74話 「来ちゃった」だと?
竜の慟哭の子らと街の外に狩りに出てさっそくイノシシを3頭狩った。よっし!次!と思った時、バルトロから待ったがかかった。
「一旦街に戻りましょう」
「えーまだ狩り始めたばっかじゃん」
「バカね、これ以上狩ってもどうやって持って帰るのよ」
ふむふむ。俺がアイテムボックスに収納する、と言いかけたがやめた。
俺のアイテムボックスを使えばいくらでも狩りは続けられるが、この子たちにとって良い事とは思えなかったからだ。
普通に考えてランクDだとこれ以上はオーバーキルになる。
「一旦帰ってイノシシを換金しようか」
俺がそう言うとヒューゴも素直に従ってくれた。
「だな。イノシシを担いで草原を移動とかキツイだろうし」
「そうよー。イノシシ担いで移動中にゴブリンに襲われたらひとたまりもないからね!」
「戻りましょう! ゴブリン討伐はまた明日来ましょう!」
「そうだな。また明日一緒に頼む」
「はい!」
「おう!」
「ええ!」
そうして俺らは街へ、ギルドに戻りイノシシを換金して今日はいったん解散した。
「ただいまぁ」
借家のドアを開けながら、ふと思い出し憂鬱になった。
そうだ、あいつらがいるんだった。3係のパートのおばちゃん、土屋と中倉。
俺が働いていたやまと商事、事務統括本部は6つのチームがあった。
1係は50名のパートだけのチームで、評判はすこぶる悪かった。
働かない上にワガママを競い合っているような濃いおばちゃん達が大量にいる、社員さんには仕切れないだろう恐ろしいチームだ。
仕事はどうなっているんだ?といつも謎だったが、若いパートさん(長続きしない)が居たから彼女らが仕事をまわしていたのか?
1係は、とにかく近寄りたくないチームだった。
2係は総合職の女性社員10名のチーム。
全員が総合職ですと言うとなんかバリバリ仕事するイメージだったのだが、蓋を開ければ勝ち組みを気取る気位の高いママさんの集まりのような感じだった。
既婚、子持ち、旦那はエリート、で自分も大手商社でバリバリですという感じを醸し出していた。(口にも出していた)
バリバリですって言う割に仕事はしてなかったよな?
お昼を2時間以上とるのは当たり前、何かにつけて子供が子供がと、子供をだしに遅刻早退欠勤のし放題と聞いた。
そのくせ周りは見下している。独身派遣の俺なんてクソゴミ以下、ゴミ虫のように見下されていたからな。
いや〜近寄りたくない。そう言えば2係から大量の仕事をよく押し付けられたなぁ。
4係は何年経っても「私達、新人だから〜〜」が口癖でしょっちゅうミス連発する自称『新人』の三人娘がいたな。
4係の係長であったユースケがミスのフォローに振り回されていたのを思い出した。(俺は心の中で『ミス新人』と呼んでいた)
5係はひとの悪口を言う時だけつるむお局3人衆がいた。
この3人が特に凶暴で、自分のチームだけでなく他のチームの気に入らない人の悪い噂をばらまいて辞めさせたりしてた。
俺の悪口もかなりばら撒いていたが、お生憎さま、俺は辞めなかった。性格が悪いやつの口から出た悪口は、つまりは褒められたって事じゃないか?俺、前向き、
5係の係長だったヨッシーからよく詫びを入れられた。
「スマン……俺にはどうにもできん、あいつら……」と涙目で言われた事が何度かあった。気にするな。
6係は俺が所属していたチーム。
悪い人じゃないんだがみんな覇気がないというか、仕事なんてどうでもいいって人が多かった。
男性も女性も無気力?というか仕事に無関心でプライベート優先、それで給料が貰えてたのだから羨ましい事この上ない。
その中で俺はひとりで仕事をキリキリこなしていた。あっちゃんやユイちゃんが転勤してきてからは仕事がすごくラクになった。いい子が来たなぁ、ありがたや。
6係の係長の『島』は、異動してきたばかりの頃はまだそんなに酷いやつじゃなかった。だが係長になって突然変わった。
自分の意見をヒステリックに叫び、訳の分からない説教を延々とし続けたり、俺への誹謗中傷メールを6係全員宛に送ったり。
何がしたいんだか。
島が係長になるまでは忙しくてもそれなりに楽しく働いていたんだがな……。
で、3係はメインの仕事が総務関係なんだが、男性社員は押尾係長と菊田さんの2名。女性は社員が3人、パートが5人の計10名のチーム。
3係さんは事務フロアに居ない事が多かったなぁ。ただ、特に目立った個性(嫌な奴)の人はいなかったように思ったのは他の係が凄かったせいか?
いや……席に居ない時間が多かったから気がつかなかっただけかもしれない。3係からもそこそこ仕事は回ってきた。総務の仕事は多岐に渡っていたので俺は好きだったな。楽しんでお手伝い(?)してた。
今回勝手に俺らの借家に来たのは3係のパートの土屋と中倉、それに社員の立山さんだ。
若干申し訳なさそうにしていた立山さんは土屋達に連れて来られたってとこか。
あっちゃん達の言動からしてもしかすると3係のパート達も1係に負けない感じなのかもしれん。
そう考えたらものすごく疲れた気分になった。
あぁ、顔合わせたくないなぁと思いつつリビングへ向かうと、そこには誰もいなかった。
あれ?夕飯のしたくは?これからかな?
まぁいいか。かわいいマルたんの顔を見て癒されよう!と思い、リビングの隣のダンの部屋の扉をノックした。
「アリサ、ただいま。マルたーんただいまぁ」
ん?
返事がないのでトントンとノックをしてから扉を開けるとそこには!
「あ……ども…」
え?
何で渡辺さん達がダンの部屋に?
2階のユースケ達の部屋にそれぞれ入ったよな?疑問に思ったので聞いてみた。
「何でこの部屋にいるんだ? てか、じゃあ、ダン達はどの部屋にいったんだ?」
呆然とした俺を尻目に渡辺さんが部屋のドアを閉めた。
「ちょ! ちょちょっと! 無視してドア閉めるなよ、何? 部屋替えしたの?」
もう一度ドアを開けながら叫んだ。
俺の声に気がついたあっちゃん達が2階から降りて来た。
「カオさああん」
あっちゃんの目が若干、赤く腫れている?何?どした?泣いた?
あっちゃんの後ろには怒り顔のユイちゃんと、不満顔のユースケと、不機嫌なヨッシー、戸惑い顔のダンと不安そうな顔でマルクを抱っこしたアリサが次々と階段を降りて来た。
リビング横の元ダン達の部屋だった扉が閉まった。渡辺さんがまた閉めたようだ。
自分達の話なのにそのままバックれるつもりなのか?
「おばちゃんらは? 部屋?」
「いや、そこの2人以外は風呂に行った」
風呂おおおお?
不機嫌顔のままヨッシーがリビングの椅子にドンと腰かけた。あっちゃんは怒りMAXの顔でテーブルをバン!と叩いた。
「カオさん! 聞いてくださいよ!」
美人が怒ると迫力あるなぁ。
マルクはアリサに抱っこされていたが、その音にビクついて俺の方に両手を伸ばして来た。
アリサからマルクを受け取ると、マルクはギュっと首にしがみついてきたので、安心させるように背中をポンポンと叩き、ゆっくり揺すりながらさすった。
ユイちゃんが台所の棚に置いてあった缶を持ってきて蓋を開けてテーブルの上に逆さに振った。
「カオさん、見てください、これぇ〜〜」
缶の中はカラっぽだった。
「え? 何でカラ? 来月の家賃と今週の生活費は?」
あっちゃんがくっきり二重のおっきな目をさらに見開いてふるふるとしていた。
「土婆達が全部持ってっちゃったんですよ!」
土婆……。
あ、土屋のあだ名、”土婆"か。ふむ、ナイスチョイス。いや、そんなことより、缶に貯めていたお金 全部?
「来月の家賃もですよ! もう!もう!もう!」
落ち着け、あっちゃん、牛になってるぞ。そんなに怒ったら胎教に悪いぞ。
「俺ら3人が仕事に行ってる間に土屋さん達が神殿に行って残ってた3係の5人を勝手に呼び寄せたんだとよ」
ええと、3係の5人って、女性社員の田端さんと上野さん、パートの上戸さん飯星さん神島さんか?
「さんづけなんてしなくていいです! 土バアで十分なんだから!」
「あっちゃんと私とアリサちゃんが外で洗濯物干してる間に缶のお金を全部持って行っちゃって」
「え……と、今、風呂だっけ?とにかく戻ったらお金を返してもらおう」
そう言ったら、あっちゃんがさらに身体をブルブルさせて高い声で叫んだ。
「それが! 神殿に呼びに行った帰りに! 使ったって!」
「10人で買い食いして、服とか色々買ったって」
「え? 待て、10人? 10人ってどゆこと?」
昨夜来た3係の女性3人と追加で呼び寄せた3係5人の合計で8人だよね?
「土婆が呼び寄せた3係の5人と……」
「スマン。うちの2名が土屋さんについてきたらしい」
話し始めたあっちゃんにヨッシーが申し訳なさそうに話を追加した。5係の女性社員さん?
「北本さんと上尾さんが、3係が神殿から出る話を聞きつけてついてきたらしい」
「土屋さんと北本さん達って別に仲良くなかったですよね? 何でついてくるのを土屋さんが許したんでしょう」
「ユイちゃん、土バアにさん付けは不要だよ。どうせ土バアの事だから、味方増やしてここ乗っとる気なんじゃない?」
「ああ、ありそう」
「ありがち」
「ありますね」
「あるな」
え、何?皆んな揃って。
「いやもうビックリだよ。俺らもさっき仕事から戻ってきたとこなんだけど、いきなり7人も増えてさー」
「ひどいんですよ!」
怒ったユイちゃんを見るのは始めてかも知れない。キレっキレに怒ってるな。
「いきなり7人連れて来て、アリサ達を部屋から追い出して!」
ああ?なんじゃそりゃ!それは俺もキレるぞ。
「とりあえずアリサとマルクを私達の部屋へ入れて、ダンは石原さん達が戻ったら一緒の部屋にしてもらったけどー。ズーズーしいにもほどがあります」
「土バアのやつ、カオさんの部屋を使えばいいって、いないから使ったもん勝ちとか言ってるし!そこ、鹿野さんの部屋だから勝手に使ったら殺されますよって言っておきましたよ、カオさん!」
あっちゃん、黒いオーラが漏れてるよ。
てか、俺に殺されるって、俺いったい何者よ。
結果、部屋の大移動になったそうだ。
2階の左端201号室にあっちゃん、ユイちゃん、アリサ、マルク。
その隣の202号室にヨッシー、ユースケ、ダン。
203号室に3係の上戸さん、飯星さん、神島さん、
204号室に3係の土屋さん、中倉さん、立山さん、
1階の右側の部屋は6係男性の渡辺さん、大山さん、
1階の俺の部屋は、3係の上野さん、田端さん、5係の北本さん、上尾さん、となったらしいが、一悶着あったのは聞くまでもない。
てか、俺の部屋無いし。
もちろん、今夜はヨッシー達と同室だ。狭いが仕方がない。
いや、リビングで寝てもいいか。
あっちゃん達に食事はどうしたのか聞いたら、以前にあっちゃんのアイテムボックスに入れたパンとリンゴを7人で分けて食べたそうだ。
うぅぅむ、明日からもまだゴブリンの依頼で、その後も7日間の遠出になる予定なんだけど、どうすっかなー。
とりあえず何か手を打っておかないとな。
「その部屋の2人以外は、全員風呂に行ってるのか?」
そう言って元ダン達の部屋を顎で差した。
「そうです! 盗んだお金で! お風呂の後食事してくるそうです! 盗んだお金で!」
「そこの2人は何で行かなかったの?」
「風呂より休みたいって」
「てか、土バアたちに置いて行かれた感じ」
「ふむ、ちょっと2階に行こうか。あっちゃんの部屋で話そう。あっちゃん立ちっぱなしだしお腹の子に良くないよ」
「カオさあ〜ん、ふえ〜〜ん」
あっちゃんが涙目で抱きついてきたので頭をヨシヨシと撫でたら、マルクも真似してあっちゃんの頭をヨシヨシしていた。
ひと部屋に大人5人子供も3人、入るとマジきついな。それぞれ適当にベッドや床に腰かけた。




