54話 借家住人がさらに3人増
さて、5人で大通りの中央に来た時に道端の隅っこに座っていたアリサを見つけた。
「おぉい、アリサぁ!」
大声で呼ぶと気がついたアリサが嬉しそうに笑顔で駆け寄って来た。
「この街に来てからいろいろ教えてもらってるアリサ。アリサ、こっちの4人は今日から一緒に住むことになった仲間なんだ」
アリサは石原さん達を恐々と見上げながら小さい声で挨拶をした。
「こ、こんにちは」
「アリサ、俺達今日から南門の近くに家を借りたんだけど、うちに来ないか?」
「はい。何かお仕事ですか?」
アリサは仕事を頼まれたのだと思いすぐに返事をくれた。
俺はまずみんなに向かい、アリサ兄弟を家に住まわせたい事を説明した。
「実は家を借りる時から考えていたんだけど、余ったひと部屋にアリサたち兄弟を住まわせたいと思っている。アリサ兄弟はスラムに住んでいるそうなんだが、昼間は街でいろいろ仕事をしているそうだ。街の事を知ってる人が近くにいた方が色々聞けるし、どうだろ?」
2児の父親である石原さんも織田さんも、アリサが兄弟だけでスラムに住んでいるという事に衝撃を受けていた。
自分達の子供の安否が頭によぎったようで、2人とも暗い顔になった。妊婦さんで半年後にはママになる予定の中松さんは決断が早かった。
「いいと思う! 部屋あるもん」
「そうですね〜。私も賛成です」
「俺も賛成」
「僕も賛成です」
あっという間に4人はアリサ兄弟と住む事に賛成してくれた。
逆にアリサは何を言われているのかわからずキョトンとしていた。
「アリサ、スラムを出てうちに一緒に住まないか?いろいろ仕事を頼みたいから一緒に住んだ方が便利だろ?うちで住み込みで働かないか?」
「あ……でも、あ……」
「もちろん兄ちゃんと弟も一緒に。ちょっと部屋が狭いかもしれないけど、どうだ?」
アリサは驚いたような、信じられないような、嬉しいような、複雑な感情に振り回されているようだった。
「あ、住みたいです。でも……」
「ああ、うん。兄ちゃんに聞いてみてからでいい。返事は急がないからな」
「はい!」
「弟のマルクだっけ? 今もスラムで留守番だろ?まだ2歳ならうちで留守番の方がずっと安全だよ?」
「ええええ! 弟くん2歳なのぉ? それ絶対危ないじゃん!」
アリサの弟マルクが2歳でスラムでひとりで留守番している事を聞いた中松さんの顔が驚愕に変わった。
石原さん達父親陣も息巻いた。
「兄さん連れてきなよ。反対したら説得してやる!」
「とにかく弟くんを連れていらっしゃい。ひとりで留守番なんて何かあったら大変ですよ」
あいにく兄ちゃんは今日も朝から仕事に出ていて夜にならないと戻らないらしい。
アリサには生活必需品のお店の場所だけを聞いて別れた。アリサは案内をすると言ってくれたが、みんなが、早く弟のとこに帰れと説得した。
俺達は残り少ないお金で必要最低限の物だけ購入して、6LDKの我が家(借家だが)へ戻った。




