勘違い?
最早ジャンルがわからん…
『内側からは開けられない』
その事実に私は、恐怖を感じた。
実質、私は大量の冷や汗をかいている…。
『フラッシュバック現象』
主にフラッシュバックと聞いて、ほとんどの人が連想するのは過去のあまりにも酷い経験が原因で起きる精神の異常ではないだろうか?
しかし、フラッシュバックには悪質なものと善いものとがある。
悪質なものは先程言ったように過去の体験で発生するもの。
これに関しての症状は、過呼吸、幻覚、動悸、錯乱…がほとんどである。
そして善いものの場合は、現在、自分の身に危険なことが起きた時。
この場合は、その危険な状態から抜け出す為に、人の脳が過去の体験から解決策を探しているのである。
これらは全て『自己防衛本能』という。
私に現在起きようとしているのは、前者のフラッシュバックだった。
呼吸が早くなり、苦しくて目には涙を溜めた。
嫌だ…嫌い、暗いのは怖い。あいつが来る。来てしまう…!
「文子ぇ!!」
どこからともなく、怒気をもった男の声が聞こえる。
これは幻聴…。
知ってはいるが、現象が始まれば歯止めは利かなかった。
私は謝り、次々と浮かぶ衝動に対して必死に否定の言葉を発する。
ごめんなさい。「違う」
これは幻覚
逃げないと…「違う」
今は白玉楼の何処か
殺される。「違う」
殺されたことはない。
死んじゃう!「違う!」
もう死んでる。
あいつが来る!!「違う!」
あいつは死んだ!
「文子さん!?」「違う!」
「大丈夫!?」「違う」
「違う、違う違う違う!」
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う……。
文子さんを探して、私は白玉楼の屋敷中を駆け回った。
探して、まだ探していない場所の前に立つ。
「ここで本当に最後なのね?」
「はい。」
そこは倉庫だった。
私が倉庫の扉を開けようとした時、扉越しに文子さんの声が聞こえた。
「文子さん!?」「違う!」
否定の言葉が帰ってきたが、声を聞き間違えるはずがない。
「大丈夫!?」「違う!」
私の問いに対して、筋違いな返答。
緊急性があると、私は認識した。
「開けますよ?いいですね?」「違う」
筋違いな返答が返ってきたが、今は関係ない。
私は、急いで扉を開け放った。
目の前にいたのは、肩を抱くように小さくなり、震え、怯えきった顔で涙を流す文子さんだった。
私は驚きを隠せず、その場でうろたえた。
「文子…さん?」
私が彼女の名前を口にすると、彼女はビクッと体を震わせ、ゆっくりと私の顔を見上げた。
彼女の瞳からさらに沢山の涙が流れ、笑顔で私に抱きついてきた。
…お母さんと叫びながら…。
昔、暗闇の中で闇が怖くて泣いていた。
そして、あの恐ろしい声が聞こえた。
…何故そこまで、その"声"を恐れたのか…私は覚えていない。
けれど今までの経験上、決まって最後には母の優しい香りが私を包んでいた。
きっと今回もそうだ…。
助けてくれる。この幻覚から…。
暗闇に光が差し込み、母の香りがした。
私はその方向を見上げ、見つけた母の香りを抱きしめた。
あれ?変だな…。
いつもならここで幻覚が覚めるはずなのに…抱きしめた香りに感覚がある。
柔らかくて、ひんやりしてて、暖かくて、気持ちいい…。
「ちょっ…!?」
驚いた。急に抱きつかれたのだから…。
私は驚きで、叫びそうになるのをこらえ、幽々子様の方を見上げた。
幽々子様は悲しそうな表情を浮かべ、私の肩に軽く手を乗せ首をふり、小声で「抱きしめてあげなさい…」と聞こえたような気がした。
幽々子様に言われた通り、彼女に応えるようなかたちで抱きしめ撫でてあげた。
「………その、えと、あの…すみませんでした。」
「いえ、あまり気にしないでください。」
居間で気まずい雰囲気が漂っていた。
結局、私が正気に戻るまで10分程の時間がかかり、それまで妖夢さんに抱きついた状態で嬉し泣きのような状態だったらしい…
気づいた時には、お互い赤面していた。
「…そう言えば、その、幽々子さんは…?」
「あ、幽々子様なら、庭に行きましたね…。」
「そう、ですか…。」
「「……」」
気まずい空気が続いていた。
「…紫?
あの子に何があったの?」
何も無いところに話かける。すると、やはり空間に亀裂がうまれ、彼女が出てきた。
「別に何もないわ。」
「じゃあ、さっきのあの子はなんだったの?」
あの子の状態は明らかに異常…。
生前に何かがなければ、あのようにはならない。
「あー…あれね…」
紫は少し眉間にシワを寄せた。
「えっと…なんて言えば良いかしら?
…そうね、一言で言えば、あの子の勘違いね。」
勘違い…当然その言葉に疑問を感じた。
「あの子は、暗闇に反応するのよ。
これには、それなりの理由があって…
まぁ結果的にあんな感じになったんだけど、その理由が、あの子の勘違いなの。」
「勘違い…?」
私は耳を疑った。
勘違いで、あんなにも過敏に反応するものなのかと…。
「詳しく聞く?」
「聞かせてくれるのなら、聞きたいわ。」
「…そうね、あの子幼い頃に……言っても大丈夫かしら?」
「大丈夫よ
私、口硬いし。」
「そ、そう?
…なら、言うわ。
あの子が幼い頃、夜中にトイレに行ったのよ。
実はその頃は、まだ親が一緒に付き添って行かないと行けない年頃だったんだけど…寝ぼけてたんでしょうね。
一人で行って、戻ろうとした時に気がついて…それで、あんな感じ。」
「…え?それだけ!?
でも、あの子は『違う』って言葉を呟き続けてたけど…
それだけなら、あんな錯乱はしないでしょ?」
いくら暗闇が原因と行っても、あそこまで恐怖心をさらけだせるはずがない。
なにか…なにかが上乗せされなければの話だけど…。
考えていると、紫が苦笑いで私に言った。
「そのことなんだけど~…
怖くて泣き出して、それを聞いたあの子のお父さんが…大声で名前を呼んじゃったみたいなの…。」
「…つまり…勘違い?」
つい、私も苦笑いを浮かべてしまう。
…苦笑いと言うより、笑うのを堪える為に引きずってしまうのだろう。
「そう、勘違い…。」
「「………」」
「…じゃ、じゃぁあとは任せたわ。
それじゃ!!」
……どうしようかしら…
まぁ…一人にしないようにしてれば大丈夫…よね?
「幽々子様?」
「あら?
なにかしら?」
「これから食材を買いに行きたいのですが…その、文子さんは…」
…ん~
そうね…まずは、現界を見せてあげた方がいいかしら?
それなら…
「一緒に行きなさい。」
「…え?」
「聞こえなかったかしら?」
「いえ、そういう訳ではなく…一緒でいいんですか?」
多少驚いた顔を見せる妖夢。
あの子と年が、ある程度近い妖夢と一緒にいれば…大丈夫。
そう思っての判断だ。
「幽々子様が、そう仰るのでしたら…了解しました。」
「私は少し眠るわ。
なんかお土産お願いね。」
「はい。」
こうして、二人は現界へと降りていった。
「…ふぅ
私の力は影響したのかしら?」
「必然ですから、影響はしていません。
それに、ああなったのは彼女の力が関係しています。
…今後も管理の方、お願いしますよ?
それと…貴女はもう少し自重して下さい。」
一人の少女は紫に対して杓を向けながらいった。
「はいはい、わかったわ。
でも、早く目覚めた方が貴女も楽でしょう?」
「その考えは、相手の立場を無視しています。
それに、一つの視野でしか物事を捉えないことは、愚かであり罪でもあります。
よって×つまり、黒です。」
「全く、融通がきかないわね~」
彼女の答に対し、紫は少し呆れ気味に溜め息をついた。




