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暗闇と精霊  作者: シュン
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精霊石

 高校一年生の少年、夜月幸磨(やつきこうま)は、疲れていた。

 いきなり殺人事件の犯人に仕立てあげられ、今は豪華な客室で、豪華なソファーに座っている。

 訳がわからない。

 朝、警察が家に来て、幸磨を連行した。

 警察に薄暗い部屋で事情徴収を受け、何故か犯人にされた。ここまではいいだろう。よくはないが。

 無理矢理パトカーに乗せられ、やってきたここは高級ホテル。

 金持ちが入るような、一般市民の幸磨には縁遠い場所だった。

 昼、今待たされているのはここ、最上級の部屋の中。

 訳がわからなかったが、パニックに陥らずにいられたのは幸磨だからだろう。

 ここまでのなりゆきを考えているときに入口の扉が開けられ、誰かが入ってきた。

 身なりからとこの場所からして、どこかの金持ちだろう。真っ黒のスーツで、革製の鞄を手に持っている。

 両脇にはボディーガード。どちらも、隙なく男の護衛をしている。

「悪かったね、ここからは僕一人で行くよ」

「しかし、相手は殺人者……」

「いいから」

 表情を変えることなく、歯切れのいい返事とともに、二人のボディーガードは部屋から出ていく。

 男は幸磨の座っているソファーの隣に腰掛けた。

「やあ、幸磨くん。初めましてだね」

 馴れ馴れしく下の名前を呼び、鞄の中から緑色の輝く石を取り出す。

「早速だが、これを君にあげよう。お詫びの品だよ。後、警察のことは気にしなくていい。僕が後始末をやっておく」

「これは?」

 犯罪のことに全く興味がなかった幸磨は、石のほうにしか意識が回らなかった。

「最近話題の、精霊石だよ。免罪を着せたお詫びに、これをあげよう。」

 机の上に石を置く。石は手のひらほどのサイズで、形は角のない平たい丸。

「ちゃんと、精霊と呼ばれる生き物もこの中に入っている。触れれば、大体の操作方法は分かるさ。じゃあ僕はこれで」

 一方的に話を切り、部屋から出ていく男。

 幸磨は何も言わなかった。なぜ、免罪のことを知っているのかは聞かない。

 あの男が見知らぬ高校生を信じて、支援しているというのも考えづらく、高級品を貰った。

 おそらく、あの男が幸磨に罪を着せたのだろう。いや、確実に。

 これから何か仕掛けてくるのか、それともここで終わりなのかは分からない。

 そもそもなぜ免罪を着せたのか。なぜこんなものを自分に渡したのか。

 面倒だ、心底そう感じた。

 考えるのを放置し、とりあえず石に触れる。

 瞬間、部屋が緑色の眩い光に包まれる。

 同時に、脳に直接流れ込んでくるような感覚。

「……なるほどな」

 今の光でこの石に関する全情報が頭に入ったようだ。

 信じられない現象だが、幸磨はそう納得した。

 指先で石を軽くつつき、その後に一回、右手の甲で叩いた。

 精霊は力の塊で、持ち主に合わせた性格になるらしい。

 感情は人間のようにあり、人間のように喋ったり動いたりするらしい。

 人間と違う点は、力だろうか。

 再び石から光が放たれ、目が眩む。

 次に目を開けた時には、自分より五つくらい下の少女が立っていた。

 服は黄緑と濃い緑が混じった、奇妙なもの。

 ズボンとシャツは半分、完全に夏用の服だ。

 髪と瞳の色は緑に染まっており、全体で捉えると活発そうなイメージの少女。

 石に置いていた手の甲は、少女の頭の上に置かれていた。

「あなたがご主人ですね! 今日から宜しくお願いします!」

 ペコリと頭を下げ、幸磨に向かって頭を下げた少女。

 持ち主に合わせた性格。自分の望む性格と違うのは当たり前で、自分の生命を守るように設定(・・)なのだろう。

 この性格は石に戻ればリセットされるのだろうか。

 そんな考えが頭をよぎる。

「ああ。よろしく。名前は?」

 手を頭からどけ、立ち上がる。

「えっと……ないです!」

「じゃあとりあえず、俺の家まで移動してくれ。分かるだろ、どこか」

「はい、行きますよ!」

 繋がらない会話を終え、少女が片手を天に掲げる。正確には部屋の天井に。

 指先が緑色に光ったかと思うと、既に自分の家のリビングに立っていた。

「どうでしょうか?」

 いつの間にか幸磨の後ろに立っていた少女が恐らく笑顔で言う。

「ん、サンキュ」

 そんな少女に対して幸磨は素っ気なく返す。

 そして近くのソファーに寝転び、ぼんやりと天井を見上げる。

 天井の色は茶色。汚れはどこにも見当たらない。

 幸磨はこうしているのが好きだ。嫌なことがあった時は特に。

「名前がないと不便だよな」

 隣で立ったままの少女に聞く。独り言のように。

「いえ、そうでもありませんよ! 今まで仕えたご主人が色々名前つけてくれましたし!」

 心底嬉しそうに少女は言う。

「声のトーンを落としてくれ」

「はい、ご主人」

 少し低めの声で言う幸磨に対して、年相応の高い声で返す少女。

「敬語とご主人も止めてくれないか」

「わかったよ、お兄ちゃん」

 天使のような笑みを顔に浮かべ、横向きの幸磨の顔を覗く。

「ああ、もういいや。めんどくさい」

 そもそもよく考えたら訂正する必要がない。アニメなどによくいる萌えキャラが現実にいないとは限らないのだから。

……いや、いないな。

「後、お前を呼ぶ時の名前を決めてくれ」

「お兄ちゃんが決めてよぅ」

 甘えるような口調で言う少女。理想の妹というのはこのようなものなのだろうか。

「めんどくさい」

 幸磨はこの一言で少女のアピールをスルーし、目を瞑る。

 アピールとなんとなく分かる理由は、数個ある。

 まず最初に、自分に合わせた性格になると説明にあった。それと、今の話とじゃ矛盾が起こる。

 性格が変わるのなら、過去の出来事なんか覚えているわけがない。

「じゃあ、『ミアたん』って呼んで欲しいなー……なんて」

 だが、過去の記憶かどうかは分からないが、嘘を吐くメリットも見当たらない。

 今までの記憶があると理解したうえで、性格のランダム選択。

 もうアピールとしか考えられない。

 この喋り方は信頼を抱かせようとしているのかどうかは知らないが、幸磨はこういうのには引っかからない。

「あの……お兄ちゃん?」

「ああ。ミアな、分かった」

 それにしても演技がうまい。これが精霊だからか。

 精霊のことが話題になりはじめたのは、およそ十年くらい前から。

 とある発掘家が、精霊石を掘り出した。

 その後で精霊石が次々と発掘されたらしい。今それを買おうと思えば百万円くらいで一般市民でも買える。

 精霊に興味がある人間と、用心棒などに使おうという人間、己の欲望のために使おうとする人間など、精霊石を買う人間は様々だ。

 そんなに話題になっているのだから、少しは幸磨も興味があった。

 結果、今の感想は、便利だな、ということくらいしか感じない。

 始めから移動などを目的で貰ったのだから、当然といえば当然のことだった。

「今日のお空綺麗だね 」

 人間の形をしていようと、それに恋をしたり、心を許したりする幸磨ではない。

 だが、幸磨の心とは関係なく、ようやく取り戻した日常は、崩れていくのも早かった。


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