表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹翼の翼 ~四人の元おじさんの異世界冒険記~  作者: Balon
第一章 エリュシオーネ皇国編
6/10

第05話「謁見そして女神降臨、エリアス、エリザベートは俺の嫁!?」(後編)

 前回の予告で本日の昼には更新すると書いていたのですが、更新が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。


 今回は説明口調の文が多くなってしまいましたが、前話の後編となります。

 毎度の事ながら読み難い作品かもしれませんが、少しでも読んで頂けたらと思っておりますので宜しくお願い致します。

 一服をし終えた俺と、宏明は吸い殻を携帯灰皿に捨てるとそのまま《虹翼の翼》を広げ茜色に染まりだした空へ舞い上がり、宏明が先導する様な形で宏明が飛び出したテラスへ向けて皇城の上を飛び、約五分ほど飛行をすると、テラスで手を振って如何にも俺達の帰りを待ちわびていました。


 と言う雰囲気を醸し出しながら、俺達に手を振るミュアとシェリーさん――その後ろに、控えめに立つカミューの姿も見て取れた。


 やがて宏明が飛び出たテラスに到着すると、先ず最初に宏明が降り立ち続いて俺も降り立つと、カミューとミュアが揃って『お帰りなさいませ「ご主人様」旦那様』と、いつもの挨拶をし、シェリーさんも『お帰りなさいませマサカズ様、ヒロアキ様』と声を掛けて迎え入れてくれた。


 俺が、カミューやミュアに俺が飛び出していった後の事を訊くと『旦那様が出て行かれた後は、それはもう皆様は大慌てとなり、特に皇王陛下とエリザベート様はかなり気落ちされて居られました』とカミューが、俺が部屋を飛び出して行った後の事を説明してくれた。


 これは飽く迄も俺の推測でしか無いが、皇王もエリザベートと共に自分達より上の立場の人間から、頭ごなしに怒鳴りつけられる様な事が無かったのだろうし――特に皇王はこの国のトップであり、君主なのだから余計に気落ちするのも分かるし、エリザベートも今迄きつく怒られたと言う事が無かったのだろう。


 明日になって、この二人がどの様な回答を出すかは、今のところ俺には分からない。

 だが、俺が怒る原因となった、二人が揃って命を俺に差し出すと言う言葉は、そんなに軽い言葉ではないし、軽々しく口に出して良い様なモノではない……だからこそ俺はあの場で怒り、部屋を飛び出した。


 二人が、今回の事で本当に反省してくれたのなら良いが、もしそうでなかった場合、話が余計に拗れる事になるだろうし、最悪本当の意味で断頭台送りになる可能性もある。


 俺は、二人がそうなって欲しくないと、本気で考えているし、何よりも臣下や臣民に慕われている二人だからこそ、命を粗末にして欲しくない……と、そんな事を考えているとふと、カミューが俺に声を掛けてきた。


「旦那様は、お二人の事を気にされている様ですが、答えは明日になるまで皇王陛下とエリザベート様以外には誰も分かりません……ですので旦那様がこの場でお二人の事を考え気に病んでいる事がわたくしには辛いのです」


「カミューにも、余計な気を掛けてしまったな……すまない」


「いいえ。あるじの事を考えるのも私どもの務めで御座いますので、旦那様が気に病む事はございません」


「そうか……カミューありがとうな」


「あの……大変申し上げに難い事なのですが、エリアス様もマサカズ様の事を大変心配されて居りましたので、出来ましたら先程お通しした待合室までご足労願えませんでしょうか?」


「そうだったのぉ、政和、早くエリアスさんの所に行って顔を出して安心させてやれ」


「そうだったな……先ずはエリアスさんに謝るのが先だな。と言う事で申し訳ないけどシェリーさん、さっきの待合室まで案内してくれるかな?」


「はい。畏まりました」


 シェリーは返事を返しながら後頭を下げた後、テキパキとした動作で踵を返し俺達を最初に通した待合室へ案内をしてくれ、待合室の扉の前に着くと軽くノックをし『あの……エリアス様……マサカズ様がお戻りになりましたので、お部屋にお通ししてもよろしいでしょうか?』と扉越しに声を掛けると、エリアスが自ら扉を開けてくれたのか、待合室の扉が開くのと同時に、バフン! と言った表現で良いのだろうか? そんな音と衝撃と共にエリアスが俺の胸に飛び込んで来た。

 本当に俺の事を心配をしたのだろう目を赤く腫らし、薄っすらと涙の跡が残った状態で俺の胸に抱き着いていた。


「本当に心配したんですからね! いきなり怒って部屋を出て行ってしまってずっと戻ってこないし……」


「エリアスさんには、心配を掛けてしまって本当にごめんなさい」


 俺はそう言いながら、エリアスの頭を撫でるだけしか出来なく、周りは周りで気を使って、宏明は『儂はちょっと煙草を吸いに外に行ってくる』と言い残してスタスタと廊下を歩いて行くし、カミューとミュアも『私達もシェリーさんのお手伝いをしてまいりますので、暫くの間ここを離れる事をお許し下さい』と言って、これまた同じくシェリーさんと一緒に何処かへ行ってしまった。


 俺はエリアスに抱き着かれた状態で取り残され……いったいこの状況どうすれば良いんだと、エリアスの頭を撫でながら考えていると『政和さん部屋に入ったらどうですか?』と言われ、この場で逆らう訳にも行かず言われた通りにエリアスと共に部屋に入り、俺は何処に座れば良いんだと考えていると、先に部屋に入り長ソファーに腰掛けていた彼女が手て自分の隣の場所を手でポンポンと叩きながら『政和さんはここに座って下さい』と座る場所を指定され……自分のバツの悪さと若干の気恥ずかしさを紛らわす為に、若干俯きながら右手で頬を掻きエリアスの隣の席に座る。


「政和さん! 今迄何処に行っていたんですか?」


「え、えっとですね……頭をクールダウンする為に、皇城の屋根の上で煙草を吸いながら、少し宏明に愚痴を聞いてもらってました」


 そんな風に若干どもりながら、言い訳っぽく話すと、エリアスさんにいきなり頭を掴まれて横倒しの状態にさせられる。

 俺は、エリアスにいきなり横倒しにさせられ何が何だか分からない状態で居ると、頭の上の方から彼女の声が聞こえ『本当に心配したんですからね! 私にあまり心配を掛けさせないで下さいね』と言いながら、俺の頭を撫でる彼女の手の感触があった。


 まさかエリアスにいきなり膝枕をされるとは思わず、驚きと共に実際にされると本当に恥ずかしく感じ、慌てて起き上がろうとしたが、エリアスの手に依って頭と方を押さえつけられ『暫くの間こうしてて下さい!』と言われてしまっては、起き上がる事もできず、大人しく彼女のなすがままにされる……


「政和さんが、戻ってきてくれて安心しました……私は政和さんが出て行ってから戻ってこなくなるのではと、本当に心配したんですからね」


 俺はエリアスに膝枕をされながら、ただ、ただ、謝る事しか出来ず、彼女に本当に心配を掛けてしまったと言う事を、しっかりと反省させられた。


「で、政和さんはどう考えているんですか?」


「どう考えていると言うのは、どういう意味ですか?」


「政和さん達へ対する皇王チャールズへの罰ですよ?」


「ああ、その事ですか……俺自身はあまり罰を与えたいとは考えてないんですよ……出来れば上手く丸く収めたいって考えているんですが、それじゃ甘いですかね?」


 俺の髪の毛に指を通しながら『私の政和さんは優しすぎますからね……多分そう答えるんじゃないかと思っていましたよ』彼女は、俺と二人だけしか居ない部屋で少し自慢するかのような口調で言う。


()()って……エリアスさんが俺に嫁ぐ事は既に決定事項みたいじゃないですか!」

 

 と、若干抗議口調で言うと『当然じゃないですか』と言葉が返ってき、彼女なら良いかと、思いそのまま流す事にした。


「まぁ、明日皇王陛下とエリザベート様が答えを出すでしょうから、二人の話を聞いてから、沙汰を下す事にしますよ」


「そうですね。それが一番いいともいますし、多分私の感では政和さんがまた怒る様な答えは帰ってこないと思いますよ?」


「その心は?」


「女神の感ってやつでしょうかね?」


 と言って、クスッと笑う彼女の笑顔は本当に可愛らしいって、恥ずかしながらそう思ってしまった俺がここに居ます……


「そういえば、エリアスさんは、豊と武志は何処へ行ったか知りませんか?」


「政和さんが部屋を飛び出した後、政和を探すって言って、それっきり見掛けてませんけど、何処に言ったんでしょうかね?」


「大方、あの二人の事だから、この広い皇城の中で迷っている可能性もありますね」


「豊さんと武志さんって方向音痴だったりしますか?」


「あの二人は、方向音痴とかではないかと思いますが、俺達が居る皇城はやたらと広すぎるので多分何処かで迷っている可能性があるんですよ……俺でさえこの部屋までの道を完全に覚えきれてませんでしたし……」


「はぁ……そうなんですか……建物が大き過ぎるのも難がありますね」


「確かにそうですね……と言うか、エリアスさんはいい加減お腹が空きませんか?」


「言われてみれば、そうですね……」


「俺達なんかは、昨日? からまともな食事を摂ってないので、いい加減お腹が空きまくりなんですよ……」


「政和さんが、餓死する前に皆さんが戻ってきてくれるといいんですけど……」


「と言うか、この状況でこの部屋に戻って来られたら、かなり恥ずかしいですよ?」


「あっ! そうでしたね」


 と言って、ようやく俺の髪を指で遊ぶのを止めたエリアスが、俺の肩を押し上げて起こしてくれると、手櫛で軽く髪型を整えてくれその後は、一度立ち上がり他に乱れているところが無いか、軽くチェックをし大丈夫そうなので、初めてこの部屋に来た時と同じ場所に座り直し、テーブルに置かれている呼び鈴を鳴らし、メイドを呼びお茶を頼むと、呼んだメイドに食事と湯浴みはどうするのかと訊かれたので、食事は他の皆が戻ってきてから食べると伝え、湯浴みは食事の後にすると伝えると『畏まりました。只今お茶のご用意を致します』と言って、頭を下げたあと部屋を出て行った。


「エリアスさん、ちょっとボイスチャットで皆を呼んで見たほうが良くないですか?」


「そうですね。じゃ、政和さんお願いしますね」


 彼女にお願いされると、早速ボイスチャットで皆に声を掛けた。


「ごらぁ! いま待合室に居ねえ奴はぁどごにいるだぁぁ?」


 若干、なまはげ風な感じでボイスチャットで皆に呼びかけると、銘々に返事が返ってきて、これから戻るということなので、皆が戻ってくるのを待つとする。


「エリアスさん、と言う事らしいので、暫くは待ちの状態ですね」


「そうですね」


 その後も、彼女と他愛もない話をしながら待っていると、先ず最初に戻ってきたのは、カミューと、ミュアで、その次は宏明、で残りの二人はと言うと、案の定皇城内で迷っていたらしく、皇城の騎士に連れられて戻ってきた。


「ようやく、みんなが戻ってきたし、食事となる訳なんだが……食事は食堂で摂るらしいけど、皇王家は一緒じゃないらしい」


「それはどう言う事ですか?」


 豊が訊いてきたので『夕食を一緒に摂らないのは、昼間の事が尾を引いてるじゃないかと思う』とだけ説明しておいた。

 これに関しては、他の皆も俺と同じ様な感想を持っていたらしく、今日は一緒に食事を取ると言う雰囲気にならないだろうと、予想していたようだ。


「取り敢えずは、先に夕食を摂ろうと言う話に纏まり、先ほどと同じ様に呼び鈴を鳴らし、メイドを呼び食堂までの案内を頼むと、食事は後宮に在る食堂で摂る事になっているらしく、俺達の寝泊まりをする客間もそちらの方になると言う事で、案内のメイドの後に、ミュアを先頭に、カミュー、武志、豊、宏明、俺、エリアスの順でゾロゾロと付いて行き、食堂に着くとここでもエリアスと俺が、上座に座り、両サイドに宏明や豊に武志、カミューにミュアが座ると、先ずは何の酒かは分からないが、比較的口当たりのいい食前酒が出され、それを飲んでいると前菜とスープにパンが並べられると、皆も結構腹が減っていたみたいで、マナー的にそんなに崩れて見えない様感じで、結構がっついて食べていたのは、言わずもがなでその後に出されたメインディッシュも何の肉かは分からないが、柔らかくそこそこ塩と香辛料が効かされた肉で、味付けも俺達日本人が食べても何ら違和感を感じないもので、流石皇城の食事だと感心させられ、最後に出されたデザートも、柑橘系を主体としたフルーツ盛り合わせの様な感じのデザートで、これも皆も見事に完食し、食後のお茶を飲んで、少しマッタリし後に各自客間に案内されたのだが……そこで俺はかなり驚かされた。


 と言うのは、俺達一人一人の部屋の広さで、俺とエリアスが、天蓋付きのキングサイズのベッドが一つ置かれ、その他に大型のクローゼットにタンスに机とソファーセット、勿論皇城内の待合室にもトイレは在ったのだが、後宮の客間にもきちんとトイレは備え付けられており、トイレの為にわざわざ部屋の外に出ていく必要がないのは大助かりであり、下手に部屋の外に一人で出て勝手の分からない後宮内で迷子になってしまっては元も子もない上に、昼間皇城内で武志と豊の二人が迷子になった事は記憶に新しい出来事で、部屋にトイレが備え付けられている事は、俺を含めた皆に取っても喜ばしい。


「ところで、豊と武志、お前ら二人して何で皇城内で迷ってたんだ?」


「……い、いや……何というか、実はトイレを察がしていて、それで二人で迷っていたんです」


「うん……面目ない」


「お前らなぁぁ!! トイレなら待合室内に在ったろうが! マジで迷う前にメイドに訊くか、皇城内に居る騎士に訊けば良かっただろうに! 大の大人が子供じゃないんだからトイレを探していて迷いましたなんて、他の人間が聞いたらマジで呆れるぞ? 取り敢えず皇城内や後宮で迷ったらそこら辺に居る騎士やメイドとか執事に訊け! 良いな? 分かったか?」


「「はい……分かりました」」


 豊と武志の二人揃って反省の言葉を口にしたので、これ以上は言うまいと頭を切り替えて、暫くの間厄介になるだろう俺達の部屋を改めて見て回る事にしたのだ。


 俺達が使う部屋の内装は派手さはないが、部屋の広さが五十畳はあるんじゃないかと思える様な部屋で、まるで何処かの高級ホテルの一室様な感じであり、宏明や豊に武志も似た様な感じで、カミューとミュアも俺達の使う部屋と比べると若干狭くはなるが……と言っても俺達の部屋と比べて約十畳ほど減って四十畳くらいになりましたよ? って程度なのでそんなに大差はないと感じられたが、それでも一人一人に与えられた部屋の広さに、ただ驚愕するしかなかった俺達日本人は口々に『本当にこんなので良いのか!?』と口にしていた……


 あと風呂だが、風呂は大浴場として後宮地下に在り、当然男女別の大浴場であるが、何やら最初から混浴の風呂を想像していた奴(豊と宏明の二人)が居た様だが、それを華麗にスルーをしメイドの案内で早速みんなで風呂に入りに行くと、その大浴場の入り口には、きちんと男湯と女湯と書かれた木目を活かした木の板で出来た看板が下げられており、男女で間違えない様になっていたのだ。


 そして、今回案内された大浴場の入り口に男湯と女湯と書かれた看板を改めて見た、俺達日本人にはある意味強烈なインパクトを与えていた事は言うまでもない上に、もし仮に入り口の看板が唯の男女を分ける為だけの看板ではなく、純粋に青と赤で色分けされた暖簾のれんで温泉マークと男湯と女湯なんて書かれている物だったら、俺達は盛大に『此処ここ何処どこの温泉旅館だよ!?』と総ツッコミを入れていた事は間違いないだろう。

 俺は、そんな風に考えながら、軽くもない口を開いた……


「なぁ……風呂に入る前に悪いんだけど、此処が自分達の居た世界(日本)ではないのは理解しているけど、入り口の看板を見て、俺の気の所為かも知れないけど、何と無く何処かの温泉旅館に来ている様な気がするのは俺だけか?」


「んにゃ、儂も政和と同じ様な気がする」


「私も、政和と同じ気にさせられてますよ」


「うん。僕も同じだね」


 その中で、いち早く俺達が疑問に思っている事の真偽を確かめるかの様に、豊が一緒に居たエリアスに質問を繰り出した。


「あの、エリアスさん。一つお尋ねしたいのですが、いま私達がいる世界って間違いなく、エリアスさんが管理されている世界なんですよね?」


「ええ、間違いなくこの世界は私が管理する世界で間違いないですよ」


「そうですか……いや、私達の共通認識なのですが、この大浴場の入口の看板を見て、元々私達の居た世界の、保養施設と言えば良いのでしょうか? そう言ったモノに余りにも似ていたので、一応確かめる意味で質問をさせて頂きました」


「そうだったのですか、豊さん達が居た世界でもここの大浴場と似た施設が在ったんですね」


「はい。私達の居た世界では、温泉とか銭湯と言っていました」


「おんせん? せんとう? その二つはどう言ったモノなのでしょうか?」


「温泉は、火山地帯と言って理解されるか分かりませんが、簡単に言えば火を噴く山の熱で地下に在る水が暖められ、地上に噴出したお湯の事を、私達は温泉と言っており、それには様々な効能が――」


 豊の薀蓄うんちくが暴走し始めたのを、速攻で察知した武志が慌てて豊の言葉を遮るかの様に、大声で口を利き無理やり豊の暴走を阻止する。


「ああぁぁぁ!! 大浴場の入口の前で長話も何だから、早くお風呂に入りに行こう!!」


「おお! そ、そうじゃの! 早く風呂に入ってゆっくりと疲れを取りちゃいものだ」


「だな! ほらっ! 豊も温泉の薀蓄を垂れ流してないで、サッサと風呂にはいるぞ!」


 そう言いながら俺と宏明で豊の両腕をガシッ! っと掴みカミューが両足を持つがその時に若干足をバタつかせていたが、無理やり押さえ込んだらしくそのまま男湯に強制連行する。

 その際に『ああぁぁ!! 私がする温泉の話はこれから面白くなるのにぃ~~!!』などと言葉を発しており、それをスルーし無理矢理にでも止めないと、いつまで経っても話が終わらなくなるので強制終了させてやった。


「エリアスさんすみません。普段の豊は暴走することは無いのですが、温泉の事で暴走し始めると止まらなくなるので、政和と宏明に依って強制終了させて頂きました」


「はぁ……そうなんですか……まぁ、何がなんだか良く分かりませんでしたが、今度政和さんに”おんせん“と”せんとう“について訊いてみますね」


「はい。そうして下さい。では、僕も男湯の方に行きますので、エリアスさんもごゆっくり」


「はい。ありがとうございます」


 一方、政和と宏明に依って両腕を捕まれカミューに両足を持たれ無理やり男湯の脱衣所に強制連行された豊は、政和に依って正座をさせられた上に拳骨げんこつを頭に食らわされ、コブが出来た辺りをさすりながら説教を聞かされていた。


「お前って奴は、昔から温泉の話になると途端に暴走し始めるから、強制終了させないと止まらなくなる上に、折角大浴場を楽しみにしていたエリアスさんにも迷惑が掛かるだろうが! 暫くそのまま正座して反省してろ!」


 男湯の脱衣所で俺に依って正座、拳骨、説教の三連コンボを食らった事で反省をした様子を見せた豊は『申し訳ないです』と言って俺達に謝っていたが、その謝罪はエリアスにしてほしいものだと俺が思っていると、武志が脱衣所に入ってきたので、豊に対するお仕置きはここまにして立ち上がらせる事にし、エリアスへの対応をさせてしまった武志に声を掛けた。


「武志、エリアスさんへの対応をさせてしまって申し訳ない」


「ううん。あの場で豊を無理やりにでも止めておかないと、本気で暴走するから二人が無理やり豊を脱衣所に引きずって行ってくれて助かったよ」


「そっか、武志がそう言ってくれるだけでも俺の方も助かる。で、俺達が脱衣所に入って行った後に、エリアスさんは何か言ってなかったか?」


「ううん。大した事は言ってなかったけど、今度政和に温泉と銭湯について詳しく聞かせて欲しいだってさ」


「まぁ、温泉は良いとしても、銭湯は街中の公衆浴場だって言えば片がつくんじゃないか?」


「そうだね。温泉についての説明は、豊にさせるとさっきみたいになるから、政和がエリアスさんに説明するのが一番いいと思うよ」


「了解! 温泉と銭湯については、今度説明しておく」


「うん。頼むよ」


「おおい! 武志と政和、いつまでも話をしてないで、早く風呂に入らないか?」


「あっ! すまん! 風呂にはいるか――と言う事で服を脱ぐからヴェルドラードは一回俺の肩から下りてくれ……但し俺が裸の状態で肩に掴まるなよ? お前の爪が食い込んで大量出血しかねないからな」


 ヴェルドラードにそう言うと『承知した』と言い、ミニマムサイズの身体で翼をバタつかせながら俺の肩から脱衣所の床へと下りた。


 そして、俺達は脱衣所の棚に置かれている籠に着ていた服と下着を入れると、大浴場に来る前にメイドから渡されたタオルもどきを腰に巻くと、ミニマムサイズのヴェルドラードを抱えて浴室の扉を開けて入って行くと、ほぼ全員で『おおぉぉ!』と言う声が上がり、先ず浴室の広さに驚き次に浴槽の大きさに驚く感覚的には、俺達の知っている街中の銭湯の広さとは比べ様がない上に人数を気にしなかったら、余裕で百人近くは入れるんじゃないかと言う感想と共に某有名物置メーカーのテレビCMが頭を過ったのは多分俺だけではないと思わせるモノだ。


 そして宏明なんかは『でけぇぇ~!!』とか大声で騒ぐし、豊や武志も一緒になってソワソワしているしで『お前らはどこかのお子ちゃまか!』とツッコミを漏れ無く入れておいた。


「おまえらなぁ、湯船に入る前にきちんと身体と頭を洗ってから入れよ! 子供じゃないんだからそこら辺は、きちんとわきまえろよ! カミューなんか見ろ、きちんと入る前に洗ってるぞ?」


 実はこのメンツの中では一番落ち着いていたのは、カミューでありあの風呂嫌いだったカミューが、獣人化した所為できちんと出来る様になったんだなと、お父さん感動モノだよ! と心の中で呟いてしまった俺である。


 カミューのそんな姿を見せ付けられた他の三人は、一旦はしゃぐのを止めて素直に身体を洗いに向かったので、俺もと思い湯を風呂桶に溜め腰に巻いていたタオルもどきを解き、石鹸を擦り付けて、さて洗おうかと言った段階になった時に、カミューが側まで来て『旦那様お背中をお流し致しましょうか?』と訊いてきたので、無碍に断るのも何だと思った俺は、じゃ背中だけ頼むと言って背中だけ洗い流してもらい、その間ヴェルドラードも初の風呂と言う事でミニマムサイズの状態で洗ってやり風呂家のお湯で泡を流してやると、ブルブルと水飛沫みずしぶきをたてさせながらミニマムサイズの身体を震わせていた。

 

 ヴェルドラードを洗ったタオルもどきを、一度風呂桶に溜めた湯で濯ぎ再び石鹸を擦り付け泡立てると、背中以外を洗い再び風呂桶に溜めた湯でタオルもどきを濯いでから固く絞り、三度みたび風呂桶に湯を溜めそれを一気に頭から被り全身の泡を流し最後に念の為、もう一度風呂桶に湯を溜めまた同じ様に頭から一気に流してからヴェルドラードを小脇に抱え、風呂桶を手に持ち浴槽に行き湯を風呂桶に溜めるとその風呂桶にヴェルドラードを入れてやり、そのまま湯船の上に風呂桶を浮かせてやり、俺も湯船に浸かると今日一日の疲れが一気に吹き飛ぶような感覚になるのは、流石風呂好き日本人だと改めて感じさせられるのと同時にミニマムサイズのヴェルドラードは、風呂桶の湯船が気に入ったのか前足を桶の縁に乗せ気持ちよさそうな顔をしながら、風呂桶ごと俺の近くでプカプカと浮かんでいる姿が何とも可愛く感じられた。


「しかし、こうやって広い湯船に浸かると、本当に一日の疲れが吹き飛ぶような感覚になるよな?」


「ですね……本当にこうやって湯船に浸かっていると、あぁぁ極楽極楽って言いたくなってしまいますよね」


「そうだのぉ……見かけは二十歳以上若返っておるが、中身は四十六歳のおじさんだからのぉ……そんな風に言いたくなるのも、よく分かるぞ」


「うんうん、僕も同じ気持だよ」


「そう言えば、お前らあのまま何事も無くタイへ着いていたら、こんな風にゆっくりと湯船に浸かってって生活が出来なくなる所じゃなかったんじゃないか?」


「確かにそれは、いえてるのぉ……いくら会社の方でコンドミニアムを用意してくれていたとしても、日本人だけに風呂はシャワーではなく、湯船に浸かってこそって思うからある意味この世界に来て良かったと思うのぉ」


「まぁ、僕らに取ったらエリアスさんの管理する世界に来て正解だったとも言えるよ」


「俺と豊は二週間だけの滞在予定だったから、それくらいならシャワーだけでも我慢できるけど、それ以上となると……流石に湯船の在る風呂に入りたくなるな」


「それが、日本人というものでしょう!」


「だな……と、言うより、お前らなぁ! いくらここの湯船が広いと言って泳ぐなぁぁ!! 子供じゃないんだから、落ち着いて湯船に浸かってろ」


 男五人と一匹で浸かっている湯船で、子供の様に泳ぐ宏明に武志、そして普段はそんな事をしないと思っていた豊までもが加わって、広い湯船の中でで泳いでいる姿を見た俺は、速攻で大声でツッコミを入れた。


「ったく、お前らなぁ! 風呂の中まで調子に乗ってカオス状況を作り出すなよ! 余計に俺のSAN値が下がるだろ!」


 こっちの世界に来て、今迄大人しいと思っていた、武志までもが宏明や豊に加わってバカをやり始める様になってしまったのは、些かどうなんだろうと思いつつも、今回は見逃すとして、次回も三人が同じような事をしたら、無言でツッコミ用の《鉄のハリセン》を本気で作ろうかと考える俺であった―――


「さて、俺は先にあがるが、お前らはどうする?」


『あっ! 私も一緒にあがりますよ』と一緒に付いてきたのはカミューだけで、他の残る三人は、もう少し広い湯船を堪能したいらしく『儂らはもう少し堪能してから出るから気にせんで先にあがっても構わんぞ』と言って来た宏明の言葉を聞き、一応ながら先に言っておくが『風呂あがりの、キンキンに冷えたビールなんて物は無いからな! そこは覚えておけよ?』と、言うと『なんじゃ、この世界にはビールは存在せんのか……』そんな感じで意気消沈している宏明達を尻目に、ヴェルドラードを小脇に抱えた俺とカミューは先に湯船からあがり、脱衣所に戻ると、入る前に棚に置いた籠に入れた俺達が着ていた服と下着がなくなり、その代わり綺麗なトランクス状の下着で、勿論もちろんゴムなんて存在しないからヒモで縛るような感じの下着と、少しランニングシャツに似た感じのシャツがとバスローブにバスタオルもどきが棚の籠に置かれており、俺達が、風呂に入っている間にメイド達が用意したのであろうと、思いながら籠の中に用意されたバスタオルもどきで自分の体を拭き、一緒にヴェルドラードも拭いてやって下着を着てその上に仕立ての良いバスローブを着こむと、またヴェルドラードを小脇に抱え脱衣所から出て自分の部屋に戻るとソファーが置かれているテーブルの上には、銀製で出来たグラスもどきに入れられた、よく冷えた飲み物と煙草に愛用のオイルライターが置かれており、ここまで用意が良いのかと、若干驚かされるが、気を取り直して部屋に置かれているヴェルドラード専用のとまり木にヴェルドラードをとまらせ、テーブルの上に置かれたグラスもどきと煙草とオイルライターを持ち、部屋のテラスに出るとアイテムボックスから携帯用灰皿を取り出し、オイルライターで煙草に火を付け一服しながら、グラスもどきに入れられた飲み物を口にすると、かなり弱めのワイン? と言った感じの飲み物で、風呂あがりにはちょうどいいと思いつつ、煙草を吸いながら湯上がりのゆっくりしたひと時を楽しんだ。


 暫くの間そんな感じで湯上がりのひと時を楽しんだ後に、部屋に戻りソファーに座り何気にアイテムボックスに入れてあった腕時計を取り出し、時間を確認すると時間はまだ二十一時過ぎであり、地球に居た頃はデスマーチを奏でながら必死になって仕事をしている時間だなと思いつつ、また腕時計をアイテムボックスにしまうと、どうにかこの世界の時間を視界の中に、表示が出来ないかと考えて穴間の中で【時計表示】と念じると視界の右上辺りに、デジタル表示で現在時刻が小さく表示されたのを確認する。


 他になにか出来ないかと考え、【ミニマップ表示】と念じてみると同じ様に、視界右上付近にまるでEIONで表示されていた円形のミニマップが表示されており、その横には+と-ボタンらしきものがあり、念のためそれをクリックする様な感じで念じてみると、拡大と縮小がされる事が解り、PTメンバーのいる場所も確認できる様で今度は【マップ表示】念じると同じ様に右側に、詳細な地図が表示されこれもまたマウスでスライドするかの様な感じで念じると、ミニマップと同様に動かせ【拡大】【縮小】と念じてみると、表示範囲も指定出来る事と、どうも俺達が行った事の無い場所は白く表示されるみたいで、現在詳細に表示されるのは、最初に俺達が到着した極一部の地域と魔樹海とエリュシオーネ皇国の周辺に限って詳細表示がされている。


 今度はマップの表示を【マップオフ】と念じマップ表示を消し、ミニマップはどうしようかと考え、人物指定や人物検索が出来ないかと考えやってみるものの、どうも上手く行かず。

 この辺は後から追加出来る機能かもしれないと考え、ミニマップも一旦閉じ時計表示だけ残し、寢るにはまだ早い時間だと思いつつもキングサイズのベッドに潜り込むと同時に、今迄天井から部屋を明るく照らしていた魔法ライトの明かりが自然に落とされ、部屋が月明かりに照らされる明るさになると、今日一日にの疲れと風呂あがりに飲んだ酒の影響もあってかそのまま静かに睡魔に誘われ眠りにつく。


 翌朝は、自然に目が覚め『目が覚めると、そこは知らない天井だった』と言うお約束の感覚を感じ、身体を起こそうと力を込めるが何かに押さえつけられている様な感覚があり、特に右肩と腕は誰かに押さえ付けられている様な感覚と何となしに柔らかい感触が二の腕に伝わるのと、何故か不思議と足の方も何かに押さえつけられている感覚があり、慌ててベッドの布団をめくると、俺の右腕にミュアが抱き着く様に双丘を押し付けており、足元には何故かカミューが丸くなって寝ているしで(いったいこの状況はなんだぁ!)と心の叫びとともに、俺は大声を出していた。


「カミューとミュア! この状況はいったい何だ? お前達は自分の部屋で寝ていたのと違うのか!?」


 俺が朝から大声で、俺の部屋のベッドに潜り込んだ犯人”カミューとミュア“に向かって怒鳴ると、二人は耳をへたらせ『す、すみません旦那様「ご主人様」つい昔の癖と言ったほうがよろしいでしょうか、私達もご主人様のベッドに入り込む事はしたくなかったのですが、気がついたらこの状況となっておりまして……』と、何とも言い訳のし難い様子で、一応は反省をしている様子も伺えたので、今回の事は許す事にし『もう二度と俺のベッドに勝手に潜り込むな!』ときつく叱りつけその場は、収める事にした。


「ところで、お前達は俺の着替えの服がどこに在るか知らないか?」


「それでしたら、呼び鈴を鳴らせば新しい服を持ってくる様な事を昨日私達を部屋に案内したメイドが申しておりましたが、旦那様はもうお着替えになられるのですか?」


「そうだな……着替える前に顔と歯を磨きたいから、出来たら桶に水を入れてあと歯を磨ける歯ブラシの様な物があれば持って来て欲しいんだが」


「はい。畏まりました……ほらミュアも一緒に行くぞ! このままだと旦那様が朝の支度を整えられないだろ?」


「あっ! そうでしたね……それでは只今準備をしてまいりますのでしばらくお待ちください」


 二人はそう言い残し、俺の部屋を後にしたのだが、朝からドタバタすぎるだろうと思いつつも、この状況に少しでも慣れないとなと考えを切り替え、しばらくしてミュアが持って来てくれた桶に入った水で顔を洗い、何の木か知ららない樹の枝を歯で噛み先を柔らかくした樹の枝で、歯を磨き別に用意してもらった洗顔時とは別の桶に入った水で口を濯ぎ洗顔と歯磨きは終了し、改めてテーブルの上に置いてある呼び鈴を鳴らしメイドを呼ぶと俺の着替えを持ってくるように言うと『マサカズ様のお洋服はこちらに』と言われ部屋に備え付けられている、クローゼットの扉を開くとあるわあるわ大量の服が……一言で言えば派手な服から落ち着いた感じの服がところ狭しとクローゼットの中に吊るされている様子はある意味圧巻だったが、俺の好みじゃない服は避け、落ち着いた感じの服ブラウン系のベストと白のシャツに、黒系のズボンをチョイスし、着てみると俺の身体(身長百八十二センチ)には小さく仕方がなく、頭の中で【リサイズ】と唱えサイズ合わせを済ませると、この世界には靴下と言うものが存在しないのか、ズボンの下にタイツの様な物を履かされるが、これもまた先程と同じ様に【リサイズ】と唱え自分の足の長さに合わせ靴も同様に何の動物の革なのか分からないが、上等そうな革仕立てのブラウン系の靴を選び履くと、これもまた小さくまた同じ様にサイズ変更を行い、ようやく着替えが終わった頃に、カミューとミュアも各自身支度が終わったのだろう、カミューは黒の執事服に、ミュアは黒のエプロンドレスを着て俺の部屋までやってきた。


 取り敢えず俺の方の身支度は終わったので、ボイスチャットで他の連中にも声を掛けると、皆も似た様な感じで、服のサイズを自分に合わせながら、身支度を整えたらしく、一応は皆も身支度は終えていると言う事なので、各自昨日の食堂に行くようにと伝えると、了承する声が返ってき、俺もそれに合わせて朝食を摂りに食堂までカミューとミュアを伴い移動することにした。


 因みに存在を忘れられがちのヴェルドラードだが、食事は基本的に何でも食べるらしく仮に食べなくても、空気中に含まれる魔力だけを摂取する事だけでも活動は可能らしいが、一応は食事を摂った方が、より活動的になると言う事なので、ヴェルドラードも俺の肩に乗り一緒に食堂に向かう事になったのだが、何気に俺を移動手段にしているのでは? と言う思いが浮かびヴェルドラードに『自分の翼で飛んで移動したらどうだ?』と言ったが、今のミニマムサイズ状態だと、上手く飛べないらしく、俺の肩にとまって移動した方が良いとのたまわっていたが、俺としては今のミニマムサイズでも十分飛べるだろうと考えており、要は自分が楽をしたいが為の言い訳なんじゃないかと考えている。


 そんなこんなの、やりとりをしながら、昨日夕食を摂った食堂に着くと、各自自分の席に座り『おはよう』と挨拶を交わし、朝食がテーブルの上に配られるのを待つ。


「ところで、昨日はお前らはよく眠られたのか?」


「儂は、部屋に戻って部屋に用意されていた酒を飲んでからそのまま寝たが、結構気持ちよく寝られたぞ」


「私も、そうですね」


「僕は、枕が変わるとなかなか眠れないとこがあるから、取り敢えず部屋に用意されていたお酒を飲んで、無理やり寝たけど……それでもよく寝られた方だと思うよ?」


「エリアスさんはどうでした?」


「私ですか? 私もお風呂から出た後、部屋に用意されていた冷えたお酒を飲んで寝ましたが、結構寝られたと思いますよ」


「まぁ、みんな、それなりに寝られたみたいで、良かったけど、それにしても宏明に豊と武志、お前達が着ている服、正直言ってあまり似合ってないぞ?」


 と、俺は半分笑いを堪えながら、三人に声を掛けていた。


「そうかのぉ? 儂はこれが一番似合うと思って着たのだが、そんなに似合ってないか?」


「あぁ、だってお前達三人の服装は、どこの王子様だよ? って感じの服なんだぞ? それを似合ってると思って着ているお前らの頭を、俺は疑うぞ?」


 そう、俺以外の三人は、共に色は違えど、どこの王子様だよと言う様な服を着ており、本当に似合ってない。


 俺は自分の腹筋が完全崩壊するんじゃないかと、思うくらい笑いを堪えるのに必至であり、俺と同じく三人の様子を見ていたエリアスさんも、俺と似た様に肩を揺らし笑いを堪えるのに必至だった様で、これで口に食べ物か飲み物を含んでいたら、確実噴き出している状況だ。


 因みにだが、俺の左側に座っているエリアスさんは、若草色のワンピースドレスを着ており、俺達が知るローブ姿よりいま着ている服の方が断然似合っているのは、ハイエルフの独特の肌の色白さと腰付近まである長いストレートの金髪と、少し幼さが感じられる碧眼で、少し小ぶりの目鼻を持った顔立ちだからこそだと思えた。


 「お前らは後で部屋に戻ったら、着替えなおせ! 今着ている服は本当に似合ってないから、俺と似た様な感じを選んだほうが無難だと思うぞ?」


 俺がそう言うと、三人は口々に文句を言ってたが、朝食が運ばれてくると、今迄文句を言っていた口を閉じ、朝食を取る事にした様で今まで騒がしかったのが、一気に静かになり今聞こえるのは、銀製のフォークとナイフが動く音が微かに聞こえるのと、各自の咀嚼音だけである。


 今朝の朝食は、なんの卵だか分からないプレーンオムレツに、焼きたてのパンとスープとサラダ(中に入っている野菜は不明でついでに、ドレッシングも不明)で朝食としては、豪華に感じる様なものではなく、俺達からしたら極標準的なもので、ヴェルドラードもメイドの手に依って、ナフキンをまるでバンダナを首に巻いているかの様な感じで巻かれており、銀の皿に乗せられた何の肉か分からない生肉を齧り付き咀嚼をしている姿は、ある意味滑稽ではあるが龍である事には間違いないと思わされるモノであった。


 そして、朝食も終わり食後のデザートとお茶を飲みながら、今日の予定を皆で話し合う事にした。


「で、午後からになると思うけど、皇王陛下とエリザベート様への沙汰に関して、一旦この場で話し合っておこうかと思うけど、どうする?」


「そうですね、皇王陛下とエリザベート様がどの様な答えを出すか分かりませんが、最終判断は政和がする事として、ここに居る全員の総意としてはなるべく事を荒らげず、穏便に丸く収めると言う事ですよね?」


「うん。豊の言う通りになるかな? 肝心の二人の回答を聞かなければ、判断しがたい事もあるし、上手く丸く収まる方向で持っていければなと思っている」


「となると、やっぱり皇王陛下とエリザベート様の回答次第と言う事になるのか」


「結論から言ってそうなる訳だけど、この場で深く考えても答えは多分出ないと思うし、僕は一旦部屋に戻って、時間までくつろいでいるのが一番いいと思うけど?」


「そうだな……武志の言うとおりかもしれないな……エリアスさんはこの件についてどう考えます?」


「うーん……私も皆さんと同じ様に、今この場で結論を出すというのはちょっとって思いますし、午後の会談までは、武志さんの言われている様に部屋でゆっくり過ごすのが一番かと思いますよ?」


「じゃ、そうしますか……時間まで城下町で過ごすってのもありかと思いますが、今は皇王陛下とエリザベート様の事を再優先して、各自時間まで部屋でゆっくりするって事にして、何かあればボイスチャットで呼ぶって事でいいかな?」


『そうですね』とエリアスが返事をすると、他の皆もそれに同意するかの様に頷き、この場での話し合いは、一旦お開きという形となり、銘々に自分の部屋に戻って行き俺もまた、自分の部屋に戻り、午後に開かれる予定の会談までの時間をどう過ごすか考えていると、部屋のドアがノックされ、俺が『どうぞ』というとエリアスが扉を開け部屋に入って来た。


「エリアスさんが、俺の部屋を訪ねて来るなんてどうかしたんですか?」


 エリアスが、俺の部屋を訪ねてきた事に対して不思議そうにしていると、エリアスは、いきなり頭を下げ『政和さんにご迷惑をお掛けしてごめんなさい』と謝罪してきた。


 俺は、何がなんだか分からず『女神様がそうやって頭を下げるものではないですよ』と言って、エリアスの肩を掴み頭を上げさせる。


「取り敢えず座って下さい。話を聞かなければ今のエリアスさんの謝罪に意味が分かりませんので」


 そう言って、俺は部屋のソファーの俺の座っている対座に座ってもらうと、呼び鈴を鳴らしメイドを呼び、お茶を用意してくれる様に頼むと、エリアスに今の謝罪の意味を聞く事にした。


「で、今のエリアスさんの謝罪の意味ですが、何に対してですか?」


「はい。いまの謝罪の意味は、皇王とエリザベートの二人の問題に対してです」


「あぁ……その事ですか……まぁ、既に起きてしまった事柄に関しては仕方が無いとしても、何もエリアスさんが気に病む事は無いと思いますよ?」


「はぁ……そうでしょうか? 政和さんには、今迄EION時代を含めて色々と助けてもらいましたし、してや今回は、私のたってのお願いでこの世界を救ってもらうと言うお願いまでして、一番最初に勧めた国”エリュシオーネ皇国“で皇王家との問題が発生するとは、思いもよらなかったものですから、それで政和さんにはお詫びをしようと思いお部屋を訪ねさせて頂いたのです」


「なるほど……そう言う事ですか……俺はエリアスさんを信じていますし、エリアスさんの管理される世界を助けたいと、心から思っていますしこれはこの先ずっと変わらないと思います……だから、エリアスさんは気に病む事はないんですよ」


「はい。ありがとうございます……本当に政和さんは優しすぎますよ」


「えっ? そうですか? 俺は自分がこれっぽちも優しいとは思ってませんけど?」


 と言って、半分戯ける様な仕草をし、右手人差し指と親指を使って僅かな隙間を作り片目を瞑りながらそう言うと、エリアスは『そんな事はありませんよ!』と言いながら目尻に溜まった涙を手の甲で拭うと、改めて姿勢を正し俺の目を見て『これからも宜しくお願いします』と言って頭を下げたので、俺も釣られて『こちらこそ』と思わず頭を下げてしまった。


 そして、先程お茶を頼んだメイドが扉をノックし『お待たせしました』と言ってお茶を運んでき、俺とエリアスの前に銀製のソーサーとカップを置くと『失礼します』と言い残し部屋を後にした後に、ふとお茶の入っている椀に対しての疑問に思っていた事をエリアスに話すことにした。


「しかし、このお茶を飲む椀ですが、一応銀製と言うのは毒が入ると黒く変色するからと言う意味で、使われているのは解りますが……持ち手がない椀ってどうなんでしょうね?」


 俺の問に対して、エリアスも疑問に思ったのか持ち手の無い椀を見ながら『確かにそうでよすね』と答える。


「でしょ? 冷たいものなら持ち手が無くても良いですが、熱い物場合持ち手がなければ、ある程度冷めるまで待って、飲まなければならないって事になりますし、それまでの間はスプーンを使って飲めって事になりますからね……皇城内でこれですから城下町に在る様な店に入った場合は、どうなるのかちょっと比べてみたくなりますね」


「ですね……機会があったら城下町の散策ってのもいいですね」


「なんかその口振りだと、まだ暫くはこちらに居る様な感じに取れますが、このままこの世界に居続けて大丈夫なんですか?」


「あぅ……本音を言えば、もう暫くはこちらに滞在したい所なのですが、そうも言ってられない事もありますので、取り敢えずは皇王とエリザベートの問題が片付いてから一度戻る予定ではいますよ」


「それなら良いのですが、余り神の世界の仕事を放置する訳にいかないでしょうし、寂しくなりますが、これで完全に会えなくなるって事にはならないでしょうし、たまに息抜き程度に降臨するのが一番だと思いますよ?」


「私としては、常に政和さん達と一緒に行動を伴にしたい所なのですが、正神としての職務もありますので、こちらの世界の事は准神の政和さんにお任せします」


「確かに承りました。俺の出来る範囲でどうにか動いてみますよ……ただうちらのPTとしては、回復役としてのエリアスさんの存在も大きいですから、一緒に居ないと言うのは何とも痛し痒しですね」


「そう言って頂けるのは、凄く嬉しいのですが……時として思う様にならない事もありますので、暫くはご容赦下さい」


「いえいえ、俺達が無理な事をしなければ、済む事ですし先ずは、エリアスさんの方で片付けられる事を再優先して下さい」


「ありがとうございます」


「取り敢えず、お茶もだいぶ覚めたでしょうし、一口飲みませんか?」


「そうですね……ではいただきます」


 といってお茶を飲み始めるエリアスを見て、俺も一緒にお茶を飲み、一心地つくと『ちょっと煙草を吸ってきます』と言って席を立ち、テラスの外に出て煙草を取り出しオイルライターで火を点けると、アイテムボックスから携帯灰皿を取り出し、紫煙を吐きつつも灰を携帯灰皿へ落としていき、煙草を吸い終わると携帯灰皿の蓋をきっちり閉め、煙草とオイルライターと共に履いているズボンのポケットへと仕舞い、元の席に戻るとお茶を一口飲み視界の右上に表示させている時計の時間を確認する。


 表示されていた時間はまだ九時三十八分であり午後の会談まで時間があると言う事で、引き続きエリアスとお茶をしながら、昼食の時間だと知らせが来るまで、他愛もない話をしながら過ごした。


 そして昼食の時間になり『部屋に昼食の準備が整いました』とメイドが知らせに来たので、エリアスと一緒に昼食を摂りに後宮の食堂へ行くと、朝食時に俺とエリアスに散々笑われた三人の服装が変わっており、先ず目についたのは、身長は俺より十センチ以上も低いが、がたいの良い宏明は、俺がいま着ている服装に似た様な感じの服で、白シャツに白の短めのタイを締めタイピンには赤い宝石をあしらったタイピンを付け、白シャツの上には黒のベストにズボンは同じく黒のズボン纏めており、今度はなかなか似合った感じだと感心させられ、豊も同じく白シャツにタイピンを使わない感じの締め方のタイを締めベストは着ておらず、ダークブラウンのズボンを履いており、豊は豊でスッキリと纏めた感じになっていた。


 最後に武志だが、武志も白シャツにタイは締めず、タンカラーのベストにブラウンのズボンを履いており、それなりにスッキリした服装となっていた。


「お前らなぁ、最初からそう言う服を着ていれば、朝から俺とエリアスさんの腹筋を崩壊させずに済んだんだぞ?」


「そうですね……本当に朝の時は笑いを堪えるだけで大変でしたよ」


 と、エリアスも同意しており、こいつらの美的感覚を正直疑いたくなっていたのも事実ではあるが、今の状況をみた俺とエリアスは一安心したと言った感じだった。


「いやぁ、お前達二人が笑いを必死に堪えてるのは、見てて分かっていたからのぉ……だから、後宮に居るメイドに手伝ってもらって、似合いそうな服を選び出してもらった訳だ」


「流石に私も、朝の服装は余りにも酷いと思いましたので、宏明と同じ様にメイドに手伝ってもらいました」


「僕も、二人と同じだよ」


「兎も角、もう朝から俺達の腹筋を崩壊させるような事をするなよ?」


『なるべくそうする』と三人からの返事を待って、俺達の前へ昼食が運ばれてきたのだが、昼食の内容は簡単にいえば、サンドイッチ? それともハンバーガー? と言った感じの食事と、一応最後にはデザートと食後のお茶は付いてきたのだが、三食共にガッツリ派な俺は、少々物足りなさも感じていたが、何事も腹八分と言う言葉も在る事だし、取り敢えず今夜の夕食に期待と言う事にしておいた。


 食後は部屋に戻り午後から会談のための準備をし、昨日使われた会議室へ案内されるまで、多少の時間を部屋で弄びながら待っていると、部屋の扉がノックされ入って来たメイドが『会議室までご案内致します』と告げると、俺はメイドの後に続いて皇城内に在る会議室まで案内され、部屋に入ると既に大司教、皇王家の面々に、ミュアにカミュー、そして武志、豊、宏明と揃っており、俺が上座に座ると俺より少し遅れてエリアスが会議室に入って来て俺の隣に座ると、昨日と同じ様にメイド達がお茶を銘々に用意し、それが終わると静かに扉が閉じられる。


「さて、昨日は皇王チャールズとエリザベートの二人因って、皇王チャールズに因る我々に対する数々の非礼に対する沙汰を下さず強制的に、会談を終わらせた事は申し訳ないと思っている」


 俺は、そう言い今現在会議室に居る全員に向かって席から立ち上がり頭を下げると、皇王家の面々や大司教が、大慌てで『と、とんでもありません』と言い、うちのメンツ以外は総立ちで慌てふためき『ど、どうか頭をお上げください』と言うのを待って、俺は頭を上げると改めて席に座る。


「では、昨日皇王チャールズと皇女エリザベートに対し、一日の憂慮を与えた訳だが、両二名共に答えは出たのか?」


 『先にわたくしからよろしいでしょうか?』と言い手を挙げたのが皇王チャールズであった


「うむ。聞こう……皇王チャールズがどの様な答えを持ち、我々に対する非礼をどう償うのかを」


「は、はい。有難き幸せで御座います。先ず、昨日第一皇子、皇太子ウィリアムの言う通り私は魔の樹海に跋扈ばっこする魔獣や魔物から受ける被害に対しかなり憂いで居りました。その為に《虹翼の翼》を探し求めており、その為に探し出し皇城に連れて来た者には多額の恩賞を与えるとまで触れを出したのですが、来る者皆多額の恩賞に目の眩んだものばかりで、本物の《虹翼の翼》を持つ者は誰一人と居ませんでした。そう言う事が続いた為に、女神エリアス様の巫女でもある娘エリザベートに女神エリアス様よりご信託がおり、高位の《虹翼の翼》を持つ者を、皇城へお連れしたとエリザベート付きのメイドでもあるシェリーからの報告を信じる事が出来なかった上に、わざと謁見までの時間を先延ばしにしたのも事実で御座いますし、今回も偽者だろうと最初から思っていた事も事実で御座いますが、これもひとえにこのエリュシオーネ皇国の臣下及び臣民を守る為と言う思いからで御座いますので、此度こたびの准神マサカズ様ご一行様への非礼、心より深くお詫びすると共にこの国が抱える憂いをどうか取り除いて欲しいので御座いますし、その為にはどの様な責め苦にも耐えぬく所存でございますので、どうか皆様のお力添えを賜れます様ここに臥してお願い申し上げます」


 皇王チャールズはそう言うと、五体投地どころではない、正にTHE DOGEZA(土下座)! をして来たのである。

 この世界に土下座という習慣が在るかは分からないが、俺から見るには五体投地より上の所作と言う扱いに見えた。


「皇王チャールズの、考えはよく分かった。先ず、魔の樹海の魔獣や魔物の処理に関しては、ここに居られる女神エリアス様からも頼まれている……そしてこの国の国内で起きている憂い即ち皇城に勤める官僚や貴族の汚職に、果ては裏奴隷の取引と言ったものだろ?」


「は、はい! 正に左様で御座います」


「皇王チャールズの話はよく解った。我々もその件については、憂いで居る……だがしかし、今の我々の身分では大きく動く事が出来ない上に、准神と高位の《虹翼の翼》を持つ者が動けば事は更に大きくなる上に汚職や裏奴隷の取引を抑える事がより難しくなる……と言っても我々が動かないと言う訳ではない。要は表面上の身分を偽ると言う事だ」


「表面上の身分を偽ると言う事とはどういった意味で御座いましょうか?」


「簡単に言えば、表面上は冒険者として動くと言う事だ……仮に我々が騎士団に入ったとして、騎士団が動けばそれだけ汚職をしている官僚や貴族達に感づかれやすくなる上に、証拠を隠されたり裏奴隷取引についても同じで商品である奴隷達をどこかに隠されれば、探し出すだけでも一苦労になる……そう言う事を考えれば表面上の身分は普通の冒険者を装うのが一番の得策だと思うが、どうだ?」


「確かに、准神マサカズ様の仰る取りで御座いますね」


「それに、この国にもスパイ……所謂間諜は居るのだろ? その中で特に信用の置ける者に汚職や裏奴隷取引等の情報を集めさせ、集まった情報を我々に流してくれれば、我々が直接処分する」


「はい! その様に取り計らさせて頂きます」


「あと、我々の拠点は後宮に置くと目立ってしまう為、皇都内で適当な屋敷を用意してくれればいい、肩書はそうだな……何処か適当な国の者の貴族の次男と言う事で冒険者ギルドに登録する形を取る」


「左様でございますか……ではその様に取り計らいます」


「他国の設定は、我々の髪の色と瞳の色だ……この国では、黒髪、黒目と言うのは見掛けないだろ? そう言う意味でも他国から来たと言う設定が必要なのだ」


「確かに、准神マサカズ様の仰る通りで御座いますな」


「今後も、皇王チャールズが以前と変わらずに、臣下や臣民を思いやっていい国造りをしようと考えているのであれば、此度の我々対する非礼は、不問とするがどうだ?」


「は、はい! いままで以上に良い国造りに邁進まいしんして参ります」


「あい分かった。ならば此度の件は不問とする」


 俺がそう言い終わると、皇王チャールズは安堵したかの様に、お茶を一口飲む様子を見ていた俺に、エリアスからボイスチャットで『エリザベートに関しての沙汰は私に任せてくれませんか?』と言ってきたので『良いですよ。エリアスさんにお任せします』と告ると、改めて口を利く。


「次に、皇女エリザベートについてだが……今回は女神エリアス様から直接沙汰を下すと言う事なので、我々が口を挟む事は慎む事にする」


『は……はい』と何と無く緊張したエリザベートは、エリアスの方を直視し、何を言われても良い様にと、身構えている様にも見えエリアスが口を開くと僅かだが肩が揺れるのが見えた。


「エリザベート……貴女は、皇王チャールズの為、自分も責があると命を投げ出そうとしましたね?」


「はい」


「此度は、准神マサカズの寛容な御心に依って、非礼に関する事柄は不問とされましたが貴女は、今でも自分に責があると感じているのですか?」


「はい……わたくしは、あの場で父上の非礼を止める事が出来ませんでした……それに因って准神マサカズ様ご一行様には、大変な非礼があったと今でも思っております……ですので、今でも父上の行った非礼に対しての責は自分にもあるとも思っておりますし、この命を持って償えと仰るのであればそう致します」


「貴女の、父は准神マサカズの御心に依って既に許されていると言うのにですか?」


「はい。確かに父上は准神マサカズ様の御心に依って許されましたが、私自身はあの場での父上の非礼をお止め出来なかった責を果たしておりませんし、父上が許されたとしても私の責は許されたとは思っておりません」


 俺は、今の話の流れから多分彼女は、エリザベートを俺の第二正妃に押し込んで、丸く収める積もりだなと考えていた。


「そうですか……ならば、エリザベート貴女の命を持って此度の非礼を償いなさい」


 エリアスさんからそう言われた瞬間、エリザベートは肩をビクンと動かし目を見開き命を持って償えと言われた事にショックを受けている様で、今度はそのままテーブルを見続けるかの様に、項垂れてしまった。


 で、他の皇族はと言うと、第一正妃ダイアナと第二正妃カミラは、あっけに取られたかの様な顔をし、その後は涙を流しハンカチで涙を拭っており、弟の第一皇子と第二皇子は姉上と声を掛け、皇王チャールズも何故自分だけ許されて、娘は許されないのだと、如何にも、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


 その様子を見ていた、俺の右隣に座っていた宏明が周りから見えない様に肘で俺の腕をつつき、【ささやき(ウィスパー)】を使って声を掛けてきた。


『「のぉ、政和……エリアスさんは、命を差し出せみたいな事を言っておるが、本当に大丈夫なのか?」』


『「ああ、大丈夫だ。エリアスさんは悪い様にしないし、本当の意味で丸く収まるから、安心して見てろって」』


『「そっか、政和がそう言うのなら、その言葉を信じるぞ」』


『「もし、丸く収まらなかったら、お前にたらふく酒を奢ってやるから、このまま黙ってエリアスさんの話を聞いていればいい」』


『「おっし! 言質は取ったぞ! もしこのまま丸く収まらなかったら、お前にたらふく酒を奢ってもらうからな」』


『「ああ! 構わないぞ! 俺はエリアスさんを信じているからな! 多分お前に酒をたらふく奢るって話は、ご破算になるぞ」』


『「儂としても、酒をたらふく奢って貰うと言う話は魅力的だが、ご破算になってくれた方がいいのぉ」』


『「宏明が、そう思っているのならそうなる様に願っていればいい」』


『「ああ。そうする」』


 そんな感じで俺と宏明が裏で話をしている中エリアスが話の続きをしだしたので、彼女の話に耳を傾ける事にした。


「エリザベートと皇王家の皆さんには少し誤解をさせてしまいましたね……言い方を変えましょう……エリザベート、貴女はその命ある限り准神マサカズに尽くしなさい。言葉をもっと簡単に言いましょう……エリザベート、貴女は准神マサカズの第二正妃として嫁ぎなさい。貴女が命を差し出すと言うのなら、准神マサカズに嫁いで命のある限り尽くせばそれこそ、命を差し出したのと同じ意味になるでしょう……これが私から貴女へ対する沙汰になります」


 エリアスの沙汰を聞いた俺は頭の中で、宏明に【ささやき】と唱えた。


『「なっ? 宏明、エリアスさんは悪い様にしないって言ったろ? 上手く丸く収まったじゃないか」』


『「そうじゃのぉ、政和の言った通りだったの」』


『「って事で、たらふく酒を奢るって話はチャラな!」』


『「ああ。チャラでいい……しかし()()()()と言うヤツかのぉ」』


『「はぁ? 何か言ったか?」』


『「いや、何でも無い。気にするな」』


『「そっか、ならいい」』


 俺と宏明がまた裏で話をしている中エリアスの沙汰を聞いたエリザベートは、目から大粒の涙を零し『ありがとうございます。この命が続く限り准神マサカズ様のお傍で尽くさせて頂きます』と言って深々とエリアスに向かって頭を下げ、そして俺に向かって『不束者ふつつかものですが宜しくお願い致します』と、エリアスと同じ様に深々と頭を下げる横で他の皇族の面々がエリザベートの傍に寄り『よかったね』とか『姉上おめでとうございます』などと声を掛けており、皇王も、一安心とばかりに気の抜けた様子でお茶を口に含んでいた。


 そんな皇王家の様子を見ながら、俺はボイスチャットでエリアスに『お見事でした』と労いの言葉を掛けると『いえいえ、それ程でもありませんよ』と返事があり『そんな事はありませんって、これで上手く丸く収まったのですから、流石と言う他ありませんよ』と言うと『ありがとうございます。そして政和さんもお疲れ様でした』とお礼と労いの言葉を送ってくれた。


『さて、今回の事も丸く収まったし、取り敢えずは一旦この会談をシメようか』


『そうじゃの、今回は本当に政和に美味しい所を持って行かれたのぉ』


『うんうん、政和一人だけ春が来て私達にはその兆しさえ無いってのは悲しすぎますよ』


『政和……爆発しろ!』


 最後に俺に止めを刺すかの様な言葉を投げつけた武志の目が何と無く座っている様な気がして……何気に背中に冷たい汗が噴き出してきているような感覚があった……


 俺はそんな汗の感覚を覚えながらも、取り敢えずはこの会談をシメる為に皇王チャールズに声を掛ける。


「さて、此度の我々に対する非礼については、一切不問とすると言う事で決着とさせるが、今後の事もあるので後日改めて、全体の方針を決める為の会議を持ちたいと思うが如何とする?」


「先ずは、情報を集めるのが先決かと思いますので、ある程度情報が集まり次第方針決めの会議を持った方が宜しいかと思います」


「そうだな……何よりも情報は最優先される。では、次の会議の日時などは皇王チャールズに任せるが良いか?」


「はっ! 確かに承りました」


「では、皇王自ら信用の置ける間諜を放ち情報収集に当たらせる様に。我々はその間に、冒険者ギルドに登録をおこなっておく。後もう一つ、この世界の魔法書があれば読ませて欲しい」


「魔法書ですか? 何にご利用になれるのでしょうか?」


「いや、この世界と我々が使っている魔法との成り立ちが違う様な気がしてな、それで調べてみたいと思ったのだ」


「なるほど。そういう事でしたか。でしたら皇城の図書館をお使い下されば、初級から上級までの各属性の魔法書が御座いますので、そちらをお使い下さい」


「そうか、助かる。図書館の方は明日からでも利用させてもらうが良いか?」


「はい。構いません。図書館をご利用の際は、メイドに申し付けて頂ければご案内致します」


「承知した。あともう一つ忘れるところだったが、皇城への出入りに必要な通行書の様なものはあるのか?」


「はい。ございます。後程で宜しいのでしたら、皆様のお名前で通行書を発行しておきますが如何致しましょうか?」


「では、頼む事にしよう。暫くは、皇城との出入りが必要だろうから、その旨よろしく頼む」


「はい。確かに承りました」


「では、他に何もなければ、これで終了とするが良いか?」


 俺がそう言い、周りを見渡すと何もない様なので、終了しても大丈夫だと判断し会談の終了を宣言し会談の終了となり、最初にエリアスが席を立ち部屋を出るとその次に俺が席を立ち部屋を出、続いて宏明、豊、武志、カミュー、ミュアと出て行き、その後に皇王、二人の皇妃に続いて皇太子と第二皇子と続き、エリザベートが部屋を出、一番最後に大司祭が部屋を出たらしい……と言うのは全員が会議室から出るのを見ていたのではなく俺達の中では、一番下になるミュアが出てくるまで待って、皆でゾロゾロとボイスチャットで駄弁りながら各自の部屋に戻ったからである。


『ふぃぃ……疲れた……長時間あの口調を続けると真面目に俺のSAN値が底尽きるぞ』


『使い慣れない言葉って結構疲れますからね……こればかりは慣れないと仕方が無いですよ』


『と言うか、この中で一番美味しい思いをしたのは、政和だからのぉ……今度こそタップリと酒を奢ってもらうぞ』


『まだ、酒の話を引きずってるのかよぉ……明日城下町へ出て冒険者ギルドに登録をし終えたら奢ってやるから、それまで我慢しろ!』


『分かった。楽しみにしてるぞ』


『と言うか俺としては、コーヒーが飲みてぇ……こっちの世界に来てお茶ばかりでコーヒーが飲みたくて仕方が無いぞ』


『ああ、それはありますね……私もお茶よりコーヒーが良いですからね』


 実は俺と豊は大のコーヒー党で、一日コーヒーを飲まないと、カフェイン切れを起こし無性にコーヒーを飲みたくなるので、コーヒーその物がなくてもそれに代わる物を可及的速やかに探し出さないと不味いのである。


 そう言えば可及的来速やかに探さなければならないと言えば、日本人の心の食……言わずと知れた米も探さなければならない……この場にいる全員ご飯党だから、いずれはパン食に飽きが来る筈だから、それまでには米を探し出したいものだなと考えつつ自分の部屋に到着したので、部屋に入りソファーに腰掛けると疲れたとばかりに靴を脱ぎ、だらしないが足をテーブルの上に投げ出し完全だらけモードに入り少しゆっくりした後、部屋のテラスに出て煙草を吸うとやっぱり落ち着く。


 これで、コーヒーがあったら文句なしなんだがなぁ……と考えながら紫煙を噴き出していると、扉の方からノック音が聞こえ、慌てて吸っていた煙草を携帯灰皿でもみ消すと、『どうぞ開いてますよ』と告げると部屋の扉が開き入ってきたのは、エリザベートだった。


「突然お部屋を、お訪ねして申し訳ありません」


「いえいえ、気にしないで下さい」


「ありがとうございます」


「取り敢えず扉の前に立っているのもなんですから、ソファーに腰掛けて下さい」


「はい。ありがとうございます」


 エリザベートはそう返事すると、ソファーに腰掛け俺も対座の席に腰掛けて、呼び鈴を鳴らし、入って来たメイドにお茶を頼む。


「で、今回部屋まで訪ねて来られたのは、どんなご用件ですか?」


「あっ! 此度の件で父上が皆様に大変ご迷惑をお掛けしたお詫びと、エリアス様の御沙汰の件で伺わさせて頂いたのですが、ご迷惑だったでしょうか?」


「今回は、色々とありましたが、丸く収まって良かったって思っているんですよ」


「そうですね……父上の事も不問と仰って下さいましたし、そ、それにエリアス様のご沙汰でマサカズ様の第二正妃になるという事になりました。正直言って私などで本当に良かったのでしょうか?」


「私の第一正妃になるエリアス様が、エリザベート様を第二正妃にと言っているのですから、大丈夫ですし私としてもエリザベート様は、好みの女性になりますので正直に言うとかなり嬉しいんですよ」


「そう言って頂けて、私も嬉しいです」


 と言うか、空気的にかなり微妙すぎて会話が弾まないのがかなり辛い状況であり、打開策を模索するべく考えていると、扉をノックされ先程お茶を頼んだメイドが入ってきてお茶を置くと、頭を下げるとそのまま部屋を出て行った。


「そう言えば、皇城に到着してからずっと不思議に思っていたですが、この銀製の椀ですが、熱いお茶が入っていると、素手で持てませんよね? もしこれに持ち手が付いていれば熱くても、持ちやすいとは思いませんか?」


「確かにそうですね……私は子供の頃からこれを使っていたので、今迄不思議と思いませんでしたが、言われてみればそうですよね……わざわざお茶が冷めるのをスプーンでかき混ぜながら待つ必要がありませんしね……もしかしてなのですが、マサカズ様が居られた所は、こう言う椀には必ず持ち手が付いているものなのですか?」


「ええ、極一部のものには持ち手がない物がありますが、私が居たところでは必ずと言っていい程、持ち手が付いていて熱い物でも、その持ち手を持てば普通に飲む事が出来ますよ」


「そうなんですか、持ち手があるなしでは、かなり違うでしょうね」


「私の場合は、普段はマグカップと言って丸い筒状の椀で持ち手のある物を愛用していました」


「まぐかっぷ? ですか……何と無く使いやすそうですね」


「私が使っていたものは、そうですね……多分十年以上は使っていたかとも思います」


「そんなに、長い間使っていたのですか……」


「結構愛着のあるものでしたので、常に使っていましたね」


 そんな感じでカップの話で盛り上がって、話をしているとふと扉をノックされ『どうぞ』というと、シェリーが入ってきて『お夕食の準備が整いましたので、本日は広間の方へお越し下さい』と伝えてきたので、俺とエリザベートはソファーから立ち上がり扉の方へ歩いて行き、シェリーの先導で、広間へ通されると昨日とは打って変わって皇王家の全員が揃っていて、その他うちのメンツも揃って長テーブルに座っており俺が上座の席につくと、俺を中央に右側にエリアス、左側にエリザベートと言う感じで座り、豪勢な料理と酒などが出され、それなりに会話をしつつ食事を食べ進め最後に、デザートとお茶を楽しみその日の宴が終了した。


 その後、部屋に一度戻りヴェルドラードを肩に乗せたまま他の皆と伴に後宮地下に在る大浴場に行き、皆と共にのびのびとした感じで風呂を楽しみ、風呂から出て着替えを済ませ部屋に戻ると、昨日と同じ様に冷えた酒がテーブルの上に置かれており、それを片手にテラスに出て煙草を一服して、酒を飲み終わると明日に備え、煙草の火の始末をしてからベッドへと向かうのだった。

 さて、今回のお話は如何だったでしょうか? 毎回書く度に、少しでも読んでくださる方の読みやすい様に、気遣って書いておりますが、私の至らない部分もあり読みにくかったりするかもしれませんが、今後も『虹翼の翼 ~四人の元おじさんの異世界冒険記~」を宜しくお願い致します。


 そして、皆様からのご意見ご感想をお待ちしております。


 次回予告

 第06話「冒険者始めました」でお会いいたしましょう。


※次回更新は、リアルの方で何事も無ければ4/13 12時の更新予定ですので宜しくお願い致します。


 2014/04/08

 今回の話の内容を部分的に大幅改稿を行いました。


 2014/04/20

 第07話に合わせて、細かな部分での修正と追記を行いました。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ