第03話「エリュシオーネ皇国」
どうもご無沙汰しております。
ほぼ一ヶ月ちょいぶりの更新となりますが、今回の話も読み難いかと思いますが少しでも読んでもらえたらと思っておりますので、宜しくお願いいたします。
カチャカチャと皇都まで舗装された石畳の上を、竜車の地竜の爪が叩く音とゴトゴトと車輪の音が聞こえる大型竜車の中で俺は、何となしに外を眺めていた。
その中で、俺が静かに外を眺めている姿を見た、エリュシオーネ皇国第一皇女のエリザベートが声をかけてきた。
「ウチダ様は、先程からずっと外を眺めて居られますが、何処か体調をおかしくされたのでしょうか?」
「い、いえ、体調は至って健康で大丈夫ですよ。むしろ皇女様に、お気を使わさせてしまって申し訳ありません」
「体調が悪くないのでしたら、私としても安心なのですが、ウチダ様を見ていて、何と無く寂しげに見えたものですから、お声をおかけしたのです」
「あぁ! 皇女様からは私の様子がそんな風に、見えてしまいましたか……ご心配をお掛けして申し訳ありません。いや、この馬しゃ……じゃなかった竜車の中から外の風景を見ていたら、何と無くですが、遠くへ来たものだなと感じたものですから、それでそんな風に見えたのかも知れませんね」
「ウチダ様達が、居られた場所とエリュシオーネの風景は、かなり違う物なのですか?」
「ええ、かなり違いますし、何と言えば良いのでしょうか、我々が居た場所と比べるとかなり違いますし、強いて言えば魔法と文明の違いでしょうか? ……まぁそれに関しては、皇城に到着してから、詳しくお話が出来るかと思いますので、今は気にしないで下さい」
「分かりました。では皇城に到着した後にでも、ウチダ様達が居られた場所の事をお聞かせ下さい」
「はい。私のお話できる範囲でしたら、お話しますのでご安心下さい」
俺と、皇女様の会話が一旦途切れたのを、見計らったかの様に、隣に座っていた宏明が俺に小声で声をかけてきた。
「のぉ、政和、この竜車に乗ってからずっと思っていたのだが、いくら石畳で舗装されている道だと言っても、竜車自体の揺れが激しくないか? ……儂としては何と無く尻が痛く感じるのだが、政和はどうだ?」
「それは、俺も感じていた話なんだが、多分皇王家が利用する竜車と言えども、サスペンションに値する物が、全く備わって無い所為だからだと思う。
まぁ、その辺に関しても、一応は俺に考えがあるから、皇城に着いて落ち着いてから詳しく話すから安心してくれ」
「それなら良いのだが、皇王家が使う竜車までもこの状態じゃ、儂らがこの先移動する時に使う竜車は、もっと酷い事になりそうだから、政和に解決策があるのなら、任せる」
「ああ、安心しろって、悪い様にはしないから、と言うよりむしろ今の状態よりはかなり快適に、なる筈だから取り敢えずは、期待しててくれ」
「分かった。期待してるぞ!」
宏明との小声での会話が、ひと段落すると俺はまた、乗っている竜車の中から外を眺めながら、この世界の風景を見て、何となくだが中世のヨーロッパを感じさせられる風景だと思っていた。
いま現在、政和達が居るエリュシオーネ皇国は、皇国の他に三つの国が在りその中のでは一番の大国であり、主要農産物は、小麦、大麦、その他多種多様の野菜などを栽培しており、穀物や野菜などの栽培が難しい北の国イシュヴァール始め周辺各国へ多かれ少なかれ輸出するほどの土壌を持ち、更に首都エリュシオーネの近くに存在する魔の樹海では、定期的に騎士団や高ランクの冒険者を派遣しその手に依って大量に発生している魔獣や、魔物から魔晶石を得てはいるが、それも魔の樹海の入り口周辺とそんなに深くない地域に限られており、中心に近付く程、騎士団や高ランクの冒険者にも手に負えない魔獣や魔物が跋扈しているが、少なからずとも自国で消費する分を除いた物を、各国へ輸出出来る程度の魔晶石を得られており、エリュシオーネ皇国は、魔晶石と穀物や野菜の最大輸出国と言う事は変わりはない。
だが、時折魔の樹海で大量発生した魔獣や魔物からの襲撃から皇都を守る為に、高さが約二十メートル程の城壁に依って守られており皇都その物は、すり鉢を逆さにした様な形で皇都の中心には、一際巨大なエリュシオーネ皇国のシンボルでもある皇城が聳え建っている。
そしていま、俺達は大型の箱竜車に揺られながら皇都へ向かって移動している訳だが、距離にしてまだ数キロ先だと言うのに、城壁を含めたエリュシオーネの皇都が巨大な街だと言う事が、ありありと見て取れる為、そんな中、豊が珍しく興奮したかの様に『エリュシオーネ皇国の皇都は、かなり巨大な街なんですね』と、皇女様に話しかけていた。
「はい。現在この大陸には四つの国が在りますが、その中では一番の大国と言われているのが、我が国エリュシオーネ皇国なのです」
「首都の人口はどのくらいなのでしょうか?」
「カドヤ様には、申し訳ないのですがその辺に関しては、私も余り詳しくなく、以前家庭教師から聞いた話ですと、首都内の住民の数二十万人程の住民が住んでいる様な話を聞きました」
なるほど、この皇都だけで20万人もの住民が居るのなら、政令指定都市の一つの区の規模か、小さめの地方都市の町くらいの規模だと考えれば良いかと、エリュシオーネ皇国全体だと、それ以上になるだろうから、大凡の総人口としては百五十万人に届けば良い方ではないかと、俺なりの推論を交えた結論をつけた。
俺がそんな事を、考えていると皇女様が竜車内に居る全員に、言い聞かせるかの様に声をかけた。
「皆様、まもなく我が国の首都でもあるエリュシオーネ皇国の首都エリュシオーネに到着致しますが、首都内に入りましたら、そのまま皇城まで直接向かいますので、もう暫く竜車内でおくつろぎ下さい」
皇女様が説明している間に、俺達を乗せた竜車はエリュシオーネ皇国皇都の楼門を潜り皇都内に入ると、竜車は一路皇城へ向けてメインストリートとも言える道幅十五メートル程の目抜き通りを騎士を従えながら進む。
そのまま皇城の城門を抜け皇族専用の竜車着けに竜車が着くと、待機していた執事が静かに竜車の扉を開け、先ず最初に皇女様付きのメイドであるシェリーさんが降り、次に皇女様が降りると、竜車の扉側に立ち俺達が降りるのを待つ。
そしてミュア、カミューが続けて降りると、二人はそれにならうかの様にシェリーと皇女様の向かいに並ぶ。
因みに俺達が竜車から降りた順は、武志、豊、宏明、そして俺の順で降りた。
これは、魔の樹海入り口付近から皇城に着くまでの間に、皇女様より簡単に説明を受けており、この国……つまりエリュシオーネ皇国では、爵位その他各自の持つ立場に依ってのルールが厳格化されいるらしい。
そんな風事を俺が考えていると、皇女様の執事が筆頭に『ようこそいらっしゃいました。皆様のご到着を心より歓迎致します』と、一斉に頭を垂れる。
その後、執事が『皆様を皇城内待合室へご案内致します』と言い、そのまま先導しその後にシェリー、皇女様、ミュア、カミュー、武志、豊、宏明、俺の順で続いて歩き始める。
俺達の周りには、護衛の騎士が並びながら歩き、一種独特の雰囲気の中、多分皇城内では最高と思われる待合室へと案内され、執事が待合室の扉の前に立ち扉を開けながら『此方で、皇女様共々暫くの間おくつろぎ下さいませ。また何かご用向きが御座いましたら、お手元のベルをお鳴らし下さいませ』そう言うと、また頭を垂れ静かに待合室の扉を閉めその場を立ち去った。
「皆様、どうぞこちらへお掛け下さい。シェリー、皆様にお茶をご用意して差し上げて」
「畏まりました。只今ご用意致します」
そう言うと、シェリーはお茶の準備の為に待合室を出て行き、残った俺達は何処に座れば良いのか分からず、適当に座ろうとすると皇女様が『ウチダ様はこちらへお掛け下さい』と、正に誕生日席である窓際の上座を指定し、俺から向かって右側の席に、宏明、豊と続き、左側には武志が座り、その後にカミューとミュアも座る様に促されたが、『私達二名は主政和様の従者ですので、お側に立たさせて頂ければ結構です』と断りを入れたが、皇女様は『いいえ、例えウチダ様の従者であっても《虹翼の翼》を持たれる方ですので、どうぞこちらへお掛け下さい』と言って武志の隣にカミュー、ミュアの順で、腰掛けることなり、肝心の皇女様はと言うと、俺の対面即ち一番の下座に腰掛けるという、俺としては何とも言えない、座り方だとしか思えなかった……
俺は、何気に全体を見渡し、席順の疑問を皇女様へ直接訊く事にした。
「あの、皇女様、一つお伺いしても宜しいですか?」
「何でしょうか?」
「もの凄く単純な事なのですが、いま私達が座っている席次なのですが、本来なら私が座っている席に皇女様が座るべきなのではないかと思ったのと、我々は無位無官の平民なのに、何故ここまで厚遇されるのか不思議なのです。それで大変失礼かと思いますが、皇女様に直接お訊きした次第です」
「そう言う事ですか、皆様は決して無位無官ではありませんし、我が国の国教はエリアス教であり《虹翼の翼》を持つ者は、女神エリアス様のご加護を授かっている証でもありますし、過去に数名ですが、下位の位を持つ者がエリュシオーネ皇国内に居た事あり、その方々のおかげでこの国は繁栄しその事に依って、エリアス様の加護を授かっている方々はこの国に置いては、厚遇されるようになり、皆様は下位ではなく高位でありその中で、ウチダ様は最高位であられ、正にエリアス様の御子と言っても間違いない存在なのです」
皇女様の話を聞いていると、コンコンと小さく扉からノック音が聞こえ『お待たせ致しました。お茶のお持ち致しました』と、言ってシェリーがティーセットと焼き菓子の乗った皿を乗せたカートを押して、部屋に入り上座? に座る俺から銀で作られたソーサーに同じく銀で作られた椀を置き、お茶を注ぎ、俺以外の各自にも同じ様にソーサーと椀を置きお茶を注いで、最後にテーブル中央にクッキーに似た焼き菓子が盛られた銀の皿を置くと、カートを押して部屋の隅に移動し待機の体制に入った。
「皆様にお茶も、行き渡った事ですし、お口に合うか判りませんが、どうぞお召し上がり下さい」
俺達は、各自に『いただきます』と言って、お茶を飲もうとしたのだが、なにせ銀で出来た椀で持ち手も付いていない物だったので、ある程度冷めるのを待って、お茶を口にしたのだが見た目は紅茶っぽいが紅茶とも違う味ではあったが、皇城で供されるお茶とあって香りが良く上品な味に感で一緒に出された焼き菓子は、そのままクッキーであった。
「あの、皆様がいま『いただきます』と仰ってお茶をお飲みになりましたが、その言葉は皆様が普段から使われる言葉なのですか?」
「はい。私達の居た場所の習慣と申し上げた方がいいでしょうか? 『いただきます』と言う言葉の意味としては、私達が普段食べたり飲んだりする物に感謝の意味を込めて『いただきます』と言う言葉で、その反対語で『ごちそうさま』が、食事や飲み物を作ってくれた人への感謝の気持ちを表す言葉となっています」
「そうなんですか『いただきます』に『ごちそうさま』ですか……いい言葉ですね。ちょっとした事なのでしょうが、ウチダ様のお話を聞いて感謝の気持ちを表す言葉としては最高だと思いました。教えて頂いてありがとうございます」
「いえいえ、大した事ではないので、お礼を言われる程でも無いですよ」
「そんな事はありません! いい言葉を教えて頂けたのですからお礼を言うのは、当たり前の事だと思います」
「わ、分かりましたから、そんなに勢い込まないで下さい」
「あっ! とんだ失礼を致しました。申し訳ありません」
「ところで、話の腰を折って申し訳ないのですが、今後の私達の処遇についてなのですがどうなるのでしょうか?」
「そうですね……皆様の処遇に関してですが、申し訳ないのですが私は何も知らされておりませんので、こればかりは父上にお会いになってからになるかと思いますが、もし皆様が我が国に滞在し続けるというのであれば、相応の爵位と領地が与えられるかとも居ますが、特にウチダ様は本当の意味で別格の扱いになってしまいますので、多分父上も頭を痛めることになるかと思いますし、皆様は高位と最高位であらせられますので立場的には、父上より上になってしまいますで……」
「はぁ……そうなんですか……何とも痛し痒し的な感じですね」
「多分、暫くの間は皇城内に留まって頂く様な感じになるかと思いますが、その間は皆様にとって不自由する事の無い様、務めますのでどうか宜しくお願い致します」
そう言って頭を下げる皇女様を見た俺達は『皇女様が頭を下げるなんてとんでもない』と宥めに入った事は言うまでもない。
「あの、これは私からのお願いなのですが、呼称を出来ましたら名前呼びにして頂けませんでしょうか? 皆様から皇女様と呼ばれるのは、立場的に見て変になりますので、どうかエリザベートもしくはエリーと呼び捨てて下さい」
その言葉に、いち早く反応したのは俺達四人の中では一番の堅物を誇っている武志だったのは、俺も含めて豊や宏明も驚いていた。
「いえいえ、一国の皇女様を呼び捨てには出来ませんし、未だに僕……いえ私達はこの国での立場を有していませんので、私達の立場が正式に決まり次第と言う事では如何でしょうか?」
「儂も、武志の言葉には賛成だ」
「私も、右に同じというか左斜めに同じですね」
「うーん……私も左に同じなのですが、皇女様ご本人のご希望でもあるわけですし、公の場でない限りに、名前呼びでも良いかと思いますし、それに私もいい加減ウチダ様と姓で呼ばれるのも、なんだかなと思っていましたし、今後の事も考えると、皇女様のご要望通りにして差し上げるのが、一番じゃないかと思いますが、但し最低限様付けだけはさせて頂ければ良いですし、まだ皇女様と親しい間柄になったと言う訳でもないので、呼び捨てというのは、いずれと言う事にして下さい」
「分かりました。ではこれからは、ウチダ様をマサカズ様と、ジューモンジ様をヒロアキ様と、カドヤ様をユタカ様と、コイズミ様をタケシ様と、そしてマサカズ様の従者のお二人もカミュー様、ミュア様とお呼びしてよろしいでしょうか?」
それを聞いたカミューとミュアの二人は、『我々二人は旦那様の従者ですのでそのまま呼び捨てて頂いても結構です』と断りを入れていた。
「いえ、お二人はマサカズ様の従者でもありますが、高位の位に含まれますので、様付けでお呼びさせて下さい」
皇女様に言われたカミューとミュアは困り顔で、俺の方に視線を送ってきたので『エリザベート様のご希望通りにしてあげなさい』と言って、宥め納得させた。
「エリザベート様、いま私の肩に乗っている龍ですが、名前をヴェルドラードと言いますが、縮めて”ヴェル“とでも呼んでやって下さい」
「主よそのヴェルと言う名は何なのだ? 我にはヴェルドラードと言う名があるのに、何故にヴェルと言う名になるのだ?」
「あのな、ヴェルと言う名は所謂愛称だ。お前の名がヴェルドラードだと言うのは変わりはないから安心しろ」
「そう言う事なら納得した」
何と無く納得したらしく、ヴェルドラードの奴、自分が納得するとまた居眠りをし始めやがって、全くお気楽なもんだ。
「しかし、巨大だったヴェル様が、マサカズ様の肩に乗って居眠りをしている姿は何と無く可愛らしいですね」
「まぁ、見かけはいかついですが、頼りになるやつですし、本来の姿になれば10人程度なら背中に乗せて、飛ぶ事も可能だと思いますよ」
「まぁ! そうなんですか? いつか機会がありましたら是非ともヴェル様の背に乗って空を飛んでみたいです」
「エリザベート様は、ご自分の翼で空を飛んだ事は無いのですか?」
「いえ、一応は小さい頃に何度か飛んだ事はあるのですが、皇女という立場的なものがあって自由に空を飛ぶと言う事は、許されませんでしたので……」
「そうなんですか、自分の翼で蒼い空を飛ぶと言うのは、本当に気持ちが良いですし、機会がありましたら、一緒に飛んみませんか?」
「はい。是非に!」
「ところで、この部屋に到着してから、随分と時間が経ったかと思うのですが、このあと皇王陛下との謁見があるんですよね?」
「はい。その予定なのですが、急な事でしたので、多分父上も必死になって公務を片付けているかと思うのですが……些か時間がかかり過ぎている様な気がしますね……シェリー、皆様と父上との謁見に後どのくらい待てば良いのか、確認してきてくれる?」
「畏まりました。只今確認してまいります」
「お願いね」
「はい。行って参ります」
「そう言えば、もうお茶がありませんね。皆様はお茶のお代わりは如何ですか?」
エリザベートからお茶のお代わりの事を訊かれ周りを見ると、皆もお代わりが欲しい感じだったので、俺が代表して『では全員分お願い致します』と告げると、テーブルの上に置いてあった呼び鈴を鳴らし、部屋に入ってきたメイドに『皆様にお茶のお代わりをお願い』と告げた。
「そう言えば、竜車の中でマサカズ様に、伺ったのですが皆様の居られた場所と言うのはどの様な感じなのですか?」
「そうですね……私達の居た場所では、先ず竜が引かない車と言う物があります」
「くるま……と言う物はどんな物なのでしょうか?」
「それに関しては、私より宏明や武志の方が詳しいので、代表して宏明説明を頼む」
「それでは、政和に代わって、この儂がご説明致します」
「はい。宜しくお願い致します」
「車とは、即ち自動車と言って、竜や馬が引くこと無く自分の行きたい所へ行けますし、竜車や馬車と比べて、遥かに速く走る事が出来ます」
「遥かに速くと言うと、どのくらいの速さなのでしょうか?」
「失礼ですが、時刻を知る事が出来る道具と言う物はありますか?」
「はい。魔晶石時計と言う物が御座いますが、それと関係することなのですか?」
「おっと! 此方の質問を質問で返されましたか」
「あっ! 失礼しました」
「いえいえ、気にしないで下さい」
「出来ましたら、その魔晶石時計と言う物を拝見させて頂いても構いませんか?」
「はい。いま持ってこさせますので暫くお待ち下さい」
エリザベートがテーブルの上の呼び鈴を手に取ろうとした時に、部屋の扉をノックされ、先程お茶のお代わりを頼んだメイドが『お待たせしました。お茶のお代わりをお持ち致しました』と言って部屋に入って来た事を、これ幸いと『皆様にお茶のお代わりをお配りしたら、魔晶石時計をここへ持ってきてくれる?』と、メイドに言いつけていた。
「畏まりました。直ぐにお持ち致します」
お代わりのお茶を持ってきたメイドが、お茶を配り終わると、そのまま魔晶石時計とやらを取りに、部屋を出て行くのを見た宏明が、再び口を開いた。
「ところで、エリュシオーネでは距離や長さはどういった、表現をしますか?」
「長さですと、一番小さい単位で『メル』次が『サンチ』その次が『モートル』最後に『コロ』です」
「では、エリュシオーネを囲っている城壁ですが、高さはどのくらですか?」
「以前、皇城の近衛騎士団の団長に訊いたところ、たしか20モートルと言ってましたが、長さや高さなどと速さと関係があるのですか?」
「実は、大ありなのですよ! 詳しくは魔晶石時計がこの部屋に届いてからにしましょうか」
「分かりました。その他に此方と違う物ってあるのですか?」
「此方にも船があるかと思いますが、儂らの居た場所では船は全て鉄で出来ていました」
「えっ!? 鉄で出来た船ですか? それで沈まないんですか?」
「ええ、完全に鉄で出来ており、沈むこと無く何万コロと言う距離を航行出来ますし、帆を張ったり、人力を必要としない船が、ありとあらゆる物を運んでいます」
「帆を張ったり人力を使わないと言う事は、魔力で動くのでしょうか?」
「いいえ、一切魔力は使いませんが、それに代わる物を使って船を動かしています」
「しかし、マサカズ様のお話も面白いですが、ヒロアキ様のお話も面白いですね」
「いえいえ、儂なんぞ政和に比べたら、まだまだですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、政和の場合雑学と言って理解できるか分かりませんが、どうしようもないくらい下らない事を知っているかと思っていると、逆にあまり人が知らない便利な事を知っていたりしますから、儂はその方面では政和には勝てませんよ」
「マサカズ様、そのざつがく? と言う物を、機会があれば教えてえ頂きたいのですが、お願い出来ますか?」
「私で良ければですが、此方の方でも通用するものがあれば、お教え出来るかも知れませんよ?」
「その時は、宜しくお願いします」
と、頭を下げるエリザベートに対して政和も『こちらこそ宜しくお願いします』と言って互いに頭を下げる様子は、見るものが見れば、微笑ましい光景に見えるものだった。
そんな感じの、微笑ましい光景の最中、部屋のドアがノックされ、先程魔晶石時計を取りに行かせたメイドが、見た目電子レンジくらいの大きさの、魔晶石時計をカートに乗せ部屋に入って来た。
「お待たせしました。魔晶石時計をお持ち致しました」
「ご苦労様」
「また、何か御用が御座いましたらお呼びください」
そう言って、魔晶石時計を持ってきたメイドは部屋から出て行ったけど、見るからに電子レンジサイズの時計だわなぁ……そして、驚くべき事に長針と短針のある時計ではなく一言で言えば、特大サイズのデジタル時計で、数字は俺達の知っている数字ではなくギリシャ数字に近い感じの物ではあったが、不思議と数字として認識出来て、現在時刻は十一時二十五分であった。
「此方が、魔晶石時計になりますが、ヒロアキ様先ほどの車という乗り物の話の続きを聞かせて頂けませんでしょうか?」
「分かりました。しかしデカイ時計ですね」
「これでも、最小と言われている物なのですが、ヒロアキ様達が居た場所では、もっと小さいものなのでしょうか?」
「はい。小さい物は手首に巻き付けて持ち歩きも可能です」
何やら宏明がズボンのポケットを探る振りをしているのが見えたので、俺も確認の為と思い【アイテムボックス】と念じると……目の前に表示されたアイテムボックスの中身に入ってましたよ! 俺達の国、日本製の腕時計が、しかも俺が欲しかったK-SHOCKのMT-Gだよ! あれ? 女性物も何個かあるけど、この数字表示はこの世界のものだな……と言う事は、エリザベートに献上しろって事だな? 何と無くご都合主義感も感じなくもないけど、ここはプレゼントって事で渡すのも悪くないな……と、そんな風に考えていると宏明が、腕時計を取り出しエリザベートに見せた。
「これがそうです。手にとってご覧になりますか?」
「はい! よく見せて下さい」
「どうぞ。その時計は男性用なので大きいですが、女性用はもう少し小さいですよ」
エリザベートは、まるで本当に高価な宝石を、手に取るかの様におずおずと、手を伸ばし宏明から腕時計を受け取り、まじまじと見つめている、
「いまこの場に在る魔晶石時計と比べると本当に小さいものですね……もしこの時計を皇城の御用商人に見せたら、とんでもない金額で欲しいと言うと思いますし、国宝にしてもいいくらいですよ」
「因みに、この時計の時間の見かたは、長い針が時を表し、短い針が分を表していて、その他に、他の針よりも速く動く針があるかと思いますが、それは秒と言う単位を表しています」
「分より小さい秒と言う単位は、初めて知りました」
「秒と言う単位は、一分の六十分の一で、秒を表す針を秒針と呼んでいます」
「ここまで、緻密な時計は初めて見まし、この時計の針の上に被さっている物は水晶ですか?」
「いいえ。それは強化ガラスと言う物で、ちょっとやそっとでは、気づか付かない物で、水晶とは全く異なる物質です」
「そうなんですか……ヒロアキ様達の居た所は、こんな小さい物まで作れる様なところだったのですね……この時計はお返ししますね、見せて頂いてありがとうございました」
うーん……何と無くエリザベートがしょげている様な感じがするのは、俺だけかな? ちょっと元気を出させる為に、さっき俺のアイテムボックスで発見した、女性用の腕時計を献上するとしましょうか。
「エリザベート様、もしかして宏明の腕時計を見て、ご自分も欲しくなったりしてませんか?」
「えっ? そんな事は無いですよ……ただ皆様達が居られた所とここでの、違いを見せ付けられたと言ったら良いのでしょうか? そんな風に思えたものですから、マサカズ様には、お気を使わせて申し訳ありません」
「本来は皇王陛下との謁見の場でお伝えする積りでしたが、元々私達がエリアス様に依ってエリュシオーネ皇国へ使わされたのは、この国の技術力の向上と、この世界全体の発展の為と、今はまだお伝え出来ませんがその他、細々とした事の対処をするようにと、言われて居るのと、特にエリアス様に対する信仰心の篤いこの国を、再優先する様にとも仰せつかって居ります」
「そうだったんですか……エリアス様の巫女としては本当にありがたいお話ですので、我が国をいい方向へ導いて下さいます様宜しくお願い致します」
俺達に向かって立ち上がって深々と頭を下げるエリザベートを見て、俺達も立ち上がって『こちらこそ』と言って同じ様に、深々と頭を下げたが、ヴェルドラードは器用に俺の肩に乗ったまま居眠りを、続けているのを横目でみて本当に器用な奴だと別の意味で感心させられた。
「エリザベート様、これは私達からエリザベート様への献上品で、先程宏明が見せた腕時計とは違いますが、エリザベート様にも使いやすい物になってますので、どうぞお受取り下さい」
俺はそう言って、エリザベートに女性物のK-SHOCKで数字が、此方の世界の表示になっているデジタル腕時計を手渡した。
「ありがとうございます! この様な物を戴けるとは思っておりませんでした。一生大切に致します」
腕時計のはめ方と外し方とベルトのサイズ合わせの為、俺は一度席を立ち、エリザベートの席まで行き。
「取り敢えずは、エリザベート様の腕の太さに合わせませんと、折角の腕時計もずり落ちてしまいますので、先ずは留め金を引いて外して左手首にはめて下さい。
そしてまた留め金を押し込んで、カチっと言う感触が伝わったらそのままにしてて下さい。
では、太さを合わせますね【リサイズ】と念じ――どうですか? 手首はきつくないですか?」
「はい。大丈夫です」
「なら良かったです。時計を腕から外す時は、最初やった時と同じ様に留め金を手前に引っ張って外せば、そのまま腕から外せますし、腕に付ける時は逆に外した留め金を押し込んでやれば大丈夫すので、一度試してみてください」
「はい。解りました」
そう返事をしたエリザベートが、何度か付け外しを繰り返して納得したのを確認し俺は自分の席へ戻った。
「ところで、いまマサカズ様は魔法を使った様ですが、完全無詠唱でしたよね? 私達もマサカズ様と同じ様に、無詠唱で魔法を使える様になれるのでしょうか?」
「魔法に関しては、私には何とも言えませんが、魔法の適正とあとは努力次第で無詠唱で使える様になるかと思いますが、攻撃魔法の場合は無詠唱だと他の人を巻き込む可能性があるので、詠唱し魔法名を告げるかか短縮詠唱で魔法名を告げるのが一番良いかと思いますが、奇襲を掛けたりする場合は無詠唱で魔法名を告げないと言うのも、ありだと思います」
「マサカズ様の様に上手く魔法が扱えないものですから、がんばりますね」
「魔法に関しては、多分武志の方が詳しいと思いますが、口下手なもので上手く教えられるか判りませんが、魔法に関しては、俺か武志に訊いて下さい」
「分かりました。魔法の練習の際は、お願い致します」
「はい。武志もそれでいいだろ?」
「うん。僕はそれでも構わないよ……と言うより教えるのは僕より政和の方が上手いじゃないかな?」
「そうか? 俺はそんな風には思っていないけど? 武志がそう言うのならそうなんだろうな」
「会話に口を挟んで申し訳ないが、儂も政和は教え上手だと思うぞ」
「と言うか、お前らは人に教えるのが面倒だからって俺にまた丸投げするつもりだろ?」
「儂は、元々剣技以外は専門外だから、魔法に関しては何とも言えんから、政和に丸投げするしかないな」
「僕は、魔法を上手く扱える自信はあるけど、人に教えられるかと言うと上手く伝えられない可能性があるから、宏明と同じ様に政和に丸投げっするよ」
「そう言えば、豊お前も多少は魔法が使えたろ? 確か風系の魔法は得意じゃなかったか?」
「確かに風系の魔法は使えますが、使える魔法は弓に付与する系統の魔法だけですから、人に教えられる程ではないですから、他のみんなと同じ様に、私も政和に丸投げします」
「結局、揃いも揃って俺に丸投げかい!? 分かったよ俺がエリザベート様に魔法を教えるよ……」
「何か、色々と申し訳ありませんが、宜しくお願いします」
「いえ、こちらこそ、上手くエリザベート様に魔法を教えられるか判りませんが、宜しくお願いします」
「エリザベート様、さっきの儂の話が途中で横道に反れてしまいましたが、説明の続きはどうしましょうか?」
「そうでしたね。説明の続きをお願い出来ますか?」
「分かりました。では先ず、エリザベート様に一つお訊きしますが、このエリュシオーネから一番近い街や村まで竜車でどのくらいの時間が掛かりますか?」
顎に人差し指を当てながら思い出している様で、思い出しているエリザベートは、結構可愛いなと思ってしまった俺がここに居るわけですが、そこは一旦置いておいてたっぷり三分程思い出す時間を取ったすえ、答えをだした。
「たしか、エリュシオーネから一番近くの街で、ウルムが竜車で半日くらいだったかと思います」
「なるほど、儂らの居た所の車と言う乗り物だと、休憩なしで多分二時間足らずで到着出来るかと思います」
「休憩を含めて、半日もかかる距離を二時間足らずで着くなんて凄く速いですね」
「儂と、武志は、車を実際に作っていましたので、そう言う事には詳しいんですよ」
「エリュシオーネでも竜車ではなく、車という乗り物が走る様になれば素晴らしいですね」
「ただ、車を直ぐに作ると言う事は出来ませんので、時間は掛かるかと思いますが、いつかは作って見せます」
「なぁ、宏明、将来的に車を作るのなら、基本的には無公害車を作る方向で考えるのが一番手取り早いじゃないか? 雷系の魔晶石を使えば電気自動車も可能じゃないか?」
「おぉ! その手があったか! ただいま直ぐにとは行かんだろうし、時期を見てその辺の事も手を付けられたら良いの」
「今は、俺達もやる事が山積み状態だから、先ずは目先の事から片付けて行こうぜ」
「エリアス様が、皆様にどのような事を頼んだのかは、存じませんが、私もお手伝い出来る事が御座いましたら、お手伝いさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「もし、エリザベート様のお手伝いが必要になる様な事が出て来ましたら、その時はお願いしますが、危険な事はお願いしないのでその辺はご安心下さい」
その後も暫くの間、エリザベートを含めた七人で、お茶を飲みながら雑談をしていると、扉をノックされエリザベートの『どうぞ』の声の後に、シェリーが入ってきて『皇王陛下との謁見がようやく可能になりました』と言う事で、何気に魔晶石時計を見たら十三時三十分……昼食抜きでお茶とクッキーを飲み食いしていたから、そんなに腹は減ってないけど、かなり待たされた感があり、さてはて皇王陛下との謁見はどうなるやらと、思いつつシェリーの先導で謁見の間前まで案内される事となった。
今月は、年度末と言う事もあり、リアルデスマーチを奏でながら合間を縫いながら執筆しましたが、今回の話は如何だったでしょうか? 駄目出し覚悟で皆様からのご意見、ご感想をお待ちしております。
次回予告
第04話 「謁見そして女神降臨、エリアス、エリザベートは俺の嫁!?」でお会いいたしましょう。
※更新が不定期になりがちですが、極力頑張って執筆しますので宜しくお願い致します。
2014/03/31
エリュシオーネ皇国の説明表記を政和視点ではなく、第三者視点での表記に変更したのと、その他皇城へ到着時の行動の表記の修正を行いましたので、30日に読まれた方は、出来またら再度読み直しをお願い致します。
2014/04/25
細かな部分の記述の修正と、補足説明を記述しました。
毎度の事ながら、自分の語彙の少なさの上に読み辛い作品を、読んで頂いて本当に感謝しております。