ベランダ
都会に出てきてからというもの、なんだか毎日が忙しない。人はたくさんいるのに、人が人を見ておらず、山は周りに無いはずなのに、空がなんだか狭く見える。あれだけ憧れてた都会は、いい所も、いやな所もたくさんあった。小さなアパートのベランダに出て、煙草を吸う。ベランダから見える景色はどれも向かいのマンションに、どこかの貯水庫と、眺めがあんまり良くない。景観なんて二の次で、安さを優先したのが良くなかった。出てくる前はしてなかった煙草も、今では手放せない程になってしまった。
ベランダの手すりに水が跳ねる。ゆらゆらと口から出る煙は、すぐに消えてしまうが、すぐに追加で出てくる。近くで電車が通る音がする。そっか、もう始発の時間か。そろそろ準備しないと。
景観が悪くても、ベランダで煙草を吸うのは私にとって癒しになっていた。雑然と過ぎる毎日の中で、唯一と言っていいほどゆっくり時間が流れるような気がするから、私はどうにも煙草が手放せない。だけど、外で吸いたい訳じゃない。きっとあのアパート、ベランダだからこの都会の中で癒しになっているのだ。
今日も、人の波に揉まれて、揺られて、一日が終わる。本格的に降り出して来た雨を折り畳み傘でどうにか凌いで、早足でアパートに帰る。ただいまの声が部屋に響く。雨で濡れてるベランダに、サンダルをはいて外に出る。すぐにぷかぷかとうき始めた煙を目で追い、空を見上げる。夜だと言うのにやたらと明るくて、冷たくて、どうにもこの空が慣れない。すぐに目を離して、目を瞑る。
サーッと雨が降る音に、ベランダの手すりに水滴が当たる音、近くて遠くから聞こえてくる電車が通る音、隣の部屋の生活音に、どこかで誰かが叫んでる声。
最後の煙を吐き出して、目を開ける。今日も私は、ここで生きている。




