集団から離れ
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「お前はまだ…強くなれる。こんなとこで死んじゃいけない」
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「あなたが死んだら……!何も…い…意味が…な…ないんだよ!」
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「『このグリステン王国には稀に、『防御性遺伝子』と呼ばれる遺伝子をもっている住民がいる。一般的な言い方をするなら、『プロテクション・ジーン』。
簡単に説明すると、自分の身を守るために必要な能力『カウンター』を発動するために必要な遺伝子だ。古くから争いや闘いが絶えなかったこの世界で、力をもたない弱者が生き残るために進化した結果、手に入れたものだと言われている。
よくある例として、敵の攻撃を反らす、光の壁をつくり防御する…など超常現象めいた力が挙げられる。そしてその能力が発動するのは無意識のうちで、発動するタイミングもわからない。
本人の遺伝子同士が奇跡的に組み合わさって初めて生まれる力なので、一人が使える力は基本的に一種類である』…フムフム」
勉強好きな王子がまるで誰かに説明でもするかのように本を朗読する。そして父に問う。
「お父さん、レイ兄やカイ姉のあの力はなんなの?いつでも自由に出せるみたいだけど…」
「ん?ああ、ありゃ特殊な例だ。というか、プロテクション・ジーンとは別もんだ」
レイが出かけた後も本人が乗り気でもないから、という口実でパーティーは続いていた。あの程度の事件ならレイ一人で解決できると全員がわかっているから。そう、本来なら小隊一つ動員していいレベルの問題でも。
騒がしい宴会場…もとい王室の奥にある王座で、地べたに寝転がりながら父に話しかける、アフラに良く似た10歳くらいの王子。それをいつも通り素っ気なく返す王。その光景をみて優しく微笑む王女。
一応事件が起きてるというのにまるで緊張感のないこの親子が、グリステン王国の王族だ。国民の温和な気質は、このほのぼのとして気の抜ける王族が原因だ、という皮肉も言われるほどだ。
「へぇ〜。それでこの図鑑に載っていないということは…」
王子が、将来王となるために必要な知識が全て集約されている「グリステン大百科」という分厚い辞典をパンパンと叩いてみせつける。
「ああ。未だ理解不能の力だ」
アフラはイスに頬杖をつきながらそう答えると、不敵な笑みを浮かべ、こう続けた。
「それを解明するのはお前だぞ。アルダシール」
それを聞いた王子アルダシールは、照れ臭そうにはにかんだ。頑張るよ、と言わんばかりに。
本来王の仕事である国の謎解明の仕事の責任を転嫁されているだけとも気づかずに……。
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文字通り音速で大地を駆けること5分。レイは広大な草原に辿り着いた。普通のそれより砂が多く混じっているのは、山から延びる草原と砂漠都市ハザーの丁度中央あたりにあるからだろう。
白い力のサポートのおかげでかなり速い速度でここまできたが、流石に疲れがでない訳ではない。一旦落ち着いて恐竜を探そうと脚を止め、二回ほど深呼吸をして周りを見渡す。
「さて、どうするかな」
呟いて頭をかく。若干くせのある赤毛がわしゃわしゃと音をたてる。あのどでかい恐竜が豆粒程の大きさにも見えないということは、まだまだ進み足りないということか。
そう考えると少々萎えたが、まああの空間にいるよりはマシかと無理矢理納得する。というより納得させる。
踏ん張ると足元で砂が鳴る。それに負けじと草が微かに音をだす。それをエンジン音として、レイは白い光の尾をひいて恐竜探しを再開した。