勇者を辞めた男
この世界には人間が住む土地ハルトラントと魔物が住む土地アナザーラントがある
それとは別にノースラントと呼ばれる人間も魔物もほとんど近づかない土地がある
アナザーラントにはかつて四魔王と呼ばれる統治者がいた
セルヴァル、ターラ、エルグリス、ザブロア
それが四人の魔王の名前だった
しかし10年以上前、魔王セルヴァルが勇者により倒された
現在は三人の魔王が存在している
三人の魔王は勢力を広げるために、ハルトラントを襲っている
人間側はそれに対抗するために魔物と戦うための戦士を集めている
ここは剣と魔法の世界
これは勇者と魔王の戦いの物語
リイナ、25歳女
職業は剣士
赤髪で短髪、それ以外には鍛えているのがわかるくらいで、特に見た目は同年代の女性と変わらない
彼女はかつて魔王に殺された家族の仇を取るべく剣士の道へと進んだ
一人旅を続けながら、魔物と戦うための仲間を探している
そんな彼女はハルトラントにある王城の近くナベルという街を訪れていた
近々王城で開催される剣技大会に参加するためだ
目的は仲間を探すことと、優勝賞品のホワイトローズの剣と呼ばれる名工が鍛えた剣だった
そんな中、彼女の運命を変える出会いがあった
それは彼女がナベルの街の武器屋を訪れた時のこと
「すみません」
あまり流行っているとは思えない店
乱雑に剣や鎧が積み上げられている
店主と思える人物が奥から現れた
「ああ、お客さん?」
無精髭を生やした中年だった
ガタイはかなり良い
布を頭に巻いている
何かの作業中だったのだろうか
「え?」
その人物を見たリイナは驚きの表情を浮かべている
「あなた・・・、まさか勇者ローアンなの?」
それを聞いた店主は少し驚いたようだったが
「いや、そんな人物は知らない」
そう答えた
「そんなはずはない。私はあなたに会ったことがある。私がまだ小さかった頃、あなたに助けてもらった」
「ええと、どこの誰なのかな?」
「ハントの村のリイナです」
「ハント・・・、そうか。しかし、今お前さんの目の前にいるのは”へっぽこ鍛冶師”のローアン、38歳独身だ」
そうローアンは答えた
「どうして・・・・魔王セルヴァルを倒した勇者が・・・・」
「いや、俺は勇者なんかじゃない」
そう言ったあとにローアンは続ける
「俺は仲間を守ることもできなかった。それどころか、俺が守られたんだ。俺のために仲間が死んだ。こんな情けない勇者がいるものか」
リイナは食い下がる
「いえ、あなたは私の憧れの勇者です」
それを聞くと、ローアンはため息交じりに
「まいったな・・・・。とにかく今の俺は勇者なんかやっていない。ただの武器屋の店主だ。何か買ってくれるなら、お前さん美人だから2割引きにしておいてやるよ」
「・・・・・」
リイナはどこか諦めきれない様子だった
「ジルバースト・・・・」
その単語を聞くとローアンが少し眉を動かした
「魔王を倒した勇者ローアンの剣技。まだ使えるんでしょう?」
「あれは欠陥技だよ。もう使えない」
「ウソ!そんなわけないでしょ」
ローアンはやれやれと言った様子で
「じゃあ、見せてやるよ」
そう言うと、その場に転がっていた剣を一本拾い上げた
「これがジルバーストだ」
ローアンが意識を集中する
凄まじい気を感じる
時間と共に剣が鈍い光を発し始める
しかし次の瞬間、剣がボロボロに砕け散った
「やれやれ、わかっていたことだが、売り物を台無しにしてしまった」
そうとぼけた後、ローアンが続ける
「な、わかっただろ。使おうと思っても武器が壊れてしまうんだ。だから使えないんだよ」
「そんな・・・・でも魔王を倒したって」
「あれはちょっと良い剣だったんだ。今みたいな俺が作ったようなナマクラじゃなかった。だから1発だけは耐えられた。でもその1発を放ったらボロボロになったけどな。それに今のを見ていただろ。技を出すまでにかなり時間がかかっちまう。そんなの敵は待ってくれないんだよ」
「・・・・・・」
「そのせいで、仲間が俺を守って死んだ。仲間の命と引き換えに出す技なんて欠陥技以外の何物でもない」
「・・・・・・」
リイナが次に言葉を発する前に、外から悲鳴のようなものが聴こえてきた
「魔物の襲撃だ!」
そう叫んでいる声が複数聴こえてくる
リイナはそれを聞くと表情を変える
「私は行く。街を守る」
ローアンはそれを聞くと、落ちている剣を2本ほど拾い上げた
「さすがに街の人達を見捨てるようなことはしない。俺も行くよ」
そうして、街の中から何人かの戦士が現れ、魔物の群れに向かっていった
リイナとローアンも剣を持ち、戦った
数人の怪我人は出たものの犠牲者は出ずに魔物の群れは全て倒された
一息ついたあとリイナはローアンに尋ねた
「ローアン、あなた手を抜いていたの?昔のあなたはもっと凄かった」
少し睨むような表情になっている
「いや、あれが俺の全力だ。もう10年以上戦っていなかった。ブランクってやつだ。もう俺は剣士としても大したことない。お前のほうがよっぽど強いと思うぞ」
それを聞くと、リイナは下を向いた
悔しそうな・・・悲しそうな表情をしている
次の瞬間、リイナは決意を込めた表情に変わり、ローアンに告げた
「3日後の剣技大会。あなたの分も申し込んでおく。そこであなたの実力を見せて。それに優勝賞品はホワイトローズの剣。名工グラマールが作ったという名剣よ。もしかしたらジルバーストにも耐えられるかもしれない」
それを聞いて観念したのか、ローアンはため息を一つ付くと
「わかったよ。それで納得してくれるなら付き合ってやるよ」




