唱を必要とするのか、その答えの解る奴はこの中にいるか?」


 図書館のテーブルの前に座っている全員の顔を見渡しながら政和は質問したが、皆一様に顔を横に振るだけで、誰の口からも答えは発せられる事は無かった。


「魔法をメインとして使う武志すら解らないか……まぁ、これは飽く迄も俺の推測でしか無いが、詠唱を行う事に依って行使する魔法のイメージ固めを行っているんじゃないかと思うんだ」


「それはどう言う事?」


「例えば、俺がさっき使った【着火】の魔法だって最初からライターのイメージが頭の中で出来上がっていれば、無詠唱で発動させる事も可能になるし、以前武志が使った【ファイヤーボール】だって、撃ち上げると言う意味のイメージと打ち上げ花火が上手く組み合わさったからこそ、空中で大きな爆発音とおまけで小さな花火が散る音まで付けたんだろ?」


「うん。そうだね……政和の言う通りで目立たせる為と打ち上げ花火が頭の中に自然とイメージとして浮かんできて、空へ向けて撃ち上げたらまるで打ち上げ花火みたいになったんだよ」


「武志に訊くが、その時わざわざ詠唱はしてなかったよな?」


「うん。全くの無詠唱だったよ」


「なっ? 詠唱はある種の言霊でもありイメージ作りの自己暗示みたいなモノだと俺が考えるが……その他にも色々な要素があると思うけど、俺として一番驚いたのが、魔法陣をソース化出来る事だな……」


「政和が魔法陣をソース化した時は驚きましたが、今こうやって幾つもの窓を見せられていると、如何にもって感じになりますよね……」


「確かに……如何にもって感じになるが、正直言ってこのバグだらけの魔法陣のソースを見ていると、本気でPCパソコンが必要だと思うのと、出来ればサーバとDBデータベースも構築してコンパイルしてやらんとだめかもな……」


「政和の言う通りだの……今後の事を考えるとPCの一つでも欲しいところじゃの」


「ですね……でもPCを作るって言ってどうやって作るんですか? 自作PCを作るにしてもパーツはありませんし、それにOSオペレーティングシステムなんかはどうするんですか!? OSからパーツまで作るって言ったらかなりの労力が必要になりますよ!?」


「まぁまぁ、豊も抑えたらどう? 政和にそれなりの考えがあると思うから、それを聞こうよ?」


「武志が、そう言うなら抑えますよ……」


「それで、政和にはどう言う考えがあるのかな?」


 珍しく武志が抑え役になり豊を宥めた後、政和の話に水を向ける。


「じゃまた実演した方がいいな? 『我が叡智えいちの書に命ずる。火魔法の理・初級編を読み込め! ――【読み取り(スキャニング)】――』」


 政和が手に取った属性のない魔晶石を本の上にかざすと、魔晶石が青白く光るのと同時に本の表紙から高速で捲られて行き最後に裏表紙を読み取ったところで魔晶石の光が収まる。


「これで多分上手く行った筈だと思うが……【ブック】」


 火の魔法の理・初級編を読み取った魔晶石をテーブルの上に置き、政和はそのまま簡単な詠唱をすると、約二十三インチサイズのディスプレイ窓が表示され、先程読み取った本の表紙が表示されると、まるでタブレット式ディスプレイそ操作するかの様に、指を横にスライドするとページが捲られ本の内容が表示される。


「おぉ! 大したものだのぉ」


「政和。その魔晶石に記録できるのはどのくらいの容量になりますか?」


「そうだなぁ……魔晶石自体が小さいから、多分多くても八ギガくらいのUSB程度じゃないかなと俺は思ってる」


「でも、簡易的とは言え、ここまで出来れば凄いものだと思うよ?」


「そうじゃのぉ、先ずは始めの一歩と言ったところかの?」


「そうだな、何でもかんでも簡単に出来れば苦労はしないが、先ずは始めの一歩だな……後はこの先どう転がして行くかが、問題だけどその辺はゆっくりとやって行こう」


 その後、男五人であーでもないこーでもないとやっていると、シェリーがミュアにエリザベートとエリアスを引き連れて、政和達の居る図書館へやって来てテーブルの状況を見ると『まぁ! 何と言う事でしょう!』と声を挙げ、政和の手に依って魔晶石の上で薄緑色に光る窓を見て驚き、そしてその横では本の内容が浮かび上がっている状況を見て『これ全てマサカズ様がやった事でしょうか?』と訊き、政和も別に隠す必要が無いと思ったらしく素直に返事をしていた。


「この薄緑の枠に囲まれて書かれている文字は、マサカズ様達が居た所の文字でしょうか?」


「いや、この文字は英語と言って俺達の居た所の第二言語として使われているモノだけど」


「第二言語と言うと、いくつも言語があるという事でしょうか?」


「正確に言えば、俺達が住んでいた所は日本と言って、主言語が日本語で二番目に使う言葉が英語と言う言語で、英語は俺達の居た世界の共通言語として使われていたんだよ。因みに日本の総人口は約一億三千万人程だったかな? 中にはこの十倍の人口がいる場所もあるけど、俺達の居た所はそんな感じかな?」


「や、約、い、一億三千万人ですか!? 我が国の総人口を軽く凌駕りょうがしてますよ!」


「うん、そうなるかな?」


「マサカズ様達もそんな所に居たのでは、色々と大変だったのではありませんか?」


「時と場合に依っては大変な事もあったけど、便利なこ事もあったしどっちもどっちかな? って俺は思うけど」


「政和の言う通りで、時と場合によりけりでしたね」


「強いて言えば、夜中でも店が開いてると言う便利さは有りがたかったのぉ」


「うんうん。夜中に小腹が空いたからって気軽に買いに出掛けられたしね」


「だなぁ……俺と豊なんかはデスマーチ中の時は、いっつもお世話になってたしな」


「そうですね……ついでに良く政和に使いっ走りさせられましたけどね?」


「こらこら! おまっ! そのジト目を止めろって何度言ったら分かるんだ!」


「いえいえ、これは私の普通の状態ですからお気になさらずに」


「いいやっ! お前絶っ対に! 俺に使い走りをさせられた事を根に持ってるだろう?」


「いいえ。政和の気の所為ですから決して、い! ま! だ! にー! 使いっ走りさせられた事を根に持ってるなんて事は、あ! り! ま! せ! ん! か! らー!」


「もういい……お前完全に根に持ってる事は十分に分かった……ここで豊とウダウダやっていても仕方がないから、さっさと片付けるか」


 場の空気が変な方向に向き出した事を感じ取った政和は、空中投影されている表示窓を【閉じる(クローズ)】と念じて、全て閉じてから、全ての魔晶石と山積みになっている本をアイテムボックスに突っ込むと、カウンター前に座っている女性司書に本を借りて行くことを告げる。


「そう言えば、エリー達は何しにここに来たんだ?」


「ああ! そうでした。うっかり忘れるところでしたけど夕食の準備が出来ましたって政和さん達に伝えに来たんです」


「それじゃ、かなり待たせてしまったかな?」


「いいえ。そんな事ありませんから大丈夫ですよ」


「そう言えば、今思い出したけど、冒険者ギルド本部での登録時は結構凄かったぞ」


「と言うのはどう言う事でしょうか?」


「単純に言うと、全員魔法は八属性全て適正があって、その他に大型の魔道具を使っても、俺達全員の総魔力量は計りきれなかった」


「その話は本当でしょうか?」


「エリーザに嘘を言っても意味ないし、ついでに言うと本来はFランクからのスタートらしいけど、俺達全員は特例でDランクからのスタートになったよ」


 そう言いながら政和達はポケットに仕舞ってあったギルドカードをエリザベートやエリアスにシェリーに見せると、三人三様で驚いており特にシェリーとリザベートは『『皆様は本当に凄い方達なんですね』』としきりに言っておりエリアスも『Dランクからのスタートおめでとうございます』と言っていた。


「儂らも政和の()()の領域に入ってしまったんだがの」


「確かに、政和の大概の領域に私達も入ってしまいましたね……」


「うん。僕も政和と同類になるとは思っても見なかったよ」


「お前らなぁ! 人をさっきから化け物扱いしやがって! お前らだってこれからその大概さをとくと味わう事になるんだぞ? 覚悟しておけよ?」


「「「いやいや、『儂』【僕】[私]は、まだまだ政和の足元に遠く及ばない『のお』【よ】[ですよ]」」」


「はいはい! その話はよく分かったからいつまでもこの場で固まっていても仕方がないぞ? いい加減腹も空いたし夕食を食べに食堂に行こうぜ!」


 政和のその言葉に、全員が空腹と言う言葉に勝てる筈も無く、素直に図書館を後にし皇族専用の食堂に向かう一行であった。

 いつもお読み頂き誠にありがとうございます。

 今回のお話は如何でしたでしょうか? 毎回色々と試行錯誤しながら書いており少しでも読んで頂ける方にとって、読みやすくなれば良いと思っておりますので、これからも『虹翼の翼 ~四人の元おじさんの異世界冒険記~』を宜しくお願い致します。


 そして、何時もの事ですが、皆様のご意見ご感想に駄目出しをお待ちしております。


 次話予告

 第08話「夜襲」2014/04/27 更新予定です。


※2014/04/19 誤字と一部細かな記述の修正と加筆を行いました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ