表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/222

70話 部長の苦悩は続く

 この世界で暮らし始めて1ヶ月がたった。



 あれから1ヶ月という事は、神殿宿泊組のやまと商事の社員達はそろそろ追い出される頃か?


 確か、食事と寝床の面倒は見るけど1ヶ月の間に自立してくれ、とか言う話だったはずだ。


 全員自立は出来たのだろうか?



 まあ俺にとってはどうでもいい話だが、“やまと"の社員であったヨッシー達はやはりちょっと気になるようだった。

 明日は日曜日(地球暦)で仕事もしないし、ヨッシーとユースケは部長のところに顔を出しに行くそうだ。


 ダンはスラムの知り合いに剣を教えてもらいに行くそうだ。

 残り俺達5人(俺、あっちゃん、ユイちゃん、アリサ、マルク)は

明日は「市場めぐりと甘いもの探し」に出かける事になっていた。


 そう。来月の家賃もキープできたし、食器も最低限揃えた。

残った缶貯金から一週間分の食費を除き、残りを全員に分配した。

 初の分配金!(マルたんの分はマルたん缶貯金箱を作って入れておいた)


 それで特に用事のない5人で市場にスイーツ探しに行く事になったのだ。

 この世界のこの街のスイーツとかデザートを探そう!と昨夜盛り上がった。(主に女子が。)



 ダンを除く俺達7人はテレポートでまず神殿裏へ到着した。


 ヨッシーとユースケは神殿の中へ、俺たち5人は大通りの向こう側、小道を入って市場へと向かった。

 各自銅貨5枚(推定500円相当)を握りしめて市場の中を四方向に散って行った。



 マルクを抱っこした俺はスキル:クンクン(注:そんなスキルはない)を使い市場をうろつき始めた。


 クンクン、クンクン、

 うむ、あっちだ!

 あっちから甘い匂いがするぞ!


 マルたんが俺の真似をしてちっさな鼻をクンクンさせるのが可愛い。

 スキル:オヤバカ発動中(そんなスキルはない)





 俺らが市場を散策していたその頃、ヨッシー達は神殿で部長と会っていた。


 だいぶやつれた感じの部長が目尻にシワを寄せて笑顔でふたりを迎え入れた。



「ふたりとも元気そうでなにより。生活はどう? 仕事は見つかっているの?」


「はい。おかげさまで5人で何とかやってます」


「ギルドで仕事もらって、あーと、日本で言うところのフリーターに近いですけど、日々のバイトで生活はまぁ一応安定しているのかな」


「女性達はどう? 中松さんは妊娠中だったでしょ? 体調は問題ないの?」


「街の産婆さんを一度訪ねて、今のところ問題なく順調って言ってもらってましたね」


「大森さんは大丈夫? あの子は前の営業所で色々やられて体調崩してうちに来たんだけど、寝込んだりしてない?」


「いや、特に具合が悪そうとかないですね、みんな元気に頑張ってます」


「うん、だよなー、どっちかと言うとやまとで事務やってた時よりみんな楽しそうだよな? イキイキしてる感じです」


「カオ、あ、鹿野くんの影響かな? みんな引っ張られて楽しそうですよね?」


「ああ、鹿野くんね。彼と一緒だから心配はしてなかったんだけどね。鹿野くんは派遣にしておくのが勿体無いくらいアクティブでバイタリティに溢れてたでしょ。6係でもいつも前向きにどんどん問題を解決してたしね」



 部長は目元のシワを深めて嬉しそうな顔になった。



「うちのお局3人組の攻撃も難なく躱してましたからねー」



 ヨッシーが自分のチームにいた問題児のお局3人を思い出しながらシミジミとこぼした。

 ユースケも思い当たったように口を開いた。



「あぁ、石原さんとこのあの3人は、ちょっとすごかったですね。いろんな人を追い出したり病気にしちゃったりして。石原さんには申し訳ないけど、僕のチームでなくてよかったっていつも思ってました。僕にはあの3人は御せませんから」



 聞いていた部長の顔が苦笑いになった。



「うちの部はね……まぁ、その手の問題を抱えてる人が多かったからね」



ヨッシーが部長に追い討ちをかけた。



「いや、部長、問題を抱えていない人が少ないと言ったほうが早いですよ」


「まあね……」



 部長がため息をついた後黙ってしまった。

 話したい事があるけど言い出せない、そんな感じを部長から受けて、ヨッシーから部長に水を向けた。



「こっちのみんなはどうですか?」


「ここにいられるのもそろそろ終わり……では?みんな自立出来たんですか?」



 ユースケも気になっていた事を口にした。



「それなぁ……そうなんだよな。困ったよ」



 部長がさらに大きなため息をついた。



「あと何人残ってるんですか?」



 この世界に来たやまと商事の社員は102名、たしか、開拓村に行ったのが80名と聞いた。

 俺ら5名と部長を除くと、残りは16名。16名のうちあと何人残っているんだろう?



「あー…………、残っていると言うより、まだ誰も自立していないよ」


「え? 誰も? ひとりも? ええ?」


「誰もですか?!」



 部長の告白にヨッシーもユースケも仰天した。


 期限内に自立出来ない人がひとりかふたりはいるかもしれないと思っていたが、まさか全員とは。

 全員がまだ神殿でくすぶっていたとは、さすがのふたりも思いもしなかった。そりゃあ、部長の顔色も悪くなるわ。


 部長がポツリポツリとこのひと月の事を話し始めた。



 とりあえずここにいる全員を連れてギルドに行った。登録もさせた。しかし一向に仕事を探しに行かない。


「足が痛い」

「頭が痛い」

「気持ち悪い」

「お腹が空いて働けない」

「風呂に入っていないから人に会いたくない」

「着替えがなくてずっと同じ服だから臭くて嫌」

「夜眠れないから昼間眠い」

「元の世界に戻りたい。ここは嫌だ」

「何もしたくない」



 キリがないくらい言い訳をする。

「働かないと生きていけないぞ」とギルドまで付き添って、仕事を受けるのを確認して送り出すが、1時間もせずに戻ってきてしまう。


 何度ギルドから呼び出された事か。いい年をした大人がこんなに何も出来ないなんて、この世界に来て改めて驚いたという。


 ギルドはこちらが稀人ということで大目に見てくれていたが、仕事先へのフォローをするのもあと数日、神殿にいる間だけだと言われてしまっていた。


 それ以降は仕事先とのトラブルは自己の責任において解決するようにと、きつく言われてしまったのだ。



「もう、本当に困ったよ」



 部長のあまりの落ち込みぶりにふたりは何も言えなくなってしまった。

 さらに部長はふたりに思いっきり頭を下げてきた。



「本当に申し訳ないんだが、とりあえず2人、そっちで預かってもらえないだろうか」



 部長の憔悴があまりに激しく、ヨッシーたちはとても断ることは出来なかった。

 うちで引き受ける事になったのは6係の男性2名、渡辺さんと大山さん。


 残った16名の中で“害”にならず、かつ鹿野くんと敵対しない人物として部長は選んだらしい。


 4係の女性、新田さんと西野さんは住むところは見つからないがギルドで少しずつ働き始めてはいるようだ。


 5係の女性社員の北本さんと上尾さん、3係の押尾係長と菊田さん、女性社員の立山さん、上野さん、田端さん、パートの土屋さん、中倉さん、上戸さん、飯星さん、神島さん。

 この12名がどうにもならない状態らしい。



 困り果てた部長に断る事が出来なかったヨッシーとユースケそれぞれが自分の部屋にひとりずつ受け入れる事で渡辺さんと大山さんの受け入れを了承した。

 しばらくは床で寝てもらおう。



 ヨッシー達は気が重いながらも市場から戻ったスイーツ探索組にこの話をした。


 が、思いの外アッサリと了承された事に驚いた。

 スイーツ組で、何となくそんな事になるかもしれないと話が出ていたそうだ。



「たぶんそうだろうと思ってたー」


「ですよね〜」


「いや、でも思ったより人数少なかったな。ふたりかぁ」



 部長に借家までの道を説明してヨッシー達は神殿を出たそうだ。

 俺らはテレポートで帰るからな。自分の足で訪ねてくるぐらいの労力は見せてほしい。




 その日の夕方のことである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ