花火
しっとりと汗が頬を伝った。数年ぶりにあの丘を上る。私とあの子の思い出の場所。
辺りはすっかり暗くなっている。夏蝉は空気を読んで、代わりにコオロギの鳴き声が木霊している。
ふと、祭りの灯火を遠目に眺める。年々人の増えるこの街では、二人で居た頃より祭事も規模を増していて。……やっぱり変わっていくんだね…。二人で一緒に過ごした日々が塗り替えられるようで、それがとても嫌だった。
この丘の中腹で、あの子との記憶を思い返す。この先から見下ろす景色は、私とあの子だけの宝物。
色褪せず、ここに残り続けてくれている。
一歩一歩踏みしめ歩く。その度に思い出が鮮明に蘇り、夏の幻が私を魅せる。ただ、縋るように思い出している。
記憶の中のあの子の笑顔はひたすら輝いていて。何度も私の涙を拭ってくれた。何度も私の手を引いてくれた。そんなあの子を、私はずっと目で追っていた。
――――
ずっと。
ずっと辛かった。私はあの日から何も感じなくなった。何も喉を通らなくなって。
部屋から出ることも億劫になって、日に日に涙も出なくなって――――何も考えられなかった。
私はあの子を誰よりも大好きだった。
心から気を許すことの出来る想い人。私の一番大切なもの。全てだった。
それなのに――――――――
……ほんとに居なくなっちゃったんだね。
「……今年も花火が上がったよ、みっちゃん」
また、あの夏がやってくる。
――――――――――――――――
あの子の笑顔を、言葉を。
あの子と歩いた、帰り道を。
――――今もずっと、忘れられない。