プロローグ
暗い。
前は闇に閉ざされ、一筋の光を入りそうにない。
少年は、空虚な闇の中で漂っていた。まるで、少年の心を具現化したような闇だ。
暗く、悲しい絶望で支配されているその空間は、少年にとってなぜか居心地がよかった。
理由は、分からない。そもそも、なぜここにいるかも分からない。
思い出せる限りの記憶を探ってみるが、駄目だ。何も思い出せない。
自分の顔に触れようとして伸ばした手は、なかった。
身体もない。そのくせにしっかりとこの闇は視認できている。
魂みたいだ、そう少年は思った。
漫画でよくある設定の、魂。生者の後の姿。
もしかして、もう死んでいるのだろうか。ぼんやりとした思考で考えても答えは出てこない。
「誰か……」
口はないはずなのに、声は出る。
どういう原理かは全く分からなかったが、今はどうでもよかった。
「誰かいませんか?」
返答は、ない。闇に虚しく少年の声だけが響く。
ため息、のような吐息の音が聞こえた。少年自身のものだ。
自分はどういう存在なのか、今、生きているのか、ここはどこなのか。
聞きたいことはたくさんある。だが、聞く相手がいなかった。
胸の内が不安で満たされていく。
「誰かいませんか!」
大きい声を出しても、何も起こらない。
よく考えると、こんな空間に自分以外の人間がいても、自分と同じ状況である確率が高い。
無駄だ、そう気付いたのは少し後のことだった。
見えない身体を一番楽な姿勢に変え、闇の中で浮遊する。
神から話掛けられたのは、もっと後のこと。




