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調査

第三話 調査

 20ⅩⅩ年 4月6日。

旭日の光線が東京都全体を包んだ。雲一つないこの晴れの日に私たちは歩哨勤務と国旗、組織旗掲揚を終えて一階にある食堂へと足を運んでいた。

「んにゃ~お腹減ったね!歩哨勤務でクタクタだしご飯食べ終わったら早く部屋に帰って寝よ?」

 楓が伸びをしながら言ってきた。

私も彼女と同じく結構疲れているので首を縦に振って小さくうなずいた。

「そうだ、昨晩の正規兵はどうなった?」

  昨晩の正規兵、彼はアンデッドに襲われていた。体のどこかを嚙まれたり引っかかれたりするとアンデッドになる。ちゃんと身体検査はされているのだろか。そこが不安だ。

「ちゃんと保護されてるよ~。身体検査もしてるって聞いたし、陸軍の生き残りだから、たぶん変なことはしてないっしょ」

 その言葉を聞いてホッとしたのもつかの間、目の前から走ってくる人影が見えてきた。

「ひぃぃぃぃ!おたすけぇぇぇ!」

 情けなく叫び散らかす軍服を着た男性が足たちの目を見るなり両手を振って助けを乞うている。

 目の前の男性が私たちの背後に隠れるとぶるぶると震えながら廊下の先をじっと見つめていた。

 廊下の先に何かあるのだろう。それを瞬時に察した私たちは身構えて徒手格闘での戦闘に備えた。

 廊下の奥の部屋から邪悪なオーラがにじみ出てきている。

「その人を連れて少しだけ下がってて。うちが対処する」

 楓がそういいながらじりじりと前へ詰めていく。邪悪なオーラが段々と濃くなり始め、やがて人影が部屋からひょっこりと顔を覗かせてこちらを見つめてくる。

 その人影の眼光がギラリと私たちに浴びせた瞬間、奇声を上げながらその人影は迫ってきた。

「あひゃひゃひゃひゃ!きぃぃえぇぇぇぇぇぇ!」

 楓は人影が右手を伸ばしながらこちらに近づいてくるのを確認するや否や急に走り出してその人影の右腕をわしづかみにして地面へと投げた。

「ウグェ・・・うぅ!」

 ドシーンという大きな音とともに情けない声で呻く。

 その声と倒れた人影の顔を見て私たちはびっくりした。

「み・・・妙高さん?!」

「まったく・・・ひどいじゃないか・・・これでも一応、ここの頭首だぞ・・・」

「ご・・・ごめんね、妙っち!てっきりアンデッドかと思って!」

 そういいながら楓は妙高さんの本へと駆け寄り上半身だけ起こさせて背中をさすった。

「もう大丈夫だよ」

 そういうと妙高さんは立ち上がり私たちの背後を見た。

 ああ、なるほど。私はやっとこの状況を察したぞ。

「あの、この正規兵さんが何かしでかしたんですか?」

 私は背後に隠れた正規兵をチラッと見ながら妙高さんに聞いた。妙高さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべて正規兵をみながらゆっくりと近づく。

「そいつは正規兵だろ・・・?ならば高価な情報を吐かせようと思って拷問を用意したのだよ・・・」

 じりじりと近づきながら渡してもらおうかといわんばかりで右手を突き出して言い放つ。

「拷問?!まさか!?」

 私は耳を疑った。ここのルールの規則上、救助したものには拷問などをしてはいけないとはっきり明記されている。チーム手帳に書いてあることだ。だから私は声を荒げたのだ。頭首が掟を破っていいものかと。

「そう、その拷問とは・・・」

 私は固唾をのみこむ。血の気がサーっと引いていくのを感じている。気づけば楓も顔色を真っ青にして聞いていた。

「擽りの刑さ!」

 自信満々に私たちの頭首、武尾ヶ崎 妙高は答えた。

 私は引いていた血の気が一気に戻り、あきれた表情で近づいた。

「はッ!」

 私は「はぁ、」とため息を置いて妙高さんの頭にチョップを当てた。

 相当効いたのだろう。妙高さんはまたもや頭を押さえながらうずくまり呻き声をしばらくあげた。

「急に何するんだよ~!お姉さん、すこしだけ君らをからかっただけじゃないか~!」

「頭首がそんな振る舞いでいいのですか!?いいですか?彼は、この正規兵さんは軍人であり遭難者なんですよ!情報を聞き出すのはよしとして、遭難者を怯えさせるようなことは絶対にしないでください!」

 私は妙高さんに叱責した。一組織の頭首であるあなたがこんなことをしたら本当はダメなんですよ。あれ?どっちが立場上だっけ?

 私はトホホと口にしながら正規兵さんのほうへと振り返って深く頭を下げ謝罪した。

「すみませんでした!」

「そんな!頭を上げてくださいよ!」

 正規兵さんはそわそわとしながら優しい声色で返してくれた。

「ねぇねぇ!名前なんて言うの?」

 後ろから楓が正規兵さんのほうへと近づきながら明るい笑顔で聞いてきた。私は心の中で「楓ナイス」と思って親指を立てた。

「僕は、山梨から来ました。歩兵第四九連隊所属の松本 光秀です!」

 光秀は敬礼をしながら楓の返事に即答した。

「うちは楓、勅使河原 楓だよ。で、隣が」

「小鳥遊 椛。よろしく頼む」

 私はそう言って手を差し出した。隣にいた楓も気づいたのか彼女も手を差し出した。

「よろしくお願いします!椛さん、楓さん!」

 光秀は差し伸べた手を握り握手を交わした。

「で?あれが全部なの?光秀君」

 のそっと起き上がりながら妙高さんはまだ苦しそうに光秀に聞いた。

 光秀は少しおびえながらまた、私たちの背後に隠れて警戒する。

うちの頭首が余計なことをして本当にごめんね。光秀君。

「あれで全部ですよ。あの内容で全部です。班長が私に託した機密情報は全部あれだけです。」

 ジトっとした目で光秀君は言った。相変わらず警戒しているようで、光秀君は表情を変えようとすることもなかった。

「よし!では小鳥遊 椛、勅使河原 楓両名に任務を通達する!明日、明朝〇五〇〇時にて都立第一大和中学校へ出撃し、その設備、周辺地域を調査し、機密情報があれば回収し撤収せよ!尚、設備の損傷が少なければその学校を第二の拠点としたい。よって学校の外、内部の写真を撮影せよ!以上だ」

 そういうと、妙高さんは光秀君を連れて奥の部屋に戻っていく。

 光秀君は助けを乞うていたが、たぶん妙高さんはまだ何か話したいことが合えるのだろう。光秀君、しばしの間耐えてくれ。

「行くか、楓」

 私は楓に向かってそういうと一階に降りてご飯を食べに行くのであった。


 翌4月7日

 早朝四時に起きた私たちはすぐに朝食を済ませ地下駐車場に到着すると妙高さんと勝吉さん、さらには整備隊や戦闘隊の面々が集結しきれいに整列していた。

 私たちは妙高さんの前に出ると敬礼をする。妙高さんも答礼し手を下げた後で私たちも手を下げた。

 これから私たちは死地へと向かう。いつ死んでもおかしくない戦場へ。いつ終わるかわからない戦闘へ。

 妙高さんが紙を取り出すとコホンと咳払いし、一呼吸おいてから口を開いた。

「今回の目標は都立第一大和中学校とその周辺区域の調査である。この出撃は我々の組織拡大を決定づけ、中継基地としての重要な役割を果たすことが予想される。これは重要なる任務だ。君たちの勇気ある行動は、我々の希望であり、明日への希望である。どんなに強大な敵が待ち構えていようと、どんなに強固な要塞が築かれてあろうと臆するな!思う存分暴れてこい!しかし、小鳥遊は異能力不保持者である。したがって無理な真似はしないように!二人とも、生きて帰ってきてね。以上、訓示とする!」

 妙高さんの顔は微笑んでいた。しかし、目には少しだけ不安が残っていてその目が私の心を少しだけ締め付けた。しかし、妙高さんに訓示をしてもらうとやる気につながるし、何より保護者のように見守ってくれる感覚が生まれてくるから安心して出撃できる。

「きをつけぇぇぇ!組織頭首 武尾ヶ崎妙高に対し、敬礼!」

 私は号令をかけ敬礼をした。楓もそれに続いて敬礼し、妙高さんは答礼してすぐに手を下した。時間が押しているのだろう。私たちはすぐに敬礼を終えると妙高さんの「別れ」の号令と合図とともにバイクのほうへと駆けていった。

 出撃時間までまだ少しだけ余裕があったためブリーフィングを楓とともに実施した。

「都立第一大和中学校・・・私たちの母校だ。覚えてるか?」

 私は楓に聞いてみた。楓は真剣な表情で首を縦に振っていたため覚えているのは確実である。

「間取りも完全完璧に覚えてるよぉ。どこに何があったのかとかね。運が良ければあの日から変わってないと思うけど」

 楓がものすごく真剣に見つめ返した。彼女の考えることはわかる。私も同じ気持ちだ。母校に戻れるうれしさと悲惨な光景を目に焼き付ける覚悟を。

「楓ならどう動く?」

 楓はうなり声を入れながら悩んだ末にこたえる。

「体育館裏のフェンスから入って、そこから体育館の玄関に到達した後、渡り廊下を通って校舎内部に侵入して調査っていうルートっしょ。もしくは体育館から先に調査してもいいけど」

「体育館から調査しよう。近いところからやったほうが後々から楽になる」

 私はそういうと立ち上がり楓に手を差し伸べた。

「さぁ、行こう」

 私は楓にやさしく言うと楓は覚悟を決めた顔でうなずきながら手を握り立ち上がった。私はバイクにまたがるとエンジンをかけた。楓も〇〇式7.62mm軽機関銃がついた側車に乗りこむ。

「門を開けろ!出撃時間だ!」

警衛担当に無線で連絡を入れる隊員たち。すると、正門のほうからけたたましく鳴るブザーが地下駐車場まで響き渡った。私はアクセルを捻り、徐行運転で門のそばまで走らせる。

隊員たちが帽子を振って健闘を祈っていた。私はみんなの期待に応えるためにも生きて任務を終えるという決意で門を潜り抜けた。

「状況———開始!」

 私はひとり呟くと加速させて中心部のほうへと向かった。


「彼女らに任せても大丈夫なのか。妙高」

 勝吉さんが私に向かって訊ねた。私だって少し不安だったが今は彼女らしかいない。それに、椛が能力を開花させるタイミングにもなるだろう。あの学校にはそれを決定づける物がある。

「大丈夫だよ、勝吉さん。彼女たちは生きて帰るから」

 私は心の中でそう祈るばかりだった。


 バイクを走らせて数十分。見慣れた景色が私たちを迎え入れた。

 近所の住宅街、薄汚れた自動販売機、所々ぼろぼろになったアスファルト。見た目は違えどもあの通学路と同じだ。あの日から何も変わっていない。

「戻ってきたね・・・椛」

 楓が引き締めた声色で問いかける。

私はチラッと楓の顔を見た。彼女は懐かしさの思いと恐怖と緊張で表情がごちゃ混ぜになった引き締まった顔になっていた。

かという私も同じ顔になっているのだろう。さっきから表情筋がピクついて疼いている。本能もこの後何かが起こると感じ取っていた。

かつての通学路を通って正門付近と道路に接近すると、バイクを左折させて体育館裏の道路へ回って、そこにバイクを駐車した。

私はバイクから降りるとフェンスによじ登って学校の敷地内に侵入した。楓も私に続いてフェンスをよじ登り内部へと侵入する。

「さて、体育館の中から調べよう。行くぞ。楓」

 私は楓とともに体育館の玄関に回ってくると、玄関と体育館内部を隅々までクリアリングし中へと入っていく。

 コツコツと半長靴の低くて固い音が、冷えた体育館の中で響き渡る。

卒業式のあの日から何も変わっていなかった。パンデミックが起こったあの日から何も変わっていない。

 私は懐かしさのあまり目頭が熱くなった。視界が涙でぼやけて前が見えにくい。

「椛、大丈夫?」

 楓が私の顔を覗き込んだ。私は、あふれ出しそうな涙を引っ込めて任務完遂に向けて集中する。

 体育館の中は特に変哲もなく激しい損傷も至ってみられなかった。

 楓が体育館の中の写真撮影をしているところを傍で警戒しカバーを取る。

 いつどこからでも何かが現れてきてもいいように照門と照星を合わせて、そこから景色を除いていた。

「椛、終わったよ」

 私は楓の合図で周囲に気を張りながら小銃を下して写真を確認する。

 写真はしっかりときれいに撮れていた。

 私は楓の頭をなでて「よくやった」と褒めた。楓はまんざらでもない顔で「ありがとう」と言いながら赤面する。

「よし、次は何階から行こうか?」

 私は照れた楓を見てかわいいと思いつつ楓に尋ねる。

「1階から行こう」

楓は照れていた表情からすぐに顔色を変えてそういった。

仕事モードとデレデレモードの切り替えがものすごく速い。楓は普通の世界だったらしごできウーマンだったに違いない。

「よし、それじゃあ行こう」

 そういいながら私たちは小銃を構えながら体育館から離れて、渡り廊下を通って学校の校舎へと侵入した。

 内部は死臭のにおいが立ち込めていてとにかく空気が悪かった。さっきの体育館とは全く比べ物にならないほどだ。

「ひどすぎる・・・」

 私はたまらず声が出てしまった。それほど、校内は酷く荒み果て、血肉の跡が壁中にびっしりと付着していた。天井にも所々付着しているところがあった。

「・・・2階と3階に反応がある」

 楓がつぶやいた。楓の憑依能力を偵察として使ったのだろう。

「わかった。とりあえず1階を調査しよう。なにか必要な資料とか鍵をいったん拝借しよう」

 そういうと、私は情報があるとされる職員室まで駆けだした。それに続いて楓も後ろから走ってくる。

 コツコツコツと固くて低い音が廊下に響かせる。薄暗さもあって少し不気味に思えた。

 しばらく走っていると職員室の前までついた。私は手信号で楓と向かい合わせになるように指示して職員室のドアを開けた。

 楓が小銃を構えながら入っていくと同時に私も楓と同じように彼女の背後を守るように入り、部屋の中をクリアリングする。

「クリア」

 私が言いながら小銃を下すと、楓も同じく「異常なし」と告げて小銃を下した。

 職員室内部は非常に荒んでいた。カーテンは引き裂かれ、窓ガラスは全損。机もバタバタと倒れている。

「ほぉら、突っ立ってないで探すよ!」

 楓が硬直していた私の肩に手をポンと置いてそういった。

 私は「うん」と呟くと、そのまま教員の机上やその中を調べ始める。

 ガサゴソと物をあさる音が職員室の中で反響する。机の中を探しても教材や教材プリント、1年間の予定表に学級名簿などばかりで重要な情報などはなかった。

「楓、何かあった?」

 私は先生たちの机の中をあさりながら言った。

「先生の日記ならあったよ~。このパンデミックの原因の特定につながればいいけど」

 そういって楓は先生の青い日記を見せてくれた。青い日記といっても所々赤黒くい血の跡がついている当時がどれだけ悲惨だったかを表した日記だ。

 私はその日記を持ち帰ろうとベルトに装着されていたポーチの中に入れた。さて、この部屋で重要な情報はこの日記だけだろう。重要な情報が入っている部屋は残り一つ。

 私は職員室から入って右端にあったドアノブに手をかけ、それをひねった。小銃を構え、クリアリングをしながら校長室に入ると部屋の片隅のほうに大きい金庫が目に入った。

「楓、ちょっとこっちに来て!」

 私は楓の耳に届く声量で彼女を呼ぶと彼女が校長室に走って入ってきた。

「どうしたの?」

 楓が血相を変えた様子で私を訪ねた。私は金庫のほうに親指を指すと楓はうなずいて金庫のほうに近づき、それに手を当てた。

 すると、金庫のダイヤルがゆっくりと動きだして左右にカチカチと回り始めた。彼女の憑依能力だ。人や物に憑依したりする強力な能力。楓にはそれが備わっている。しかし、私にはそんな強力な能力など備わっていない。楓によれば能力の開花は時間の問題らしいが・・・。

 私は楓に嫉妬すると同時にすごい劣等感を突きつけられた。嗚呼、少し悔しい。能力を使って役に立ちたいのに。

 数分が経つと彼女は金庫に当てていた手を放してハンドルを持ち、解放した。金庫の中には振り分けされた書類ボックスと一つの鍵が中に入っていた。

 私は中にある振り分けられた書類ボックスに目を通す。

 書類ボックスには間取りという文字や緊急避難経路などの文字があってどれから読めばいいのか少し悩んだ。

「あ、これって」

 楓が何かを発見したようで私もすぐに楓の声に反応して、楓が見ていたものを視界に写した。

 機密文書という文字を見た瞬間、私は直感的にこれを見ないといけないという気がしたため、すぐに機密文書の書類ボックスから書類を取り出した。

「楓、この書類を写真で撮る準備を。その間に少しだけ拝読させてもらう」

 私は楓に指示を出しつつ書類に目を通した。

「・・・は?なにこれ」

 書類を見た私は驚愕する。書類の内容を要約すると政府管理下だったこの学校は学校の地下施設を設けて生物兵器を研究していたという内容だった。

 なぜこの学校に研究施設を設けたのか、なんで学校にこんな機密施設を作ったのは謎だったが、今考えても仕方がないため地下施設へアクセスするための間取り図を見るためにその書類を書類ボックスの「間取り」から取り出した。

 間取り図には私たちが知っている間取りと、見慣れない地下施設の間取りを発見した。地下施設は間取り図上ではあまり大きい施設じゃないことが確認できた。

 私は早速、楓を連れて地下施設へアクセスするルートへ直行した。

 校長室から出て、校舎の一番端にある給食室へと走って向かった。

 重い装備で走っているから、結構きつい。息を大きく吸ってもまだ足りないと肺が叫んでいる。

 私は額から流れる汗をぬぐって給食室のすぐ隣にある給食用のワゴン車用エレベーターに近づいた。

 ここが、地下施設へと続くエレベーター。こんな昇降機をエレベーターとしても活用するなんて、でもこんなところに誰かがいたずらで入ってしまったらどうなってしまうのだろう。バレてしまうのではないのか?

 そんな考えが頭によぎったが深く考えてその場にとどまってしまっては2階にいる奴らに私たちの存在がばれてしまうためすぐに昇降機のドアを開ける作業に入った。

 バッグパックからバールを取り出しててこの原理で扉をこじ開けようとする。

 ギギギと扉がきしむ音を立てながら徐々に開いていく。

「椛!」

 楓に叫びに近いような声で言われたので私はとっさに振り返った。

 視界に広がったのは無数のアンデッド。肌が腐敗してぼろぼろになっているので2階から来たアンデッドだっていうのがすぐに分かった。制服も着ていたし。

 私は無数のアンデッドを見て本能でやばいと感じた。

「楓はアンデッドを足止めしてて!その間に私がこのドアをこじ開ける!」

 私はすぐに昇降機の扉をこじ開ける作業に戻った。

硬い、少しだけ扉がさびているから開けにくいのか!

後ろで鳴り響く銃声を聞きながら私はバールを握って、力を思いきり入れ込む。

「グガァァァァァ!」

 アンデッドが腐りきった口を大きく開けながら走って迫ってくる。

「椛!まだ?!」

 楓が私を急かす。私だって早く開けようと努力しているのだ。もう少し辛抱してほしいといいたいところだが私も同じ立場になった時には同じことを言っているのだろうと思い、彼女の急かす言動を耳に残しながらも返答はせずにただただ踏ん張っていた。

 無数のアンデッドがあと少しで私たちにとびかかるのだ。全滅はやばい。何よりアンデッドになって死にたくない!

「うぉぉぉぉ!ひらけぇぇぇ!」

 火事場のバカ力を発揮して扉をこじ開けた私はすぐに昇降機の中に入って楓の肩を引っ張ると、すぐにその扉を閉じた。

「ちょっと!椛!今のは危ないっしょ!死ぬところだったよ!」

 楓が昇降機の暗闇の中で私に叱った。

 私は叱られたことに少しだけへこみ、反省して「ごめん」と楓に返した。

「つぎやったら許さないからね。はい、これ」

 そういいながら楓は私にスティックライトを点灯した状態で手渡ししてきた。彼女の言いたいことが分かった私はすぐに非常電源、もしくは非常口を探し始める。

 あたりを見回すと、あった。側面の壁に非常電源が設置されていた。

 それを確認した私は非常電源のスイッチをオンにして、昇降機を動かせるようにした。一応電機はまだ通っているみたいだ。

 私は昇降機でB1のボタンを押した。

 すると昇降機がゆっくりと地下に向けて動き始め、B1に迫ると段々と減速していって停止した。

 停止した瞬間に昇降機の扉が開き、私たちは小銃を構えて部屋の隅々をクリアリングした。

 地下施設は意外に小さく、学校の化学室のような広さしかなかった。

 私たちはこの研究施設を手分けして調査する。資料と研究材料でごちゃごちゃになった机に研究に使う危惧が散乱した部屋。パンデミックが起きた時の当人たちの焦りと悲惨な光景が頭に思い浮かぶのは容易なことだった。

 私は小銃を構えながらさらに部屋の奥のほうに進んで「実験室」と書かれてある部屋へと侵入した。

 部屋の中に入ると窓ガラスがとび散っているほどの悲惨な光景が視界に飛び込んできたが、私はそれにはあまり気にしていなかった。気になっていたのは部屋の中央にあるとある物体だ。

 その物体は岩のようなものに刀が深く突き刺さっていた。その刀は黒くて、柄には菊花紋章の刻印が小さく刻まれていた。

 私はその刀の魔性の魅力にとりつかれてその刀に指を触れた。

「うっ・・・あがっ・・・!」

 頭部に走る激痛。頭の奥底で閉ざされたタンスから何か引き出しそうな感覚が走る。視界がぼやけながら、何かの一部の描写が重ねあわされるかのようになっている。

 思い出しそうで思い出せない。

 私はそのまま地面に倒れてしまった。

 目が覚め、飛び起きた。隣を見ると刀とともに横たわっていた。

 私は刀を持って楓のところに向かった。

 研究室へと出てきたが楓の姿が見当たらなかった。彼女はどこに行ったのだ。

 私は焦った。楓の姿がどこにも見当たらない。

一人で帰るような人でもないからどこに行ったんだ。まさか!

私はすぐに昇降機のほうへと走っていき、それを使って地上まで出ていった。

頼む、無事でいてくれ。

私はその一心で昇降機の中で待機した。冷汗が額と背中でじわじわとにじみ出る。

昇降機が停止した瞬間、私はすぐに扉を開けて廊下へと出た。

「ガハッ!」

 私は今見ている光景に驚愕し、絶句した。正規兵のようなものたちが寄ってたかって楓を殴ったりけったりしている。

 憑依する余裕をなくすほどに彼女を追い詰めていた。

 楓の顔はボロボロであざだらけ。ほっぺがおたふくの様に晴れていて唇を切って出血もしていた。よく見ると額からも血を流している。

「あそこで何を見た!何があった!最強なる兵器はどこへやった!言え!」

 正規兵のような人物が怒号交じりで問いかける。楓は「知らない」と言い通すも正規兵のようなものが一方的に殴ったりしている。ほぼほぼストレス発散で殴ったりしているみたいだ。

 よく見ると、正規兵のようなものたちが持つ銃は日本の物じゃなかった。ロシア製のAKシリーズの銃器。間違いない。「日本赤軍」だ。日本赤軍はロシアに支援され、一部の正規兵が謀反を起こし離反した独立の軍隊。残虐かつ非道で共産主義者しか受け入れない組織。

 そんな残虐な組織が存在しているというのは知っていた。でも初めてこの目で見た。楓を助けなきゃ。でも体が動かない。

 私は頭の中で何度も動けと叫んだが体が動かなかった。

 楓が目の前で死んでしまう。私は目の前で大切な人間を見捨ててしまうのか。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!守らないと、なんとしてでも!

 私が刀を手放そうとした瞬間、またあの上げしい頭痛が襲った。そして逸れて同時に懐かしくもある存在しない記憶がフラッシュバッグする。

 目の前でリンチにあっている軍服を着た少女。そしてその少女は多国籍の軍隊にリンチにされて今にでも死にそうになっている。そんな記憶が今の情景と重なった。

「刀を抜け。椛よ。目の前の敵を切り伏せろ」

 またあの謎の声が頭に直接響いてくる。しかしその声のおかげで私はまた救われた。体が軽くなり、頭痛も鎮痛した。

 私は小銃を捨てて刀を抜刀した。

「おい・・・」

 私は低い声で腹の底からの殺意を乗せて言い放った。

「あ?なんだ?」

 日本赤軍の兵士がこちらに振り向き小銃を構えた。

「私の友達にそれ以上触るな・・・!ぶち殺すぞ!」

 私は楓をこんなになるまでひどく扱った怒りを言葉に乗せながら乗せて蜻蛉の構えを行う。

 額にビキビキと青筋が立っていくのが分かる。頭に血が上っていき体温が上昇するのが分かった。

 こんなに怒りをあらわにしたのは初めてだ。

「よくも、よくも私の友達を・・・親愛なる友人をこうなるまでやってくれたな」

 私は刀に意識を集中させて斬り込みの体制に入る。

 刀身からは紅色の炎が纏い、覆いつくした。

 相手を殺すという意識が大きくなればなるほど、炎が燃え盛っていくのが分かる。

 まさかこれが能力開花の引き金になるとは思ってもいなかった。さて、どうしてやろうか。

 目の前の赤軍兵士たちは銃を構えながら私の気迫に押されて後ずさりしている。しかし、お前ら、「赤軍兵士諸君ら」がどうなろうと知ったことではない。今の私にそんな余裕は持ち合わせていない。

 私は右足を力いっぱいに一歩踏み込んで、蜻蛉の構えのまま言い放つ。

「贖罪の時間だ。覚悟しろ」

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