89話 31枚
「王都の援軍は間に合わない」
俺が言ったその一言で皆がシンと静まった。その静けさを破って俺は口を開いた。
「そう思っておいたほうがいい」
皆が俺の顔を見る。
「とりあえずギルドの指示を待つとしても、出来る準備はしておこう」
「準備とは? 私たちにゴブリンを倒す力はありませんよ」
「ふむ。この教会に地下室はありますか? 子供たちが隠れられるような部屋、神殿でもいい。あと、明日にでも食料と水をある程度そこに運んでおく」
「地下室なら、今は使っていない地下倉庫がいくつかあります」
「ああ、あそこなら少し片付ければ3部屋は使える」
「3部屋あれば多少窮屈だが、皆が隠れることができるでしょう」
「食料はどうしましょう今、そんなにお金は」
「私の名前で後で払うといって何とか買えないかね」
司祭とシスターが小声でやりとりをしているのが聞こえた。俺はあっちゃんたちの顔見ながら
「俺たちがお世話になるお金を今渡してもいいよな?」
最近合流したばかりの西村さんと新田さんは意味がわからない顔をしていたが、あっちゃんたち初期メンバーの4人は理解したようで、頷いてくれた。
「悪いね、いつも鹿野くんばかりに頼って」
なんとなく察した部長が言った。
「今日の依頼の達成料、これで食料を準備してもらえれば」
アイテムボックスから金貨をとりだそうとした。
…………あれ?
今日貰った金貨がない?
依頼の達成料を分配して、確か金貨1枚と銅貨を数枚、ボックスに入れたよな?
目の前に開いたステータスのアイテムボックスの一覧をスクロールするが、“金貨“がない!
まさか落とした?いや、一緒に入れた銅貨はある。
何で?
アイテム一覧をスクロールして、気が付いた。
「31枚?」
「え?」
「は?」
「なんです? 31枚って」
怪訝な顔であっちゃんに問いかけられたが、俺はアイテム一覧から目が離せなかった。
金貨は見つからなかったが、別のものが見つかった。
『G31枚』
『G』……ゲームで使用していた通貨。
何て単位だったか正式名は覚えていない。ギールだったかゲイルだったか…ゴール?
だって、ゲーム内ではみんな”円“で例えて発言してたから。
『倉庫代の30円出し忘れるなよー』
『え、骨剣20万円? 値上がりしてる!』
『エンシェントローブが一千万円超えたってー』
『ちょっ、円インフレが止まらんw』
そう、いつも手持ちに残す倉庫代の30円は、正確には『30G』だ。
この世界に来た時もボックスには30Gが入っていたはず。
それが今はGが31枚。
……1枚増えた?
今日入れた、金貨一枚。
Gってゴールド?金貨の事だったのか?いや、ゲームじゃ違かった気がするがまぁいいか。
それにしても何で今まで気が付かなかったんだ?
そうだ、街に着いた最初の換金はポケットの小銭入れに入れたんだ。
そのあとは借家のチョコ缶に入れてた。
今回はたまたまアイテムボックスに突っ込んだので発覚に至ったのか。いや、そもそも金貨で受け取った事がほとんどなかったし。
ちなみにあのゲームは通貨は『G』の一種類のみ。
どんなに弱い魔物を倒しても落ちるコインは『G』だった。
てか俺、それなら30金貨持ってたって事かああ?
それ、超金持ちだったんのでは?
「グッジョブ俺!」
「どーしたんですか? カオさん」
「どーした? 鹿野くん」
突然黙ったかと思うと急に喜び出した俺を皆んなが不審な顔で見つめてた。
「あ、いや、すまん。なんでもない」
アイテムボックスからGを数枚取り出してシスターに渡した。
「これで食料とか足りるか?」
「まあ、こんなに。ありがとうございます」
シスターがお金を受け取り頭を下げた時、ドアのノックの音が聞こえた。
近くにいた西野さんがドアを開けるとそこには、マルクを抱っこしたアリサが立っていた。
「マルクが起きちゃって、また泣き出しちゃって」
「ぅわあぁん、かぁたん、わぁぁぁん、ヒッグ……わぁん、ヒグッ」
「どれ、こっちおいでマルたん」
マルクを抱いてあやしながら、今夜はお開きで各自部屋に戻る事になった。
マルクはアリサがいた部屋ではなく、俺らの部屋で寝かす事にした。
金貨30枚あれば(今ちょっと使ったけど)、次の借家はもっと大き目のものが借りられる。
やったぜ!
だが、その前に、ゴブリンの氾濫かぁぁ。
何だかジェットコースターに乗ってる気分だ。
俺は平坦な乗り物が好きなんだ、しかもあまりスピード出ないやつ。
はああぁぁぁ。




