第09話「夜襲」後編
いつも『虹翼の翼 ~四人の元おじさんの異世界冒険記~』をお読み頂いてありがとうございます。
今回は投稿予定が一日遅くなってしまい、誠に申し訳ありません。
ここのところPCの不調が続いていて、執筆中だったモノが全て飛んでしまい、新たに書き直したのですが、文字数的に言って何時もの四分の一以下の約6,000文字で、何時もよりかなり短いですが、今回もよろしくお願いいたします。
政和の『散開!』という声を聞き、皆一斉に石壁から村の外へと躍り出る。
だが、宏明だけは石壁の上に残り、ジャイアントスパイダーが糸を吐き出し作った足場を、片っ端から切り落としていく。
見た目は普通の、ジャイアントスパイダーの糸だが、強度は鋼鉄よりも堅く普通の剣で次々と切っていたら、間違いなく剣そのモノが刃毀れを起こし、即使い物になら無くなっていただろう。
しかし、そこは《虹翼のツヴァイハンダー》と言う事もあり、一切刃毀れを起こす事無く、次々と村の周囲の石壁に向かって吐き出された糸を、切り落として行き糸を足場として石壁に上ろうとしていた魔獣や魔物達を、空堀へと落としその底の無数に剣山のごとく突き立てられ先の尖った木の杭に依って身体を貫かれ、もがき苦しみながら息絶えていく。
そして、他にも身体の長い魔獣や魔物達が、足場として石垣にしがみ付くがそれもまた宏明の手に依って、身体を切り刻まれそのまま空堀へと落下していく。
政和と武志に二人に依って、上空に撃ち上げられ煌々とした灯りを灯す、光球の光に依って、村の周囲は昼間と紛うばかりの光に照らし出され、周囲を囲むかの様に蠢く魔獣や魔物達の動きが、手に取る様に分かる。
先ず一番多いのが魔獣と呼ばれる、魔の樹海に住まう獣が何かの突然変異で魔物化したモノだ。
これは、ウォーウルフの群れに、バーサク・ベアー、サーベルタイガー、ジャイアントスネーク、上位種でケルベロス、その他多数含まれるが、この場では割愛する。
次に目立つのが、魔物と呼ばれるモノ達、これは人型に近いモノも居れば昆虫などが大型化したモノまで、多種多様に居る。
主に目立つのが、オーク、オーガ、ゴブリンなど魔獣と同じ様に数多く混ざっており、手には、錆びた剣や斧、棍棒などを持ち、政和達に襲い掛かって来るが、モノの数では無いとばかりに、あちらこちらと動きながら、殲滅を繰り返しているが、一向にその数が減る気配が無い。
と言うか、魔の樹海に生息している魔獣や魔物達が総出で出て来ているのでは? と勘違いをしたくなる程の数で、目算では約一万は下らないだろう。
それ程の数の魔獣や魔物達を、現時点で六人と一頭だけで倒し尽くさなければ、イーストリー村は、魔獣や魔物達の手に因って蹂躙し尽くされ、村そのモノが地図上から消える事になるだろう。
政和を含めた六名は、絶対にそんな事になっていはいけないと、思いながら必死に魔獣や魔物達を、数多く倒そうと考えているモノの、人にはやはり限界というモノが存在する。
いくら、六人の一人一人が一騎当千であったとしても、漏れと言うモノは多かれ少なかれ出て来る、それを僅かながらでもカバーしようと、ヴェルドラードもがんばってくれてはいるが、空の方も思いの外、魔物が多く飛んでおりそれを倒すだけでもやっとと言った感は否めない。
『お前ら! 生きてるか?』
『『『『『おおぉぉ!!』』』』』
政和の檄を飛ばす言葉に、全員が返事を返す。
少しずつだが、村の周囲を囲んでいた魔獣や魔物達を押し返し、また数を減らし返り血を浴び全身を、真っ赤に染める政和と宏明。
豊と武志は、引っ切り無しに動き回り普通の人間なら、当に魔力を使い果たしている状況だろうが、政和達六人の有する魔力は無尽蔵に近い……手数を増やしありとあらゆる攻撃を繰り返しながら、少しずつ、また少しずつと数を減らす。
『豊! 武志! ある程度魔獣や魔物達をかき集める! 固まった所を狙って範囲攻撃を撃ち込め!』
『『了解』』
二人が返事を返したのを確認した政和は、自分の周囲を取り囲んでいる魔獣や魔物達を、挑発し更に動きながら挑発を繰り返し、約百匹程の固まりを作る。
それに合わせ、武志がメテオを振らせ豊が火の矢を振らせ、政和も炎の竜巻を生み出し三人で一気に蹂躙していく。
ある魔物は豊の火の矢に撃ち抜かれその場で火だるまになりながら息絶える。
またある魔獣は、武志のメテオに依って押し潰され、ただの肉片と化する。
そして、遠慮の無くなった政和の炎の竜巻に依って、その身体を焼かれ空へと巻き上げられる。
『宏明! そっちの方はどうだ?』
『儂の方か? 偵察に行ってた二人が戻って来てるから、どうにやれてはいるが、正直なところ厳しい状況なのは変わりは無い』
『すまないが、救援が到着するまで頑張ってくれ』
『分かった!』
政和は、宏明の方も結構厳しい状態だと言う事を、理解しつつも中々助けに行けない状況に、苛立ちを覚え始めていた。
(多分、邪神教の奴らだと思うが、ここまでやってくれた礼は後できっちりと返して貰うぞ!)
心の中でそう呟くと、政和は魔獣や魔物達への攻撃が、より一層激しさを増し突然両手に持っていた《虹翼の剣》を大地に突き立てると、両手を空に向かって翳し、直径が十メートルを超える様な火球を作り出した様は、まるで龍の玉を七つ集めて願い事を叶えさせるアニメの、主人公が世界の住民から力を別けて貰って巨大なエネルギー玉を、作り出している姿にそっくりだった。
そして、出来上がった火球を魔獣や魔物達が密集する場所へ目掛けて撃ち放つ――――火球の破壊力は凄まじく、高速で撃ち放たれた火球は、その余波を大地に与え進んだ側から地を抉りその爪痕を残しながら、密集地点へ到達すると同時に爆発する衝撃と共に、魔獣や魔物達の骨すら残らない程の高温に達した炎で焼き尽くし、その跡には巨大なクレーターが出来ており、正に政和の心の怒りを表した様であった。
巨大なクレーターが出来る様子を、遠巻きながら見ていた宏明を含めた三人が、政和に対し一斉に『何という攻撃をしてるんだ!』とボイスチャットでツッコミを入れていた。
『すまん、すまん、少し魔力を込めすぎたみたいだ……次は気を付ける』
『ああ。そうしてくれ。政和の攻撃魔法に巻き込まれたら元も子もないからのぉ』
『今の攻撃で、多少は少なくなったが、まだまだワラワラと湧いて来そうな予感がするぞ?』
『儂も本当はそっちに行きたいんだが、こっちも村を取り囲んでいる魔獣や魔物が、中々減らなくてのぉ……すまんのぉそっちに行けなくて』
『宏明は、こっちの事は気にするな。お前とカミューにミュアの三人で、どうにか村を守ってくれ』
『それは、重々承知している……ただ政和がまたさっきの攻撃魔法を繰り出さないか、若干心配なんだがな……』
『あれは、俺も少し予想外だった……こっちもまだまだ結構居るから、ゆっくりと話をしながらなんて出来ないぞ』
『そうだの。取り敢えず気合いを入れ直して、政和の嫌いな蜘蛛を蹴散らしておく』
『それは、宏明に任せる……』
『了解した』
宏明の返答を待ちPT内でのボイスチャットを一旦終了し、目の前の魔獣や魔物達の大群の殲滅に更に集中する政和達であった。
◇◆◇◆
ちょうどその頃、皇都エルシオーネの皇城内では、エリアスから神託と言う名の政和からの救援要請を受けた、エリザベートが皇王チャールズへ即時話を通し、その要請に従い救援に向かう騎士団の編成に、躍起になっている一人の男が居た。
その男の名はマドック・フォン・ランスと言い、初日に謁見の間で政和に斬り掛かり、政和の《虹翼の盾》因って打撃を受け、激しく壁に身体を打ち付けられ、そのまま気絶させられた軍務大臣で、背丈は政和より若干高い百八十五センチくらいはあるだろう。
元は第一騎士団の団長をしていただけあって、現役の頃より若干筋肉は落ちてはいるが、今なお現役として通用すると言って良い程の、筋肉は維持しており顔つき深い青の瞳を持ち、彫りの深い欧州人風の顔立ちでプラチナブロンド髪を短く角刈りにし、年齢は政和達の実年齢と同じ四十六歳である。
後に、政和達が本物の《虹翼の翼》持つ者だと知るや否や、一心不乱に許しを請い、許されると同時に、皇王チャールズ同様に忠誠の誓いをたて、准神マサカズ様の御為にと言わんばかりに、編成を行っていた。
「イーストリー村周辺に集まっている魔獣や魔物達の総数は、約一万だそうだ! 第一から第五までの騎士団は、先見団として即時向かいマサカズ様達の援護を行え!」
「はっ! 我々第一から第五騎士団は、只今よりマサカズ様達の援護としてイーストリー村まで向かいます!」
救援先見団の代表として第一騎士団の団長がマドックへ敬礼をしながら答える。
「何としても、マサカズ様達をお助けし、そしてイーストリー村住民を守るのだぞ!」
「はっ! 承知しております! では出立致します!」
「頼んだぞ!」
マドックは、第一から第五までの騎士団団長に対し訓令を行い、残った第六から第十までの騎士団の人員編成を行っていった。
こうして、先見団として出立した第一から第五までの騎士団員の総数は、約三千名この数は決して多いとは言い切れない人員ではあるが、政和の手助けとなれば良いとの考えから、厳選に厳選を重ねられた所謂精鋭騎士部隊とも言えるモノで、マドック自身も必ずやと言う気持ちで送り出したのだった。
◇◆◇◆
救援団が皇城を出立した頃、政和達は必死に魔獣や魔物達を村に近付けまいと孤軍奮闘していた。
魔法の扱いに長けている政和と武志は、火系の範囲攻撃魔法を数多く織り交ぜながら攻撃を繰り返し、豊は風系の範囲攻撃魔法と《虹翼の弓》を使い分け同じ様に攻撃を繰り出し、宏明は得意とする雷系の範囲攻撃魔法と《虹翼のツヴァイハンダー》を使い分けながら戦い、カミューとミュアは、持ち前の俊敏さを生かし急所を一突きで狙い次々と瞬殺を繰り返していた。
『しかし、次から次へと湧き出てきて、キリがありゃしないな……』
『全くですね……私の方もそれなりの数は屠ってはいるんですが、一向に減る気配が無いですよ』
『僕の方も似たり寄ったりだよ』
『儂も同じだ』
『旦那様。私も同じで御座います』
『ご主人様。わたしも兄と同じで、結構苦戦しています』
『ヴェルドラード。空の方はどうだ?』
『我の方か? 我の方も中々数が減らんで苦労しておる』
『なるべく目立たない様にしてきた積もりだが、そろそろ限界だな……デッカいのを撃ち込んで蹴散らすしか無いか』
政和の独りごちの様な言葉を聞き、全員が頭の中で『?』を幾つも浮かべる。
『政和何か妙案でもあるんですか?』
豊を含めた他のメンバーも、政和に妙案があると思い、その答えを待つ。
『一応、あると言えばあるんだが……俺の考えを使うと全員が完全に目立つ事になるがそれでも良いか?』
『今更と言っては何だけど、既にヴェルドラードを召喚して空の方で、暴れさせている時点で既に目立っていると僕は思うよ?』
『言われてみればそうか……ところで村の近くには誰がいる?』
『儂とお前の従者の二人が、一番近いと思うがの? それがどうしたんだ?』
『そっか……なら、ミュア! 今からお前に【防御壁】の術式を編んだ陣を組み込んだ魔晶石を、渡しに行くから受け取ったら石壁沿いに置いてから【防御壁】と念じて展開しろ』
『はい。分かりました。わたしは今、村の北東側に居ますのでご主人様のお越しをお待ちしています』
『分かった。今からそっちへ向かう』
言うが早いか政和は《虹翼の翼》を展開させ空に飛び上がると、上空で群がっている魔獣を《虹翼のハルバード》で蹴散らしながら、ミュアの元へ向かい魔晶石を手渡したあと、彼女と入れ替わって魔獣や魔物を、次々と蹴散らしながら防御壁の展開を待つ。
やがて、ミュアが手渡した魔晶石を全部置き終えたのか、石壁から村全体を囲う様にドーム状の半透明な防御壁が展開されたのを確認すると、政和はボイスチャットで全員上空に上がるように指示を飛ばし、自身も空へ舞い上がり上空と地上で群がっている野獣や魔物へ向けて、範囲攻撃魔法を撃ち放ち出した。
『政和! お前何時の間に防御壁を組み込んだ魔晶石を作ったんだ?』
『何時って? 暇な時間に決まってるだろうが……ちょっと実験のつもりで【防御壁】編んだ陣を組み込めるか? と思ってやってみたら意外と巧くいったから、何かあった時の為に用意して置いたんだ』
盛大に溜め息を漏らしながら、そう言う物が在るだったら最初から出してくれたら、もっと楽に戦えたろうにと、宏明がぼやいていたが政和は我関せずを通し、そのまま上空と地上に向けて、範囲攻撃魔法を景気良く撃ち出していた。
『ところで、村に張った防御壁はどのくらい持つんだ?』
『殆ど何も考えずお試しみたいな感じで組み込んだモノだからなぁ……持って半日ってところじゃないか? 一応はそれ以上持つ可能性もあるが、取り敢えずは最低でもそれくらいは持つだろう?』
『最低半日か……それくらい持つなら儂も安心して暴れられるのぉ』
『そう思ってるんだったら、チャッチャと片付けるぞ!』
『『『『『了解!』』』』』
防御壁の耐久時間を聞いて一安心したのか、政和を除く全員(ヴェルドラードを含む)が、今まで以上に暴れ出し地上へ空へと盛大に範囲攻撃を繰り出し、次々と殲滅し始め空が紫色に染まりだした頃には、粗方殲滅し終え、救援先見騎士団が到着した時には、既に掃討戦状態になっており、政和の元へ馳せ参じた第一から第五騎士団の団長と三千名の騎士に、残った魔獣や魔物の掃討を命じた頃には、東の空に太陽が顔を出し始めていた。
余談になるが、三十メートル以上もある大きさのヴェルドラードが、自由に暴れ回っている姿を初めて目にした一部の騎士が大型龍もが、イーストリー村を襲撃していると勘違いし、攻撃を繰り出そうとしたところを、各団長から咎められたのはご愛敬だろう。
そして、次第に明るくなってきた地上を空から眺めると、イーストリー村の周囲には正に屍累々と言った方が良いだろう。
村と政和達を襲撃した魔獣や魔物達の屍が彼方此方で山積み状態になっており、その状況は正に凄惨であり至る所にクレーター状の大穴が、何箇所も開いており今回の魔獣や魔物達の襲撃に対する六人と一頭の戦いが、如何に激しいモノだった事を如実に物語っていた。
ふと、その中で魔の樹海に目を移すと、樹海の中心部付近から何やら黒い靄のようなモノが、立ち上っている事に気が付いた政和がメンバー全員に声を掛けた。
「なぁ、魔の樹海の中心部付近から、立ち上っている黒い靄の様なモノは、何だと思う?」
「さぁ? 儂には分からんが、何か嫌な予感がするのぉ」
「だよなぁ……俺も宏明と同じ様に、嫌な予感しかしないんだけどな」
他の四人も同じ様な意見で、一度様子を見に行った方が良いと言う意見に纏まり、政和は第一騎士団団長を呼び、残りの掃討を完全に任せると伝え、村全体に張った防御壁の解除をし、そのまま空に飛び上がると、魔の樹海中心部へと向かう一行と一頭であった。
毎度の事ですが、今回の話は如何だったでしょうか? 戦闘シーンを上手く書くと言うのは、かなり難しいと思わされた話でした……。
皆様からのご意見、ご感想、誤字脱字報告、他ダメ出し等もお待ちしております。
読者の皆様からのお声が、私の励みと活力の糧となりますので、宜しくお願い致します。
長らくリニューアルを理由に、連載を休止しておりましたが、どうしても私的事情に依りもう暫くは、リニューアル座業が捗らない状態になっており、リニューアルした作品を楽しみにしていて頂いてる読者の皆様には、大変申し訳なく思っており、苦肉の策となります、この作品の表示を一度『完結済み」と、させて頂きました。
なお、リアルでの合間を見つけてですが、少しずつリニューアル作業も続けておりますので、あくまで予定は未定ですから、何時再開するとは明確にはお伝えできませんが、必ず以前より面白くなった作品を公開できる様頑張ってまいりますので、どうか宜しくお願い致します。
あと、これも未定ですが、連載再開時に既に公開している作品にかんしては、別枠に移動をしリニューアル作品を、現在のURLでお読み頂ける様にしようかと考えておりますのと、作品タイトルを若干ですが変更する可能性もありますので、その際は昨日ページのあらがき部分に、旧タイトル名を記載しておきますので、そちらをご確認下さい。
それでは、リニューアルした『虹翼の翼 ~四人の元おじさんの異世界冒険記~』で、お目にかかれることを楽しみにしておりますので、今後もご愛読頂けますようよろしくお願いいたします。