勇者の一撃
魔物の襲撃を受け、国王はただちに討伐の指令を出した
剣技大会に参加した者に加え、城からも兵士が集められた
魔物の群れは先日のナベルの街を襲った数とは比較にならない
最近、王城周辺の街で襲撃が増えているという噂はあった
しかし、これほどの規模での襲撃は初めてだった
フィオールを先頭に、城にいる戦士達が魔物の群れに向け進んでいく
フィオールの手にはホワイトローズの剣があった
フィオールに少し遅れてリイナとローアンも続いていく
そんなローアンに話しかけてきた相手がいた
「ローアン、久しぶりだな」
「ファルカシュか」
ファルカシュと呼ばれた人物
かつての勇者のパーティーメンバーの一人であり魔導士だった
現在は王城で魔法を指導している
年齢はローアンの二つ上で、ちょうど40歳になったところだ
ローブのようなものを着て大きな杖を持っている
白髪で髪はそれなりに伸ばしている
かつて勇者ローアンのパーティーは4人だった
そのうち2人が魔王セルヴァルとの闘いで死んだ
生き残ったのがこの二人だった
ファルカシュがローアンに語り掛ける
「武器屋をやっていると聞いていたが、やはり魔物とは闘うんだな」
「さすがに知らん顔は出来ない」
「試合の様子を見させてもらったぞ。お前ずいぶん腕が落ちたな」
「・・・・・」
ローアンは何も返答できなかった
代わりにファルカシュに尋ねる
「そこに並んでいるの、お前の弟子なのか?」
「ああ、そうだ。彼らも戦いに参加する」
「そうか」
偶然かはわからないが、今、城の戦力は充実している
敵の数は多いとはいえ、魔物の群れに対峙するには十分な戦力に思えた
しかし、人間側にとって予想外の出来事が起こる
この軍勢を率いているのは魔王の一人エルグリスだった
こうなると剣技大会の日を狙って襲撃してきたという可能性も十分にある
魔王自ら人間の戦力を一気に削りにきたということなのかもしれない
魔物の軍勢は獣や植物や鳥の姿をしたもの様々だが、エルグリスは人型に近かった
しかも剣を持っている
しかし明らかに他の魔物とは風格が違った
ファルカシュ達、魔導士は主に雑魚をまとめて蹴散らしている
フィオールは目の前の敵は剣で蹴散らし、離れた群れには氷の魔法を使って攻撃している
一際、活躍が目立っている
大会に参加していた剣士達の集団が魔物の群れをかき分けるように一点突破を図る
その一団が最短距離でエルグリスへ接近していく
その剣士達が囲まれないように他の戦士達が周囲を守っている形だった
魔王への道が開けた時、最初に魔王に攻撃したのはフィオールだった
魔王はフィオールの一撃を剣で受け止め、弾き返すと、魔法を至近距離から放ってくる
「人間にしてはなかなかだ。こういう奴は早いうちに潰しておくに限る」
エルグリスの一言を受け、フィオールには一瞬の躊躇が生まれた
魔王には余裕のようなものが感じられる
その時、フィオールの背後からリイナとローアンも攻撃に加わる
しかし、魔王はその攻撃を退けると、三人に向けて爆破属性の魔法を放った
フィオール、リイナ、ローアンの3人は吹き飛ばされた
その中でもフィオールは直撃を受けた
「おい、大丈夫か」
ローアンが声をかけたが、フィオールは完全に気を失っていた
その手からホワイトローズの剣が離れる
ローアンは気力を振り絞り、立ち上がった
地面に転がっているホワイトローズの剣を手に取る
魔王には次々と剣士達が攻撃をするものの、魔王はその全てを剣の一振りで退ける
今、ローアンに打てる一手
ホワイトローズの剣がみるみる光を放つ
「全員、どけ!」
ローアンの掛け声と共に巨大な光の矢が戦場を駆け抜けていった
「ジルバースト!」
エルグリスはそれを剣で受け止めようとしたが、その剣は真っ二つに切れた
同時にエルグリスを光の矢が貫く
しばらくの沈黙の後、エルグリスはその場に倒れた
その瞬間から、統制を失った魔物の群れは次々と倒されるか、その場から逃げ去っていった
戦場に歓声が起こる
ローアンの手には真っ黒になった剣が残っていた
「白薔薇が黒薔薇になっちまったな」
もはや剣としては使えないであろうダメージだった
ローアンの元にファルカシュが駆け寄ってくる
「やったな。見事だったよ」
「ああ、この剣のおかげだな。フィオールには悪いことをしてしまったかな」
一部始終を見ていたリイナは立ち上がるとローアンに対して向き合った
一呼吸おいて彼女はローアンに言った
「お願い、もう一度勇者になってほしい・・・」
リイナの様子は、心からの懇願といった感じだった
しかし、ローアンはそれに気づいていないといった態度だった
「いや、今のはたまたまだ。こんなことはもう起こらない。大会の様子を見ていただろ?あれが今の俺の力なんだ」
そう言うとローアンはリイナに背を向けてその場から立ち去った




