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第5話 蓮太

 

 あれから数日が経って、変わらずあやのん、れんれん、海夏と過ごしていた。


 一つ変わったとするなら……


 「ね〜海夏、そろそろ離れて〜暑いよ〜」


 「やだ。光姫ちゃんすぐ倒れちゃいそうだから。もう絶対離さない」


 「そんな簡単に倒れないよ……」


 「やだ。早く光姫ちゃんが先に折れて!」


 ……海夏がずっとくっついて離れない。全く嫌ではないけど…。


 も〜〜。元々たま〜にくっついてくる海夏だったけど、なんか重症化しているなあ。学校でもくっついてくるなんて。


 頬をぷくっとしてる。相変わらず可愛すぎるんだけど。なんでこんな抱きしめたくなっちゃうんだろ。


 前に倒れちゃったとき、凄い心配してたからかな…。あんなに辛そうな顔をさせちゃったし、申し訳ない気持ちがあるから無理矢理引き離すのもな……。


 あ、そうだ。


 「学校でくっついてると海夏の好きな人に勘違いされちゃうよ?」


 「………………」


 「あれっ?海夏、どうしたの?」


 「っ!む〜〜!!光姫ちゃんのバカ……」


 「――あ、海夏……」



 ――なんか怒った顔で離れちゃった。海夏の怒った顔なんて、久々に見た……。


 言うんじゃなかったな。そんな顔されるとなんだか…。少し涙ぐみそうになったのを何とか抑える。


 でも、前に『好きな人いる』って言ってたのに。というか海夏の好きな人は誰だったのかな?綾乃ちゃんは海夏の意外と近くにいる人って言ってたけど……。


 もしかして、光姫のことだったり…………しないか…。昔からずっと一緒にいるし、きっと光姫のこと恋愛対象として見てないだろうしな〜……。


 ――そう思うとなぜかちょっと悲しくて、眼の奥が痛むような感覚がした。一人だけ教室に取り残されたような…そんな気持ちになった。



 ◇◇◇



 海夏のことを考えて悶々としていると、同じクラスの蓮太が話しかけてきた。


 「ん?蓮太どうしたの?」


 「……な、なあ光姫。お前に折り入って頼みがある!」


 「な、なに?宿題みせてとか?」


 「実は……。この前、海夏に好きな男子がいるって聞いたんだ!親友のお前なら知っているんじゃないか?それを教えてほしいんだ」


 予想外の質問に目を見開く。れ、蓮太って海夏のこと好きだったの!?



 でも…。ま、まあ全然おかしくはないよね。海夏はクラスでもきっと一番可愛いし、控えめで優しいところとか男子に人気が出そうだもん……。


 光姫も、そんな海夏の性格が…………ってあれ??




 いま何を思ったんだろう…。





 ――――もしかして、『好き』だって、そう思ったのかな……?



 (………………うう)



 ―――光姫は。最近海夏のことをどう思っているのか、光姫自身分からなくなるんだあ。

 急に大人っぽくなって光姫の手を引いてくれる海夏。意地悪な笑みでからかってくる海夏。

 気づけばずっと海夏のことばっかり…。


 そんなふうに考え込んじゃってる光姫を見て、蓮太が――


 「あ、ごめん。光姫も知らなかったのか。俺がこれ聞いたってこと内緒にしててくれよ?」


 「え、あっうん……」


 「なあ、ぶっちゃけ俺って海夏にどう思われてるんだろうな……?」


 「…………」


 「……光姫、どうしたんだ?何かあったのか?」


 「いや、何でも……あはは」


 「そうか?じゃあまたな。聞いてくれてありがと!」


 そう言い残して去っていく蓮太の後ろ姿を見て、光姫の頭には一つ浮かんでくることがあった。



 (もしかして……でも、嘘…)



 ――もしかして、海夏の好きな人って『蓮太』なんじゃ…………。


 同じクラスの……好きな人。


 それが頭に浮かび上がった瞬間、染み付いて消えなくなった。蓮太と海夏の声が、頭の中でぐるぐる駆け巡る。


 ―――――光姫は、どうすればいいのかな……。




 ◇◆◇◇


 


 あの後、海夏が教室に帰ってきた。少し涙目の海夏は、私の席に駆け寄るとすぐにポツリと話しだした。


 『ごめんね……勝手に海夏に怒っちゃって。私が言ってた【好きな人】っていうのはね――――』



 光姫は……。



 『――待って!…………ううん、言わなくても大丈夫!大好きな海夏のことなんだからわかるんだあ…』


 『そ、そっか……伝わっちゃってたんだ』



 光姫は……海夏に嘘をついちゃった。


 本当は光姫も分かってるんだ。分かってるんじゃなくて聞きたくなかっただけって。


 ――知りたくなかったの。海夏の好きな人を。聞いたら諦めなきゃいけないような気がして……。何かが壊れるような気がして…。





 (ねえ……海夏…やだよっ……)



 ◇◇◇



 放課後。光姫は上手く海夏と話せなかった。


 「光姫ちゃん!一緒に帰ろ!」


 「あっ、う、うん。そうだね…」


 「ん?光姫ちゃん元気ないの……?」




 横から一人の男子が駆け寄ってくる。その子は、緊張した面持ちで海夏に話しかけた。


 「な、なあ。海夏、良かったら俺と二人で帰らないか?たまには、いいかなって………だめか…?」



 ――――蓮太の声。『蓮太』。

 それに光姫の口は、勝手に反応してしまった。


 「だ、だってさ海夏!……光姫はあやのんとれんれんと帰るから、気にしなくていいんだよ…………」



 ……光姫は咄嗟に、自分の気持ちに嘘をついた。海夏に嫌われたくなくて……。海夏の恋を邪魔するのは、駄目だと思ったから…。


 「いや、でも――」


 「そ、そうなのか光姫!すまん、ありがとな!…海夏、それでもいいか…?」



 「……わ、わかった。帰ろっか」


 海夏はぎこちない笑顔で蓮太と歩き出す。


 ――光姫には見せない顔。初めて見る顔。光姫といる時より、心なしか楽しそうに見えた。蓮太と話している海夏が嬉しそうで…………。




 光姫は――吐きそうな気分だった。目眩がして、立ってられないくらいに。


 心臓を鷲掴みにされたように辛くて、もう二人の背中を見ることも出来なかった。



 (ねえ……海夏……海夏は光姫のこと…)





 「お〜い。光姫、帰るで〜。何時まで寝てるんよ〜ってあれ。

 ――み、光姫っ、泣いてるん?ご、ごめんなあ。うち怖かったかなあ」


 「…………あやのん……」


 「お、おい綾野!!光姫を泣かすな!!」


 「え〜うちなんっ……?」


 ……泣いても泣いても、心は晴れなかった。しまいようのない感情が渦巻いて…光姫の中で膨れ上がっていった。

 


 

 ◆◇◇◆

 

 


 何とか泣き止んで、話を親身に聞いてくれる二人に打ち明ける。

 


 「な〜んや、そういう事やったんやね。それなら簡単やで」


 「あやのん……簡単って?」


 「おいっ、綾乃。光姫は悩んでるんだから簡単なんて言っちゃ駄目だろ!」


 「だってさ、恋も知ってるやろ?海夏の好きな人って、

 ―――もちろん『光姫』のことやん――」


 (えっ……!!どういうこと…?)


 理解が追いつかなかった。


 

 海夏の好きな人が光姫……?蓮太じゃなくて?


 「う、嘘やん。まだピンときてないんか…どんだけ鈍感なん光姫は……」


 「うん。わたしでもそれは気づいてたぞ!というか、海夏は光姫といるときだけ乙女の表情してるじゃん!」


 「え、そ、そんな。海夏は蓮太が好きなんじゃないの……?」


 「いや、あんま言ったら可哀想やけど……、蓮太と帰るときすっごい嫌そうやったで海夏。愛しの光姫と引き離されたんがむっちゃ嫌やったんやろ」


 「そうだな……でもまあこれはちゃんと伝えない海夏も悪いけどな!!

 ――とにかくさ!光姫!今度会ったとき、ちゃんと海夏と話すんだぞ!」


 「そうやね……。海夏、光姫が『三人で帰るから』って言ったとき凄い悲しそうやったしな……」


 (!…なんだ……!!そうだったんだ……。海夏、気持ちに気づいてあげられなくてごめんね。

 でも、海夏も不器用すぎるよっ……!会ったら文句の一つでも言ってやりたいくらい!ふふっ。)


 さっきまでの辛い感情とは真逆の、暖かい気持ちで満たされていく。


 海夏への気持ちに、せっかく気づけたんだから……。


 「うん……わかった!ありがとね二人とも!!海夏にちゃんと思ってること、伝えるんだあ!」


 海夏……早く会いたいよ。早く海夏に会って、それから…………。伝えたい事が胸の内からたくさん湧いてきて、想いに歯止めが効かなかった。



 「…海夏っ。大好きだよ…………」

 

 

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