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兎の使者  作者: あお
4/7

親友

カウントダウンを始めて5分、待ちかねていた予鈴が鳴り響く。

長かった一日も終り、ゆうきのクラスは放課の時間へと突入した。

ゆうきが勉強道具を鞄に詰めていると、一人の人物が歩み寄ってきた。


「ゆうきくん、清掃が終わったら生徒玄関で待ってるよ」


彼の名前は武田たかしという。ゆうきのたった一人の親友だった。そして、話を打ち明けてももよさそうな人物候補の一人でもあった。


「わかったよ、たかしくん。僕も清掃が終わり次第、生徒玄関へ向うよ」


ゆうきの返事を聞き、たかしは自らの担当掃除区域へと向った。ゆうき自身も勉強道具を詰め終えると、担当の掃除区域へと向った。



ゆうきの担当区域は、かおりの担当区域でもあった。ゆうきが集合場所に訪れると、そこには既にかおりの姿があった。


清掃時間に入り、清掃がはじまる。

ゆうきはかおりに対し、例の件についての返事を期待していたが、当のかおりは目さえ合わそうとせず、結局は清掃終了まで、かおりがゆうきに一言も口を利くことはなかった。

ゆうきは返事をあきらめて、生徒玄関へ向った。



生徒玄関では、既にたかしが待機していた。


「たかしくんおまたせ。じゃあ帰ろうか」


二人は並んで、自宅への帰路を歩き出した。


道すがら、ゆうきは思い切って、例の件をたかしに打ち明けてみることにした。


「たかしくん。実は僕、相談したいことがあるんだ」


「なんだい? ゆうきくん」


「でもその前に、二つだけ言っておきたい事があるんだ。一つは、これから僕の話すことを、驚かずに聞いてほしい。もう一つは、僕が話すことが事実だと信じてほしい。いいかい?」


「……わかった。僕は決して驚かない。そして、君の話を信じるよ」


「ありがとう。実は、今日の1時限目、僕の前に天使が現れたんだ」


「え?」


「えっ」


「あぁごめん、あまりに現実離れしていたもんで。話を戻すけど、その天使ってのは、翼が生えてるあの天使かい?」


「いや、翼は生えてないんだ。おまけにスーツを着ていて、兎のマスクを被ってる」


「……それは本当に天使なのかい?」


「自分で名乗ったんだ、天使って。それに、宙に浮いていた」


「ふむ……本人がそういうからには天使なんだろうね。でも、天使が一体君に何のようだったの?」


「それがね、詳しいことは長くなるから省くけど、なんだか、僕の死んだ兄を生き返らせてくれるって話らしいんだ」


「兄って、去年交通事故で亡くなったこうきさんかい?」


「うん。でもそれには条件っていうのがあるらしくて、それがまたややこしいんだ」


「なるほど。それで、その条件というのは?」


「うん、その条件っていうのが、命を提供者を用意するっていう物なんだ」


「命の提供者……具体的には?」


「蘇生の為に、自分の命を差し出しても良いという人物らしい。でも、心の底からそう思える人じゃないと駄目みたい」


「なるほどね。それには期日みたいなものはあるの?」


「明日の朝にまた来るって。その時までに用意できてなければ駄目みたい」


「そうか。それで君はどうすることにしたの? 天使に何か返事はしたの?」


「僕が返事をする間も無く、天使は消えちゃったんだ。それで僕の出した結論だけど、とりあえず命を提供してくれそうな人物に、駄目もとで声を掛けてみることにしたんだ」


「既に誰かに話した?」


「委員長に話したよ。でも多分駄目だと思う。さっき清掃のときあったんだけど、了承してくれそうな雰囲気じゃなかった」


「そっか。ねえ、もしかして僕にも、命を提供してくれるか聞いてみようと考えた?」


「……ごめん」


ゆうきはたかしに考えが見透かされていたようで、居た堪れない気持ちになった。


「謝ることはないよ。君の気持ちは良く分かる。でも考えてごらん。仮に僕と君の立場が逆だとして、そんな話をされたらどう思うか」


ゆうきは考えた。もしも逆の立場だった場合の事を。

ゆうきは自分の情けなさに何も答えることができず、ただ俯いていた。

たかしが静かに呟く。


「でも、僕が君の立場だったら、君と同じ行動にでるかもしれない。……それで考えた結果、僕は君のお兄さんに命を提供したいと思う」


ゆうきはたかしの言葉に驚き、顔を上げた。

たかしは続ける。


「ゆうきくん、僕は君の事を親友だと思ってる。命を提供することが君の為になるなら、僕は命を提供することを厭わない」


その一言に、ゆうきの頬を一筋の涙が伝った。

たかしはこんな話をされても尚、ゆうきを親友といってくれたのだった。

ゆうきは気付いた。自らの過ちに。


「ありがとう、たかしくん。僕にとっても、君はたったひとりの親友だ。でも、そう考えたら、やっぱり君から命を奪うことはできないよ。いや、誰かに命を提供してもらうなんて考え、初めから間違っていたんだ。僕は人間失格だ」


「ゆうきくん……」


気付けば、二人はゆうきの家の前まで来ていた。


「たかしくん、今僕の話したことは全部嘘だと思って忘れてほしい。委員長には明日謝ろうと思う。それと、こんなこと言っておいて虫のいい話なんだけど、できればこれからもずっと親友でいてほしいんだ……。最後に、謝って許されるようなことではないけど、今日は本当にごめんなさい」


ゆうきはもう許してもらえないものだろうと覚悟した。

しかし、たかしから発せられたのは、思いもかけずやさしさに溢れた言葉だった。


「ゆうきくん、僕の方こそ力になれなくてごめんよ。色々言ってしまったけど、僕は君が思うようにするのが一番だと思う。君が信じた道を進めばいい。もし気が変わったなら僕に電話をくれ。僕はいつでも心の準備はできているから。そして、僕達はこれからもずっと親友だ。また相談事があったら、遠慮なく話して欲しい。それじゃあまた明日、学校で」


たかしは言い終えると、道の向うへと去っていった。

西日に照らされた彼の後姿は、他の何よりも輝いて見えた。

ゆうきはたかしの後姿を、その姿が見えなくなるまでずっと見守っていた。

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