雨
さーっと音を立てて、雨が降り続く。一定のリズムでぴちょん、ぴちょん、と溜まった雨粒が水溜まりに当たる音がする。時折紙を捲る音が聞こえる。
今日も、彼女は来ない。
彼女と出会ったのは今日のように雨が降る日だった。お互いに高校で居場所が無くて、人気が無い公園の屋根があるベンチで運命のように出会った。お互いに本が好きだからか、会話は弾んだ。僕は文学が好きで、彼女はミステリー。お互いが好きな本を共有して、貸しあって。時間は矢のように過ぎていった。いつの間にかこの公園のベンチが秘密の場所のようになっていて、毎日のように顔を合わせた。彼女は綺麗だった。本を読む横顔も、本を読んでる時に不意に見せる笑顔も。
段々と惹かれていって、だけど連絡先すらも交換してなくて、待ち合わせの約束もせずにただ公園のベンチで本を読んで、時折話をするだけ。それでも、彼女が紡ぐ言葉はとても綺麗で、思わず聞き入ってしまうほどに的確で、たまにびっくりするくらい本質をついてくる。そんな人だった。
そうして、毎日話をしたり、本を読んだりするうちに彼女は虐められていることを知った。でも、僕は何も出来なかったし、言えなかった。彼女に踏み入る勇気がなかったのもあったし、これ以上の関係性が考えられなかったこともあった。でも、段々と気持ちが膨らみ、もっと知りたいと思った頃くらいに、彼女は公園に現れなくなった。
最初は、何か予定でもあったのだろうと気にしなかった。でもそれが一週間、一ヶ月と続いていくうちに段々となにか粗相をしたのではないか、なんて嫌な一種の被害妄想のような形に囚われてしまっていた。だが、僕は彼女が通っている高校はおろか彼女の名前すら知らない。
最初に会った時にこうまで話すことになるとは思わなかったし、それからも名前を聞くタイミングのようなものはなかった。だけど、そんなタイミングなんて待つんじゃなくて作れば良かったんだと、今更になって後悔している。それでも時間は戻らないし、彼女を探すこともしない。ただ過ぎていく時間を、この公園で待つ。なんだか今日は本を読む気が起きなくて、彼女と会った時のような雨をじっと見ている。
上から下に流れていく雨粒が、段々と下から上に流れているように見える。屋根から流れ落ちる大きな水滴が、そんな現実は無いと教えてくれるのだが。公園の隅に咲いている、青色の紫陽花を見る。
彼女が今どうしてるのか、僕には知る術がない。ただ、あの時貸した本は未だに帰ってこない。その事実が彼女の存在を僕の中で確立させてくれている。それだけが胸を締めていた。




