白玉楼に落ちた日
白玉楼のお話です。
今回は珍しく一話目からページ数が!?
私…なにしてるんだろ…?
私はごく一般的な17歳の高校生。
学校に行って授業を受けて、部活して電車で家に帰って1日が終わる。
似たような毎日が繰り返され当然、そんな毎日に私は嫌気が差していた。
そんなある日、私の運命が180度変わってしまう出来事が起こる。
「2時限目って確か体育じゃなかった?」
「うん。そうだよ~
今日は晴れてるから水泳になるね。」
この学校は、高校では珍しく体育の授業に水泳が含まれている。
思春期やら発情期やらの真っ只中の男子に何故、露出度の高い水着姿で授業に出なければならないのかが疑問だ。
人によっては、スクール水着が好きな男子がいるらしいし、そもそも私は水泳が嫌いなのだ。
そのため体育が水泳だとわかると、ほとんど私は保健室に休みに行く。
そして今日も保健室の真っ白なベッドで眠ろうとしていた。
断りを入れる為に、私は職員室へと足を運んだ。
「…と言う訳で、少し保健室で休んできます。」
「そうか。
顔色が悪そうだが大丈夫なんだな?
具合が悪くなったら、すぐ家に連絡を入れるから、近くの先生に言いなさい。」
「はい。わかりました。」
最近の学校は楽になったものだ。
高校と言っても親からの電話やらで、文句を言われれば信頼が無くなる。
そのため、先生方は苦情の電話が来ないように努力している。
生徒が堕落に進むのだから、努力とは言えない気もするが…。
それはともかく、私は職員室から保健室へと向かっていた。
しかし…
「…あれ?」
一瞬の思考停止と意識混濁、視界は真っ暗になる。
ふらつく足どり…
思わず壁にぶつかって、そのまま床に座り込んでしまった。
早くなる呼吸と動悸。
私の事を見つけた先生が、こちらに駆け寄ってくる。
「どうした!?
大丈夫か!?
おいっ、今すぐ保健の山岸先生を連れてきてくれ!!
それと救急車をよぶんだ!」
駆け寄ってきてくれたのは担任の渡部先生。
あんなに取り乱して…先生らしくないな…。
その場で、最も冷静でいたのは私…
何で皆そんなに騒いでるの?
壁に垂直に立っていられるなんて器用なんだね。
意識が揺らぐ中で私は、最も冷静で、最も混乱していた…。
そして、そのまま私は目を閉じた。
暗い闇の中、底も無く瞼を開くことさえ許されず、何も見えない闇をただ落ちていく感覚だけが全身を支配する。
不思議と恐怖の感情は無く、安らぎだけが心を満たしていた。
満たされた安心感の中、再び意識は遠退いて行った…。
……
落下している感覚は無く、鼻先に土の匂いを感じる。
そっと瞼が開くことを確認すると、僅かながら光が視界に届く。
最初は眩しくて瞼を開けられなかったが時間が少し経つと、簡単に開くことができた。
開いた視界には、まるで永遠を感じさせる無数の階段…。
階段はずっと上まで続いているのがわかる。
「とりあえず、登ってみようかな…。」
そう呟いて、階段を登ることにした。
ひたすら登って10分程経過しただろうか…
周りに大した変化は無く、階段が続いているだけ。
20分程経過して変化したのは、階段の横に妖しい光を灯した灯籠と頂上に少しだけ見える、葉すらつけていない樹木だけだった。
40分程経過してようやく頂上に着くと、そこには驚きの景色が広がっていた。
木造の大きな屋敷と、おそらく死んでいる葉を一枚もつけていない、樹齢300年以上はあるだろう大木。
暫く同じ景色を眺めていたが、突然の目眩が私を襲い、地面に座り込んでしまう。
意識は薄れ体は後ろへと倒れていく…。
後ろには先程登って来た階段がある。
このままでは今度こそ『死』…
だが、後ろに傾ききった体は何をしても、もう戻すことは出来ない…。
『終わり』ただその言葉を頭の中で反芻させ、意識は途切れた。
意識が切れる寸前に人影が見えた気がした…。
●二本の刀を持った庭師
幽々子様は確か、今日新しい幽霊が送られて来ると言っていたが、いつ来るのだろう…
なんでも、今回の幽霊の魂は特別らしい。
そんなことを考えつつ庭の掃除をしていたのだが、門の前に人が見えたので、声をかけようとした。
がしかし『彼女』は、その場に座り込んでしまい、そして何故か後ろに倒れて行く…。
危ないと思い彼女に駆け寄り、腕を掴み引き戻すことができたのだが、彼女は気を失っていた…。
様々な疑問を感じつつ、とりあえず屋敷の中に彼女を運んで行くことにしたのは言うまでもない。
「幽々子様ー」
「あらあら、その子はどうしたの妖夢」
どこか鋭い幽々子様ならこの子が一体なんなのか知っていると思ったのだが、知らないのだろうか…。
「先程、庭の掃除中に門の前で見つけまして…」
「ふーん…
ちなみにね妖夢
その子が今日、話した幽霊よ。
髪は、肩にかかる程度の長さで色は黒。
身長は、妖夢と同じくらい。
ちなみに妖夢の胸より、彼女の胸は小さい。
って言ってたし…
見ればわかるわね~。」
「あ、そんな情報があったんですか…。
最後のは微妙ですけど。」
「とりあえず布団を敷いて、その子を寝かせましょうか。」
「そうですね…。
寝室で大丈夫ですかね?」
「いいわ。
それが終わったら、朝御飯にしましょ?」
「そうですね…わかりました。」
とりあえず、彼女を背負って寝室に行くことにした。
「布団を敷いて…
…本当だ私より小さいかも…」
…何をやっているんだ私は!?
早く寝かせて、朝御飯の準備をしなければ…。
「一応、彼女の分も作ったほうがいいですね。」
そう呟き彼女を布団に寝かせ、私は台所へ向かった。
……
外で気を失い階段から落ちたはずの体は、どこにも痛みを感じることはなく、寧ろ背中がふわふわしていて心地よく、妙に落ち着いていた。
瞼をあけると、木目が見える天井がまず私の目に写し出された。
「…ここは…どこ?」
確か、私は外で倒れたはず…
私は布団の上に寝かされていた。
ふと、襖の向こうから漂う香りに気がついた。
「凄く、美味しそう…」
しばらく食べ物が入っていなかったのか、香りをかいだ途端に空腹であることに気づき、私は襖を開けて廊下の向こうから漂う香りをたどって、歩きだした。
…少し歩くと、ドアノブのついた扉があり、その向こうから一人言?が聞こえてきた。
「ん~、最近暑いからなぁ…
今日のお昼は、ラーメンと牛丼、それとハンバーグとレンコンのはさみ揚げでいいかなぁ…
とりあえず、朝御飯は冷奴と目玉焼きと酢豚とホウレン草のおひたし、それと鳥の唐揚げと白菜汁ですね~。」
…なんだろう…
「最近暑い」という言葉が無駄になっている…
それに、メニューを聞いているだけで胃が重たくなってくる。
…聞いている限りでは、ここに人が大勢いるのだろか…
メニューのボリューム的に、少なくとも4人以上はいると思うのだが…。
それにしてもお腹が空いた…。
今、ここの扉を開けて入って行くことができる…。
…だが、大丈夫だろうか…
色々様々考えた結果、入ることを決め、ドアノブに手を伸ばした。
その時だった。
私は自分の胸部と背後に違和感を感じ、胸を見ると手が…
「………」
思考が止まった。
「あら?
少し驚かそうと思ったんだけど…
全然驚いてないのかしら~?」
「…い…き…「ん?、何?」
キャーーーーーー!!」
叫んでしまった。
それも大声で…
「驚くのが遅いのね~」
クスクスと笑い、そう言いながら『キュッ』っと優しく私を抱きしめてきた。
「な、なんですか今の悲鳴は!?」
前の扉が開き、中に居た女性が出て来てそう言った。
…凄く綺麗な髪に、まだ幼さを残した顔、私と同じ歳か少し上か…
そう思わせる顔立ちをしていて…
「あ、目が覚めたんですね…。
…幽々子様?
驚かせちゃ駄目ですよ…。」
ため息混じりに、彼女は言った。
「だって~
妖夢の朝御飯の支度が遅いんですもの。
ねぇ?」
「それは理由になりません!!
それに、意見を無理強いさせちゃいけませんよ。」
すみません…
私と同じ歳だなんて、凄く上でした…。
見た目は私と同じくらいでも言葉や考えが上です。
…
…そんなことを考えていたが、彼女『妖夢』さんが言った言葉に、反対するかのように私の腹の虫が鳴いた。
「ほらね?
やっぱり私の言った通りでしょ~」
「はいはい、わかりましたから居間で待ってて下さいよ。」
「はーい!!
じゃあ貴女も行きましょうか。」
「えっ?、あの、その…」
「いいから行くわよ~。」
「は、はい…」
ほとんど話すことなく、その場の話の流れは終わった…。
居間は畳が敷き詰められた所謂本格的な和室で、大きなテーブルが一つと座布団、掛軸もあり、不透明な紫色の蝶が描かれている幻想的な絵だった。
そして、居間で待つこと5分
それまで一言の会話もなく『幽々子様』と呼ばれる彼女は私を見て微笑んでいるが、私からしたら居心地の悪い5分だった。
そこに妖夢さんが朝食乗せたお盆を手に持ち、沈黙を破ってくれた。
「幽々子様ー
朝御飯ですよ。
え~と…
貴女は、何か食べれないものとかありましたか?」
「え?あっ!いえ、好き嫌いはとくに無いので大丈夫です。」
慌てて答えると、様々なおかずがテーブルの上に置かれていった。
一見、どこの家でも作ることのできるような、ありふれたおかずの数々…
だが香りや色彩が段違いに良く、更に私の空の腹を鳴かせる原因となってしまった。
「凄くお腹が空いてるみたいですね。
…温かいうちにいただきましょう。
それでは…」
二人の動きにあわせて手のひらを重ね合掌する。
そして…
「「「いただきます!!」」」
合掌をすませて手に箸をとり、初めに白菜の味噌汁を手にとり、スープ飲んだ。
口の中に流れ込む味噌の塩辛さと白菜の甘味…
素朴な味ながら、体に染み渡るのを感じる味だった。
続いて鳥の唐揚げ…
一噛みすれば、外は『サクッ』と気持ちのいい音をたて、中から程よくしみでる肉汁…
「……美味しい」
気づけば涙を流していた。
「え!ちょっ、どうしました!?」
「え?
あぁ、いえ、その、あまりにも美味しくて…」
少し照れ笑いをして答えると…
「…な、な、なっ…
なんていい方なんですか!!
貴女はわぁぁぁ!!」
半分泣きべそをかきながらの言葉。
先程までの大人な雰囲気は、一切感じさせない見た目通りの女の子が、新たに生まれた…気がした。
…そんなこんなで朝食は終わった。
ちなみに言うと、私の口の中は夢見心地になりまくりで、一般的な料理であったが何故か次元の違う味だった。
妖夢さんと私は人並み程度の量の食事。
私は空腹だった分、多く食べたかもしれないが、最も多く食べていたのが幽々子さんだった…。
あれだけの料理が、あの体のどこに入っていったのかが不思議だ…。
妖夢さんが食器の片付けを終わらせてこちらへと戻り座り会話が始まった。
「ところで、貴女の名前は?」
「え?あ!そう言えばまだだったんですね…。
私は『西行院 文子』と言います。
今日はありがとうございます。」
ペコリと一礼をする。
「もう知っているかもしれませんが、一応自己紹介しますね。
私は『魂魄 妖夢』です。」
「私は『西行寺 幽々子』
今日はちょっと話さなければならないわね~」
…幽々子さんの最後の言葉で妖夢さんが少し暗くなった気がした…。
「それで、一つ聞きたいのですが…
今、貴女は、自分が何故ここにいるのか、わかりますか…?」
とても慎重に、恐る恐る聞いてくる感じ…
まるで知らない私を悼むように…
「……いえ、全くわかっていません。
最初に目を覚ましたのが、階段の麓でしたし…。」
「そう…ですか…やっぱり。
…その、文子さん。
驚かずに聞いて下さい。」
なんだろう…
妖夢さんの目が、顔が、何か哀しむような表情に変わっていき、そして…
「文子さん…。
貴女はもう、死んでいます…。」
「…え?」
今日は消火訓練の日…