夜
淡い月明かりが僕らを照らす。
「ねぇ、君にとって夜はどんなもの?」
「んー、そうねぇ。私にとっては安らぎの時間かしら。何もしなくていい時間だもの。たまに主人と子供に内緒で晩酌することもあるしね」
ある主婦は少し楽しげにそう答えた。
「この前ね、わたし夜のろうかのすみっこにうごいてるかげを見たの! それがもうすっごく怖くて、お母さんと一緒に寝てるんだ!」
ある少女は少し照れくさそうに答えた。
「僕にとって、ですか。まぁ癒しのようなもんですよ。このまま消えても誰にも気が付かれなさそうで、何をしても許されるような、そんな気分がするんです。まぁまやかしですが」
ある男は、くたびれたような表情で紫煙をくゆらせそう答えた。
「俺にとっての夜とはそう、すなわち闇。漆黒の影を纏いし純白の翼が今宵も昇る。そう、それこそが俺が俺となれる時間なのだ!」
ある学生は、額に手を当て天を見ながら、ドーム状の遊具に立ちながら答えた。
「んー? 私にとっての夜? そうだねぇ。うーん。あぁ、さみしさかな。なーんにもないの。夜って。まだ私が子供だからそう思うのかもしれないけど、今の私にはさみしさって言葉がしっくりくる気がするよ」
気丈に振る舞う彼女は、ぽつりと弱音をこぼしながらそう答えた。
「じゃあ逆に、君にとって夜はどんなもの?」
月明かりと、街灯の光がゆらりとさみしげに揺れる。
唐突に視界が眩しくなり、思わずそちらを振り向く。淡い月明かりを反射して、鈍く光る車と宙を舞う彼女。
それを最期に、彼女も消えてしまった。一瞬のことだった。
僕は、遺された質問に未だ答えが出ていない。それは、安らぎでも、怖さでも、癒しでも、さみしさでもない。
ただずっとそこにあって、それに対して何かを付随させることがなかったから。だから僕はまだ答えられてない。
月が雲に隠れて、ふと我に返る。今日も考え過ぎていたみたいだ。
まだ彼女に返せる答えはない。そろそろ時間だろう。
「答えは出た?」
「ごめんね、今日も僕に答えはないよ。ずっとそこにあるものだと思ってたから、いざ聞かれても何も思ってなかったし、知らなかったことに気がついたんだ」
「そっか、ならまだもう少しだけ一緒に探そっか」
今日もまた、日が昇る。




