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57話 異世界人とシェアハウス

 ドンドンドン


「こんにちは、すみません」



 ドアを叩く音と女の子の声に気がつき、扉を開けるとアリサが立っていた。


 アリサの後ろにはアリサより少し年上の少年がいて、こちらを警戒したような目つきで頭をペコリと下げた。



「おう、よくきたな。入れ入れ」



 アリサと兄ちゃんを家の中に招き入れた。

 リビングには全員が揃っていたのでちょうどよいタイミングだった。


 アリサは小さな荷物を背負っていて、少年は小さな子供を背負っていた。

 リビングの椅子を勧めるとアリサは荷物を床におろして、少年の背から子供を抱きとった。



「兄のダンとこっちが弟のマルクです。よろしくお願いします」


「こんちわ、ダン。俺はカオ、よろしくな」



 ダンに向かって言ったあとアリサに抱っこされていたマルクに笑いかけた。



「マルク、こんちわ」



 ダンは緊張したように強張った口調で俺達に向かって挨拶をした。



「ダンです。アリサからここで住み込みで仕事もらえるって聞きました。本当ですか? 本当だったらありがたいです」



 マルクはアリサにギュっと抱きついたままだった。



「ダン君こんにちは。マルク君こんにちは。アリサちゃんこんにちは。私は中松あつ子です。あっちゃんでいいよ」


「ダン君、アリサちゃん、マルク君こんにちは。ゆいです。よろしくね」


「俺はヨシノブ。こんちわ、ダンはいくつだ?」



 石原さんが下の名前で自己紹介をした。



「…………10歳です。でも何でもしますよ、オレ……」



 歳のせいで仕事を断られると困るとばかりにダンが慌てて言いかけた。



「お、俺の上の子と同い年か。よろしくな」



 石原さんがダンに向かってニカっと笑い、ダンは一瞬惚けたあと、ちょっと安心した顔になった。



「僕は祐介です。ダン君よろしくね。マルク君はいくつなの?」



 織田さんも下の名前を名乗った。



「マルクはたぶん……2歳くらい? スラムの俺らがいたボロ家の前に捨てられてたから、正確にはわからないけど。たぶん、そんくらい」



 ダンの話の内容に織田さんは悲壮な表情を隠せなかったが、すぐに気を取り直したようだった。



「そっか。マルク君は僕の下の子と同い年だ。これから一緒に住むから仲良くしてね。マルク君よろしくね」



 織田さんがアリサに抱きついているマルクの頭を優しくなでた。

 見知らぬ大きな男性の手を頭に乗せられた瞬間ビクっと頭を竦めてマルクはアリサにさらにギュッと抱きついた。


 スラムの子供たちは大人に対する警戒が身についてしまっているようだった。



「とりあえず3人の部屋に案内する」



 気まずい雰囲気を払拭するようにそう言ってリビングの東側の部屋に案内した。

 ベッドを隅に避けて畳んだ段ボールで寝床もどきを急遽作ったので、部屋はかなり手狭になった。

 まぁ、子供部屋としては充分な広さかな。



「この部屋を3人で使ってくれ」



 部屋を見たアリサもダンもビックリしていた。



「すごい! 広い!」


「大人でも5〜6人は寝られるな」



 床に作られた寝床を見てダンが嬉しそうに言った。

いや、さすがにそれはキツイと思うぞ?子供なら5〜6人の雑魚寝はいけそうだが。



「もう少ししたら夕飯にするからそれまで部屋でゆっくりしてていいぞ。それともリビングにくるか?」


「あ、私、お手伝いします」


「俺も仕事の話を聞きたいし、そっちに行ってもいいですか?」


「ふむ、じゃ、マルクひとりで寝かせるのもかわいそうだし、3人ともリビングにおいで」



 部屋に荷物を置いたアリサ達とリビングに戻った。

 それからアリサにかまどの使い方などを聞きながら夕飯の準備を始めた。


 女性陣ふたりとアリサに食事の準備を任せようかとも思ったのだが、

この世界の台所の使用方法も把握したかったので、夕飯作りに参加した。


 不明な事を不明なままにしておけない性分とでもいおうか、職場でもわからない事は即座に解明して仕事していたし。

 知りたがりというより、いざという時に困るのが嫌なのだ。


 その間マルクは男性陣ふたりが抱き上げたり振り回したりと、かまいまくっていた。

 最初は萎縮していたマルクだったが、すぐに石原さん達に馴染んだようだった。



「中松さん、2歳児ってもう離乳食?」



 野菜を刻みながらマルクの食事をどうしようかと考えて中松さんに問いかけた。



「え? わかりませんよ、まだ産んでいないしー」



 そりゃそうか。リビングにいた織田さんに俺達の会話が聞こえたようで、マルクと同じ年頃の子供を持つ織田さんから返事が来た。



「2歳はもう結構食べられますよ。小さく切ったり刻んで食べやすくしてあげれば。あ、ハチミツは禁止で」



 さすが育メンだな織田さん。



 慣れないかまどでようやく食事っぽいものが出来上がった。

 現代日本の利器に慣れた3人、かなり四苦八苦のシロモノだ。電子レンジもガスレンジも炊飯器もないこの世界、食事を作るのも一苦労どころか、三苦労、いや、五苦労ぐらいか?


 フライパンもない中、鍋ひとつが大活躍だ。

 アリサがいれくれてホント助かった。




 何とか出来上がった食事をテーブルに並べ終わる。



「私達、部屋に戻りますね」



 突然アリサが言い出した。



「え? 何でだ? 一緒に食べよう? マルクのもあるぞ」



 あまりに美味しくなさそうで食べたくないのか?



「見た目はアレだけど、味はまあまあだと思う」


「鹿野さん! 失礼すぎる!」


「ごめんごめん」


「あ、でも、お金ないから……住まわせてもらうだけで充分なので」



 小さい声で言った内容は、住み込みの労働者として遠慮したようだった。

 俺はアリサの前にしゃがみこみ、アリサの目をしっかり見つめた。



「アリサたちをここに誘ったのは、住み込みの仕事もだけど、それは食事も込みだからな。一緒に生活しよう、って事」



 そう言ってから3人を席につかせた。と言ってもマルクはひとりで座るには小さすぎ、というか椅子が大きすぎたので、とりあえず俺が抱っこして座った。



 2歳児ってこんなに軽くていいのか?って思うくらいマルクは小さく痩せていた。


 手も足もガリガリだった。そういえば、アリサとダンもガリガリだな。3人を見ていて鼻の奥がツンと痛くなり危うく涙が出そうになった。



 抱っこしたマルクの小さな口にせっせとスープを運んだ。

 時々織田さんと石原さんが両側からかわるがわる、小さいジャガイモのカケラとかをマルクの口に突っ込んでいた。


 食べ終わった織田さんがマルクを抱っこしてくれたので、俺は食事をしながらダンに問いかけた。



「ダンは10歳って言ってたけど、冒険者ギルドには登録しているのか?確か、10歳から登録出来ると聞いたが」


「はい、してます。ランクは1番下のEなので街中の仕事がほとんどですけど、俺らスラムの人間でも仕事にありつけるので助かってます。ギルドに登録する前はろくな仕事がもらえなかったので」


「実は俺らも登録したばかりでみんなランクはEなんだよ。明日から一緒に仕事しような。ダンのが先輩だからよろしく頼むな」



 それからアリサに向かって言った。



「中松さ…あっちゃんはお腹に赤ちゃんがいるから無理出来ない。それでこの家で家事をする予定だが、ひとりだと何かあった時に心配だからアリサはあっちゃんの手伝いをしてほしい。マルクは部屋でお留守番だな」



「アリサちゃん、よろしくねー」


「はい、わかりました。よろしくお願いします」



 あっちゃんが元気よく手を上げて、アリサも丁寧な返事を返した。



「俺と石原さんと織田さんと大森さ、ゆいちゃんとダンの五人で明日はギルドに行って仕事を受けよう。5人で出来るのがあれば5人で、なければ別れてもいいし」


「は〜い」


「ほいよー」


「OKです」


「わかりました」



 そんなこんなで各自部屋へ引き上げて眠りについた。

 明日はギルドの初クエストか、ドキドキだな。



 ちなみにやまとでは社員は苗字で呼び合っていたが、ここが異世界である事とダン達が馴染む呼び方が良いだろうという話になった。


中松さんは中松あつ子なので「あっちゃん」

大森さんは大森ゆいなので「ユイちゃん」

石原さんは石原良伸で「ヨッシー」

織田さんは織田祐介で「ユースケ」

俺、鹿野香は「カオ」



 呼び方を統一する事にした。


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