81話 乗っ取られた?
泊まりがけの依頼を受けたと言って家を出たのに、その日のうちに帰宅する事となった。
3係の土屋達に占拠されているあの家に帰るのは気が重い。
今日の稼ぎでとりあえずどこかに一時的にでも引っ越せないだろうか?
ギルドで他の借家か宿屋の話をゴルダに聞くつもりだったが、ゴブリン騒ぎで聞き忘れた。
まぁ、覚えていても聞ける雰囲気じゃなかったけどな。
そんな事をつらつら考えているうちに家に着いてしまった。
「ただいま…」
ドアを開けると、そこには。
そこには!
新たに3係の押尾係長と菊田さんの男性2名と4係の西野さんと新田さんの女性2名、計4名がリビングの椅子に腰掛けていた。
その4人としばし無言で見つめ合った。
「…………どうも」
「あ……ど…も」
「こんにち…は?」
「すみません、お邪魔してます」
「あ、あぁ、どうも……?」
思わず挨拶を返してしまった。
「あの、あの! 3係の土屋さんに誘われて、こっちに移って来ました」
「……あ、そうなんだ? …………えぇと? 土屋さんからどう聞いたかわからないけど、もともとここは8人で住んでたから、6部屋しかないんだ」
4人はちょっとバツが悪そうに俯いた。3係の土屋らと違ってこの4人はあまり人と群れずにひとりで仕事をしていたイメージだった。
群れたがる大量のパート達の1係やママ友社員で纏まりたがる2係などからは受けがイマイチな人たちだった気がする。
だから“開拓村グループ”にも入れてもらえなかったのだろう。
勝手に部屋を物色した土屋らと違い、いく場所に困ってた時に土屋に良いように言われて来てしまったってとこか。
「あの……少しの間でいいのでここに住まわせてもらいたいんですけど」
新田さんがおずおずと切り出した。他の3人も俺の顔をジッと見つめる。
俺は小さくため息を吐きながら答えた。
「6LDKに8人で住んでたところに、16名増えて全部で24名。6部屋と言っても2階はベッド一台ずつのシングル部屋、1階は多少広い部屋がふたつ。2階が2、2、2、2で1階が3、3として頑張って詰め込んでも14人、どう考えても24人は限度超えてるな」
「24名?」
「土屋さんは16人って言ってたんだけど…」
「うん。だからあと4人増えて20人だからリビングで寝ればいいって」
「はあああ? 16? ああ、それ、俺とこの街の子らをはぶいた人数だな、きっと。もともとこの家は俺もその子らも最初からいたんだが」
土屋のババア、俺を省くのはいつもの事だがアリサ達までよけるとは許せんな。
西野さん達のせいではないので怒りを抑えつつ話を続けた。
「どっちにしろ部屋に入りきらないでしょ」
すると新田さんがリビング横の元俺の部屋を指差した。
「ん?」
4人が妙な顔つきで頷きあっている。なんだ?どうした?と疑問に思いつつ元自分の部屋へ近づくと何故かドアの中から話し声が聞こえた。
ガチャ
そこには3係の女性社員の立山さんとパートの上戸さん、飯星さん、神島さんがベッドに座って話していた。
突然ドアを開けた俺を見て一瞬バツが悪そうに俯いたが、すぐに気を取り直したように顔上げて話し始めた。
「二階の部屋が狭いってぇ、追い出されちゃったのよぉ」
「ハケ、鹿野さんがひとりで使って図々しいって」
「あ、私達じゃなくて土屋さんが! 土屋さんが怒って……だから私たちがこっちを使うことになって、で、部屋を引越して」
いやいや。昨日から俺を締め出してたじゃん。最初から勝手に決めとるんじゃん。
「土屋さんに言われたらしかたないじゃない?」
しかたないじゃない?じゃないだろが!
「この家の家賃は当初グループの8人が出している事、聞いているか?」
「えぇとぉ……でも、土屋さんに言われたら、ね?」
「ねぇ?」
「ハケン、あ、鹿野さんは男性だし、リビングの床でも寝られるでしょ?」
神島さんが指差した先を見ると、そこには6係の男性社員の渡辺さんと大山さんが台所の釜戸に近い床に寝転んでいた。
追い出されたんかい!弱いぞ、男性社員……。
はぁ。ため息しか出てこんな。
「わかった。どうぞ、ここをお使いください」
そう言ってドアを閉めた。
気になって、元アリサ達の部屋をノックして開けてみた。
そこには3係の女性社員の田端さんと上野さん、5係の女性社員の北本さんと上尾さんの4人が床に作った寝床に座っていた。
それにしても1階がずいぶん混み合っているような。
一階の2部屋に8人、リビングに6人で14だろ?
あっちゃん達除くとあいつら全部で16人だから、残りはふたり。
まさか?
「2階の一番左の部屋は土屋さん、その隣は中倉さんが使ってます」
新田さんが俺の言いたい事を察して口に出した。
「24人で6LDKなのに?ふたりが個室? ハァッ?」
思わず声が裏返った。呆れを通り越して考えるのが疲れた。
すぐに出て行こう。出来るだけ早く。と、心の中で誓った。
とりあえず今夜はリビングで寝るとしてもまだ早い時間だ。
ヨッシー達は仕事か?戻ったらあっちゃん達と作戦を立てたいがこの家だと狭すぎる。市場で早い夕飯食べながら今後の話をするか。
みんなに連絡をしようとステータスを開き、メールの文章を考えていた時、突然フレンド申請が飛んできた。
ニシノトモコ……西野友子?
ん?目の前のテーブルに座っている4係の社員さんからフレンド申請がきた。
承認を押した。
俺のフレンドリストに西野さんが加わった。
ナカマツアツコ
オオモリユイ
イシハラヨシノブ
オダユウスケ
ヤマカワジロウ
ニシノトモコ
ちなみに”ヤマカワジロウ“は山川部長、神殿にいる苦労人の部長だ。
さらにもうひとり申請が来た。
ナオリン
誰だよ!ナオリンって。いや、承認するけどさ。
ポチ
まぁ、たぶん目の前にいる新田さんだよな。
確かフルネーム……新田菜生だったはず。
ちなみにフルネームを知っているのは変態ストーカーだからとかじゃないからな!
3係の総務の仕事をよく手伝っていたので、名簿やら座席表やら何かを作成していたからだからな。
あれ?
でも、新田さんのステータスネームって“ニッタナオ”じゃなくて
“ナオリン”なんだ。
と思ってたところに新田さんからメールが届いた。
『迷惑かけてごめんなさい。そんなに長居するつもりはないから少しだけ、リビングの隅にいさせてください』
同じようなメールが西野さんからも届いた。
『ごめん! 少しだけ居させてください。迷惑かけないようにしますのでお願いします』
キッチンのかまどでお湯を沸かすフリをしながら2人にメールを返した。
『この家はあと2、3日で家賃が切れて住めなくなります。貯めて置いた家賃を土屋達に使い込まれてしまいました。俺たちは、明日か明後日にはここを出ると思います。まだ話し合っていないけれど、家賃が貯まるまで教会か神殿でお世話になろうかと考えています。もし良ければですが、一緒に行動しませんか?考えてみてください。返事は急ぎません。』
常識がありそうなふたりには真実を話しておこう。土屋らに巻き込まれたらかわいそうだからな。
仕事ではほとんど関わったことは無かったが、あの非常識の塊の人達に揉まれた常識人はキープしておきたい。
それからあっちゃん達にもパーティ念話をおくった。
『ただいま。ちょっと問題が発生して泊まりがけの依頼が中止になった』
『おかえり〜。問題って? 大丈夫? 怪我した?』
『いや、大丈夫。ところでみんな、今どこ?』
『私とユイちゃんとアリサちゃんとマルたんは、今、散歩に出てるー。ずっと狭い部屋だとマルたんがかわいそうだから』
『俺とユウスケとダンは3人で掃除の仕事受けてる最中』
『もう少しで上がれそうですね。いや〜強化魔法すごいです』
『問題って何があったんですか?』
『あとで話す。部屋にまだ荷物とか残ってるか?』
『ん〜ん、私の収納に全部入ってる。と思う』
『男性陣のも?』
『おう。言われたから全部預けてある』
『そっか、じゃあ今後の事を少し詰めて話したい。早めの夕飯は市場で取ろう。この土屋魔殿と化した家ではゆっくり話せん。あっちゃん達はそのまま市場に向かってくれ』
『ププ、土屋魔殿。わかったー。中央の噴水集合でいい?』
『オッケー噴水で。ヨッシー達も仕事終わったら土屋魔殿に戻らず市場に直接来てな』
『わかりました』
『いや、終わったら念話するから迎えに来てね、お願いだからな。テレポートで』
『あはは、はいはい。じゃ、念話待ってる。俺もこれから市場向かう』
という事で市場に全員集合となった。
さらば 土屋魔殿よ。




