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第4話 不安


 「……まだ海夏と一緒にいたいな…。海夏と一緒に住めばずっと傍にいれるのに………な、なんて冗談だけどね!//」


 口からポツリと溢れた自分の言葉に慌てる光姫ちゃん。本当にそう思ってくれてるならとっても嬉しい。


 「ふふ、また来ようね……。そうだ、光姫ちゃんとシェアハウスなんて楽しそうっ。毎日ゲームできるよ?」


 「そしたら毎日ゲームでボコボコにできるなあ……。最近海夏に大人の余裕みたいなの見せつけられてるし、ここで勝たないと。もちろん正々堂々ね!」


 「正々堂々やって毎回負けるのもやだよ〜」



 水族館デートを楽しんだ後。二人で電車に揺られて帰路につく。窓の景色は常に移り変わって…私は窓から風景を眺めることが好きだった。


 「海夏〜〜。今日は楽しかったねっ。海夏は楽しかった?」


 「うん!もちろん。きてくれてありがとねっ」


 そう言って自分の手を光姫ちゃんの手に重ねた。少しの汗と、優しい体温が伝わってくる。


 「海夏…………えへへ。今日はいっぱい歩いたし、なんだか疲れちゃった…ちょっとふらふらするんだあ……体力落ちたかな?」


 「大丈夫?………。無理しないでね。寝てていいんだよ。私も、なんだか眠くなってきちゃったし……」


 「光姫こそ寝てて良いんだよっ。ほら、肩貸したげるね!おいでっ」


 寝るつもりはなかったけれど、そう言われると私はいつも甘えてしまう。光姫ちゃんの包み込むような優しさが、私は大好きだ。


 叶うなら…こうしてずっと、二人きりで……。そんな理想を抱くのは、許されるのだろうか――ふと彼女の横顔を眺めながら、そう思った。


 瞼がだんだん重力に勝てなくなって………気づけば、光姫ちゃんの肩に寄りかかって深い眠りに誘われていた。



 ◇◇◇



 私が目を覚ました時、光姫ちゃんは私に寄りかかって寝言を言っていた。

 もう、可愛いな………………って。



 ――やばい……乗り過ごしたかも…………



 そう思い、窓の外を見てみる。ちょうどどこかの駅に着いたようだ。電車が音を立て停止する。窓の外は少し暗くて、夕焼け空。


 「光姫ちゃん!起きて起きて」


 「んぅむう……、みか…?」


 「海夏だよ。さっ、降りよ?」


 「う〜…………」


 寝ぼけている光姫ちゃんの手を引いて電車から降りる。幸い目的の駅から一駅乗り過ごしただけのようだ。これなら歩いて帰ってもいいかな。寝ぼけ眼の光姫ちゃんに声をかける。


 「光姫ちゃん、ごめんね寝過ごしちゃって……一駅だけだし、歩こっか?」


 「う、うん。こっちこそごめんね……光姫が起こすって言ったのに。海夏とくっついてると、なんだか眠くなっちゃって……」


 「いいんだよ。それに二人で帰るなら一駅くらい一瞬だよっ」


 光姫ちゃんはちゃんと謝れる子だ。素直で優しい性格。そんなところもたくさんある光姫ちゃんの魅力の一つだ。




 二人で線路沿いの道を歩いていく。自然と手を繋いで、強く握る。光姫ちゃんの手、熱い……。


 それにしても、高校生の大きな体と違って、なんだか一駅がとても遠く感じる。蝉の声も聞こえないし、夏にしては少し冷たい風だな…。そんなふうに考えていた。




 「ね、光姫ちゃん。なんかちょっと肌寒くなっ――――」




 ……ドンッと、横から人が倒れた音がした。




 「光姫ちゃん…?―――――え、光姫ちゃん!!ねえ、大丈夫っ??光姫ちゃん!」


 ――光姫ちゃんは、その場で倒れてしまった。……顔色が良くない。亜麻色の髪が乱れ、額に汗が流れてる。




 ―――きっと私が光姫ちゃんに無理をさせたからだ……。夏場に歩こうなんて言ったから。光姫ちゃんは疲れていたのに……。


 何でそんなことにもきづけなかったんだろう。光姫ちゃんは体調が悪かったのに……。


 「ねえ!光姫ちゃんっ……ど、どうしよう」


 焦りと不安で胸がいっぱいになる。背中が冷や汗でじっとりと濡れる。世界が暗転するような感覚。


 お、落ち着かなきゃ。落ち着いて、救急車を呼ぼう。きっと貧血か、軽い熱中症だろう。心にそう言い聞かせても、光姫ちゃんの少し青ざめた顔を見ると、自然と泣きそうになる。


 (ごめんねっ、……ごめんね光姫ちゃん)


 嫌な想像が次から次に浮かんでくる。気づけば涙は止まらなかった。




 

 ◆◇◇◇




 一人病室でベッドに横たわる女の子の手を握る。


 お医者さんは軽い貧血と脱水症状だと言っていた。いつ目を覚ますか分からないけれど、この手はずっと離さないでおこうと思った。

 




 「んん、ここは……あれ。どこ?あっ、海夏――――」



 光姫ちゃん、目が覚めたんだ…!


 「…光姫ちゃんっ!!」


 ――――私は、思わず強く抱きしめていた。

 もう流れる涙は気にならなかった。ただただ、光姫ちゃんが目を覚ましてくれた。それに安堵した。

 光姫ちゃんのいつもの声。その綺麗で甘い声音が、私の心を何よりも安心させてくれる。


 「海夏…………ごめんね、心配かけたよね……光姫、倒れちゃったんだね。実はちょっと体調悪かったの、隠してたんだあ。海夏に心配かけたくなかったから……。――でも、結局いっぱい心配させちゃった」



 「良いんだよ……光姫ちゃんが元気で居てくれさえすればそれで…!ほんとにごめんね、私のせいだから……ごめんなさい…ぐすっ…」


 「海夏…………ほんと泣き虫なんだから……えへへ」



 私が不甲斐ないせいで光姫ちゃんに謝らせてしまった。なぜか、本当に光姫ちゃんをまた失うような気がして怖かった…。そう思うと更に心は傷んで、手から力が抜けていった。

 私の瞳からずっと流れる涙を、光姫ちゃんは優しく指で拭ってくれる。


 「…海夏のせいじゃないよ!それにほら!私はいま元気だし!相変わらず海夏は大げさなんだから……。でも、ありがとね…!」


 

 泣き虫は何年経っても変わらなかった。多分、それはこれからもずっとだ。これからも光姫ちゃんの優しさに触れるたび、私はこうして泣いちゃうんだろうな……。



 「…うんっ。大好きだよ…………」





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