終わり
「どういうことなんですか?」
もう敬語以外話さなくなったミアと一体一の対談。
朝、幸磨は家を出る前にミアに引き止められ、会話をしているのが今の状況だ。
「だから何度も言ってるだろ。あいつが使者送るって言ってたって。しつこいぞ」
ミアが訊いてきたのは、幸磨の正体と、使者のこと。
前者は適当にはぐらかし、後者も同じような状態だ。そもそも答える必要性がない。
「どうしてそんなことになったんですかって訊いてるんですよ!」
「しつこい! うるさい!」
それなりの大声を出したミアに、同じくらいの声を返す。近所に聞かれたらそれこそ面倒だ。
「…………」
ミアはそこで俯いて、何も言わなくなった。意外と堪えたらしい。
「さて、行くか」
冬休み前日の朝、幸磨は家を出た。
案外短い終業式を終え、帰り道を歩く二人。
会話はない。必要ないからだ。
そもそも、幸磨には会話をするほどの気力が残っていなかった。
理由は、様々だ。
代表的なものは、星雫が家に来ることになったということ。
その次は、幸磨自身のことを色々と話さないといけなくなってしまったこと。
「なあ、別に俺のことを知らなくてもさ」
「死人が喋るな」
いつもよりも強気な口調の星雫。
怒っているのは目に見えて分かる。そこまで幸磨は鈍感な人間ではない。
火に油を注がないよう、これ以上幸磨が口を開くことはなかった。
その代わりにミアが星雫と何か話している。
幸磨の耳には届かなかったが。
「あ、ここだよね、こーちゃんの家って」
「あー、そうだった」
今日はいつもより暖かく、日差しがとても気持ちよかったので通り過ぎてしまうところだった。
あまり動かない頭で考えてから、幸磨はポケットから家の鍵を取り出し、ドアに差し込む。
ガチャリと音が鳴り、ドアが開く。
「お邪魔しまーす」
と幸磨が上がった後に星雫が上がる。この家には幸磨以外誰もいないことは知っているはずだが。
そんなことはどうでもよかったので、とりあえずリビングのソファーで腰を下ろす。
「えーっと? 何から話して貰おうか」
「俺はお前が知ってるようなことしか話せない。知らないんだから」
追い詰めたとでもいうような星雫の微笑を横目に、テレビのリモコンで電源を入れる。
「私の知ってることも含めて、全部言って。ミアちゃんも知りたがってるでしょ」
「そうですよ、早く」
もう敬語でしか話す気はないようだ。
演技は終わったのか、そう思ったが、そんなに簡単な演技ではないはず。どうでもいいが。
「まず最初に、俺は死んでいる。そんで、俺は死神の手下Aだ。元な。それで……それだけか」
「……え?」
よく分からない単語が無駄に並べられた言葉に、ミアは疑問の声を上げる。
当然だろう、説明する気はないが。
「これ以外はない」
「あるでしょ。この世に残存できないタイムリミットが」
「そんなことはどうでもいい。ミア、心器について教えてくれ」
死神に交渉しに行けばもう少し持つだろうが、面倒だ。
「話してって言ってるでしょ?」
「……後、一時間。ミア、黙ってないで教えろ」
いつもより妙に凄む星雫に返答し、未だ放心状態のミアに訊く。
「あ、えーと……心の強さによって武器の強さが変わるんです。あなたのはそんなに強くなかったですね」
「それだけか?」
「はい」
「ならもういい。じゃあな」
「ちょっと待って。残り時間長くす方法はないの」
「ない」
死神に頼みに行くのが面倒過ぎるので、ここはないと答えておく。
「そんな……」
星雫は俯く。目に涙を溜めながら
「もう会えないなんて」
「誰が会えないなんて言った。死神に頼めばいつだって降りて来られるんだ。気にするな」
言った後で、幸磨は自分で墓穴を掘ったことに気付く。
「……じゃあ死神に頼めば問題ないんじゃないの?」
予想通りの言葉。
「無理だな。そんな力は死神にはない」
「じゃあ、なんでこーちゃんはここにいられるの? もう死んでるのに」
「これは、俺の力だ。そろそろ切れかけていてな」
嘘に嘘を重ね、取り返しのつかないことになってゆく。
それでも、ここから死神に会いに行くよりはよかった。
強制的に死後の世界に送られたほうが早い。
「時間だ。じゃあな」
「さっき一時間って言ってたよね」
もう面倒なのでさっさと終了しようとすると、星雫が引き止める。
無視して、残り時間三十分を終了させる。
どうせすぐ戻ることになるのだから、それでよかった。
「それにしても、ここは久しぶりだな」
そんなことを呟きながら、幸磨は後の世界に入っていった。
結局今回もグダグダと終わってしまいました。前の小説も読んでくださっていた人には本当に申し訳なく思います。
魔術学校も放置しましたしね。
……すみませんでした。




