第01話「再会」
どうもBalonです。前回の話からまた一段と文字数がマシマシ状態な話になりますが、気長に読んで頂けたらと思います。
遅くなりましたが、この小説のタイトルは虹翼の翼と読みますので、以降宜しくお願いします。
チンチン~まだ夜も明け切らない午前五時、政和は仏壇の前で手を合わせていた。
おはよう。親父、俊政、今日から二週間、仕事の関係で海外へ出張に出かけるけど、俺が居ない間二人でお袋を見守ってやっててくれよな。
ふと、政和の背の方から母親の声がかかる。
「おや、もう起きていたのかい?今日から暫くの間海外へ出張だってね」
その声に振り向きながら政和は応える。
「おはよう。お袋。今日から二週間ほど出張で海外へ行くって話は前にしていたと思うけど?」
「そうだったね。最近歳のせいか、物忘れが激しくなってきたのかねぇ……ところで豊君も一緒に行くんだって?朝食はどうするんだい?」
「豊君って、四十六歳のおっさんを捕まえて未だに君付けは無いと思うけどなぁ……あと朝食は空港のラウンジで食べるし飛行機の機内でも出るから、今は食べずに出るよ」
頭を掻きながら応えるそう応える政和。
「そうそう、聞き忘れるところだったけど、土産は何がいい?今回はタイだから大した土産は期待できないと思うけど、なにか欲しい物があったら買ってくるけど?」
「お土産は、いいよ。お前がいつも海外へ出張に行く度に買って来てくれるから、たまには自分の欲しいものでも買って来たらどうだい?」
「俺も、あまり欲しいと思う物が無いから、職場の連中に買っていく適当な土産だけ済ませるよ」
「あっ! 後これを先に渡しておくよ」
政和は自分の財布から壱万円札二枚を取り出して母親に手渡した。
「いつも済まないね。この家は政和の給料で持っている様なものだから、気を使わせるのも悪いって思ってるんだよ」
政和は首を横に振りつつ母親に告げた。
「親父が早くに亡くなって、俺の大学の時は奨学金を使ってるけどそれでも借金は借金だしそれを返すのに散々苦労を掛けたし、今更って訳じゃないけど恩返しと言うか、親孝行だって思っているし、もし俊政が生きていたら同じ事をしていると思うよ」
「それと、もう一つ沖田さん、いや社長から内々だけど昇進の話が来てるんだよ。来年の三月からになるけど、最近買収した会社の社長になることになった。もちろん豊も一緒で豊は副社長で行って来いって話になってる」
「政和! あんたが社長かい? 大丈夫なのかい?」
「俺ってそんなに信用ないかな? 豊も一緒だし大丈夫だよ。ただ今回の昇進の条件は買収した会社の赤字を、五年で解消し黒字を出せって条件がついてるけどね……あとその他に、リストラや業務改革なんか色々とやらなければならない事が山積みだけど、俺から見たら結構やりがいのある仕事だと思うし、それに給料を貰いながら経営の勉強が出来るってのも悪くないともう。多分その分、今以上に忙しくなると思うけど、それは勘弁して下さい」
と――政和は母に頭を下げた。
「本当に、お前は沖田さんに、今まで色々と世話になりっぱなしだね。兎も角今以上に頑張って、沖田さんにきちんと恩を返すんだよ?」
「分かってるって! 俺も、豊も、他に宏明や武志なんかも、色々と世話になってるし、その分恩を感じてるだからこそ、返せる時にきちんと返さなきゃって思っているんだよ」
「そうだよ。受けた恩は必ず返さなければバチが当たるからね」
「それは、分かってるって! その恩を返すた為にも、俺は豊と共に頑張ってやる積りだから、安心して良いよ。あと、お袋は俺の事を気にせずもう一眠りしてくれば良いよ。それに、豊もそろそろこっちに来る頃だから、俺の方で火の始末と戸締まりにガスの元栓を確認してから出るから気にせず寝て良いよ」
「そうだね。そうさせてもらおうか、二週間お前が家に居ないんじゃ、あまりすることもないし、美智子の子どもたちが遊びに来れば別だろうけどね」
「あの、チビどもか、俺は最近仕事が忙しくてなかなか、構ってやる機会が無いけど、もし遊びに来たらさっき渡した金で、何処か食事にでも連れて行ってあげてよ」
「そうするよ。ありがとうね。それじゃお母さんは、もう一度寝るから家を出る時は、戸締まりと火の始末だけはしておいてね。おやすみ」
「ああ、その辺はきちんとやっておくから、安心して二度寝を楽しんでよ。おやすみ」
さて、先に仏壇の蝋燭の火を消しておかないとな……後はガス類の元栓もチェックしておけば大丈夫だろう。
そう言いながら仏壇の蝋燭を掌で仰いで消してから、ガスの元栓などをチェックして回っていると、玄関のチャイムが鳴り豊が来たのかと思い『はい』とインターホン越しに返事をする。
「朝早く済みません。内田部長はご在宅でしょうか?」
「おう! ご在宅も何も、居なきゃお前は空港に行けないだろうが」
『そうですね』と返事をする豊に、政和は笑いながらインターホン越しに声を掛ける。
「まぁいいや、車のキーを渡すからエンジンを温めておいてくれ。
それと、トランクに自分のスーツケースを入れておけよ?」
「了解しました」
「あっ! トランクは閉めるなよ? 俺のスーツケースが入れられなくなるから、開けたたままにしておいてくれ」
「了解であります!」
「って、お前はケロ○軍○かよっ!」
っと、下手なツッコミを入れている場合じゃなかった。俺も、サクっと準備しないとな。スーツケースは二階から下ろしてあるし、あとはスーツの上着を着るだけか……と言うか常夏の国に行くのに冬物で行くのってかなり辛いんだよなぁ……コートは空港に預けておけば良いか。
おっし! 忘れ物はないな? 窓の鍵はチェックしたし、ガスの元栓もOKと、仏壇の蝋燭もOKと、お袋は寝ているだろうけど、一応声を掛けておくか。
「お袋、これから行ってくるから後は頼んだよ。ゆっくり寝てなおやすみ」
政和は、母親に小声で言い終わると、スーツの上着を着るとスーツケースを引っ張り、玄関で靴を履きコートは着ずに肩に掛けながら、ドアを開け外へ出ると玄関の鍵を閉める。
「豊、お待たせ。先にトランクにスーツケースを打ち込むから少し待っててくれ」
俺はそう言いながら、引っ張ってきたスーツケースの持ち手を縮めてそのまま豊のスーツケースの隣に、自分のスーツケースを収めトランクを閉じてから、運転席のドアを開けて乗り込みドアを閉める。
「それじゃ、出発するか! シートベルトを閉め忘れるなよ? 最近高速入口前で検問をやっててうるさいからな、シートベルトで切符は切られたくないからな」
「シートベルトはOKですよ。と言うか政和の運転だとシートベルトは必須ですからね」
「ごらぁ! 俺の運転は安全運転がモットーだ! ちょっとスピードを出すくらいだ」
「この間もスピード違反で危うく免停になりかけたじゃないですか?」
そう言いながらジト目で俺を見る豊……
「分かったよ! 今日は普通に運転するから安心しろ! 取り敢えず車を出すぞ」
「了解です」
「―――ところで少し気になっていたんだが、今日空港のラウンジで待ち合わせてる、先方さんってまさかと思うけど例の二人じゃないだろうな?」
「うーん……どうでしょう? 先方さんからは、苗字だけは伺ってるんですが、名前は聞いてないんですよ」
「そっか、それなら仕方が無いな、兎も角向こうさんは、現地の社長と副社長だから、失礼のないようにしないとな」
「ですね。それだけはくれぐれも注意しないとまずいですからね」
「ところで、豊は昨日というか今朝はきちんと寝られたのか?結局何だかんだで3時ころまでやってたから、眠いんじゃないか?」
「大丈夫ですよ。政和がエリアスさんと話をしている時に、サクっとログアウトしましたから。そのおかげで少しは寝る時間が稼げましたので大丈夫ですよ」
「なんだ、俺がエリアスさんと話をしてるの知ってたんだ?」
ニヤリ顔をしながらこっちを見やがって、どこまでログを読んでいるのかわからんなぁ……
「ウィスパーを使えば別ですが、レギオンチャットで話をしていれば、まるわかりですよ」
あっ! そうだった……確か昨日はそのままレギオンチャットで話をしてたんだ、すっかり忘れてたなぁ――――と言う事はあの二人も知っている可能性が高い――――こりゃ、現地で合った時に酒を奢らさせられそうだな……とんだ藪蛇になりそうだ。
「でだ、豊は俺とエリアスさんの会話はどこまで知ってるんだ?」
「どこまでって?ただ政和がええリアスさんに、出張で暫くEIONにログイン出来ないって話をしてるのと、あとエリアスさんも仕事の関係で暫くログイン出来ないって言っていたところまでですよ?」
「って! それってほとんど全部じゃないか! まぁ確かにそんな話はしたけどな、別にやましい話をして居たわけじゃないし、ログを読まれたところで何も問題はないけどな」
「いやぁ、その件で暫く弄ろうかと思っていたんですが、普通の話をしていたみたいですし、弄るのは止めて、現地についたら酒を奢ってください。それで万事解決ってことで手を打ちますよ」
「結局行き着くところは、そこかよ! 分かったよ! 酒なら奢ってやるよ! と言うか、豊? お前余り酒を呑まなかったんじゃないのか?」
「いえ、あまり酒を呑まないのではなくて、自分の金で呑まないだけであって、人の奢りなら呑みますよって話です」
「きったねぇ! お前最近腹黒くなってきてないか? 昔はもう少しピュアな感じじゃなかったか?」
「何年、政和と付き合っていると思ってるんですか? 中学の頃を含めれば40年近いんですよ? そりゃ多少なりとも腹黒くなりますよ」
「つまりアレか? お前が腹黒くなった元凶は俺だって言いたいのか? と言うか、俺はそこまで腹黒くないぞ!」
「ある意味政和が元凶とも言えますが、腹黒さで言えば沖田さんですよ。あの人は私達をヘッドハントしてまで今の会社に誘い込み、そして先日のゲーム会社の買収劇アレをみたら沖田さんの方がよっぽど腹黒いって思いますよ」
「あぁぁ、その話か、確かにアレはかなり来るものがあったなぁ……俺はあそこまで腹黒く動ける自信はないわ」
「でしょ? 私みたいに酒を奢ってくれって要求だけなら、可愛い物じゃないですか?」
「ふむ……確かに言えてるな……俺は絶対に腹黒さでは沖田さんを超えられないってつくづく思うよ」
「それは、私も同じですよ。でも先日二人で受けた例の買収されたばかりのゲーム会社の社長と副社長の内々辞令、あれも何か沖田さんの腹黒さを感じるんですよね」
「俺が、代表取締役社長で、豊が取締役副社長だっけか? で5年以内に黒字化し収益を倍加しろって話だろ? それを考えると凄く胃が痛くなるんだけど? 今まで赤字続きで倒産寸前まで行った会社を5年以内に黒字化して収益を倍加するって、かなり難しい話だぞ」
「そうなんですよね。来年の3月からだと言っても、その前から準備はしなければならないですし、リストラ計画やコスト削減、新たなゲームの企画に開発……どこまで手を付ければ良いのか考えさせられますよね」
「沖田さんは、さっきの条件を達成できたら、エニクソン社を吸収合併して、社名をサークルエニクソンに社名変更して東証一部に上場するって言ってるし、おまけに自分は会長職に上がって社長と副社長はそのまま俺達に任せると、つまり簡単に言えば五年で経営学を学んでこいって言ってるのと一緒なんだけどな」
「既に、内々辞令は受け取ってしまってるんですから、やるしか無いですし、今からどう足掻いても覆りませんから、諦めて今抱えてる案件を片付けて、終わらないものは後任に引き継ぎって感じですね」
「そうだな、そんな感じになるけど、俺達の後任人事ってどうなってるんだ? 仮に俺の後任で一課の田中を付けたとしても、副部長はどうするよ? 二課の岡本を推すってのもあるけど、逆もしかりかってのもあるな」
「現状のままだと私達の後任人事は荒れそうですね。なんて言ったって我が社のドル箱部署ですし、今回は部長職と副部長職が一新されますから、人事の方も相当頭が痛いでしょう」
「俺もそう思うよ。出張から戻り次第何かしらのテコ入れは必要だな。豊の方も状況を見て何かしらのテコ入れ策を考えておいてくれ」
「わかりました。でもあまり期待はしないでくださいね」
「わぁーってるよ! 古くから居る部の問題なんだから、豊に丸投げなんて出来るわけ無いだろ!」
「と言うかさ、俺達さっきから何でこんな難しい話をしてるんだ?」
「それは、政和が話を振ったからでしょう!」
「アハハハ! そうだった、そうだった、すまんすまん」
「いまは、今回の案件の事を優先的に考えないといけないんだったな」
「そうですよ。今回は大手自動車会社野産自動車の海外新規工場の新規システム開発で現地視察と、現地支社支社長と副支社長を交えた打ち合わせもあるんですから、気を引き締めないとダメですよ」
「うぃうぃ、その辺はきっちりやるから大船に乗ったつもりで居てくれれば良いから安心しててくれ」
「ええ、政和の場合その辺はきちんとやるんで、安心はしてますが、ちょっと気を抜くと直ぐポカをしますからその辺は注意してください」
「なんか、その言い草長年連れ添った古女房みたいな言い草だぞ?」
「私は至ってノーマルです! 間違っても男色系の変態趣味はありませんのでご安心ください」
「俺もそんな趣味は持ち合わせてねぇよ! どうせならボンキュッボンの綺麗な若いお姉さんの方が、お前より数万倍ましだ」
「私だってそうですよ! 誰が好き好んで四十六年間独身で居なければならないんですか!」
「それは、俺も同じだ!何が悲しゅうてこの年令まで独身で居たいと思ってる! 結婚できる相手が居ればさっさと結婚してるっての!」
「「はぁ……」」
「なんか不毛な会話ですよね」
「だよなぁ……」
この後、空港に着くまで、一切二人の間で会話が無かったのは、最後のほうで話をした不毛な会話が原因である事は明らかである。
「う~ん……着いた着いた! スーツケースを取り出したら、サッサとチェックインとイミグレーションを済ませて、ファーストラウンジに行って、飯でも食べようぜ」
「そうですね。私もいい加減お腹が空き過ぎてるので、このまま手続きを済ませてしまいっましょう」
「豊、車の中に忘れ物は無いよな? コート類はクロークに預けるから先にそっちに行こう」
「大丈夫ですよ荷物はチェックしましたから、忘れ物はありませんよ」
「それじゃ、ロックするぞ」
政和がリモコンで操作をすると『ピッ! ガシャ』と音がしハザードランプの点滅を持ってロックされたことを確認し、二人は成田空港第一ターミナル内部へ歩いて行った。
「さて第一ターミナルのクロークは何処だっけな?」
「あそこに案内掲示板がありますよ?そこで確認してみましょうか」
「そうだな、行ってみよう」
「どれどれ? ……あっちゃぁ! 一階の到着フロアーか、ここってたしか4Fだったよな?」
「そうですね。ここは四階だから近くのエレベーターで一度一階へ行かないとダメですね」
「仕方が無い、コートのポケットから必要な物だけ取り出して、かばんに入れて1Fに降りていこうか」
「私も、抜いてかばんに入れておきますね」
「おっし!こっちは準備OK! と、豊はどうだ?」
「私も大丈夫です。そこのエレベーターで1Fに降りましょうか」
「だな、エレベーター前まで行こうか」
暫くエレベーターが来るのを待つ二人……
「おっ! 来た来た、一階へっと」
『ポーン! 一階へ到着しました』
「豊、エレベーターを降りて左だっけか?」
そうです。あそこがそうじゃないですか? と言って左斜め先の店舗を指さしている。
「そうみたいだな、行ってみよう……済みません、コートを預けたいんですがお幾らですか?」
「ご利用期間はどのくらいでしょうか?」
「二週間です」
「二週間ですと一着千九百五十円になります」
「ほれ、豊も出せ」
「二着、二週間のお預かりで三千九百円になります」
「分かりました、これでお願いします」
「四千円のお預かりで百円のお返しとなります。領収書はご利用ですか?」
「はい。(株)サークルでお願いします」
「畏まりました。こちら領収書と受け取り券となりますので失くさない様にご注意ください」
「分かりました。ありがとうございます」
「あとは、チェックインのみだから、また四階の出発ロビーに戻ろうぜ」
「ですね。いきましょう」
また、エレベーターを待つ二人……
「今回は遅いなぁ……っときたな。四階へっとポチッとな」
「まったく、懐かしいフレーズを使いますね」
「そうか? こういうのってなんとなくそう言いながら押したくならないか?」
それは、政和だけでしょうとヤレヤレ顔の豊。
『ポーン! 四階へ到着しました』
「さて、俺達の乗る航空会社のファースト用カウンターは何処だ? おっ! あったあった、ここだここだ」
「いらっしゃいませ。パスポートの提示をお願い致します」
「はい。パスポートはこれで、十時五十分の便で予約している内田と角屋です」
「内田様と角屋様ですね。何時もご利用ありがとうございます。お席は事前にご予約されていますが、変更などはございますか?」
「いえ。予約通りで大丈夫です」
「畏まりました。只今チケットを発券致します。あとお荷物もお預かり致しますので、此方の台の上にお願いします」
「二名分のスーツケースをお願いします」
「畏まりました。此方が、内田様のチケットとパスポートと預かり荷物の引換券ですので番号をお確かめのうえ現地でお受取りください。では此方が角屋様のチケットとパスポートと預りに持つ引換券ですので、番号をご確認のうえ、現地でお受取りください」
「「分かりました」」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「流石ファースト用カウンターですね。スイスイなのは良いですね」
「そうだな、と言うかエコノミーと対応が違うのは俺達がファースト利用だからだろうな」
「これでエコノミーと同じような感じだったら、高い金を出して乗る意味が無いですからね」
「確かにそうだ!ともかくイミグレーションを済ませてファーストラウンジに行こうぜ」
「政和、手荷物検査ってなんか緊張しませんか? 何も無いのに金属探知機で引っ掛かったりすると結構恥ずかしい物がありますよね」
「あぁぁ! あるある、この間なんかうっかりポケットに愛用のオイルライターを入れて通過したら、しっかりひっかかったからなぁ」
「今回は引っかからない様に、全てかごに入れて通過しますかね」
「それはしっかりとしておかないとダメですね」
「いざ参る! なんちゃってな」
「臭いオヤジギャグはいいですから、さっさと通過してください」
「すまんすまん」
「ほい無事通過っと、後はイミグレーションだけか、時間的に若干並んでるな」
「午前便の利用客が多いからだと思いますよ。さっさと済ませてしまいましょう」
「おっし! イミグレーションもOKっと、早速ラウンジに行こうぜ。いい加減腹が減ったのと煙草が吸いたい」
「私達が利用できるラウンジは、このまま歩いて利用する便の搭乗口近くにあるみたいですよ」
「そっか、じゃこのまま動く歩道の上を歩いて行くか」
と言う事で俺達は、歩く歩道の上を歩きながら、搭乗ゲート近くにあるファースト用ラウンジ入り口に到着し、チケットを表示して、先方さんの名前を告げて到着してないかと確認したところ、まだ到着して居ない様で、相手が到着し次第俺達のいる席に案内するように伝え、喫煙可能エリアの空いている四人がけシートを確保し、飲み物と食事を取りに行くことにした。
「豊、いい加減腹が減りまくって仕方が無いから、食べ物と飲み物を取りに行こうぜ」
「そうですね。品数も結構ありそうですし、食べ放題なのは嬉しいですよ」
「豊、なんかそう言うところセコいぞ」
「そうなんですけどファースト利用は久しぶりじゃないですか、ちょっとウキウキしてしまって」
俺は、豊の気持ちも分からなくないが、大人としてどうなんだろうかと思いながら、豊の肩を叩きつつ、少しは落ち着けと言っておいた。
そうしないと、こっちが恥ずかしい目に会いそうだというのも、あったのだが、まぁこいつに細かなことを言っても仕方が無いと思い半ば諦め気味に、食事と飲み物を取りに行くことにした。
「しかし、かなりの品数があるな。ビジネスラウンジと結構違うんじゃないか?」
「確かにビジネスラウンジと比べるとだいぶ違いますね。ラウンジ全体がかなり落ち着いていていい感じだと思いますよ」
「そう言えば、豊はここのファーストラウンジは初めてだっけか?」
「はい。実はそうなんですよ。ほら普段海外出張で使うのってビジネスが多いじゃないですか、政和みたいにホイホイとファーストで行ける様な身分じゃないですし」
「ホイホイって、俺もそんなにファーストを利用した回数って多くないぞ? むしろビジネス利用で行くのが多いほうだ」
「因みにな、今回の経費は飛行機代だけで余裕で一人頭三十万を超えてるんだぞ? その他に現地の宿泊費を入れたらいくら掛かってると思ってるんだ? 逆にビジネスで行く方がまだ二十万くらい安いんだぞ、つまりだ今回の現地視察と打ち合わせの経費で、二人で百万だ。今回は俺達二人の最後の大舞台って感じで沖田さんが奮発してくれたらしい」
「今回の私達のファースト利用って、沖田さんが奮発してくれたんですか……知りませんでしたよ」
「まぁ、俺達も来年度から社長と副社長だ。こうやってファーストを利用する回数も増えるだろうということで、今のうちから慣れとけと言うのもあるんじゃないか? ただ、初年度と次年度は、ほぼ諦めて居たほうが正解だし初年度から黒字決算は難しいし、不必要な不動産や、人員整理、大幅な経費削減を行って、とんとんってところだろう。それに銀行への返済もある……そう言う事を考えれば、少なくとも、初年度は赤字確定って事だ」
「そうなりますね」
「多分銀行側も初年度で黒字になるとは考えてないだろうし、次年度か次々年度の決算で黒字に成れば回復傾向って事で見てくれるだろうし、そうなれば新作ゲームの開発もしやすくなる。それで新作が当たってくれたら、満塁逆転ホームランだ! でも今の段階で取らぬ狸の皮算用なんてしたって仕方が無い。先ずは業績回復を再優先で考えないと、五年以内って目標が無駄になるんだぞ? まぁ、ここで長々と話していても始まらないし、さっさと食事と飲み物を持って席に戻ろうぜ」
「そうですね」
俺達が、食事と飲み物を取って席に戻って食事をしていると、カウンターのアテンドさんが、向こうさんが到着したということで、此方に伝えに来たのでそのまま通して下さいと頼んでおくと……
俺の予感って不思議と的中しやすいのか、見事に例の二人、つまり新支社長の十文字 宏明と新副支社長の小泉 武志の二人であった。
「うはぁ! やっぱりお前らだったか……」
「お前らかとは、失礼な話だな」
そう言ってきたのは宏明で、他意は無いから分かってるけど、見事に予感が的中したものだから、俺の感想としてはやっぱりな! くらいしかなかったのはここだけの話である。
「いや、俺達も苗字しか聞いてなかったし、ほらお前らの会社の方が社員数が多いだろ、だから務めている会社を知っていても、同姓同名かって程度でしか思ってなかったんだよ」
「そう言われれば、納得出来るが、儂は儂であって儂意外何者ではない」
「分かってるって、だからそうそう噛み付くなって、まったくEIONのワーウルフその者だぞ? ただ身長と髪の毛と体型はまったく違うがな」
「ゲームのキャラクターと同じだったら儂の方が怖いぞ」
「と言うかさ、お前らも食べ物と飲み物を取って来たらどうだ? このまま武志を立ちっぱなしにさせるつもりか?」
俺がそう言うと、おぉぉ! そうだった! とか言い残して、二人で食べ物と飲み物を取りに行きやがった。
どうせ宏明は酒とつまみ程度の物しか持って来ないだろうし、武志は意外とバランスよく持ってるだろうから、暫くこのまま食事をしながら待つことにするか。
「見事に予想が的中しましたね。私としては旧知の仲なのでかなり気楽になりましたよ」
「それは、俺も同じ事が言えるんだけどな。これで全く知らない人間が来られるより、旧知の仲の相手の方が気楽だし、打ち合わせなんかもし易いだろうし、俺としては万々歳だけどね」
豊と俺がそんな話をしていると、二人が戻ってきて、俺達の正面に座った。
で、持ってきた物の内容を見ると、宏明はビールにチーズのせクラッカーで、武志は丼ものとお茶という軽めのメニューだった。
まぁ、これもまた見事に予想的中なわけなんですが、長い付き合いだって事もあり予想しやすいってオチがつくけどね。
しかし宏明は朝から美味そうにビールを呑むよなぁって思っていると一気飲みして早速二杯目を継ぎに行ってるし……全くこいつは変わらんなぁと思ってしまいましたよ……
二杯目のビールを持って来た宏明達と、引き続き下らない話をしながら時間を過ごしていると、搭乗ゲートの開放を知らせるアナウンスが聞こえ、荷物を持って移動する事になった。
「ところでお前達二人の席って何処ら辺なんだ?」
「僕がF-1で宏明がK-1になってるね」
「そっか、じゃ俺の前の席が宏明って事か、因みに豊は俺の後ろだから、比較的席が近くてよかったよ。
これで中央を跨いでの席だったら、話に行くのも面倒だからいい感じの並びになって安心したよ」
そんな風に自分たちの座る席の確認をしながら、搭乗ゲート近くまで歩いて行くと既に、結構な人数のお客さんが並んでおり、流石総二階建ての航空機だけあって並ばずに周辺でまっている人もかなりの人数が居り、いくらファーストが優先だと言っても、ゲートが開くまで時間がかかりそうなので、搭乗前の一服をしに行こうかと思い、目の前の三人に声を掛けた。
「ゲートが開くまでもう少し時間がかかりそうだから、俺は搭乗前の一服をしに行ってくるけどみんなはこの辺で待ってるかい?」
「それなら儂も一緒にいくぞ」
「えっ? 宏明お前たばこを止めたんじゃなかったっけ?」
「あぁ、政和には話なかったな。儂、数年前からまたたばこを吸い出したんだ」
「そうなのか、なら時間もあまりないし近くの喫煙所でサクっと吸ってくるか」
「ああ、そうしよう」
「あっ! 豊か武志で良いんだけど、ペットボトルの水を一本買っておいてくれるか? 金は戻ったら渡すからよろしく頼むよ!」
「「了解」」
「じゃ宏明、急いで吸いに行かないと、マジで吸う時間がなくなるぞ!というかこの先7時間も煙草が吸えないんだから今のうち吸っておかないと後から辛くなるぞ」
「そうだの、いそいで行こう」
後は頼んだと残った二人に言い残し、俺と宏明は近くの喫煙所に駆け込んで、速攻一服を開始し、吸い終わると同時に搭乗ゲートが開くというアナウンスが流れ、慌てて残っている二人のもとへ戻り、水のペットボトルを受け取り、武志に代金の百五十円を渡して、そのままファーストの優先列に並んだ。
「いやぁ、ギリギリセーフだったなぁ」
「そうだね、もう少し遅かったら危なかったよ」
「いくらファースト優先だと言っても、遅く並べばそれだけ待たされるんですから、注意して下さい」
「「すみませぇ~ん」」
宏明と俺が二人に謝る構図が出来てしまって飛行機の方には先に乗られてしまった……と言うか何で俺らが置いていかれなければならないんだよぉ! と心の中で叫びたくなった。
実際には、飛行機に乗り遅れたとかじゃないからいいんだけど、武志と豊が先にサッサかと歩いて行ってしまい、俺達二人はその後に付いて行くような感じになっていた。
ファーストのエリアに入るのは久しぶりだったが、総二階建て機のファーストは他の機体と違いかなりゆとりをもって席が配置されており、やっぱり総二階建て機のファーストは良いなぁと改めて感心させられた。
先ず、席につくとウェルカムドリンクと称してドンペリが提供され、それをチビチビ飲みながら、座席正面の大型モニターをリモコンで弄り、機体の垂直尾翼に設置されているカメラで映し出されている画面を見ながら、出発の時を待った。
もちろん、愛用のaPhoneに入れているお気に入りの曲を聴きながら途中でモニター画面を見ているのも飽きそうだと思い、aPadを用意し電子書籍を読めるようにして、準備万端整いました状態にしていたのは、俺の飛行機好きの所為かもしれない。
なにげに正面の席に座る宏明を覗きこんだら、何杯目かのドンペリを、お代わりしていたらしく、少し頬を赤く染めていたのを確認し、これもまたいつもの事だと思い、俺も自分のペースでドンペリを呑み、その後に酔い覚ましでソフトドリンクを頼んで、飲んでいるとようやく出発の時間になったらしく、大きな機体がトラクターに依ってプッシュバックされるのが見て取れると、期待も高まってくる様で、俺の気分的には早く飛びたてって気分でワクワク感が年甲斐もなく止まらなくなっていた。
ようやく機体のプッシュバックも終わった様で、トラクターが切り離され遠ざかっていくのが見え、俺は正面のモニター画面と窓の景色を交互に見ながら、滑走路に入るのを確認し、暫く停止した後身体に軽く加速Gが掛かる感覚を味わい、機体が浮き上がるのをモニター越しで見、思わず飛び上がった! って心の中で叫んでしまった。
その後は、水平飛行に移るまでは小さくなる地上を見たり、モニタ越しに見える空を眺めたりと少々落ち着きが無いなと思いつつ、水平飛行に入りシートベルトサインが消えると、ようやく人心地がつけ後は、食事待ち状態になり食事が提供されるのを待った。
食事のコースはチキンをチョイスし、前菜から始まる完全コース料理で、ワインも白、赤、ロゼ、シャンパンなど選べ俺自身はあまり酒が飲めないので、悪酔いを避けるためソフトドリンクを頼んでそれを飲みつつ、食事を進めて行き、デザートも食べ終わりお馴染のアイスを食べていると、機体の揺れが激しくなり、シートベルトサインが灯ると同時に、機内アナウンスで『乱気流に入ったため安全のためシートベルトをお閉めください』と繰り返し告げられ揺れが収まるのを待っていたが、一向に揺れが収まる気配がなくむしろ少し前より激しくなってきたんじゃないかと言う気がしてきた。
ふと、他のみんなの要素が気になり、シートベルトを緩め豊の方を見ると、何と無く顔が青ざめており、頬の辺りがヒクヒクとしており、本当にこいつ大丈夫か? と思うくらいの表情をしており、いま声をかけたら絶対にリバースすると判断し、そのままスルーし前の席に座っている宏明は、至って正常でリラックス状態で、武志は若干席の関係もありあまり表情が見えず、普通そうにしているのが見て取れ、俺も改めてシートベルトを締め直し、外を眺めていたが揺れが相変わらず激しくなる一方で段々と機体が上下する様な感じになり、感覚的に言えばジェットコースターのコブを何十回も通過している様な感じで、俺自身も正直墜落するんじゃないかと言う不安感が頭を過り出しており、何気に外を見た瞬間機体が急降下しだしこれは、マジでヤバいと感じた瞬間、俺、宏明、武志、豊の順で青白光に包まれると同時に、自分の意識が飛ばされた。
◇◆◇◆
ん? ……ここは何処だ?誰かに揺り起こされている『・い・・』『にい・・』次第に意識が水の底から浮かび上がる様に、誰かの声に依って少しずつはっきりしてきた『にいさ・』『にいさん・・・』確かいまにいさんって誰かの声で呼ばれたよな? 『兄さんお・・』しかも男の声だぞ? 俺には産まれて直ぐ亡くなった双子の弟しか居ないし、今はタイへ向かっている飛行機の中だ、妹の旦那がって事は無いはずだ。
でも、いま俺の事を兄さんと、呼んだぞ!? 誰なんだ俺を兄さんと呼ぶのは――『兄さんおきて!』――やっぱり兄さんと呼んでいる――『兄さん起きて!』誰なんだ! 俺を兄さんと呼ぶのは! と思った瞬間飛び起きて周りを見渡すと、飛行機の中に居たはずなのに、今は白く広い場所に居る――しかも俺を揺さぶり起こしたのは、俺と同じ顔をした男だった。
「兄さんようやく起きてくれたね。体の方は大丈夫かい?」
「ここは何処なんだ? 俺達は乗った飛行機が墜落して死んだのか?」
「兄さんは死んでないよ。ほら周りを良く見てみて他の人も居るでしょ?」
「確かにこいつの言っている通り、周りには豊、武志、宏明と居るし、生きている証拠に胸のあたりが僅かに上下している」
「で、お前はいったい誰なんだ? そしてここは何処なんだ? それを教えてくれ」
「それについては、私が説明します」
何処からか、鈴の音を転がす様な綺麗な声が聞こえ、俺は声が聞こえた方向に顔を向けた。
「えっ? え、エリアスさん?」
えっ! エリアスさんが何でここにいるんだ? しかもここはEIONの中じゃないぞ! EIONは間違ってもVRMMORPGなんて超近未来オンラインゲームじゃない。
普通のPCで出来るMMORPGだ……でもいま目の前に居るのはEIONで知っているエリアスさんその者であり、俺はこの場所が夢なのか現実なのか解らなくなってきた。
「ニャル・グランドさん……いえ、内田 政和さん。ここは夢ではありません。ここは現実でもありますが……但し少し異なる世界です」
エリアスさんが何で俺の本名を知ってるんだ? しかもここは夢ではなく現実ではあるが、少し異なる世界ってどう言う事だ? つまり俺達の住んでいた地球じゃない別の世界か? もっと簡単に言えば異世界に来てしまったということか? ……いやそれとも違う気がする。
「あの……エリアスさん。ここは現実だけど少し異なる世界だとさっき言いましたよね? ここってもしかして、異世界と現実の狭間の世界って事ですか?」
「一部正解ですが、一部間違ってます。ここは神の世界なのですから」
「はいぃ? 神の世界?」
「はい。神の世界ですが、もっと正確に言うのならここは私が管理する世界の一部なのです」
「つまり、簡単に言えば、エリアスさんは女神様であり、そしてここはエリアスさん……いや、エリアス様が管理されている世界の一部でもあり神の世界との狭間であるって事ですか?」
「そうですね、端的に言ってしまえば狭間と言うのが正確なのかも知れませんが、私が居る場所が神の世界なので、神の世界と言っても差支えありません。あと内田 政和さん、様付けではなくEIONの時の様に、さん付けで呼んでください。政和さんならエリアスと呼び捨てでも構いませんよ?」
そう彼女は笑顔で言ったが、俺には女神様を間違っても呼び捨てにする度胸は無い。
百歩、いや千歩、いやいや一万歩譲ったとしても、最高でさん付けが限界だ。
それ以上は俺の限界値が持たないし早々撤退と言う事で、さん付けで呼ぶ事にする……
「流石に女神様を呼び捨てには出来ませんので、今までの様にさん付けでいいですか? エリアスさん」
「はい。でも政和さんに一度だけでもエリアスって呼び捨てで呼ばれてみたかったです」
あ、あの……四十六歳のおっさん相手にウルウルした目でそんな事を言わないでください。
こっちが一発ノックアウトを食らいますので、これ以上は勘弁してつかぁ~さい。
「ご、ご冗談を……本当に呼び捨ては出来ませんので、エリアスさんでご容赦ください」
ほぼ土下座に近い状態で泣きを入れてしまいました。
というかマジで無理です……
「はい。EIONの時の様な呼び方で構いませんよ」
「で、大変申し訳無いのですが、俺達四人が、ここにいる理由と、俺そっくりの人物の正体を教えて下さい」
「政和さんには、お遊びが過ぎてしまいましたね。申し訳ありません」
そう言うとエリアスさんは俺に向かって頭を下げた。
ちょっ! 女神様がそう簡単に頭を下げないでください。
こっちがどう対応していいのか困ってしまいますから。
「あ、頭を上げてください。俺としては気にしてませんから、兎も角今は説明をお願いします」
「そうですね、失礼しました。でも説明の前に他の方達を起こしませんと、政和さん一人が理解されても他の方が理解されてないのでは、意味がありませんし」
「確かにそうですね。いまみんなを起こしますのでしばらくお待ちください」
俺は、一人一人の頬を叩きながらお越し、一番寝起きが悪かった宏明は、思いっきり往復ビンタを食らわし、それで無理やり叩き起こした。
「ごらぁ! 全員起きたか!?」
「「「起きました!」」」
「エリアスさんお待たせしました。いま全員起きましたので、先ほどの質問の説明をお願いできますか?」
ここで何故か、宏明と豊に武志までがエリアスさんの姿を見て過剰反応してるし、宏明なんかは自分で頬をつねって夢じゃないか確かめてるし、と言うかお前鼻血が出たままで締まらないし豊はしきりに自分の頭を叩いて夢か現実か確かめてるし、武志は武志で目をパチクリしてるだけだし、本当に締まらない絵面になってるの気がついてるのか? いまこの場に鏡があったら、見せてやりたいよ。
「ごらぁ! お前らいい加減にしろ! 俺からも言っておく、ここは現実であり俺達は生きている! でもって、目の前に居るエリアスさんはEIONの中の人の、エリアスさんであって俺達のレギオンメンバーだ! そして女神様でもあらせられる! 以上説明は終わりだ! 解ったらシャキッとしろ!」
三人それぞれから『へぇ~』『ほぉ~』なんて声が聞こえてきたけど、本当にお前ら理解してるのか? 大丈夫か未来の野産自動車! と言うか豊お前までも『へぇ~』とか言ってるんじゃないよ! 本当にこいつら大丈夫か? 俺……真面目に頭を抱えたくなってきたんですが……済みません! 誰でもいいので今直ぐこいつらを矯正してやってくださいお願いします。
「お前らいい加減にシャキっとしろ、真面目な話なんだからきちんと聞け!」
「政和さん、まだお三人とも起きたばかりですし、眠気覚ましにお茶を用意させますので、説明はそれからでも構いませんか?」
なんか言ってる側から、地面に青白い光の玉が出来てそれが消えたかと思ったら円卓に椅子が六脚のセットがあってエリアスさんが椅子に腰掛けると、俺のそっくりさんも椅子に腰掛けるのを見て俺達も次々と椅子に腰掛けると、エリアスさんが円卓中央に置かれていた呼び鈴を鳴らすと、メイドらしき? ……ん? まてよ? なんか見たことのあるメイドなんだが、まるでEIONでの我が館のメイドのミュアにそっくりであり、エリアスさんの側まで近づいてくる。
「ミュア、お客様にお茶をお出ししてあげて」
おぉい! エリアスさん、いまミュアって言いましたよね? ミュアって俺の館のメイドなんですが……なんでここにいるんですか? 教えてくださいよぉ! あともしかしてカミューも居るなんて言いませんよね? ……済みません、これもどなたか詳しく教えて頂けませんでしょうか? お願いします。
「畏まりました。エリアス様」
そう言って頭を下げて扉の奥に行ったけど、あれはどう見てもうちのミュアですよ? しかも一瞬だけどちらっとこっちを見ましたよ! 本当に誰か今直ぐにでも教えて下さい。
暫く経って、ティーセットが乗ったトレイを載せたカートを押しながら戻ってきてたけど、どうみてもEIONの我が屋敷のメイドのミュアですよ……俺も段々分からななってきました。そろそろ俺の頭脳の処理限界を迎えそうでです。
「お待たせいたしました。只今お茶をお配り致します。」
順々にティーカップにお茶を注ぎ各自の前に置いていく。
そして俺の前にカップを置くときに『ご無沙汰しております。ご主人様』そう言って置いていったけど……これ完全にミュアだよな? と言う事はカミューも居る可能性が高くなってきた。
いつ出てくるか分からないが、ミュアが居るのならカミューも居る可能性が高い……もしかすると後で紹介してくれるかもしれないからそれまで待ってみよう。
「では、お茶も行き渡った様ですし、お茶を飲みながらご説明します」
ほっ! ようやく説明が始まるみたいだからここは真剣に聞かないといけませんな。
メモを取りたいけど手帳やaPadなんかは全て飛行機の中に置いてきてるし、ここは俺の頭脳の記憶容量をフルに使うしか無いと言う事で、無言でエリアスさんの説明を聞くことにした。
「先ほど政和さんには、軽くですがここが何処かと言う事を説明しましたが、改めましてご説明しますとここは神々が住まう世界と、私が管理する世界との狭間と申しましょうかそんな感じの場所ですが、私がいる場所が基本神の世界と考えてくださって結構です」
『あのぉ質問はよろしいでしょうか?』と、おずおずと手を挙げてエリアスさんに質問をする武志
「はいどうぞ、バート・マクドネルさん……いえ、小泉 武志さん」
「あ、ありがとうございます。先ずここは、僕達の住んでいた世界ではないのは理解出来ました。ですが何故エリアスさんは、僕達をここへ呼んだのですか? そして、その理由といま政和の近くに座っている政和のそっくりさんが、誰なのかそれも教えて下さい」
「そうですね。まずみなさんをここへ呼んだと言うより正確に言えば召喚したとなりますが、何故みなさんを召喚したかと言うと、私の管理する世界の人類や獣人達が滅亡の危機に貧しているのです」
人類や獣人達が滅亡の危機に貧しているという言葉に違和感を感じた俺は、素直にエリアスさんに質問を投げかけてみた。
「単純に言ってエリアスさんの管理されている世界の人類や獣人達が滅亡の危機に貧している状態というの、現状どういった問題から滅亡の危機になってるのでしょうか?」
「魔物の大増殖と技術の遅れによる魔物の討伐数の低下と、魔法があるのに魔法の攻撃力の低さ、あと今は不確定要素ばかりで噂の域から出ないのですが、ですが魔物の大増殖は邪神教による物だという話もあります」
「なるほど、仮にそれを加味した上で伺いますが、我々は普通の人間ですし魔法も使えませんし、武器を手に持って戦う事も出来ません。それでもエリアスさんの世界を救って欲しいと言われますか?」
「はい。私の管理する世界を救ってくれるのは、政和さん達以外にはないと私は考えてます」
「もしもですよ、先ほど言われた邪神? でしょうか、その邪神が居たとして所謂邪なる神と言う事になりますよね? それを我々が神を倒せると言い切れるのでしょうか?」
「正直言って私にも分かりません。と言うか今のところ邪神が出現したという報告が私のところへ来てないので、本当の意味で不確定要素でしかありませんが、仮に邪神が現れたとしてもみなさんなら必ず討伐は可能だと信じています」
「一旦ここで邪神の話は置いておくとして、先程も言いましたが、我々は魔法を使ったり武器を持って戦う事は出来ないのですよ? それでも、魔物の類は倒せると言われますか?」
「はい。もし信じられないというのであれば、政和さんが実際に体験してみてそれで判断してください。ミュア、何か的になる物と木剣で良いので持ってきてください」
「畏まりました」
エリアスさんは、ミュアに的と木剣用意させて俺に体験させたいみたいだけど、なんかイマイチピンとこないんだよな……でも体験してみろというのだから体験してから判断するとしましょうかね。
「お待たせしました」
「では、ミュア木剣を政和さんに渡してください。的はそうですねいま政和さんが立たれている場所から二十メートルくらいの場所に置いて下さい。政和さんは頭の中で【スラッシュ】と念じてください。木剣は上から振り下ろしても構いませんし、下から振り上げても構いませんので好きな方法でやってみてください」
「分かりました。では下から振り上げる感じでやってみます」
って言ったものの本当に出来るのか?確か【スラッシュ】ってEIONの剣スキルだよなそんなのが使えるわけでもないのに、まぁやるだけやってみますか判断はそれからだ。
「では、行きます」
そう言って頭のなかで【スラッシュ】と念じながら木剣を振り上げると、EIONの剣スキルの【スラッシュ】が発動し的に向かって直撃し、ミュアが用意した的には、いま俺が打ち出した攻撃の跡が、生々しく残っており木剣での攻撃であっても、的に残った攻撃の跡はそれだけの衝撃を与えた事には、間違いはない。
「政和さん、いかがですか? 私の言っている事は信じて頂けましたでしょうか? 今回は木剣でしたので大した事はありませんでしたが、本物の剣で業物でしたらかなりの威力を引き出せますよ」
「エリアスさんの言われた通り確かにスキルは発動しました。つまりスキル=魔法という考えで良いのでしょうか?」
「はい。その考えで合っています。他のみなさんも同じ様に魔法は使えますし、私の管理する世界の人間や獣人の使う魔法より格段に威力は高いですし、最低でもEIONで使われるスキル以上の威力だと考えて頂ければ解りやすいかと思います」
あれ? まてよ――ヴェルドラードの魂の効果もあったよな……あれを使いこなせれば、魔法の威力向上や、敵側の魔法の効果を無くす事も可能になるって事だよな? と言う事は、凄いチート持ちになったって事じゃないか!? うぉぉぉ!! なんか俄然やる気が出てきたぞぉ!
「取り敢えず魔法が使えると言う事は理解しましたが、他にまだ幾つか質問が残っているのですがいいですか?」
「はい。まだ気になる部分があるのでしたら、答えられる範囲でお答えします」
「ありがとうございます。まず先程から何度か質問として出ている俺のそっくりさんの正体はいったい誰なんですか? それとメイドのミュアさんでよろしいのでしょうか? 彼女のことも気になりますし、あとこの場に居ない執事も居たりしませんか? 出来ればその辺も合わせてお答え頂ければと思います」
「それでは、先ず最初の質問の答えですが、これは本人から直接話してもらったほうがいいかもしれませんね。そしてミュアは彼を呼んできてください」
「畏まりました、只今呼んでまいります」
やっぱりカミューも居るってことで確定か……で先ずは俺のそっくりさんの話から訊かないと俺の予想が外れることになる。
そう考えていると徐に俺のそっくりさんが口を開いた。
「初めまして。兄さんのご友人方、わたしの名前は、内田 俊政と申します。兄政和の双子の弟で、兄からは多分聞いた事があるかと思いますが、私は産まれて数時間で亡くなってしまいそのまま魂の状態で彷徨っているところを、エリアス様に救われ現在はエリアス様の補佐をしております」
ハハハ……通りでそっくりなはずだよ……産まれて数時間で亡くなった双子の弟がこんな場所に居ましたなんて言われても誰も信じないだろうな。
現に俺でさえ未だに信じ切れないで居るんだから、他の三人なんかはいったい何の話だよってなるわな。
まぁ、いまは少しでも落ち着かないと、まだ俺の予想ではもう一つのびっくり箱が確実あるはずだから、今のうちから落ち着いて置かないと、本当に頭がパニックになりそうだよ。
「と言う事は、お前は俺の双子の弟の俊政で間違いはないのか? 何か証明する方法はあるのか?」
「証明する方法は直ぐに思い浮かばないけど、実はここで一度父さんと会った事があるんだよ。最初は私を見た時に兄さんと勘違いして、『政和! 何でお前がこんなところに居る?』って殴られそうになって、エリアス様が止に入ってくれて、それからエリアス様が懇切丁寧に説明してくれて、納得して天国の方に渡っていったよ……そうそう父さんから兄さんへ伝言を言付かっていて兄さんが、ここへ来ることがあったら伝えてくれって言われた伝言なんだけど『政和オレは先に行くが母さんや、明日香や美智子の面倒をきちんと見てやってくれ、そして早く逝きすぎたオレを許してくれお前には苦労を掛けるだろうが、立派な社会人になって母さんや妹達を助けてやってくれ』と言う伝言を預かっていたんだよ……これじゃ証明にはならないかな?」
「アハハハ! 親父らしい伝言だよ! しかもかなり間の抜けた伝言だよ! 伝言内容が俺が大学の頃にでも来る様な物だし! 分かった! 分かった! お前を俊政だと信じよう。親父からの伝言確かに受け取った!」
「ありがとう。兄さん」
「でも俺がこのままエリアスさんの管理する世界へ渡ったら、お袋を助ける事が出来ないぞ! それはどうするんだ?」
「それに関しては私が答えましょう。ここに来られてるみなさんは、本物であり生きている事には間違いはありませんが、実はショックな話になりますが、あの乱気流の中みなさんが乗られていた飛行機は、台湾近くの海域に墜落し乗務員、搭乗者共に全員死亡となってますが、みなさんが乗っていた飛行機が墜落する直前に間一髪で、政和さんを始め角屋さん、十文字さん、小泉さん達の召喚を行う事が出来ました」
「つまり元の世界《地球》では、俺達四人共に乗っていた飛行機が墜落した事に因り全員死亡と言う事になってる訳ですね?」
「はい。皆さんが搭乗していた飛行機が、海上に墜落しているため乗務員、搭乗者共に全員死亡と言う報道がされている様です」
「でも、今現在俺達四人はこうして生きている。
別の言い方をするとエリアスさんの召喚のおかげで死なずに済んだと言う事になる訳ですよね? そう考えれば答えは出たもんじゃないか? お前達!」
今まで完全に、空気と化した三人が突如口を開き始めた。
「和政! 答えが出たってどう言う事ですか?」
「そうだ! そうだ! 儂にもその答えとやらを詳しく教えろ!」
「うん! 僕にも詳しくお願いします!」
「わ、分かったから、お前らお茶でも飲んで少し落ち着け! 落ち着いたら説明してやるから安心しろ」
「「「ああ」」」
そう言いながら多少温るくなったお茶を飲みだした三人を、俺は三人が落ち着くのを静かに待った。
「で、お前らは、お茶を飲んで気分的には少し落ち着いたか? 落ち着いたのなら俺がお前達が不安に思って居る事を、説明してやる。それでも納得出来ないのでれば、何度でもお前達の親友でもある俺が、お前達が納得出来る様に説明してやるから安心してくれ!」
「わ、わかった……説明を頼む」
と、言って来た宏明の言葉に他の二人も異存はないらしく、黙って俺の方を向いている。
「それじゃ、先ずざっくりと説明するぞ! 良いか? お前達が先ず気にしている事は、残してきた家族のことだろ? それに関しては俺もお前達と同意見なんだが、俺達が居なくなる=死亡って事になるよな? それで金銭面だがこの中に俺を含め生命保険や旅行保険なんかを掛けていなかったって奴はいるか?」
俺は、敢えて大げさな身振り手振りでみんなに問い掛けると、みんな一斉に首を横に振り、掛けていると主張している。
もちろん俺もお袋が受取人で生命保険を掛けているだから、ここにいる四人全員は保険面では安心であると言う事になる。
「よし! 保険面は家族の名義で受け取りになっているのなら先ずは、安心だ。あとは俺達の乗っていた航空会社からも多額の慰謝料が各家族に支払われるだろし、業務上での移動中と言う事で労災もおりる可能性もあるし、会社側からも多少なりと見舞金も出るだろうから、早々切迫した状態にはならないだろうし、俺の預貯金や財産などは、一応行政書士を通して、遺言状としてお袋に譲渡するように遺してあるから俺の方は、強いて言えば甥っ子の成長と、お袋の死に顔を拝めない事くらいだが、お前らは何か問題はあるか?」
「私の場合は、政和と一緒に仕事をする様になってからは、散々『人生いつ何があるかわからないから親に遺せるものは、きちんと遺しておけ』と言われ続けてきたので、状況的には政和と同じですね」
「宏明や武志はどうなんだ?」
「儂か? 儂は保険類は親の名で受取人に指定しているくらいで、預貯金などの財産の指定はしていなかったな……多分その辺で若干の問題は出るだろうが大した額ではないし、大丈夫だろう」
「僕は、一応政和と豊と同じ様な感じにしてあるので、多分問題は無いと思うけど、なにせ家が家だから、変なところで揉めそうな気がするんだよね……」
「ああ、お前の家それなりに古い家だからな、多分揉めるだろうな……」
俺は、額に掌を当てながらそう答えた。
「でも、遺言状としてきちんとして残してあるのなら大した問題にはならないだろう?」
だと良いんだけど……と肩を竦めながら曖昧に答える武志。
まぁ、家が家だから仕方が無いと思いつつも、事が上手く片付いてくれる事を俺は願った。
「あと、職場の方だが、これは俺達の方からは何も出来ないから、後任の件は上の方で勝手に決めて処理してくれるだろうけど、気がかりな問題が一つあるんだよなぁ」
「何ですか? その気がかりな問題って?」
「いま俺達が抱えている案件だよ……この案件の後任誰がやるんだと思うと凄く気がかりになるんだけど」
「ワハハハ! 儂はもっと重大な問題かと思っていたが、それを言ったら、ここにいる全員幾つでも案件を抱えているんだぞ? 儂達は生きているが、事実上は死んだ事になっている。死んだ後の仕事の事をあれこれと、気にしたって始まらんだろう?」
「確かにそうだな……ありがとうな宏明」
「いまは、俺達の今後を考えなければならないし、先ずはエリアスさんの管理する世界について、詳しく知らないと向こうに行って何も知らない状態だと、苦労するし五十代が見えてきている身体には少し辛いけど、他ならなぬ女神様であるエリアスさんの頼みだ! EIONで散々世話になっているし、【虹翼の翼】のマスターとして、メンバーが困っている事を、見過ごす事が出来るかっての!」
「だな」
「ですね」
「うん!」
俺の言葉に、三人三様それぞれ同意の意見を述べ、それに対してエリアスさんは『ありがとうございます』と花が咲いたような笑顔を見せている。それを見計らった日の様に、ミュアが『お待たせ致しました』の声と伴に、一人の猫獣人の執事を連れてきた。
「エリアス様お待たせして申し訳ありません。兄を連れてまいり参りました」
ミュアに取って兄と呼べる存在は、俺は一匹しか知らない。
思い当たるのもカミューのみ、ここにいるカミューとミュアが本物かどうかは今のところ判らない。
と言うより俺が知っているカミューとミュアは、嘗て俺が飼っていたロシアン・ブルーの兄妹の二匹のみ、判断材料としてはカミューはヒョウ柄の首輪に、愛称のかむと、ひらがなで刻印れた銀製のドッグタグと裏にフルネームのカミュー・ロシアンと刻印されている事と、妹のミュアも同じ様にピンクの豹柄の首輪に、愛称のみゅあと、ひらがなで刻印された銀製のドッグタグに裏にはフルネームのミュア・ロシアンと刻印されていることが、目印になる。
「カミューにミュア、二人は本当の主の前に行って改めて挨拶をしてきなさい。そして今の状態の事を話して上げなさい」
「「畏まりました」」
二人はそう言って、恭しく頭を下げ、俺の元へ歩いてきた。
「本当にご無沙汰しております。旦那様。カミューでございます」
「兄共々、ご無沙汰しております。ご主人様。ミュアでございます」
二人が、同時に頭を下げ、そして頭を上げたあと首元にある首輪とドッグタグを見せた。
俺は一瞬自分の目を疑ってしまった上に、まさか俊政と同じ様な事になっているとは、思いもよらなかった。
EIONでも同じ様に俺の屋敷には、執事のカミューとメイドのミュアを置いているが、外見がロシアン・ブルーに似ているだけの獣人族のNPC執事とメイドとして置いていたが、目の前に居る二人は明らかに本物であり、俺が嘗て飼っていた二匹に間違いはない。
「お前達、本当にあの、カミューとミュアなんだな?」
「はい。旦那様と一緒に居た時とは姿は違いますが、確かに旦那様の知るカミューとミュアでございます」
そう言って、首輪のドッグタグを裏返し俺に見せた……そこには確かに二人のフルネームが刻印されており、俺が二人に買い与えたものに違いはなかった。
「何故、お前達二人は猫獣人になっているんだ? 俺の目には猫獣人に転生したとしか見えないんだが」
「はい。その話も少々長くなりますので、僭越ながらこのミュアが新たしいお茶をご用意致しますのでその後からでもよろしいでしょうか?」
ちょうど、俺のカップにも他の連中のカップにも、お茶は残っておらず、新たにお茶が丁度欲しいと思っていたので、一つ返事で『頼む』と応えミュアに新たなお茶の用意をしてもらった。
ミュアが、新たなお茶を用意している間、若干手持ち無沙汰になり、スーツのポケットの中に入れておいた禁煙パイプを取り出し、加えていると、俊政が何を思ったのか何かを持って俺の方にやってきた。
「兄さんの吸う煙草はこれだよね? と言いながらエイトスター二箱と、俺がいつも愛用しているハント・ワールドのオイルライターを渡してきた。十文字さんは、ラッキーストックと百円ライターですよね? そう言いながら、俺と同じ様にラッキーストック二箱と百円ライターを差し出してきた」
「俊政、お前俺が吸っている煙草と愛用しているオイルライターのブランドまでよく知ってたな?」
『それは、双子だからよ?』と、なんとも曖昧な表現で言っているが、確かに双子同士だと考えが煮るともいう実験結果もあるくらいだから、一応は納得できるが、俊政は死んでいた身だぞ? しかも俺と住む世界も違っていた訳だし、それで双子だからってだけで意思疎通が図れるとは限らないし、多分エリアスさんの力が、何かしら影響して居るんじゃないかと俺なりには考えている。
「俊政、煙草を渡してくれたのは、ありがたいけど、この場で吸って良い様な雰囲気じゃないよな?」
「うん、ここも一応は禁煙だから、喫煙はあそこの小部屋でお願いね」
と言って、俊政は一つの扉を指さす。
それに釣られて俺も視線を向けると【Smoking Room】と書かれた看板が掛かっており、ここも完全分煙なのねと思いながら、渡された煙草とオイルライターを手に持ち、喫煙ルームへ歩いて行くと、宏明も『儂も』と言いながら一緒に付いてきた。
俺と、宏明は【Smoking Room】と看板の掛けられた喫煙ルームに入ると、早速煙草の封を切り、煙草を一本取り出して、宏明に一つの質問を投げかけた。
「なぁ、宏明、数時間振りになる喫煙が、異世界と神の世界との狭間の世界でになるとは、予想していたか?」
「いや、儂もここまでの事は、一切予想だにしてなかったし、この世界も分煙化と言う流れが来ている事に、逆に驚いたくらいだぞ」
「確かに、俺もそれは予想にしなかったし、分煙化の事もそうだけど、今後の事をよく考えないとな、なんせ今まで散々世話になってきたエリアスさんの頼みだ、無碍に断る事も出来ないし、ある意味命の恩人でもある訳だし、真剣に考えないとまずいんじゃないか?」
「エリアスさんは、儂達には邪神すら屠れる力があると言っておったが、未だに信じ切れない部分もある、一応政和が、剣スキルを使って的に当てたのは見たが、それだけではないだろう?」
「多分な……俺達にはエリアスさんの管理する世界の住人よりも、強い力がある筈だと俺も予想している。だからこそ今後の俺達の動き方次第で、エリアスさんの管理する世界の方向性が決まってくるんだと俺は考えている」
そんな話をしていると、喫煙ルームの扉がノックされ、『ご主人様、十文字様、新しいお茶が入りましたので、お席までお戻り下さい』と扉の向こうからミュアの声が聞こえ、『分かった今行く』と応え吸い終わりかけの煙草を灰皿の上でもみ消し、喫煙ルームから二人して出たあと、『お待たせ』と言って自分達が座っていた椅子に腰掛けた。
「で、カミューとミュアが死んでから今までの話だったな? やはり俊政と似た様な感じなのか?」
「いえ、我々の場合は俊政様とは若干異なります。と言うのは私達二匹は元々は普通の猫でした。何もなければ普通に天国へ行く筈だったのですが、エリアス様に依りここに魂ごと召喚され、その時に与えられたのが今の身体で最初は二本足で満足に歩く事も出来ず、両手の指も満足に使う事が出来ませんでしたが、俊政様が懇切丁寧に手助けしてくださって今に至ってると言う訳でございます」
「ふ~ん……と言う事は、最初俊政を見た時は俺と勘違いしたんじゃないか? 特にミュア! お前はいつも俺にべったりだったし、カミューも何かある毎に、俺の肩の上に乗ってたよな? そして二匹とも俺が胡座をかいて座っていると、必ず場所を争うかの様に二匹揃って、俺の太ももを枕にして寝ていたよな?」
「ハハハ……面目ありません。わたしも兄も最初、俊政様を見た時ご主人様だと勘違いしてしまいましたが、俊政様は私は兄ではないから、兄と同じ様に接する必要はないと言って、何れ兄がここへ来た時に昔変わらない状態を見せてあげれば良いんだと、ただし兄に見せるのなら昔と同じでは駄目だ。進歩した君達を見せてあげなさいと言ってくれて、それからは今の身体が自分の本当の身体として馴染んでいくようになってからは、兄は執事として、わたしはメイドとして、エリアス様のお側に居させて頂いていたのですが、本日を持って兄、カミュー、そしてわたしミュアは本来の主である、ご主人様のお傍に戻る様に、エリアス様から仰せつかりましたので、今後共宜しくお願い致します」
そう言うと、二人は同時に深々とお辞儀を俺にした。
「エリアスさん、良いんですか? 二人を一緒に連れて行ってしまっても? 身の回りの世話をする人間が居なくなるんじゃ困りませんか?」
「二人の主は最初から政和さんではありませんか? それにこの二人が亡くなった時は、かなりショックを受けていて、立ち直るまで結構時間を要したと角屋さんから聞きましたよ?」
「ごらぁ! 豊! なに余計な事をエリアスさんに言ってるんだよ?」
「いやぁ、あの時の政和って見ちゃおれないって感じだったし、こっちとしては上司が毎日毎日溜息ばかりついてる姿を見たくないし、部署内の雰囲気もかなり暗くなって居たの気づいてましたか?」
「あの時は済まなかった……お前だって知ってるだろうが!? 俺が大の猫好きだって事を! カミューだけではなくミュアまで一緒に亡くした時の気持ちと言ったら、言葉じゃ言い表せられないくらいなんだぞ!」
「でもまぁ、こうやってまた、カミューとミュアがまた戻ってきてくれただけでも、俺としては凄く嬉しい! それが今の俺の正直な気持ちだ!」
カミューとミュアは、俺の言葉に感極まったのか、カミューは『旦那様』と言いまるで騎士がとる様な見事な臣下の礼をし、ミュアは『ご主人様』と涙ながら俺の胸に飛び込んでくるしで、周りは周りで『ヒュー、ヒュー!』『いやぁ熱いねぇ!』とか囃し立てるしで、俺の扱いが段々悪くなって来ているのは、気のせいだろうか? ……きっと気のせいだよなぁ!? と心の中で叫ばずに居られなかった。
「で、エリアスさんさっきの質問になりますが、カミューとミュアの二人は、一緒に連れて行っても良いんですね?」
「はい。大丈夫です。それなりに戦闘も諜報もこなせますので、政和さんとしては足手まといには成らない筈ですし、拠点が決まったら執事とメイドとしての役目を与えてあげれば良いですし、そうでなければこの二人も納得しませんでしょう」
「分かりました。で俊政はどうするんだ? お前はこのままエリアスさんの補佐を続けていくのか?」
「うん、私はここでエリアス様の補佐を続けていくから、エリアス様の管理する世界の立て直しは兄さんに任せるから、思う存分やっちゃってよ」
「思う存分やっちゃってってなぁ……お前は俺に何をさせたいんだ? さながらエリアスさんの管理する世界で大暴れして来いって言っている様なものだぞ?」
「いや、正にその通りで、いま現在各地で魔獣や魔物が大発生してるって話は、最初に聞いていると思うけど、それをどうにかして欲しいのと後将来的には国を一個作って欲しいんだ」
「はぁ? お前俺に冗談を言ってるのか? 俺に国を一個造れって、国造りってそう簡単に行くものじゃないし、国に適した土地なんて在るのかよ? それに国王はどうするんだ?」
「冗談も何も、兄さん、私は真剣に言っているつもりだよ? 国を興す為の土地は既に決まっているんだけど、ちょっとやそっとじゃ手が付けられない場所にあってそれを片付けることが出来たら、簡単に国を興す事は可能だし、国王としては……兄さんにやってもらいたいんだよ、所謂始祖王って事で?」
「何か俺にはとてつもなく、冗談にしか聞こえないんだが、俺に国王をやれって? 無理な事を言うな! 誰だって簡単に国王に成れるのなら苦労しないっての!」
「これは、兄さんだから頼んでいるのであって、本当の意味で兄さんしか出来ない事なんだよ。だからこちらも出来うる限りのサポートは、するからお願いします」
「政和さん、私からもお願いします。政和さんなら必ずやり遂げててくれると信じていますから……も、もしもですね政和さんが国を興す事が出来たら、后として私が政和さんの元へ嫁いでも良いですよ?」
「ちょっ! ちょっと待った! なんか聞き捨てならない発言がエリアスさんの口から出ましたが、間違ってもそれだけはやめて下さい。自分が管理する世界でしかも、ただの異世界から来た人間の国王の后になるなんて、女神降臨もいいところですよ! 確かにエリアスさんは可愛くて美人ですが、世界を管理する女神様を娶る事は絶対に出来ませんので、その考えは捨てるか、一時保留にして下さい」
「わ、わかりました。でもこれだけは絶対に約束して下さい。政和さん絶対に無茶だけは、しないで……そして必ず生き延びて下さい。それが私との最低限の約束ですよ?」
「そんな、ウルウルした目で言われたら、絶対に駄目だとは言えじゃないですか……わ、分かりました絶対に無茶はしませんし、必ず生き延びてみせますのでご安心下さい」
「はい」
って……なんか異様にエリアスさんの顔が赤いんだけど、なにか無理して体調を崩して無ければ良いんだけど……大丈夫かな? ……そんな風に考えていると宏明、豊、武志の三人が小声で『鈍感』『鈍感男』『朴念仁』『女神落とし』とか、次々と呪詛の様な言葉が俺に向かって浴びせ掛けているのは、気のせいか? ……うん! 気のせいって事にしておこう……以下自己完結……って自己完結じゃねぇ!! あいつら覚えておけよ! コノウラミハラサデオクベキカー!
俺は密かに心の中であいつら三人への復讐を誓ったのは、俺だけの秘密であり、いつかこの恨みをきっちりと晴らさせて貰うからな! と心の中で誓い話の方向転換を図る事にした。
「それで、話は変わりますが、エリアスさんの管理している世界の情勢と、通貨に単位、それと言語に文字に今現在存在する国と宗教や習慣などを大まかで良いので教えて頂けますか?」
「はい。今現在私の管理する世界では、大きく四つの国が在り、その他に大小ですが幾つかの小国が存在しますが、それに関しては今回は省きますね。先ず中央大陸に四つの大国があり、その中で一番女神信仰が高く、豊穣と魔晶石の国『エリュシオーネ皇国』です。次が妖精と森林の国『グリダニアン王国』その次が海洋国『リムサ・デ・ネロ王国』最後が中立国家として精霊と厳冬の国『イシュヴァール王国』大陸の位置的にして、南側が『エリュシオーネ皇国』東側が『グリダニアン王国』西側が『リムサ・デ・ネロ王国』北側が『イシュヴァール王国』となっており、『エリュシオーネ皇国』を中心に東西の二国とは仲がよく諍いも無く国家間の移動は自由になっていますが、中立国家の『イシュヴァール王国は東回りに回っていくか西回りで回っていくかにも依りますが、北国と言うのもあり中立と謳いながらも若干閉鎖的な感じのある国ですが、普通に行き来は可能で、『イシュヴァール王国』特産のお酒はかなり人気があるそうです」
なんか、酒好きの宏明が『イシュヴァール!』『イシュヴァール!』とかほざいてるけど、聞かなかった事にしてスルー構成を取ることにする。
「中央大陸は本来は四ヶ国なのですが、大陸中央に広大な土地がありそこは完全に不毛な土地と呼ばれ、魔物や魔獣が跋扈する様な所なのですが、そこに邪神教を信仰する『ガルマール帝国』なる国が存在するという噂を聞いた事がありますので、そのうち政和さんに調査をお願いするかも知れませんが、今のところ噂の範囲を出ないので、暫くは様子見で居ても大丈夫かとも居ます」
「一応確認ですが、俺達が自主的に動いて調べる事は可能ですよね?」
「はい。それは可能ですし私としても、政和さん達の行動を制限するつもりはありませんのでご安心下さい。ただ一つだけお願いがあります。政和さん達を最初に送り出す国は『エリュシオーネ皇国』にさせて下さい。というかそこに活動拠点を取って頂けると、私の方でもサポートしやすい、と言うのもありますのでお願い致します」
「ところで、その『エリュシオーネ皇国』と言う国はどんな感じの国なのですか?」
「そうですね……一言で言えば女神信仰の強い国で、女神信仰を国教として定めている国ですので、みなさんにとってもかなり恩恵が得られる国かと思います」
「なるほど、エリアスさんのお勧めする国ですから、俺達にも利があれば別に何も言うことはありませんし、正直言えばエリアスさんとしては、一番最初にこの国の憂いを削いで欲しい、と言う事なんじゃないですか?」
お茶を飲みながら、俺はエリアスさんに訪ねてみた。
「フフフ。流石、政和さんですね……確かに政和さんの言われる通りに、少々込み入った憂いを抱えていまして、出来ましたらその辺も含めて削げるのなら削いで頂けたら助かります」
「判りました。その辺はどのような形になるか判りませんが、適当に動きつつ状況を調べて潰せそうなら潰しておきます」
「あと、通貨の種類と価値を教えて頂けますか?」
「通貨の種類は青銅貨、大青銅、黄銅貨、大黄銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨、大白金貨の十種類で、最高位の大白金貨は殆ど流通する事が無く特定の取引等で使われる事が多く一般では目にする機会は、ほぼ無いと言われている通貨です。通貨単位は『イエン』で各国統一されていますので、買い物や取引などでも素早く計算できますので楽かと思います」
「貨幣価値は、日本円に当て嵌めるとどんな感じになりますか?」
「そうですね、政和さん達の国の貨幣価値に換算すると青銅貨が百円、大青銅貨が五百円、黄銅貨が千円、大黄銅貨が五千円、銀貨が壱万円、大銀貨が五万円、金貨が十万円、大金貨が五十万円、白金貨が百万万円、大白金貨が一千万円、こんな感じになるかと思います」
「ふむ……百円以下の金額が切り捨てみたいになってるんだな。で、『判』が中間の金額ってのも解りやすいですね。通貨の単位や価値、種類に関しては参考になりました。」
「その他不明な点はありますか?」
「この際なので、纏めて聞きますが、成人年齢と結婚適齢期、あと現在確認されている魔物や魔獣ではなく、意思疎通の図れる種族と言うのは何種類居るのか教えてくれますか? あと魔法の種類もお願いします」
「では、質問順に追って説明しますね。成人年齢は十五歳で結婚適齢期は、女性の場合は十四歳~十八歳で高位の貴族や王族だと早いと十二歳位でも嫁ぐ場合があるそうで、男性は逆に幅広く十四歳くらいから二十代前半までが結婚適齢期とされています。婚姻は一夫多妻と数は少ないですが、一妻多夫も認められていますし、異種族間の婚姻も可能です。意思疎通が可能な種族は、人間、獣人族、ドワーフ、エルフ、ダークエルフ、魔族、竜族、ヴァンパイア、妖精、精霊となっていて、種族間の諍いも無く普通に人間と同じ様に暮らしていますが、妖精族と精霊族は極端に会う事が難しい種族として有名ですが、一度友好関係を築けば、色々と手助けをしてくれたりと、情に厚い種族としても有名です」
「なるほど、種族に関しては解りました。魔法に関してはどんな感じになってますか?」
「魔法に関しては正直使い物にならないと言う認識が強いのか、強力な魔法を使う為に属性魔晶石を指輪にして身につけて、強力な魔法を放つ事が多く発声詠唱、短縮詠唱、無詠唱と分かれていて、状況に応じて使い分ける他、魔法の詠唱に熟知していなければ、魔力だけ消費して発動しなかったり、逆に発動しても維持しきれなかったりすれば、暴発の様な事故も発生しており、魔法その物が扱いにくいうえに、属性魔晶石が無ければ火力がないという考えが定着しつつあるのです」
「それはまた厄介な話ですね……ところで、魔法の属性は何種類くらい在るのですか?」
「魔法の種類ですが火、水、風、土、雷、光、闇、無属の八属性があり、その他にには、初級、中級、上級、王級 神級とあって、これもまた厄介な話なのですが、人に依って扱える属性が異なっていて、平均で一つか二つの属性の魔法が行使できると言った感じでしょうか? それと適正のない魔法は一切使えないと言うのもネックになってる様です」
「なるほど、魔法に関してはだいたい解りました。ところで、これは下世話な話ですが、奴隷制度なんてのもあったりしますか?」
「はい。一応はありますが、奴隷になるのは主に犯罪人や、あと一般でどうしても食い繋げていけなくて身売り奴隷というのがありますが、あまりいいものではありませんね……その他裏では非合法な奴隷市場もあったりしますが、これもなかなか取り締まりが出来ていないのが現状みたいです」
「非合法の奴隷市場と言うのは、例えば見目麗しいエルフの女性だったり、何処かの国の没落貴族の令嬢が借金の形にとか、そんな感じが多いですかね?」
「ですね……そんな感じが多いみたいです。あとエルフやダークエルフの女性も狙われやすいですが、獣人系の女性も拐かしで奴隷にと言う事もあるみたいです。」
俺は顔を顰めながら、ひとつの言葉を吐き出した。
「つまり簡単に言えば、人間の道楽であり女性を男の欲望の捌け口としか見ていない輩が多いって事ですね……」
「いい主人に買われれば、酷い扱いを受けずに済むでしょうけど、碌でもない主人に買われた奴隷は本当に哀れとしか言い様がありません。そもそも、そう言う制度すら無くなれば良いのにって私は思っています」
「まぁ、犯罪奴隷は致し方がないとしても、一般の奴隷制度は無くせるのであれば、無くしたいですね。ところで奴隷と一般人の見分け方は、やはり奴隷の首輪とか奴隷紋みたいなものですか?」
「はい。今は奴隷の身分を首輪で現すのではなく、右手の甲に奴隷紋と言う刺青の様な紋を魔法に依って刻み込みます。主人の命令を無視したり脱走したりすると、奴隷紋が発動し自分の手で自分の首を、締めると言う事になっているらしいです」
「要するに主人の言う事を利かなかったり、脱走をしたりすると自分の手で死をって事ですね……なんとも胸糞が悪くなる話ですね。しかし魔法が弱いと言っておきながらこう言う事だけは妙に頭が回ると言うか、本当に不思議なものですね」
「私も全くその通りだと思います。だからこそ政和さんには、どうかお力添えをお願いします」
「おっと! エリアスさん今は頭を下げるのは無しですよ? 正直言ってこの手の話は俺も胸糞が悪くなるので、サッサと始末してしまいたいのですが、色々と動かなければならないでしょうし、この件に関しては早めに片付ける方向で動きますので、安心して下さい。特に裏奴隷市場の方は完全に壊滅させますので安心して下さい」
俺がそう言うと、宏明や武志に豊も同意権だったらしく、『早めに片付けよう!』とみんなやる気を出しているものの、まだ狭間の世界からエリアスさんの管理する世界にすら行っていないというのに……士気が上がるのは良いけど、張り切りすぎるなよ? って俺はツッコミたい心境になったのは、言うまでもない。
「話はあらかた訊いたし、どうする? このままエリアスさんの管理する世界へ行くか? 俺は何時でも出発は可能だけど」
「儂は行く前に一服はしたいのぉ」
「私は、やる事が無いので、ここでもう少し武志とお茶を飲んでますよ」
「僕も、豊とお茶を飲んでいるから、二人で一服してくるといいよ」
「OK! それじゃ出掛け前の一服を済ませてくるぜ! 宏明行こうぜ」
「お、おう」
言うやいなや、椅子から立ち上がりそのまま、喫煙ルームへ直行し、宏明とともに煙草を吸いながら、エリアスさんの話を纏めていき、今後の行動方針を大筋で決め煙草を吸い終わると二人揃って喫煙ルームを出、また元の椅子に座った。
「で、ここに残っていた豊と武志の二人で少しは行動方針は決めたのか?」
「私達の方も大筋での行動方針を決めましたけど、政和達の方ともすり合わせをしなければなりませんし、一度すり合わせをして最終決定にしましょうか?」
「そうだな、それが全ての行動に繋がるって訳じゃないし、大筋合意出来ればあとは臨機応変にって感じでいいと思うけど、他はどうだ?」
「じゃ、先ずは俺達の方からだな、最初はどのみち金稼ぎになると思うし、最初から騎士団に入れるとは思っていない。と言うか五十歳が見えてきているおっさんが入れるとは思ってないし、先ずは地味に冒険者ギルドに登録して依頼をこなしながらかな? って考えてる。あとはそうだな少しずつでいいから、知り合いを増やしつつその伝手を使って、最終的には裏奴隷市場を完全に潰す。その後は未定かな?」
「私の方も、実は似た様な感じでして、ただ正直言って裏奴隷市場の方はあまり時間をかけ過ぎるのも問題がありますので、何か良い手立てを考えないとまずいかもしれませんね」
「そうすると、囮を出すしか無いな、例えの話だけど手先の器用なドワーフの娘を探しているんだがとか、あとは豊と被ってしまうけど、弓が扱えるエルフの娘をって感じで釣り出すしか無いか、それか一人買って、直ぐ開放する感じにはなるけどそれで、いい感じの客に見せかけて、裏奴隷市場の情報を掴むしか無いかな?」
「でもそれをやるにも金が掛かりますよ? ただでさえエリアスさんの管理する世界の金は一切持っていないんですから、冒険者ギルドに登録したとしても、そこまでの金を稼ぎ出すのが一苦労じゃないですか?」
「そっ! それが一番の問題なんだよ。肉体的な衰えがあるから、EIONみたいな戦闘は出来ないだろうし、ゲームとリアルの差はかなり大きいよな……」
「あのぉ……お話中済みません。資金の方なんですが私の方で用立てる事は可能ですし、肉体的な事も心配ないかと思いますよ? 一応ですがこちらからお願いしているので、一人辺り二千万イエンを用意しますので、後でミュアに持って来させます。それで当座を凌いでもらって、少しずつで良いので余裕を作って下さい。あと、何度も言っていますがこちらのサポートは一切惜しみませんので、必要な物があれば、用意させます」
「エリアスさんの申し出は、本当に助かりますが、俺達は命を賭けなければならない場合もあるわけですし……」
「政和さん達に危険な目に遭わせてしまう可能性があるからこそ、もし命を落とす様な事になったら、私は悔やんでも悔やみきれなくなります。
だからこそ安全の為にも私のサポートを受けて下さい!」
うはっ! マジでヤバいエリアスさんに、真剣な眼差しで言われると嫌とは断れない……そう考え豊、宏明、武志と見ていく、みんな真剣な目をしている、どうやら覚悟は決まったみたいだな。
「では、ここでレギオン【虹翼の翼】のメンバー会議の決議を出す! エリアスさんのサポートを受けるのに賛成な者は無言のまま席を立ってくれ! 以上!」
ザッ! と音と伴に俺を含め全員が席を立った! それを見た俺はすかさず『満場一致に依り可決!』と声を挙げたあと、『エリアスさんからのサポート心より感謝します』そう言い、エリアスさんに向かって頭を下げた。
「こちらこそ、私の管理する世界の立て直しにご協力頂いて心より感謝します。そして先ほど用意させましたお一人ずつ二千万イエンをお受取り下さい」
金の入った袋が乗ったカートを押しながら、ミュアがエリアスさんの後ろから付いてくる。
エリアスさんが一人ずつ金の入った袋を渡していき、最後に俺のところに来て『どうか宜しくお願いします』と言って頭を下げそうになったので、俺は右手でエリアスさんの肩を抑え、黙って首を左右に振って『エリアスさんが今度、頭を下げる時は全て終わってからですよ』と言って決してお世辞にも爽やかとは言えない、むさいおっさんの笑顔を見せ付けてあげると『はい』と言って笑顔をつくると、そのまま金の入った袋を手渡してくれた。
「エリアスさん。もう一つお願いがあるのですがいいですか?」
「はい? なんでしょうか」
「えっと……出来れば現地で着る事の出来る服を人数分用意してもらっても良いですか? 今の服のままだと確実目立ちますのでなるべくなら、冒険者が着る様な服か、一般庶民が着る様な服が在ると助かるのですが」
「それでしたら【イメージ・チェンジ】と頭のなかで唱えて下さい。そうする事に依って頭でイメージした服に切り替えられますので、試してみてださい」
「【イメージ・チェンジ】ですね分かりました。試してみますね」
そう言って俺は頭の中でイメージした服を想像しながら【イメージ・チェンジ】と唱えた瞬間今まで着ていた服と履いていた靴の形が変わり、俺の服はズボンは黒の牛皮っぽい物になり靴も編み上げのブーツに、上は綿の白シャツにブラウン系の革のベストになり如何にも、冒険者っぽい服装になった事に安堵する。
武志、豊、宏明の三人も色や形が多少違うもののだいたい似た様な服装になり、一安心しているようであった。
『兄さん私からはこれを渡しておくよ』と言って俺の掌に俺が愛用していたaPhoneにそっくりなスマホが乗せられたが、何故かそのまま掌に吸い込まれるかの様に消えていった。
「エリアス様も同じものを使っているから、たまには連絡してあげて、番号とアドレスは既に入力済みだしもちろん私のも入っているから、連絡は何時でも取れるようになるから、一応他の人にも渡してあるし、カミューとミュアにも渡してあるから、安心だよ……但しエリアス様の番号とアドレスが入っているのは、兄さんの持っているものだけにしか入ってないから」
「はぁ? 何で俺のだけエリアスさんの番号とアドレスが入ってるんだよ? 他のやつのにも入れておかないんだよ!」
「だってエリアス様の加入したレギオンのマスターなんでしょ? それなら当然知っていても不自然じゃないと思うけど? あっ! さっきエリアス様が使っているスマホにも兄さんのスマホの番号とアドレスを登録しておいたから」
ったく! 余計な事ばかり気を回しやがって、誰に似たのやらって……俺も同じなんだよなぁ……と、改めて気が付かされたわいっ! と、何だかんだでみんなの準備も出来たみたいだなそろそろ出発だな。
「おぉい! みんな準備は完了したのか? 準備が出来たらみんなこっちに来てくれ!」
銘々に準備を整えたみんなが、俺のもとに集まってきて全員でエリアスさんに向かって『お世話になりました』と頭を一斉に下げると、エリアスさんは一瞬寂しそうな顔をしたが、直ぐに笑顔になり『みなさん! この魔法陣の上に乗って下さい』と声をかけてきたので、それに従い魔法陣の上に乗って行くと『では、送りますよ! みなさん気おつけて行ってらっしゃい!』そう言って笑顔をみんなに向けると同時に、俺達は光りに包まれ異世界へ向けて転移を開始し目の前の景色が消えて変わる感覚を味わった。
エリアスは転移魔法陣の中で薄れゆく政和達の姿を見送りながら(どうかご無事で……)と心のなかで呟いていた。
「行ってしまいましたか……」
「ええ、兄達なら必ずやエリアス様の願いを叶えてくれるでしょうし、他に……お二柱の神の加護を授かっておりますし」
と、話をしている二人の後ろからガハハハハ! と高笑いをしながら近づいてくる二つの人影に向かって、俊政は話しかけていた。
「政和の双子の弟……俊政といったか? お主は政和達と一緒に行かなくても良かったのか? お主なら政和と一緒に居れば、必ずや力強い手助けとなったろうに何故一緒に行かなかったのじゃ?」
「いいえ……私は兄、政和と一緒に居てはいけないのです。何故なら双子とは、国、地域、場所、習慣などに拠っては、忌み嫌われ虐げられる存在に成り得る可能性があるからです。もし私が兄と一緒にここを旅だったとして、双子だという理由から虐げられる様にな事になったとしても、優しい兄ですので必ず守ってくれると分かっていますが、しかしそれではダメなのです! 私が一緒にいる事で、私を守ろうとする兄の足枷になりたくはないのです。ですので私は兄と一緒に行かずに、この場所から陰ながら兄を支えていこうと考えたのと、他の理由として、私は産まれて数時間と経たないうちに亡くなりました。その所為で父や母への孝行や、そして双子の妹達への手助けを何一つする事が出来ませんでした。ですからその分兄が父や母への孝行、妹達への手助けと色々と頑張ってくれました。私が直接手助けできない事が、今でも悔やまれて仕方が無い事があります。でもここで兄に再会できた事が嬉しく、今まで兄に苦労を掛けた分を返したいからこそ、私は陰ながらでも兄の手助けがしたいと言う気持ちが止めどなく溢れてきて……兄のため、そしてエリアス様の願いのため粉骨砕身で、兄を手助けしていく事を決意をしたのです」
そうか、そうかとにこやかに頷くスサノオを見ながら話をして居た俊政にもう一柱の神、大黒天が話し掛けた。
「しかし、お主の兄思いは相変わらずじゃのぉ」
「ご無沙汰しております。大黒天様」
「お主と会うのも、かなり久し振りのような気がするが、いつぞやぶりかの?」
「そうですね……私が短い前世を終えエリアス様に依って此方の世界へ召喚されてから、数年経った頃かと思いますが……エリアス様と生活して居ると時間という概念が薄れてしまい、多少記憶も曖昧になっておりますが、私が初めて大黒天様にお会いしてから数十年は経っているかと思います。ですがお会いした時の事は昨日の出来事の様に今でも覚えております」
「俊政や、お主の覚悟この大黒天とスサノオがしかと、この耳で聞いたぞ! ならば、必ずや政和を助けエリアスの願いを叶えさせてやるのじゃぞ! でなければ、儂ら二柱が政和達に授けた加護も無駄になってしまうからのぉ」
「はい! 必ずやお二柱の期待を裏切らぬように、精進してまいります」
そう言葉を発しながらスサノオと大黒天の前に傅く俊政。
その俊政の姿を見ながらホォホォと高笑いする大黒天、そして同じ様にガハハハと高笑いするスサノオとの二柱の笑い声が部屋中に響きわたっていた。
いま現在エリアスと俊政の前に居る二柱の神は日本人なら言わずとも知られている神であり、スサノオは武神として、今でこそ大黒天は七福神の一柱として豊穣・出世の神として祀られているが、嘗ては日本の仏教や密教でも武神の一柱と祀られ、今現在もヒンドゥー教では戦闘・財福・冥府の神として祀られ、そしてインド密教やチベット仏教では日本と同じ様に福の神として信仰を集めている神なのである。
そして、エリアスも一つの世界を管理する女神であり、今は既にこの場を立ち去ってしまった政和達それぞれに相応の加護を与えており、その一つとして後の歴史家に拠って書き残された『虹翼の翼』と題された本に女神エリアスから授かった虹翼の翼を使い世界を救ったと記されているが、実はエリアスは虹翼の翼だけを授けただけではなく、他にもそれなりの力を授けておりその御蔭で政和達は、紆余曲折しながらも、世界を正しい方向へ道付けそしてスサノオと大黒天の加護も加わり数々の戦いを、大きな怪我をする事もなく生き延びそれと同時に数々の戦功を挙げた事に因りに歴史に名を残し、後に世界最大の発展王国『レインボーウィング王国』の始祖王として王国内の歴史の教科書にも必ずと言っていいほど出てくる名君として今もなお語り継がれている物語の始まりである。
今回の話は如何だったでしょうか? まだまだ書き慣れない部分が多いかと思いますが、皆様のご意見ご感想をお待ちしております。
次回予告
第02話 「異世界」で、またお会いしましょう!