第00話「序章」
初めまして。Balonと申します。
初作品となり上手く書けていない部分も多岐にあるかと思いますが、気長に読んで頂ければと思いますので宜しくお願いします。
とある山奥、岩肌をさらけ出しゴツゴツとした大きな岩が転がる岩山の上に、四人の男と一人の女が遥か下にいる、黒く巨大な漆黒の龍の姿を見下ろしていた。
「なぁ、気の所為かも知れないけどなんか嫌な予感がするんだよな」
そう口にするのは、メンバー数四人であり弱小であり最強と言われるレギオン『虹翼の翼』のマスター、ニャル・グランド。
種族はケット・シーでありタンカーとしては不向きな種族であるが使用武器を選ばない職とともに機敏さと装備の性能もあり、縦横無尽に動けるこの種族を気に入って使っているのが、内田 政和で年齢四十六歳の中年おじさんであり、東証二部上場IT企業株式会社サークルの第一技術部部長の肩書を持つ。
余談になるが、今現在、政和達がプレイしているEIONの開発と運営は政和がの職場、つまり第一技術部第二課で開発と運営が行われている。
「うーん……そうですね。私から見てもニャルの直感を信じますね」
ニャルに対して同じ様な感覚だと口にしたエルフの男。
ニャルと同じ『虹翼の翼』に所属しサブマスターでニャルの右腕と称されているアレックス・コリンズである。
実はアレックスも政和と同じ職場に居り、本名は角屋 豊で年齢も政和と同い年46歳、役職は第一技術部副部長つまり公私共に政和の右腕である。
「確かにニャルの言うとおりかも知れんが、やってみない事には分からないからのぉ、儂はニャルに合わせるだけだから取り敢えずニャルに丸投げする」
「また俺に丸投げかよ!? お前はいつになったらアタッカー精神が身につくんだよ! ったく仕方が無い、丸投げされてやろうじゃないか」
お気楽に、ニャルに丸投げだと言っているワーウルフもまた、同じレギオンに所属するメンバーで、名前をアーノルド・バンキンスと言う。
中の人も同じ性格なのであまり余計な事を言わず承諾し政和自信も半分スルー体制に入っているが、このアーノルドの中の人も政和と同い年であり、今度新たに海外進出で新工場が建設される大手自動車会社野産自動車タイ王国支社長となる、十文字 宏明である。
「僕はやれるだけやってみるのが一番いいと思うけど? もしアレが例のやつだったとしても、その時はその時でしょう」
半ば諦め気味に応えてるヴァンパイアも同じレギオンメンバーで、バート・マクドネルと言い、レギオンの中では魔法の名手と言われ、吸血と称したスキルでモンスターの傷口からHPとMPを吸収するのでソロでは結構便利なのだが、防御が紙に近いためそれをいつも気にしている。
そんな彼も政和と同い年であり、名前を小泉 武志と言い宏明と同じくタイ王国副支社長として宏明と共に行く事が決まっていた。
実はこの四人ただの同い年ではない、中学からの長い付き合いであり、高校はそれぞれ違うが、大学の学部が一緒だった事に新たに集まり、彼ら四人の先輩である沖田 総一により無理やりマイコン研究会なる同好会に参加させられ、就職時は政和と豊が同じ大手電機メーカー勤務になり、宏明と武志が大手自動車会社野産自動車に勤務しておりこの度タイ王国に進出する事になりその、支社長と副支社長として赴く事になっている。
「私もニャルさんと同じ様に、嫌な予感がしますが、一生懸命がんばりますので宜しくお願いします」
と言ってエモーションで頭を下げるエルフの紅一点、エリアス・フレイルであるが、彼女だけはリアルの接点は一切なく、このEIONがサービスを開始した頃にモンスターに追いかけられて逃げまわっているところをニャルに助けられ、それ以来の付き合いであるが、彼女は今まで何処のレギオンに所属した事が無く、所謂ソロプレイヤーとしてやってきているが、ニャルからのPTの誘いは一切断ること無く、いつも参加してくれる有難い存在でもあり、大切な回復役でもある。
「さて、ここで長話をしていても時間の無駄になるし、明日からの海外出張にも響くからサッサと終わらせて戻ろうか」
「そうですね。私もニャルが起きてくれないと空港に向かえませんから、サッサと終わらせる事に賛成ですね」
そんな話を見ていたアーノルドも、なにか言い難そうに口を開いた。
「すまん、実は儂とバートも明日から海外出張になるからお前達と同じ様に暫くログインが出来ない」
「えぇぇ! 聞いてないよぉ!」
TV番組で有名なお笑い芸人の持ちネタの様な言葉を政和はチャットに殴り打ちした後に、ニャルがエモーションでジタバタしている姿を見た宏明は、ジタバタとエモーションで動き回っていたニャル対してやれやれと言うエモーションで返しながら宏明はチャットに言葉を打っていた。
「き、聞いてないと言ってもだな、ここに来る前にチャットで言っておいたんだが、またお前は斜め読みをしていたな?」
「うぅ……すまん、いま過去ログを追ったら書いてあった……俺の完全確認ミスだ」
あぁ……とんだ恥をかいてしまった。
ここは適当に誤魔化しておかないと先に進みそうもないから、取り敢えずチャットに始める事を書いておくか……それにしてもなんか今回のバハムート・キングは気になるんだよな。
なんかヤバイというか、噂に聞く極特SSS級じゃないと良いんだけどな。
これが本当に噂のやつだったら確実全滅コースだからな気を引き締めないと。
「おっし! ここでウダウダしていてもいつまでたっても始まらないし、一丁気合を入れてやりますか!」
「そうじゃの、これで頑張らなければ漢がすたるってものだ!」
「私も男としてがんばりますよ」
「僕も精一杯魔法を打ち込んでやるよ」
「私も、微力ながらも頑張らさせて頂きますね」
みんなが口々に頑張ろうとチャットに打ち込んだのを確認したエリアルは、魔法防御魔法の【クリア・スキン】物理防御魔法の【ストーン・ウォール】を全員にかけて行った。
「作戦は、いつも通りだ! みんな気を抜くなよ!」
「「「おぉぉぉ!」」」
「はい!」
今回は、みんな気合が入っているみたいだな。
俺もマジで気合を入れないとな……おっとまずいモードを盾モードに切り替えておかないとこいつの一撃はかなり痛いからヘタすると、簡単に即死するし敵意を上げるにも、このモードにしておかないとまずいから、いっちょ頑張りますか! それじゃ先ず一発目! 飛んでいけ俺の盾!
ブォーンと音と共に、バハムート・キングに向かって俺はブーメランの様に盾を飛ばしてから【アクセル】で急加速しながら、バハムート・キングのターゲットを俺に向かせた。
「さぁ! ここから勝負だっ! バハムート・キング!」
そうチャットに言葉を打ち込んだ俺は、【ヘイト】を使って敵意を上げる。そして矢継ぎ早にコンボ集中攻撃を繰り出した。
他のみんなもそれぞれ攻撃を開始しているみたいだな……っと、バハムート・キングの残りHPを気にしておかないと、こいつは残りHPが七十パーセント、五十パーセント、四十パーセント、二十パーセントになるとランダムに雑魚モンスターを召喚するし、残りHPが二十パーセントを切った段階になるとランダムターゲットになり、最後の十パーセントを切ると広範囲の即死攻撃をかましてくるから、そこからが俺の本当の本番になるな。
と言うか、こいついつものバハムート・キングと違って動きが機敏すぎないか? このEIONには自立型AIシステムを組み込んでいるから、特定のモンスターは戦闘情報を蓄積して独自の戦い方をするなんて奴もいるけど、それでもシステム的に上限が設定されているから動き的に似通ってくるはずなんだが、こいつに限って言えば、他のバハムート・キングとは動きが明らか違いすぎる。
もしかして……俺の感が当たっちまったか? そう考えながら戦っていると、ビュンッ! と音が聞こえ、いきなり尻尾を使った攻撃がが繰り出され、慌ててバックステップで後ろに下がり盾で防御したが間に合わず若干ダメージを承けてしまった。
「おい! こいつもしかしたら噂の極特SSS級のバハムート・キングかもしれないぞ?作戦変更だ! なるべくこいつの動きを封じる方法で行くから、アーノルドもスタン系のスキルを使えるようにしておいてくれ! バートは氷系で頼む! そしてアレックスは出来るだけ矢の雨を振らせてやってくれ」
「エリアスさんも、なるべく攻撃を受けない様にして下さい。そして合間合間でいいので氷系スキルが使えるのなら、使って攻撃をお願いします」
チャットでの返事は無いが、みんな了解したみたいだな。
俺もスタン系とコンボを組み合わせた攻撃をしないと、マジでヤバイぞ。
声には出せないが、【ヘイト】を使って敵意を維持しながら、コンボ攻撃を繰り出しながら【シールドバッシュ】でスタンが入るか試みる。
ガッン! と音した後にバハムート・キングの動きが止まった。
バハムート・キングのHPとステータスを見ると【シールドバッシュ】の効果が現れているのかスタン中のデバフアイコンが表示されていた。
「おっ! こいつはスタンが効くってことだな。アーノルド! お前のスタン系のスキルを使いまくれ! こいつにはスタンが効くからその間に攻撃するぞ!」
「了解」
短い返事だったが、アーノルドからチャットで了解の旨の返事が返ってきた。
そろそろ、残りHPが七十パーセント近くになってきたな。雑魚を召喚される前にスタンで召喚キャンセルが出来れば良いんだが、タイミングを合わせないと難しそうだ。そう考えてるとバハムート・キングの動きが、プルプル、プルプルっとした小刻みな動きになった。
ん? これは雑魚モンスター召喚の前兆だな。
奴のステータスを見るとスキル詠唱の表示が出ており、詠唱が早いのかバーの動きが早い間に合うか?俺は一気にガッン! と言う音と共に【シールドバッシュ】をバハムート・キングに食らわせたが、詠唱バーの動きは止まらない。
クソっ! スタンが入らなかったかアーノルドの方を見ると同じ様にスタンが効かなかったらしく、お得意の雷系の攻撃を繰り出していた。
スタンが効かなかったのは仕方が無い雑魚モンスターが召喚されるのは避けられない。
「雑魚モンスターが湧くからみんな気をつけてくれ!」
チャットでみんなに注意を呼びかけると、俺は雑魚モンスターが出現しそうな位置を見渡しながら雑魚モンスターの出現を待った。
奴の詠唱が終わったのかエリアの隅の方でボワっとした感じの光の中から雑魚モンスターが湧き出してきた。
光の中から湧き出して来たのは、雑魚中の雑魚と呼ばれるワーウルフが10匹で、こいつらなら瞬殺できるだろうと判断し、【アクセル】を使いワーウルフの近くまで移動し【ヘイト】敵対値を上げながら出現ポイントを回りながら移動する。
そしてバハムート・キングの腹の下に潜り込み、【キャッチ】でワーウルフ5匹を一気に引き寄せる、残りは敵対値が高い俺に向かって駆け寄ってくるだろうから近づいたら武器をハルバードに切り替えて一気に殲滅してやろうと考えた。
俺が腹の下に雑魚モンスターを集めて腹の下に潜り込んでいるのにも構わず、バハムート・キングは好き勝手に暴れている。
それをアーノルドが上手く立ち回りながらダメージを与えていく。
流石サブタンクと言われるだけはある動きをしてるな。
俺も俺なりの仕事をしなければ、タンク職の名折れになる。武器をハルバードに切り替えハルバード用スキル【シビア】【レゾルート】【ラプチャー】【レックレス】とコンボで繋げてワーウルフを殲滅していく。
その間にもアレックスが弓スキルを使いダメージを与えてくれるので、俺が狩りきれなかった分はアレックスの放った矢に因って始末されていったが、やはり漏れは生じるもので、そこはバートの放った【ファイヤーボール】に因ってほぼ瞬殺に近い状態で殲滅された。
雑魚モンスターを殲滅し終えた俺は、チャットでアーノルドに選手交代の旨を告げて、バハムート・キングの正面に立ち【ヘイト】を使い敵対値を上げ【シールドバッシュ】を入れまた敵対値を上げ細かなコンボを混ぜ込みながら、完全にバハムート・キングのターゲットを俺に向かせる。
しかし、こいつなかなか姑息な攻撃を仕掛けてくるな……普通なら何処かで一回はブレスを放ってくるはずなんだが、今回は一回も放ってこない、むしろ逆に尻尾を振り回したり、翼に因る羽ばたきで吹き飛ばしたりと、今まで狩って来たバハムート・キングとは、まるで攻撃パターンが違う。
明らかに違和感がありすぎるが今は違和感を気にしているより、ダメージを多く与える事が先決だ。
そうこうしているうちに、奴の残りHPが五十パーセント近くになってきているのに気がついて今度こそ【シールドバッシュ】でスタンを入れてやると、気を引き締めタイミングを図る。
アーノルドもタイミングを測っているかの様に、攻撃パターンを変えている。
そろそろか、と思っていると先程と同じ様にプルプル、プルプルと小刻みに揺れだすのを見た俺とアーノルドは、一斉にスタン系のスキルを打ち込むと、今回はギリギリ間に合ったのか、詠唱バーが消えて雑魚モンスターの召喚がキャンセルされた。
スキルをキャンセルされた事が、まるで気に触ったかの様に、今まで使ってこなかった咆哮を俺めがけて放ってきた。
慌てて盾を構えスキル【スパイク】を使い足場を固めブレスに備えた。
俺に向かってブレスが放たれるとドドーン! と言う音と共にHPが半分近くまで減っている。
それを見たエリアスさんが回復スキル【エクストラヒール】を俺に向かって飛ばしてくれ、ほぼ満タンに近い量のHPに回復出来た俺は、またコンボを織り交ぜた攻撃をバハムート・キングに加えていたが、本来なら結構削れるはずの俺の攻撃に対しても、僅かの数値でしか削れない、他のみんなも似た様な感じを抱いていたのか、普段はあまり使わない強力スキルをガンガン打ち込んでいる。
そのおかげで、MPの減りが早いのとポーションの消費が激しい。兎も角今は少しでも奴のHPを削りたいところだから、無理せざるを得ないのは解っているが無駄にポーションを使いまくっていざって時に、MP切れで通常攻撃しか出来ませんでしたじゃ、洒落にならないし今ははMPの消費を気にしながらやるしか無いそれにポーションを一回使うと、それなりにCTがあるからそれも計算に入れなければならない。
バートみたいにスキルで回復できればいいのだが、あいにく今はそのスキルに入れ替えてる余裕は無いから、今のままで行くしか無いそれにしても奴は硬すぎるHPが五十パーセント切るまではどうにかこなせていたが、残り五十パーセントを切った辺りからは、急に硬くなった様なきがする。
やはり、例の噂の奴って事で確定だな。
俺の今出来る事は、他のメンバーにターゲットを飛ばさせない事だ! こいつにはあまり意味が無いかも知れないが、敵対値を上げる為にも比較的MPの消費が少ない【キャッチ】を何度か放って敵対値を上げながら、合間を縫う様にコンボ攻撃で更に固定させて他のメンバーが攻撃しやすい様に動きながら俺自身も、奴の攻撃を避けながら攻撃を繰り返しながら奴の残りHPが四十パーセントになるのを、見計らってアーノルドとほぼ同時にスタンスキルを使って雑魚モンスターの召喚をキャンセルし、俺は奴の腹の下に潜り込むと盾スキルの中では、あまり使いどころのないスキル【サークルドゥーム】を、手に持っている剣を地面に突き刺すエモーションと共に発動させると、ヒュンッ! ヒュンッ! と音を伴いながら地面から青い光の筋が奴の体を穿くのを確認するとまた【アクセル】で元の位置に戻り、更にコンボや他のスキルを織り交ぜながら攻撃を加えていく。
実は俺がつかった【サークルドゥーム】は盾スキルの中では唯一の範囲スキルでDOT効果を持っているスキルなのだが、火力が弱く余りにも使い道が無い所謂死にスキルだったりするのだが、DOT効果は一定時間持続ダメージを与える効果を持っていて使い方次第では、有用スキルになるが俺にとっては、死にスキルでしかなかった訳で今回初めてIDで使ってみたが、奴にとって多少は効果があったみたいで、他のメンバーの攻撃も合わさって、いい感じで奴のHPを削る事が出来ていた。
取り敢えず、もう一発打ち込みたいところだけど、今現在所持し使っているMPポーションの残りも少なくなってきているので、下手に上位のポーションを使うとそれだけCTが長くなってしまう恐れがある為、おいそれと使えないという理由もあってコンボを打ち込みながら少しずつMPを回復させていくしかなく、そろそろ奴の残りHPが二十パーセントに近づいてきているので、ここは暫く我慢するしかないと判断し、引き続き敵対値の維持に努める事にし、残り二十パーセントを切った辺りからもっと厳しくなる筈だ。
それから暫くの間攻撃を繰り返し奴の残りHPが二十パーセントになると同時に、雑魚モンスターを召喚し始めるのを見計らいスタンスキルを奴に打ち込むと、ガッン! キーン! と二つの音が同時にその場になり響く。
俺は即座にディスプレイ画面に表示されているバハムート・キングの詠唱バーが、動いてるか消えてるかを確認する……今回は動いてる。
ま、不味い! この時点での詠唱キャンセルに失敗すると、どんな雑魚モンスターが召喚されるか判らない。
召喚される雑魚モンスターに注意しながら、エリアの四隅を見るとストーンゴーレムが約二十匹ほど一斉に湧いてきた。
この場に来てストーンゴーレムかよ! 雑魚には変わりはないが奴らの物理攻撃は、かなり痛い――急いで殲滅しないとこっちが全滅する事になるし、俺がハルバードに武器を持ち替えたとしても短時間での殲滅は難しい、ここは俺がバハムート・キングの敵意を、維持して他の三人に殲滅を任せた方が速そうだ。
「アレックス! アーノルド! バート! 悪いけどお前達だけでストーンゴーレムを殲滅してくれ! あとエリアスさんは、三人のHPを見てヤバそうだったら回復して下さい」
そうチャットに打ち込むと、三人は一斉にストーンゴーレムに駆け寄っていき、範囲攻撃をドッカン! ドッカン! と連続で打ち込んで殲滅していく。
その間に俺はバハムート・キングの敵意を維持すべくコンボスキルを連続で攻撃し、更に【サークルドゥーム】で攻撃してDOT効果を入れて俺なりに、バハムート・キングのHPを削っていく間に一番早く殲滅し終えたバートが俺の近くまで来ていたストーンゴーレムを範囲攻撃で殲滅するそれに運悪く? 巻き込まれたバハムート・キングのHPが若干減った。
「バート助かった! 悪いけど他の奴のも手伝ってくれ」
バートが『了解』と短くチャットで返事したのを確認し、俺も引き続きバハムート・キングに攻撃を加えてながら、他のメンバーの状況を確認する。
アーノルドが中心になりストーンゴーレムを引き付けアレックスとバートが範囲攻撃でHPを削っていく、少しアーノルドのHPの減りが速いが、エリアスさんが時々HPを回復させているみたいだから安心だと判断し、俺もバハムート・キングの攻撃に集中する。
「ニャル、こっちのストーンゴーレムの殲滅は終わりましたよ」
アレックスからのチャットでのメッセージが届き、暫くすると四人が戻って来る姿が見え、そのまま三人はハムート・キングへの攻撃を再開する。
この時点で奴の残りHPは十五パーセントを切っていて、アタッカーの三人が攻撃に戻った事でバハムート・キングの残りHPの減りが、若干早くなったような気がするが、まだまだ気は抜けない。
残りHPが十パーセントを切った辺りから今以上に敵意維持が難しくなりランダムターゲットが発生しやすくなるからだ。
仮にランダムターゲットが発生してもアタッカー三人に飛ぶ分ならまだましだが、回復役のエリアスさんに向かったら状況的にかなり厳しくなるし、もしダメージを受けて死亡でもしたら、確実この討伐は失敗に終わるだろうし結果的には全滅という代償を支払う事に繋がりかねない。
エリアスさんだけは、絶対に最後まで守り切らなければならないし、俺達の絶対防衛線だからこそ守り抜いてやると新たに気を引き締め、俺は更にバハムート・キングへ攻撃を強めていった。
「おい! そろそろ奴の残りHPが十パーセントを切るから、ランダムターゲットには注意してくれ! 特にエリアスさんだけは捲き込まれない様に注意して下さい」
チャットでみんなへ注意を促した後、奴の残りHPが十パーセントを切った辺りで突然変化が訪れた! 奴が突然翼を広げたかと思うとそのまま飛び上がり、俺達の上空を旋回し始め、まるで俺たちの中で一番弱そうな者を探しているかの様に、上空を旋回し続ける。
やはりランダムターゲットが始まったか……それに、いつ範囲即死攻撃を使うかも判らない上に、少しでも遠距離攻撃で攻撃し続けて奴のHPを削らなければ、俺達は討伐前に潰される事になり、折角ここまで苦労してやってきた事が全て水泡に帰する事になりかねない。
奴の動きを追いながら、【キャッチ】と【シールドロブ】を使い敵対値を上げ俺に向かって来ようとさせたが、空しくも俺の方へ戻って来る事は無く、奴はエリアスさんをターゲットに収めた様で突然急降下しだした。
不味い! 俺は慌てて【アクセル】を使いエリアスさんの傍まで駆け寄ると、半径五メートル以内に居るPTメンバーのダメージを肩代りするスキル【リカバー】を発動させ、【スパイク】を使って足場を固めて奴の着地時の衝撃波に備えて盾を前面に立て身構えると同時にドーン! という音と共に着地時の衝撃波が俺達二人に襲い掛かって来た。
だが盾を使って身構えていたおかげで大したダメージを受けなかった事に若干安堵していると、奴は続けざまに咆哮を至近距離で打ち放って来た。
うぅぅ……これはかなり痛い、俺のHPのバーが赤点滅し、これでもう一回攻撃を食らったら一発アウトだ! 慌ててHPポーションを飲ませるが若干HPが回復しただけで、まだまだ焼け石に水状態だ。
それよりエリアスさんの方はどうなったかと気になり、PTメンバーのリストの表示されているエリアスさんのHPを確認すると八十パーセント程残っている。
よし! エリアスさんは守り切った。
後はHPの回復だけだとそう思っていると、エリアスさんが【エクストラヒール】で連続回復してくれ、どうにかHPの方の問題は解決したが、まだ奴のターゲットがエリアスさんに向いているのは分かっている。
だからこそ早く奴のターゲットを俺の方に引き剥せなければならない、他のメンバーもその事には気付いていると思う……このあと俺がどう動くか攻撃しながら見ている様だ。
「エリアスさん、ここは俺が奴の敵意を稼ぎますので、その間にエリアスさんは反時計回りで逃げてください。
ただし奴の尻尾の攻撃範囲には絶対に入らないでください」
「わかりました。反時計回りで逃げれば良いですね」
「俺は、一旦ここで攻撃をして奴のターゲットを俺に向かせますので、その後に時計回りで反対側に回り込みます。
そうしたらエリアスさんはまたこっちの方に戻ってきてください」
「はい! わかりました」
「それじゃ、エリアスさん一気に走ってください」
俺はそう言い終わると、【キャッチ】【シールドロブ】と使いコンボを二回連続で入れてもう一度【シールドロブ】を使い俺にターゲットが戻った事を確認すると、【アクセル】を使って時計回りで一気に反対側に走り抜けると、もう一度【シールドロブ】を使い奴に盾を投げつけると、コンボ攻撃を繰り返し入れエリアスさんを襲った恨みとばかりに、攻撃を続けていると残りHPが五パーセントを切った辺りで奴の上空に魔法陣が浮かび上がってきた。
「みんなヤバいぞ! 奴は広範囲攻撃を使う心算だぞ! ここは一気に潰すしかない! スタンが効かなかったら完全アウトになる。エリアスさんも危険かも知れませんが、バハムート・キングの近くに寄ってください!」
エリアスさんとバートが急いでこっちへ駆け寄ってくる。
俺は奴の詠唱バーを見ながら詠唱に時間がかかるのが分かったので、余裕を持って【シールドバッシュ】叩き込むのと同時にバーの動きを見る。
チッ! 一発じゃ難しいか、アーノルドの【ソードスタン】が効いてくれれば良いが、そうしてカーン! カーン! と甲高い音の連続聞こえたかと思ったら、アーノルドが奴に向かって【ソードスタン】を叩き込んだ様だが、まだ奴の詠唱バーは消えない。
アーノルドのスタンも失敗か……俺の方の【シールドバッシュ】はそろそろCTが終わりそうだ。
それより奴の詠唱がもうすぐ終わりそうだ! こっちのCTが終わるのが速いか、奴の詠唱が終わるのが速いかギリギリってところだ。
そう考えていると運良くこっちの方が若干早くCTが終わり、これが最後の懸けとばかりにガッン! と【シールドバッシュ】を奴に向けて打ち込むのと同時に詠唱バーを確認する。
奴の詠唱バーは消え上空に浮かんでいた魔法陣も消えているのを確認した俺は、そのまま武器を二刀流に切り替え二刀流の最大火力と言われている【ソード・レイン】を、奴にめがけて撃ち放つと上空に無数の剣が出現しそれが一気に奴に降り注がれる。
それを見ていたバートは最大火力の【メテオ】を降らせ、アレックスは風魔法とコンボの矢の雨を降らせ。
そして最後の止めとばかりに、アーノルドの最大火力スキルで雷属性を纏った巨大な剣を降らす【サンダーツヴァイハンダー】を、一気にバハムート・キングを串刺しにしたのと同時に、ドシーン!! と言う音と共にバハムート・キングは地に伏すと光の粒になっとなって奴の巨体は霧散し、そこには一個の宝箱だけが残されていた。
「うぉぉ! やったぞぉぉ!」
アーノルドのチャットでの第一声はそれであったが、よほど嬉しかったのかエリア内をジャンプしながら動き回っていた。
「ニャルやりましたね! 本来の人数じゃなくて少人数でクリアできたんですね」
アレックスは、何となく感極まった感じの言葉をチャットで言ってきたが、俺はいつもの事だとさして気にせず半ばスルーしていた。
「僕たち本当に、あの噂のバハムート・キングを討伐したんだよね?」
なんかチャットでは子供口調みたいな感じで言ってきてるが、こいつは紛れもなく46歳の中年のおっさんだし、リアルを知る俺としては可愛く言われても逆に気持ち悪いだけだと思いこれもアレックス同様に半ばスルーしておいた。
「みなさん、本当にお疲れ様でした。
そしてニャルさん私をバハムート・キングの攻撃から守ってくださって本当にありがとうございました」
「いえいえ、俺は盾役ですから、回復役を守るのは当然ですし、それにこのPTでは一番の要はエリアスさんですから、本当に感謝するのはこちらの方ですよ」
「と言うかさ、何気に気がついたんだが、さっきから画面上で何やら俺達の事が速報で流れてるんだけど」
その速報というのは、『極特SSS級 龍帝バハムート・キングが、サーバー内で初討伐されました! 討伐参加者は、ニャル・グランド アレックス・コリンズ アーノルド・バンキンス バート・マクドネル エリアス・フレイルの5名での討伐成功です! おめでとうございます!』こんな感じの速報ニュースが画面上部で流れていた。
俺は、嬉しさの余りに未だにそこら辺じゅうでジャンプを繰り返しているアーノルドへ向けてチャットで声をかけた。
「おぉぉい! アーノルド! 討伐成功で嬉しいのは分かるが、いい加減飛び回るのは止めて宝箱を開けないか?」
「おぉ! そうだったな。早速開けてみよう」
やれやれと思いながらも、お楽しみの宝箱の中身だ。期待せざるを得ない!早速あけてみますかねぇ。宝箱を開ける時のお約束の言葉を俺は発する。
「チラッ」
お約束の言葉をチャットで言うと周りも期待してるのか、ワクワクとかドキドキとかwktkなどと言ってくる始末で、俺も似たようなものだから良いかと、気にせず宝箱の中身を確認する。
「では、宝箱の中身を発表します! 先ずは一個目《龍帝の弓+15》! 次二個目《龍帝の杖+20》! お次は三個目《龍帝の皮》! 四個目《龍帝の肝》! 五個目《龍帝のツヴァイハンダー+18》! 六個目《龍帝の鎧+15》! 七個目《龍帝の剣+20》! 八個目同じく《龍帝の剣+20》! 九個目《龍帝のハルバード+15》! 次でラストかな? 《龍帝バハムート・キングの魂》以上!」
「結構な数が出ましたね。私は弓使いなのでこのまま《龍帝の弓》を貰ってもいいですか?」
これには、誰も異議は無かったみたいで、全員一致で《龍帝弓は》アレックスの手に渡った。
「儂は、《龍帝のツヴァイハンダー》だけでいいぞ」
「ちょっとまったぁ!」
俺は思わず、昔の深夜番組の様な掛け声を掛けてしまったが、
そこは気にしないでおこう。
「アーノルドは本当に、《龍帝のツヴァイハンダー》だけで良いのか? 以前から新しい鎧が欲しいとか言ってなかったか?折角鎧も出ているのに、持って行かなくても良いのか?」
少々積めるような感じでアーノルドにチャットで訊いたが、エモーションでただ首を左右に降るだけだった。
「いや、儂は鎧が欲しくないとは言ってない、ただこの中で一番装備が重視されるのは、ニャルお前だろ?だから今回の鎧はニャルが受け取っておけ」
「何格好良い事を言ってるんだか。アーノルドお前が後から欲しいと言っても絶対に渡さないからな!」
そう言って、俺は《龍帝の鎧》を宝箱から取り出した。
もちろんアーノルドも《龍帝のツヴァイハンダー》を取り出していた。
「お次は《龍帝の杖》だけど、これはバートかエリアスさんのどちらかになるね?」
「僕は、《龍帝の皮》と《龍帝の肝》だけでいいよ」
あれ? またこのパターンかよ……と言うか素材を貰ってもバートは使えるのかねぇ? ……まさか転売目的と言うのもあるけど、こいつに関してはそれは無いだろうから、あとはエリアスさん次第だな。
「エリアスさんは、杖と素材どっちがいいですか?」
「えっ! 私ですか? 私はどちらでも構いませんよ。むしろバートさんが素材が欲しいと言ってるのですから、バートさんに素材を渡そうかと思います」
うわぁぁ……この娘マジ天使だよ! こう言う娘は大切にしないとね。それこそ人類の宝として国宝に指定されてもおかしくないよ! ……と、変な方向の考えは棚に上げておかないと
「それじゃ、バートは《龍帝の皮》と《龍帝の肝》で、エリアスさんは《龍帝の杖》でいいかな?」
「「「異議無し」」」
反対無と言う事で、バートが龍帝素材を取り出し、エリアスさんが《龍帝の杖》を取り出した。
「最後に残ったのは《龍帝の剣》が二本に《龍帝の魂》だけだけど、剣を使うのって俺とアーノルドくらいしか居ないし、アーノルドはメインウェポンが両手剣だし、《龍帝の剣》二本は俺が貰っても良いかい?」
「「「「異議なぁし」」」」
「って本当にみんな異議なし? 俺さっき鎧を貰ってるんだけど? それでも良いのか?」
「みんなが異議がないって言ってるんだから、貰っておいたらどうです? ニャルだって新しい剣欲しがっていたじゃないですか、それが今回出たって事ですし、貰ってしまっても良いと思いますよ」
「アレックスがそう言うなら、貰うけど……さっきも言ったけど後から欲しいって言っても渡さないからな!」
そう言いながら、俺は宝箱から《龍帝の剣》二本を取り出し、アイテムボックスにしまった。
「《龍帝のハルバード+15》はどうする? アーノルドも使えるだろ?」
「ん? 儂か? ハルバードは興味ないな。
だからそれもニャルが持っていけ」
「儂は両手剣しか興味が無い! だからそれはお前のものだ」
「そっか……それじゃ遠慮無く貰っておく」
「これでラストになるんだけど《龍帝バハムート・キングの魂》って誰か欲しい人居る?」
俺がそう訊くと『みんな一斉にそれ《ただの魂》なんじゃない?』……って、俺の見間違いか? ……でも俺の方のステータスで見ると確かに《龍帝バハムート・キングの魂》って表示されてるんだけどな。
誰も欲しがってる感じじゃないし、俺が貰っておきますかね……そのうち使い道もはっきりするだろうし、それまでは倉庫で塩漬けだなぁ……
「これは誰も欲しがらないみたいだから俺が貰ってもいいかい?」
「「「「異議なし」」」」
「と言う事で、以上で分配は終了だけど、この後はどうする?」
「そりゃ決まってるだろ? ニャルの屋敷に行ってゆっくり休むんだよ」
「何で俺の屋敷なんだよ! しかも既に決定事項みたいになってるし、と言うか明日からみんな海外出張っだぞ! 戻ってサクっと寝るってのが普通の考えじゃないか?」
「だ、か、ら、ニャルの屋敷にみんなで行ってそれで落ちるんだよ。出張から戻ってから、どこそこで集まろうって言っても、面倒なだけだと儂は思うが?」
「それは単にアーノルドが、楽をしたいだけな様な気がするのは、俺だけか?」
「いや、ニャルの屋敷に行くのは、ここにいる全員の総意だと儂は思っているんだが、反対意見はあるか?」
「「「異議なし」」」
「お前ら、よくチャットで息を合わせられるなぁ……分かったよ! 分かりましたよ! ここに居る全員を俺の屋敷に招待すればいいんだな! そうと決まったらささっと行くぞ」
「バート俺の屋敷までゲートを頼む。どうせお前のことだから既に全員の屋敷の登録は済ませてあるんだろ?」
「ご名答! しっかり登録してあるからご安心くださいませ」
バートはそう言うとエモーションで丁寧なお辞儀をした。
まったく、上手く乗せられたような気がするけど今回くらいは、良いか……それに早く戻ってサッサと寝ないと明日の出張に響くし、ここは乗せられておきますかね。
「バートゲートを頼む」
「了解!」
バートが俺の屋敷前までのゲートを開くと、次々とみんながゲートを潜っていった後に俺もゲートを潜り、一番最後にゲートを維持していたバートがゲートを潜ってそのゲートは閉じられた。
◇◆◇◆
ゲートを潜って屋敷前に出ると、何故だか若干一名がポカーンと口を開いて驚いたエモーションをしている女性が居る事に気がついた。
「な、何ですか!? この大きなお屋敷は? こんな大きなお屋敷なんて初めて見ますよ!」
やや、興奮気味な感じでチャットに文字を表示させたエリアスさん。
俺としては首都の皇城と比べたらまだ小さい方だと思っているのに、エリアスさんが首都の皇城に行った日にはもっと驚くのではないだろうかと、ちょっと面白くなってきた。
「この屋敷で驚いていたら首都の皇城に行ったらもっと驚くと思いますよ?」
「確かに首都のお城と比べたら、かなり大きさが違うかと思いますけど、王家以外でここまで大きい屋敷に住んでいる人って居ませんよ」
まぁ、俺の階級と爵位を知らなければ、こう言う反応になるのは分かっていたけど、ここまで驚かられると逆にこっちがびっくりするよ。
「ところで、このお屋敷ってどの位の大きさなんですか?」
「エリアスさんなら当然訊いてくるだろうと思っていたので、簡単に説明すると、部屋数は九十部屋、屋敷の形は凹型の総三階建てで、屋敷の敷地面積は計算するのが面倒なんでざっとですが、東京ドームと同じくらいじゃないかと俺は思ってます……と言ってもERION内での専有エリアをリアルの敷地面積にしたらどうなる? って計算したら、ほぼ東京ドームと同じ敷地面積だったって話なんですけどね」
「それでも、リアル換算で東京ドームとほぼ同じ敷地面積って相当大きいですよ! と言う事は、メイドさんや執事さんも沢山雇っているんですか?」
「執事とメイドは一応居ますが、猫獣人タイプのNPC執事とメイドが一人ずつだけですよ」
「こんな大きなお屋敷に住んでいるんだから、沢山居るかと思っていたんですが、やっぱりリアルと違うんですね……」
「そりゃそうですよ、リアルでこんな屋敷を持っていたら相当な金持ちで、大企業を経営してますって人か、海外の超有名俳優やプロスポーツ選手くらいなものでしょう?」
「ですよね~」
そう言いながらうなだれるエモーションをするエリアスさんの姿を見ていた俺は、ある事を訊きたいと思った。
「もしかして、エリアスさんは玉の輿狙いだったりします?」
「えっ? わ、私が玉の輿狙いって……ぜ、絶対に、そ、そんな事は、な、ないですからねっ!」
「アハハ! 嫌にどもってますよ? と言うかそう言う夢を持つのも俺は良いと思いますから、あまり気にしないでくださいね」
「は、はぃ~」
「さて、屋敷前で立ち話もなんですから、早く屋敷に入りましょうか」
「って! なんでアレックスが仕切ってるんだよ! ここは俺の屋敷だから、俺が仕切るのが当然だろ!」
「ニャルとエリアスさんの立ち話が長すぎたんで、我々は待ちくたびれてるんですよ。さっ! 早く屋敷に入れてくださいよ」
「うっ! 分かったから、背中から押すな! ってポリゴンだからすり抜けるだけなんだけどね」
そして、ニャル達五人が屋敷の扉の前まで到着すると、自然と扉が開き二人の猫獣人型のNPCの執事とメイドが主人を出迎えた。
「お帰りなさいませ。旦那様」
「お帰りなさいませ。ご主人様」
「ああ、ただいま。カミューにミュア、俺が居ない間に、誰か来たりしてないかな?」
チャットでこう言う挨拶や質問をするとNPCの自立型AIが、集積した情報の中から会話相手に応じて適切な応答が自動的にデータベースから導き出され、不自然のない会話が成立するところは、流石二課の連中の成果だと改めて感心してしまう。
「はい。つい二時間ほど前ですが、狼夜様が訪ねて来られて、先日ご依頼されたタンスを届けに来られました」
執事のカミューが来客があった事をニャルに、報告した。
「夜さんが来たんだ。申し訳ない事をしたなぁ……まだログインしてるかな?ちょっとフレンドリストで確認してみるか―――あっ! やっぱり居ないか時間的に若干遅いもんな……仕方が無いメールで代金とお詫びの品でも送っとくか。代金はタンス三個で三百万ゴールドか、お詫びの品はこの間伐採した《光樹木》のハイクォリティ品五十本で良いか、メールの内容は――『最近なかなか会う事が出来ないけど、時間が合う時にでも一緒にIDにいこうぜ!もちろん徹夜コースでw』こんな感じで良いな」
「それじゃカミューこのメールは夜さんに送っておいてくれ」
「畏まりました。狼夜様宛のメールは、確かに承りました」
「それじゃみんな中に入ってくれ! ミュアお客をリビングまで案内をして差し上げてくれ」
「畏まりました。ご主人様」
さて、みんなはミュアの案内でリビングへ行ったし、いまのうちにさっきから気になっている《龍帝バハムート・キングの魂》を鑑定してみるかな? そう考え屋敷の自分の執務室と決めている部屋に向かってから、早速アイテムを調べる事にした。
アイテムボックスのイベントリーに収められている《龍帝バハムート・キングの魂》にカーソルを当てて内容を確認してみる。
俺は、ディスプレイに映し出されているゲーム画面を見ながら独り言を呟きながら、《龍帝バハムート・キングの魂》のステータスを読んでいる。
「何々?『アイテム名:《龍帝バハムート・キングの魂》装備効果:魔法を読み解き、魔法の理を知り、魔法の真理を求め、魔法の改造・創造、無詠唱連続発動が可能になる。HPとMP+十万パーセント(その他武器、防具、個人ステータスなども状況により更に増大する)』」
「うっはぁ! 何? この神アイテム! しかも自分で魔法を作り出せてしまうとは、チートも良いところだし、HPとMPが+十万パーセントってなにこれ? 流石に取得経験値の増大は無いにしても、これだけの性能だから売りに出せば、相当な金額を付けられるけど、さっきも気になったけど、俺以外にはこのアイテムは《普通の魂》つまりゴミアイテムってしか見えないって事だよな……不思議だ」
「あれ? 何か追加の情報があるな……『《龍帝バハムート・キングの魂》を使うには、互いの魂の契約が必要になり、契約者本人の血を持って魂の主従の契約が成立し、一度魂の主従の契約が成立すると、互いのどちらかが死亡するまで契約が、破棄される事は無い』」
「ん? ……どう言う事だ? 一度魂の主従の契約が成立すると、互いのどちらかが死亡するまで契約は、破棄される事が無いって!? ゲーム内だから死亡することは当たり前だし、死んだら契約解除ってなんか使えそうで使えない様な気もするけど、まぁ一回試してみますかそれで使えなかったら今後は無視すれば良い訳だし、ただもう一つの契約者本人の血が必要だってのも気になる点だけど、ゲームの中だし実際に自分の血が必要って事も無さそうだし、クリックしてみますかね」
そう、俺はこの時点までは、EIONの中だけの設定だと思い込み、何も考えず《龍帝バハムート・キングの魂》をクリックして、リアルで龍帝バハムート・キングを使い魔として魂の主従の契約をするとは思っていなかった。
「では、早速ポチりますかな……ポチッとなぁ~」
《龍帝バハムート・キングの魂》をクリックすると『Now Loading』の画面が現れ暫くすると、まるで純白の真珠の虹色と言う表現が正しいだろか、それとも俺が装備している純白の《虹翼の翼》の色のだと表現をした方が正しいのだろうか? そんな感じの色の魔法陣がディスプレイに浮かび上がり、ゲーム内では見た事が無い文字で書かれている。
その読めない文字の下には日本語訳と思しき文字が浮かび上がり、次の様な内容が書かれていた。
『以下の言葉を紡ぎ《龍帝バハムート・キングの魂》と己の血をもって魂の主従の契約を成さん』
『我、マサカズ・ウチダは、魔法を読み解き、理を知り、真理を求め、更なる力を求め、効果を高め、新しき魔法を生み出し、どんな屈強に立たされようとも龍帝バハムート・キングと伴に生を全うし、ここに龍帝バハムート・キングの主となる事を誓う』
と、契約の言葉が、俺の意思(何でEIONの中の契約で、自分の本名を言うんだよ)と言う心の叫びを無視して勝手に口から契約の言葉が紡ぎだされ上、その直後にディスプレイに表示された純白の真珠の虹色に似た色に光る魔法陣が更に輝きを増し、魔法陣の中央に【汝の血液を垂らし魔法陣をクリックせよ】という文字が表示されると、俺は逆らう事を許されない何とも言い難い何かに身体を半ば操られている様な感覚を感じつつ、ペン立てに挿してあったカッターを左手に取り、右手人差し指の先を切り血を滲み出させ、そのままディスプレイの魔法陣をクリックすると魔法陣は純白の真珠の虹色に光ると同時に、光が俺の身体全体を包むと静かに光が静かに消えていった。
そして今まで虹色に光り輝いていた魔法陣の中央に『主従の契約の証として《虹翼の翼》、《虹翼の弓》、《虹翼のツヴァイハンダー》、《虹翼の剣》、《虹翼のハルバード》、《虹翼の杖》、《虹翼のローブ》、《虹翼の軽鎧》、《虹翼の鎧》、《虹翼の盾》を贈る』と言葉が表示された後、静かに魔法陣が消えまた何事も無かった様にディスプレイの画面はいつもの風景を映し出していた。
いったい今の契約イベントは何だったんだう? まさか二課がこんな手の込んだ隠しイベントとして仕込んでいるとは思えないし、今体験した現象の事で頭の処理が追いつかないうえに、左手を見るとカッターを持ち、右手人差し指は血が滲み出しており愛用のマウスは自分の血で汚れているのを、改めて見て夢や幻想では無く現実で起きた事だと認識すると同時に、慌てて絆創膏を右手の人さし指に巻き付け、自分の血で汚れたカッターとマウスを、ウェットティッシュで拭いてから、一服をし気分を落ち着けると、ふと――俺以外に居ない筈の部屋に龍帝バハムート・キングが、存在している様な気配がしてディスプレイ画面に向かって叫んでいた。
「おいっ! 龍帝バハムート・キング! お前は、今この部屋の中に居るのか?」
俺はディスプレイに向かって目の前に居る筈もない龍帝バハムート・キングに叫ぶと今度は、頭蓋に響くような声が聞こえた。
『呼んだか主よ』
「ああ! 呼んだ。お前の主として名前を聞き忘れていた。お前の名前はなんという?」
―――暫くの沈黙の後に
『我には名前はない。ただ人からは龍帝バハムート・キングとだけ呼ばれている』
「龍帝バハムート・キング!? 長すぎる! もっと呼びやすい名前は持っていないのか?」
『持っていない……ならば主よ我に名前を授けてくれまいか』
「名前を授けろっていきなり言われても……直ぐに思い浮かぶわけがないだろう!? 少し待ってくれ考える」
その後の俺は、何かいい名前は無いかと、絆創膏を巻いた指の痛みを忘れて、今まで読んだライトノベルやら、ネットの人名辞典を見まくり、ようやっと良い名前が思い浮かんだ。
「おい! 龍帝バハムート・キング! お前の名前がたった今決まった! 心して聞けよ?」
『うむ』
「お前の新しい名前は、ヴェルドラードだ! どうだ? 気に入ったか? 気に入ったのなら何か返事をしろっ!」
『ふむ……我の新しい名前はヴェルドラードか……フフフフッ……フハハハハハハッ! 気に入ったぞ! 主よこれからは、我のことをヴェルドラードと呼ぶがいい!』
「おっし! 気に入ったのならそれで良い、ところでヴェルドラードよお前は今何処に居るんだ? お前の声は聞こえるが、姿が全く見えないのは若干気分が良くないから姿を現せられるのならこの場で姿を見せてくれ」
『主よ今直ぐに姿を現せと言うのなら表す事は可能なのだが、少し困った問題が一つだけある』
「少し困った問題? なんだそれ? 良いから話してみろ」
『主がそう言うのであれば話そう。その少々困った問題と言うのはだな……我の姿を良く思い出してみれば自ずと答えが出るはずだ』
「お前の姿? ――先ず大型の龍だよな? そして頭から尻尾まで入れると余裕で30mは超えているし、翼を含めればそれ以上って事だよな……つまりあれだお前がこの場で姿を現すと、俺の住んでいる家が完全崩壊するって事だな?」
『そう言う事だ。我がこの場で姿を現せれば主の住処は完全崩壊する……そうなれば主が困るだけでは済まぬだろ?』
「確かにヴェルドラードの言う通りだし、俺の家が完全崩壊したら今夜からの生活から困る事になる。なぁ~お前魔法とかで小型化するって事は出来ないのか? 例えば肩のりサイズくらいとはせめて言わないが、最低でも腕乗りサイズくらいにはなれないのか? そうすれば小さくとも姿を現す事は可能になるだろ?」
『そのくらいの大きさになら出来るが、主のいる世界は魔力がない。今の身体の大きさを小さくするのにもそれ相応の魔力が必要になる。もし、我の本来の姿を現せる事の出来る魔力のある別の世界ならば、本来の姿を現す事も可能になるし、身体の大きさを変える事も可能になる』
「そっか……要するに今俺たちが住んでいる別の世界。つまり魔力が存在する世界でなければお前の姿を見る事が出来ないって事か……って!? 魔力が在って魔法が使える世界って簡単に行ける様なものじゃないだろう! ラノベやマンガじゃあるまいし、簡単に行ける様な状況には絶対になりえない!」
『主よ、よくよく考えて欲しい、今の現実を良く見てみろ?我と主は主従の契約を為した。つまり主に解りやすく言えば魔法の存在する世界へ行ける可能性があるか、もしくは既に呼ばれかけている可能性も否定も出来なくは無い。でなければ我と主の間で血と魂に依る主従の契約は絶対に為し得る事が出来ない』
「と言う事は、時期が来れば異世界へ召喚させる可能性があると言う事か……でもなぁ~そう言ってもいつその時期が来るのかが分からないんじゃ仕方が無い……果報は寝て待てと言うし、俺も明日から海外出張になるからなるべく早く寝ないとまずいんだよな」
ヴェルドラードとの契約から、バタバタしていてすっかり忘れていたけど、部屋の時計を見ると既に二十四時近くになっていた。
ヤッベ! みんなリビングに案内して、俺は自分の書斎に閉じ篭もったままだった。
なんて事がバレたらヤバイ……おっし! ここは領地の収支内容を確認している間に寝落ちしたって事にしよう。
そんな風に考えていると、白文字チャットで俺に話しかけてきた。
「ニャル、居ますか? いつまで経ってもリビングに来ないので、様子を見てきて欲しいとみんなに言われて来てみたのですが」
「アレックスか? すまん、先月の領地の収支報告に目を通していたら、寝落ちして居たみたいだ。いまからそっちへ行くって先に行ってみんなに伝えておいてくれ」
「分かりました。先に戻ってみなさんに伝えておきますね」
「アレックス、気を使わせてすまん。」
「いいえ、これもまた部下の勤めですよ……そのかわり今度一杯奢ってもらいますけどね」
「こらぁぁ! お前はそれが目的だったのかぁぁ! 俺の謝罪を返せぇ~」
「嫌ですよ! これは決定事項であり言質は取りましたから」
「一杯奢る件は、また後日にして、お前はサッサと下にいけ!」
「はぁ~い、了解しました。マスター」
ったく! あいつは人をおちょくりに来たのかよ? 兎も角早く下に行かなきゃな。
◇◆◇◆
「すまん! 極特SSS級のバハムート・キングの討伐成功に安心したうえに、先月の領地の収支報告を書くにしていたらいつの間にか寝落ちしてた」
「ですね、本来は八人のフルPTでIDに突入するのに今回は五人で討伐したうえに、極特SSS級のバハムート・キングにぶち当たれば、誰だって精魂尽き果てますよ」
然程気にしていないかの様に語るアレックス・コリンズこと角屋 豊も《龍帝の弓》を手に入れてご満悦だ。
「うんうん。今回は僕達も良い目を見させてもらったし、超レア級の革素材と肝が手に入っただけでも僕としては十分に収穫が在ったと思うね」
珍しくテンションが高めに話をするのは、バート・マクドネルこと小泉 武志
「そうだのぉ、儂も超レア級の両手剣《龍帝のツヴァイハンダー》を手に入れる事が出来たしのぉ」
今にも手に入れた両手剣に頬ずりしそうな勢いで語るのは、アーノルド・バンキンスこと“十文字 宏明”
俺、ニャル・グランドこと“内田 政和”は、今回はなかなか運が良かったのか《龍帝の剣+20》を2本と《龍帝のハルバード+15》におまけで《龍帝の鎧+15》を押し付けられた。鎧自体は別に欲しく無かった訳ではないが、むしろ俺としては宏明に渡したかったのだが、『盾役のお前が装備を固めないでどうする』と言われて不承不承受け取っている。
そして《龍帝バハムート・キングの魂》なのだが、他のメンバーには《ただの魂》と表示されていたらしく誰も欲しがらないので俺が貰ったのだがIDを出てPTメンバー全員で俺の屋敷に戻り、今回の収穫物である《龍帝バハムート・キングの魂》のステータスを見ていたら、ヴェルドラードとの血と魂に依る主従契約の魔法陣が発動してしまい現在に至ると言う訳である。
因みに、今回は珍しくエリアスさんも居る訳なのだが、エリアスさんもきちんと《龍帝の杖》を受け取っている。
俺は杖自体は武志に渡るものだと思っていたのだが、何故か武志は杖より素材が良いと言い出し、結局武志は素材を杖をエリアスさんが受け取る形になった。と言うか、武志のやつ生産レベルはそんなに高くないはずだが、依託売りでもするのか、倉庫の肥やしにするのか分からないけど、本人の好きなようにするのが一番だよね。
そう言えば説明し忘れていたけど、武器や防具の名前の横に付くプラス表示は武器や防具の強化レベルを示していて、この数字が大きいほど強化レベルが高いと言う事になるんだけど、強化レベルが高くなるほど失敗率も高くなりレベル15を超えた辺りからは、正に茨の道と言うか強化素材を委託で購入したりして金を湯水のごとくつかう連中が居るくらいだから、何とも強化と言うのは金が掛かるものである……と言う事で俺はあまり強化に興味を示さず、IDに篭ってプラス付き装備が出れば良いや程度でしか感じてないが、今回は討伐に苦労はしたけどそれに見合うだけの超レア品がでただけもかなりラッキーだと思うし、それに“ヴェルドラード”との主従契約も出来たから、俺としては万々歳かな? って思っていたりもするけど今この場でヴェルドラードを顕現させられないのが惜しいけど、そのうち良い方法が思いつくかもしれないからそれまでは、そのままって事にしておこう。
そんな風に、チャットを眺めながら思いに耽りつつ何気に時計に目をやると、時間は既に午前1時を回っており、慌ててチャットに文字を打ち込む。
「うぉぉい! もう1時回ったけど明日から二週間海外出張だろうが! もう寝ないとやばいぞ」
「おぉ、そうだった明日から海外だった。思わず忘れるところだった。時間を知らせてくれて助かったぞニャル」
「いや、それは良いんだけど、何故にお前は二階へ上がろうとする? ここはお前の領地でもないしお前の屋敷でもない! アーノルドはさっさと自分の屋敷に戻りやがれ!」
「お主は、固いのぉ……そんなだから未だに結婚すら出来んのだぞ?」
「それと、これは関係ない! と言うかお前こそ結婚して失敗してるだろうが! ったく、こっちはヒーコラ言いながらむさい男ばかりの職場で仕事をしてるんだから出会いすらまともにないわ!」
「まぁまぁ、二人共落ち着いて、今は詰まらない事で言い争ってる場合じゃないでしょ? と言うか私もニャルと同じ職場で働いているんだから同じ事が言えると思うけど?」
「確かに、アレックスの言い分も最もだけど、アーノルドの言い方が悪い! もう少し他の言い方が在ってもおかしくないんじゃないか」
「なぁなぁ、そろそろ三人共本当に落ち着いたらどうなんだい? ただでさえ明日から海外出張だというのに、下らない事で時間を潰してしまったらそれだけ寝る時間が減るんだよ」
「ああ、バートの言う通りだな……済まなかった。ほら! アーノルドもアレックスもバートに謝れ」
「「「バート申し訳ない」」」
そう言って、俺達三人は、バートに謝り、そして俺達の言い争いを傍観するような感じで居たエリアスさんにも俺達は謝った。
「フフフ、本当に四人とも仲が良いんですね」
「まぁ、こいつらとはリアルで子供の頃からの付き合いですし、付き合いが長い分じゃれ合い? と言うのも変ですが、こう言う事は日常茶飯事なんですよ」
「そうなんですか、羨ましいいですね」
「羨ましいって、エリアスさんだってリアルで付き合いのある友達はいるでしょ?」
「友達と言えるか分かりませんが、ニャルさん達と同じように長く付き合っている人は居ますけど、口で言い争ったかと思ったら直ぐ仲直りしたり一緒に楽しくやったりする様な関係ではないので……」
「そうなんですか、何か変な事を訊いてしまって済みません」
と言って、エモーションを使って頭を下げた俺を見てエリアスさんはエモーションを巧みに使い慌てた風を見せて応えた。
「いえいえ、私はニャルさんが変な事を訊いたとは、全然思ってませんし……ただニャルさん達がいつもワイワイやっているのを見ていて、気兼ねなく付き合える友達が居るって良いなって思っただけですから」
俺とエリアスさんの会話を黙って聞いていたアレクスが、一言『なら、私達と友達になりませんか?』それを聞いたエリアスさんは『えっ』と一言もらし、そして『私なんかで良いんですか?』アレックスがエモーションで頷きながら『もちろん大歓迎ですよ』と言うと『ありがとうございます』とエリアスさんもエモーションで頭を下げた。
「まぁ、リアルまでとまではいきませんが、せめてEIONの中くらいでは馬鹿をやれるくらいの友達が居たっておかしくないでしょ? それに俺達四人はいつも馬鹿をやって仕事のストレスを発散させる為にEIONをやっているようなものですし、エリアスさんもそれを気にしないのであれば、一緒に馬鹿をやって楽しくやりましょうよ」
『はい! ありがとうございます』と、またエモーションを使って頭を下げた。
俺は、エリアスさんとは大分前にフレンド登録をしており、他の三人がいまフレンド登録をしているのを見ていて、ふと気がついた。そう言えばエリアスさんって今もどこのレギオンに加入してないんだったんだよな?……だったら誘ってみようかと、改めてエリアスさんに声をかけた。
「ところで、エリアスさんにまた変な事を訊いてしまうかも知れませんが、一つだけ訊いてもいいですか?」
「はい、差し障りの無いことなら何でも訊いて下さい」
「えっとですね、見たところエリアスさんはどこのレギオンに加入してないみたいですが、今後もずっとソロでEIONを続けていくつもりですか?」
「実は最近までは、ずっとソロのままでも良いかなって思っていたんですよ。ですが今日みたいにニャルさん達の遣り取りを見ていたら、レギオンに加入してみるのも悪くないかなって思ったんです……ただニャルさん達のレギオンの加入資格は《虹翼の翼》を持っている事が条件だと聞いた事がありますから、《虹翼の翼》持っていない私には加入資格が無いんじゃないかと思うんです」
「確かに俺達のレギオンの加入資格に《虹翼の翼》を持つ事という決まりはありますが、持っていないからって加入させない訳じゃ無いんですよ。《虹翼の翼》ってレア中のレアだって言われてますが、何故か不思議と俺達と一緒に狩りをするとそこら辺に居るモンスターから簡単にドロップしたりするんですよ。因みにですがこの四人の中では一番最初に《虹翼の翼》を手に入れたのは俺でして、次に手に入れたのがアレックスで、次がアーノルド一番最後がバートです。それもみんなレベルが一桁の頃に手に入れているんです」
「はぁ……なんか凄いですね。レベルが一桁の時にドロップしたと言う事は、相当狩りをしたんじゃないんですか?」
「いえいえ、クエストついでに対象モンスターを狩ってる時にドロップしたのが殆どですから、クエストをこなしながら散々狩りをしまくって手にいてたとかじゃないんですよ」
「それって、何か凄い事じゃないですかぁ! クエストついでにドロップするなんて初めて聞きましたしクエストで狩るモンスターの数なんて多くても二十匹程度ですし、少なければ五匹とか十匹程度ですよね。その中でドロップさせるなんて本当に凄いと思いますよ」
「俺達からしたら、凄いとか凄くないとかは余り気にしてないんですよ。単純にこいつなんか持っていそうだな?と言う第六感?みたいな奴が働くのか、試しに狩ってみたらドロップしましたって感じなんで正直言って、あまりありがたみを感じてなかったりするんですよね」
「第六感ですか……そういうのってあるんですね。例えばですが今直ぐ《虹翼の翼》が欲しいからといって私が狩りに誘ったら上手くドロップしますか?」
「そうですね。やってみないと分かりませんが、やるだけやってみましょうか? この屋敷から少し離れた所に、俺達四人が共同所有している魔の森と言うのが在るのですが、そこなら手頃なのがいるかと思いますのでそこで狩ってみましょうか」
「はい!よろしくおねがいします」
俺は本当にだらけきってそこら辺でゴロゴロしている三人に喝を入れるべく、アイテムボックスからネタ用武器《鉄のハリセン》を取り出し装備してからだらけきっている三人の後頭部めがけて《鉄のハリセン》で一発ずつスパーン! と言う音と共に叩きながら三人に声を掛けた。
「うぉい! 三人共十分ほど狩りに付き合ってくれ! それくらいなら大して支障は出ないだろう?それに折角エリアスさんが俺達のレギオンに加入したいって言ってくれてるんだから、手伝ってくれたっても罰は当たらないだろ」
《鉄のハリセン》の音で目が覚めたのか、口々に文句は言っているもののエリアスさんが俺達のレギオンに参加してくれる事が嬉しいのか、エモーションで気合を入れていたりするが、ここは見なかった事にして、さっさと片付けてしまおうとエリアスさんを含めた四人に何処ら辺で狩りをするか話し合う事にした。
「で、俺達のレベルに合わせて狩りに出る訳だけど、サクっと終わらせるのなら俺の領地の魔の森が一番手っ取り早いと思うけど、お前達三人の領地の魔の森で何処か適当な場所はあるかい?」
「う~ん、そうだなぁ儂の領地の魔の森の中央付近にストーン・ゴーレムと言うモンスターを置いているだが、そこなら儂らよりも格下だしサクっと終わらせる事は可能だが?」
「森のなかにストーン・ゴーレムを置くなんて、普通考えないだろう? ストーン・ゴーレムと言ったら谷や砂漠だろうが! もう少し環境に合わせたモンスターを置けよ! と言う事で俺の独断と偏見で却下な」
なんか『そんなぁ』なんてつぶやきも見えなくもないが、気にしたら負けだと判断しスルー状態にしアーノルドの案は却下にした。
俺の向かいに領地を持っているバートに何か良いモンスターは居ないかと訊いたところ『うちの領地の魔の森は低レベル向けに設定してるから、丁度良さそうなモンスターは居ない』との回答を得てバートの領地案も却下になった。
残るは、俺の左隣に領地を有するアレックスにも訊いたが『ニャルも知っている通りうちの領地の魔の森は大したモンスターを置いていないので手頃な奴が居ない』と一刀両断状態でアレックスの領地案も却下になった。
「と言うかさ、アーノルドは公爵でありアレックスとバートは侯爵なのだから、もう少し自分の領地の状態を良くしないと、時期に破産状態になって領地を売り出すって羽目になるぞ?そうなりたくなかったらもう少し管理をしっかりしろよ」
「あのぉ……今更訊きにくい話なのですが、みなさんは領地持ちの貴族って事になるんですよね?」
「ええ、一応そうですよ。俺はエリュアール皇国総騎士総長で階級は元帥、爵位は公爵で、俺の右斜めに座っているハイエルフが、同じくエリュアール皇国総騎士副総長で階級は大将、爵位は侯爵、次に俺の左斜めの席に座っているワーウルフが、隣国のパルティータ王国総騎士総長で階級は俺と同じ元帥で爵位も同じ公爵、その隣に座っているバンパイアも同じくパルティータ王国総騎士副総長で階級はアレックスと同じ大将で爵位も同じく侯爵です。」
『ふえぇぇ!? み、みなさん凄い方たちだったんですね』そう言って何故か項垂れるエモーションを入れるエリアスさん。
その姿を見た俺は慌てて『す、凄いって言っても全然偉くないんですよ普通に騎士団に加入してクエストをこなしていたら現在の地位になっていたってだけですよ』と若干あやふやな誤魔化し方になってしまったが、普通なら驚く筈なのに、エリアスさんは何故、項垂れるエモーションを入れたのか気にはなった。
今まで俺を含め五人でPTを組み、クエストやIDを巡ってきたけど、いつもは現場で合流して現場で終わると言う事が多かったし、今までに一度も俺達の屋敷に連れてき事が無かった。
そう考えると、エリアスさんは多分自分の物の知らなさに悲観的になって、驚きとともに項垂れるというエモーションに繋がったんだと思うからこそ、今回折角、我が屋敷に招待したのだから、詳しく説明をしてあげるべきだと、俺は総判断しエリアスさんに説明を続ける事にした。
「でも、騎士団に入ってクエストをこなしながら階級を上げて爵位まで得るなんて大変なんじゃないですか?それに公爵や侯爵で、元帥に大将ですよ!そう簡単に階級が上がったり爵位が得られるってかなり難しいと思いますし、しかも領地持ちですよ……」
「エリアスさんは、いままで殆どソロでやってこられたから、EIONの階級や爵位に領地システムに詳しくないと思うので簡単に説明すると、先ずレベル15で自分の好きな国の騎士団に入団出来ます」
「と言う事は、私は既にレベルがカンストしていますから、好きな国の騎士団に入団が出来ると言う事ですよね?」
「はい。エリアスさんの好きな国の騎士団に入団できますよ」
「で、次に大事になるのが、階級と爵位の上げ方ですが、これは騎士団が発行するクエストをコンプリートするか、IDを周回して軍票を貯めて騎士団本部に居るNPCに渡すと階級を上げる事が出来ますが、爵位は一定の階級にならないと得られません」
「一番低い爵位で、どの階級になるのですか?」
「一番低い爵位は、騎士爵で階級は騎士長で叙爵されます。その次の准男爵に陞爵するには軍曹の階級にならければ准男爵へは陞爵できません」
「騎士団の階級を上げながら爵位も上げると言うのは、結構大変なんですね……」
「それが、伯爵までの爵位なら騎士団のクエストをコンプリートしまくるのと、IDを周回しまくれば簡単に上がれますし、階級だけなら中将までは上げられますよ」
「えっ! そうなんですか? でもニャルさん達みたいに侯爵や公爵までになるのは、かなり大変なんじゃないですか?」
「正直言うと、かなり大変です。特に俺達の騎士団の階級や爵位は、人数制限されていて、上位のPCが、引退でキャラクターデリートをするか、他の国へ出奔するか、あとは二ヶ月以上ログインしなかったり功績値の上昇がな無い場合は、騎士団の階級に爵位と領地が自動的に取り上げられるので、そう言うので出来た枠が功績値が高い順に埋まっていくので、俺達みたいな高位は、ほぼ毎日ログインしているので高位枠が空くと言う事は、滅多に無いです」
「と言う事は、最低目標で騎士団での階級を中将まであげて、大将や元帥に上がれる様になるまで、軍票と功績値を貯めて待つしか無いって事ですね」
「そうなりますね。運営もアップデートで枠の上限を上げる可能性もありますし、気長にやるのも良いかも知れませよ?」
「ニャルさん達は、どうやって今の階級と爵位を手にれたんですか?」
「あっ! やっぱりそこに行き着きますよね……俺達の場合は今の階級と爵位を得る為に、溜まっていた有休を使って、廃プレイを……」
「やはり、そこまでしないと高位の階級と爵位は得られないものなんですね……」
「まぁ、その廃プレイをした結果で今の階級や爵位を得られたのと、結構早く領地も得られましたから、こうやって同じレギオンメンバー同士で固まって領地を持てているんですけどね」
「領地はどうやって手に入れたんですか? 爵位とかで貰えるとかじゃないですよね」
「領地は爵位で貰えるものではなく、普通に購入したんですよ」
「えっ!? 領地って購入出来たんですか?」
「今現在販売されている領地自体もかなり少なくなっているので、殆どオークションでの販売になっているので、かなり高くなっていますし、領地を購入できるのが爵位が伯爵以上にならないと、購入できないんですよ」
「伯爵までなら、結構早く上がれると言ってましたけど、最短でどのくらいで伯爵になれますか?」
「俺達がやった、鬼廃プレイで一週間ですが、エリアスさんの場合は、そこまでする必要はないですよ」
「それは、どう言う事ですか?」
「エリアスさんの場合、少々廃プレイして三週間程度で伯爵まで上がれば、その後はちょっと裏技で領地を無料で手に入れられますよ」
「のぉ、ニャル、裏技って例のアレかの?」
「そっ! 例のアレを使えば丁度良いんじゃないかな? って俺は思うけど?」
「この四人の中では、領地が領地が一番広いのは、ニャルですからね」
「うん、僕やアレックスの領地だと、ちょっときつくなるし、アーノルドでも僕ら程じゃないけど、若干きつくなるだろうから、そう考えると一番の適任はニャルだと思う」
「あのぉ……例のアレってどう言う意味ですか?」
「簡単に言えば、俺の領地の一部を分割贈与するという話で、この四人の中で領地が一番広いのが、俺で次がアーノルド、アレックスとバートは、ほぼ同程度の領地でエリアスさんに、領地を分割贈与するのに、一番適任なのが俺だって事です」
「つまり、私の爵位が伯爵になれば、ニャルさんの領地の一部を分割贈与してもらえると言う事ですか?」
「はい。ここに居る四人は高位の階級と爵位を持っているので、領地の分割贈与と言う権限を持っています。但し分割贈与するにしても一定の条件が付きます。先ず同じ国の騎士団に所属しており階級が大佐以上で爵位が伯爵であることこれが最低条件となります。この条件が満たされると領主の権限に依り伯爵に対して領地の分割贈与が可能になります」
「私が伯爵になって、ニャルさんの領地の一部を分割贈与して頂いたとしても、何もお礼として渡せる物がありませんけど、それでも良いんですか?」
「俺は、エリアスさんに領地の一部を分割贈与してもお礼を求めようとは思ってませんし、むしろ逆にお礼をしたいのは、俺達の方なんです」
「それは、どう言う意味で、ですか?」
「いつも、俺達四人のPTに入ってくれて、危なくなったら回復をしてくれて、それだけでも俺達は安心して前に出られますし、いつも本当に助けてもらってるんです。『『『『いつも本当にありがとうございます』』』』」
いつもは、四人とも別の言い方をする事が多かったが、この時は不思議と四人とも一斉に同じ言葉が、チャットに表示された事には俺自身多少驚かされた。
「いえいえいえ! こちらこそ、いつも皆さんに守ってもらって本当に助かってますし、私も色々な方達のPTに参加させて頂いてますが、一番安心してやれるのは、皆さんしか居ないと思ってます」
「エリアスさんこれこそが、互いの信頼だと思いませんか? 俺はそんな関係だからこそエリアスさんに、俺の領地の一部を贈与しても安心して任せられると思ってますし、本当に信頼してなかったらレギオンにも誘いませんよ」
『はい。ありがとうございます』と言ってエリアスさんは、エモーションで俺達四人に頭を下げた。
ひと通りエリアスさんへのEIONのシステム説明と信頼関係の話を終えた頃に、目だけ動かしディスプレイに表示されている地球時間を見て(りゃ徹夜で空港に向かう事になりそうだな)と溜息混じりにつぶやいた後、気分を切り替えるために、エリアスを含めた四人を連れて自分の領地の魔の森へ向かう事をチャットに打ち込み、屋敷の外に出た。
「エリアスさん、ここから【テレポート】で魔の森近くまで飛びますので俺をターゲットして右クリックでついていくを選択しておいて下さい。アレックス、アーノルド、バートも、ついていくを忘れるなよ!? 忘れて置いて行かれましたって後から文句を言っても聞かないからな! それじゃ飛ぶぞ!」
暫くの間詠唱をした後【Now Loading】の文字が消えるのを待ちながら、一服をする政和――――ディスプレイの画面が切り替わったのを確認した後チャットで、魔の森に入る事を他の四人に伝えると、画面右上に在るミニマップを頼りに、目的のモンスターを探し出しながら、移動を続けること五分この辺に生息するモンスターなら確実《虹翼の翼》がドロップするだろうと判断した政和は、チャットでワーウルフの群れが近くに居る事を知らせた。
「さて、この辺りのウォーウルフなら多分ドロップする筈だからサクっとやろうか」
「ニャルは、適当な群れに盾をぶん投げてくれれば良い、後は儂がサンダーブレイドで一気に殲滅するから、他の群れが近づかないように見ててくれ」
「OK! 了解した。アレックスとバートも他の群れの警戒を頼む」
「それじゃ行くぜいっ!」
ブォーンと言う音とともに、ブーメランの様に飛んで行く盾、比較的近くに居た群れの一頭に当たりワーウルフの群れが、リンクし此方に向って来るのをを見計らって一気にアクセルを使い群れの側まで駆け寄り、ヘイトを使い一気に敵対値を上げると、そのままアクセルを使って戻ってくるニャル、待ってましたと言わんばかりのアーノルドがサンダーブレイドを使い雷属性を纏った剣の雨を降らせる。
当たりが浅かった数匹が、ニャルに向かって突っ込んでくるのを見たバートがアーノルドと同じ様に矢の雨を降らせると、ニャルの数メートル手前でバタバタと倒れこんで息絶えたワーウルフは宝箱だけを残して霧散していった。
「さてと、宝箱はいくつ残ったかな?一、二、三、四、五、六と、合計六個か……この中にあるかな?」
「先ず一個目、ご開帳! チラ……はいハズレ、二個目……同じくダメ……三個目……無し……四個目はどうだ! ……またハズレか……う~ん今回は調子が悪いのかな? ――おしっ! 気を取り直して五個目……これもダメか……これでラストの六個目だなこれで入ってなかったら次の群れを狩るしか無いか」
みんなの注目が集まる中、ラストの宝箱が開かれようとしている……そして一気に開けたニャルは、一言『大当たり!』と叫んだ。
「エリアスさん早くこっちへ来て下さい。宝箱の中に入っている《虹翼の翼》を取り出して装備してみてください。」
「は、はい! 分かりました」
まるで【アクセル】を使ったかの様な素早さで《虹翼の翼》が入った宝箱に近づくと《虹翼の翼》を取り出し早速装備をした。
「エリアスさんは羽の展開の仕方は分かりますか?もし分からなかったら教えますけど、どうしますか?」
「はい、分かります。確かキーボードのPage Upキーを押せば良いんですよね?」
「そうです。Page Upキーを押せば《虹翼の翼》展開されますのでそれで羽根の枚数を確認して下さい」
「分かりました。展開します」
エリアスがチャットで言うと、バサァーと言う効果音と共に《虹翼の翼》が展開されると、ニャル達は無言のまま羽根の枚数を数え始める。四対八枚の羽が展開された。
「惜しい! 四対八枚か、でもこれでも《虹翼の翼》には変わりはないし羽の枚数は気にしないと言う事で、エリアスさんを我がレギオン【虹翼の翼】へ勧誘しますね」
彼女の《虹翼の翼》展開されるのと同時に、エリアスにレギオンの勧誘を送ったニャル達は、エリアスが勧誘承諾をクリックするのを待った。パンパカパーン♪ と、ファンファーレが鳴る中チャットには【エリアス・フレイルがレギオンに加入しました】とシステム表示が表示された。
「ようこそ! 我がレギオン【虹翼の翼】へ、エリアスさんの加入を心より歓迎します」
ニャルがエリアスへ向かって宣言すると同時に全員が一斉に《虹翼の翼》の翼を展開したのを見たエリアスは、一人一人の羽の枚数が多いのに驚き、ニャルとアーノルドが七対十四枚の羽の数に『華麗で綺麗』と一言つぶやき、アレックスとバートの六対十二枚の羽に『美しい』と感想を漏らした。
「エリアスさんの羽も私達と違って若干枚数は少ないですが、綺麗な《虹翼の翼》ですよ」
「うんうん、羽根の枚数は騎士団の階級と爵位が上がれば自然と増えるし形だって変わりますから今から期待しておくと良いですよ」
普段は、余り自分から話し掛けないバートがエリアスへ向かって、みんな期待しているという意味で、珍しく自分から口を利いた。
珍しく自分から口を利くのを見たニャルは『おいっ! 普段から仏頂面しかしないバートが珍しく自分から口を利いたぞ』と囃し立てるようにみんなに向かって話かけていた。
その様子を見ていたエリアスは『フフ、本当に楽しい人達』と心の中で思っていた。
「じゃ、エリアスさんも無事に俺達のレギオンに加入した事だし、各自自由に戻って明日からの出張の為に寝ますかね」
「では、ワシはこのままニャルの屋敷に泊まる事にするか」
「僕も同じくニャルの屋敷に泊まる」
「私は……領地が隣だけどこの際だから私もニャルの屋敷に泊まる事にするよ」
「なにぃ!? お前達は自分の屋敷に戻らないで、俺の屋敷に泊まるってか? よぉし、今日の俺は気分が良いからみんな好きな部屋に泊まれ」
YES! と変なガッツポーズをする数名を見ながら、ニャルはエリアスに今日の宿はどうするか尋ねることにした。
「ところで、エリアスさんは街に戻って宿に泊まりますか? それとも俺の屋敷に泊まりますか?」
「そうですねぇ……もしニャルさんがお邪魔じゃなければ、私もニャルさんのお屋敷に泊まらさせて頂いてもよろしいですか?」
「ええ、エリアスさんさえ良かったら何もお構いが出来ませんが、心ゆくまでお泊まり下さい」
ニャルがそう言うと、エモーションで笑顔をつくり『お世話になります』と続けてエモーションで頭を下げた。
「では、屋敷まで一気に飛ぶからみんな遅れるなよ?」
「「「「OK!」」」」
全員が同じ返事をするのを確かめるとテレポートで屋敷前まで飛んだ。
屋敷に戻ったニャル達だが、エリアスを除く四人が時計を見て『寝る時間がない……』とリアルでつぶやいていた。
全員がEIONを落ちる段階になって、ニャルがエリアスへ声を掛けていた。
「エリアスさん、落ちる前に申し訳ないのですが、少々お話をしてもいいですか?」
「はい、あまり長くなければ構いませんよ」
「ありがとうございます。一応俺達の会話を聞いていて、分かっているかと思いますが、俺とアレックスは明日と言うより時間的に今日になりますが、二週間ほど海外出張でEIONにログインが出来なくなります。あと、アーノルドとバートも出張でログインが出来まなくなりますので、折角加入したばかりのエリアスさんを一人にしておくのは、心苦しいのですが俺達が出張から戻るまで、暫くの間ご迷惑をお掛けするかと思いますがご容赦下さい」
「あぁ、その事ですか、それなら大丈夫ですよ。実は私も明日と言うより今日ですが、仕事の都合で暫くの間ログインが出来なくなるんです。ですので私もレギオンに加入させて頂いて、その直後に仕事の都合でログイン出来なくなるのを、気にしてたのでお互い様と言う事で、ニャルさんも気にしないでください」
「アハハ! ありがとうございます。で良いのか分かりませんが、お互いに仕事が落ち着いたら、また一緒にID巡りをしましょう」
「はい、その時は是非に」
「エリアスさん、落ちる前に引き止めてしまって申し訳ありませんでした」
「いえ、本当に気にしないでください。それよりニャルさんも寝ないと出張で飛行機に乗るのに寝過ごして、飛行機に乗れませんでしたでは大変ですよ」
「ですね。それじゃまた二週間後にEIONで会いましょう。おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。それとお仕事がんばってくださいね」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
屋敷の自室に戻ったニャルは、ベッドに横になるとそのままログアウトしていった。
EIONをログアウトし、PCを落としながら部屋の時計を改めて見て、ヤバイなぁマジで寝る時間があまり取れそうもないな……取り敢えず2時間だけでも寝ておくか、じゃないと豊が五月蝿そうだ。
ここは、さっさと寝るに限ると、部屋の明かりを消しベッドに潜り込みいつもの習慣で、自分以外誰も居ない部屋に向かって、”おやすみ“と一言告げると『おやすみ主よ』と返事が聞こえ『ヴェルドラード! 驚かすなっ!』と思わずツッコミを入れてしまう政和であった。
いやぁぁ……初作品&初投稿で偉い長い内容の話になってしまいました<(_ _)>
キャラのセリフの言い回しや、キャラの肉付けがまだまだ不完全なため、チャットみたいな感じの会話シーンが多くてすみません。
因みにこの回に出てくるMMORPGはVRMMORPGではないので、やたらとキャラの動かし方が難しくて本当に苦労しました。
今後は少しずつでもキャラが一人歩き出来る作品にできたらと思っていますので宜しくお願いします<(_ _)>
次回 第01話「再会」をお楽しみに(初回につき2話連続で投稿しておりますのでご注意下さい。)
2014/03/19 感想で、『。』で改行を入れた方が読みやすくなりますよと言うありがたいお言葉を、頂きましたので台詞部分は改行なしにし、主人公視点等の部分を、『。』で改行修正し、ヴェルドラードとの、魂の主従の契約部分の一部の記述を変更しました。
主人公がエリアスにシステムの説明をする時の記述部分を、主人公が一方的に説明しているのが、読み難いかもと思い、対話式記述に変更しました。
それ以外は、『!』や『?』を使っている部分の後に全角スペースを入れたりする修正を、行わせて頂きました。
2014/04/20
第07話に合わせて、細部な部分で修正とサブタイトルを若干変更しました。