43話 閑話 部長の憂鬱② 山川部長
-------(山川部長視点)-------
フロアのざわめきが突然静まった。
何事かと顔を上げて見回すと、フロアの南側、南非常口から変な一団が入って来ていた!
何だ、あいつら……。
中世ヨーロッパに出てくるような甲冑と鎧を着ている。腰に剣、槍のような物を持っている者もいる。
ここがいつもの職場なら、TVのドッキリ撮影か?と思うところだ。
だが、窓の外が樹海だからなぁ。ドッキリだったら手が込みすぎだ。
欧米人のような顔つきの彼らが流暢な日本語で叫び始めた。
「この中にあなた方をまとめる世話役かリーダーはおられるか」
すごく大きな声だ。
「急いでいるのだ! こちらの言葉がわからぬのか!」
外国語のようだが耳に入って来た瞬間には何故か日本語に変換されている。
さすが近未来?翻訳こんにゃくいも……?
一瞬固まってしまったがすぐに名乗りを上げた。
「私がここのリーダーですが、貴方がたは?」
しかしそれには答えず、とにかくここは危険であるからすぐにでも安全な場所まで移動するという。
騎士の隊長らしき者の顔からも、本当に切羽詰まった状態であることがうかがわれた。
半透明ステータスボードにSF的と思いきや、中世代的な人間の出現。
何が何だかわからない状況だが、宇宙人とか謎の生き物に捕獲されるより言葉が通じるだけマシか。
「長谷川くん」
近くにいた副部長に声をかける。
とりあえず彼らに従い危険らしいここから避難する事にしたので各係に指示を出すように促した。
各係点呼で人数を確認次第、1係から順に避難をさせることにした。
が、1係は契約社員のみの50人で誰も取りまとめる者はいない。
普段の仕事上の取りまとめは2係の総合職の正社員達だが、2係は自分達の点呼を終わらせて脱出を待っている。
騎士達に急かされ、仕方なく2係から脱出させる事にした。
「長谷川くん、1係はまだかかりそうなので2係から脱出させる
先頭を頼む。私は6係まで出たらしんがりを行く」
「はい、わかりました」
長谷川くんは不安を隠さず、だが返事をして2係を率いて騎士達が入ってきた南非常口から出ていった。
3係の係長を呼ぶが点呼がまだという。
石原くんの4係と織田くんの5係が点呼済みのようでスタンバイしていたので、続けて出発させた。
2、4、5係の脱出を見て焦ったのか、3係も慌てて点呼を終えてやってきたので、出発させた。
50人の1係は相変わらず大混乱。
6係はどうした?あそこの島係長はこれまた使えないやつだからな。
残った6係に点呼を急ぐよう声をかけつつ、1係の点呼は私が行っていた。
緊急連絡簿を見ながら順に名前を呼んで並ばせた。
島くんから6係の点呼が終わったとかけられた声を聞いた途端、1係の女性達が我先にと非常口に向かった。
それを見た6係も非常口に詰め寄った。
おい!
非常口でダンゴになり逆に出られない状態を横目に、1係の点呼をなんとか終えた。
乗車率300%の通勤ラッシュを見ているようだった。
服や髪をひっぱったり引っ掻き傷やアザをこしらえて全員出たのを確認してから、私は最後に南非常口を出た。
樹海のように薄暗い樹々の中を大行列でマラソンしている者達の最後尾に私と騎士殿2名が付いて走った。




