40話 神託の内容と社員達の今後
ちょっと遠い目をしながらギルドを出て町の散策を始めた。
散策目的はブクマである。
ブクマとは、テレポート用の『ブックマーク』をする事。
俺がやってたゲームの移動手段である「テレポート」は、飛びたい場所に一度は訪れないといけない。
そこで『ブックマーク』をする必要があった。
一度ブクマすると一覧に載るのでその後はいつでも飛ぶ事が可能である。
「テレポート」は、WIZの魔法の「テレポート」の他、テレポートリング(指輪)やテレポートスクロールなどがある。
WIZ以外の魔法が使えない種族はリングやスクでテレポしていた。
WIZもMP(魔力)切れの事を考えてリングやスクを持っているのが普通だった。
ただ、リングやスクは本人のみしか飛べない。
だがWIZのテレポート魔法には「エリアテレポート」といった一定の範囲にいる者全員を同じ場所にテレポートさせる事が出来る魔法もあった。
なのでブクマさえしてしまえば中松さん達をテレポートさせる事も可能だと思う。試していないけどな。
この街についた時に南門はブクマした。
今朝宿出た時に西門もブクマした。
ギルドも。
あとは、北門と東門もブクマしておくか。もちろん市場も!あと、みんなに見つからないように神殿もブクマしておくか。
町中をグルグルまわり、要所のブックマークをしていった。
市場でブクマをしつつ買い食いをしていたら、中松さんより念話が入った。
『こちら鹿野です』
『鹿野さん、まだ宿にいますか? こっちは神殿出て中央の交差点あたりなんですけど、宿に向かっていいですか? あ、大森ちゃんもいます』
『あ、今ね、ちょうど近くにいるよ。大通り中央の…マップで言うと右上行くと市場があるんだけど、こっちにこれる?神殿からだと、大通りを挟んだ向かい側で大きな宿と宿の間の細い道を入って道なりに進めば市場に出るはずだ』
『わかりましたー。行ってみます〜』
市場の中で座って食べられるベンチとテーブルがある場所で待っていると、少ししてふたりが手を振って駆け寄ってきた。
昼ごはんがまだだというふたりに飲み物と食べ物を適当に買ってきて渡し、食べながら神殿での話を聞いた。
事の起こりは10日前
巫女、司祭、大司祭といった神殿や教会の関係者が同時に同じ夢、同じ神託を受けたそうだ。
その神託とは、
『7日の後、神界を渡り、あちらの世界から稀人たちがこちらの世に落ちてくるであろう。稀人はひとりであり、大勢であり、落ちる地もそれぞれである。稀人は人と同じであり、また異なるものもある。この地の者として迎え入れよ。落ちる前夜、その地の空が光を現す』
概ねこんな感じの神託だったらしい。
この国は神託を重く受け入れ、光った空の下あたりへと迎えを差し向ける事になったそうだ。
ただ、落ちる場所は前夜まで不明な上、わかっただけでもかなりの場所が光り、かなり慌てたそうだ。
俺たちのいた"死霊の森"が一番遠く、一番危なく、そして一番多くの稀人が落ちてきたそうだ。うん。102人だもんな。
また、空の光はこの国以外にも光った事が分かっている。
稀人、つまり地球人(日本人以外もいるのかな?)はこの国以外にも落ちたのだろう。
というわけで国から派遣された騎士団により近場の街まで誘導されながら保護された。
とにかく7日間という準備期間の短さと直前まで場所が不明な事、人数の不明などからかなり慌ただしかったらしいが、国としては出来るかぎりの事はしたそうだ。
しかし、何故落ちてきたのか神託にはそのあたりは明らかにされていなかったようで、俺たちが1番知りたかった事は謎のままだった。
この世界の人々にとって神の行う示唆に「何故」といった疑問を抱く事はなく、当たり前のように受け入れただけだそうだ。
うむ、「この国に召喚された」のでなかったのでホッとした。
小説にありがちの「国による召喚」の場合は、魔王や敵国と戦わされたりするからな。
それにしても、死霊の森には100人超えが落ちてきたわけで、近場の街でもいきなり100人を収納できる施設はなく、しかたなく初日は神殿の床にゴロ寝となったそうだ。
ちょうど街の近くに開拓村を作り始めていた事もあり、100名中60名程度は開拓村で生活が出来そうという事だった。
残りの40名はとりあえずこのまま神殿で寝起きとなり、朝晩の食事は神殿で賄うが、早急に仕事を探してもらい各自で自立を目指してもらいたい、との事だったそうだ。
しかも神殿居残り組に食事の補助が出来るのは30日が限度と言う。
その後は各自で身を立ててくれとの説明あたりで、ちょっとした騒ぎになったらしい。
こんな知らない世界で、しかもたったのひと月で仕事と家を見つけなくてはならない。そりゃ慌てるわな。
一度就職してしまえば何があっても定年までいろいろなことが保証されている日本の大手企業に勤めていたみんなにとっては、寝耳に水で慌てたことだろう。
それでとりあえず家と仕事が確定している"開拓村"に誰もが行きたがったそうだ。
「で、開拓村行きと神殿残りを決めるのに、もうありえない状況ですよ!相談とかじゃなくて勝手な決定!」
中松さんがその時の状況を思い出したのか、プンスカ怒り出した。
「そうなんですよー、話し合いとか全くなしですよ!むうー」
いつもおとなしい大森さんさえも、ムームーと怒っている。
まぁ、あの職場のやつらならさもありなん。他人にきびしく自分にはとことん甘い、自分第一主義の人の多いこと。
人の話は全く聞かない、自分を優先するのが当たり前と思ってる人がよくぞこんなに集まった!って、職場だからなぁ。
「1係から6係で不公平にならないように、各グループ内で6:4にわけるようにって部長が言ったのに、開拓村に行きたい人は絶対譲らないし!ツチ婆達なんて自分が嫌いな人は勝手に神殿組にまわすし」
ツチ婆とは土屋さんといって3係の契約社員だがいつも社員さんより威張っているおばさんだ。
俺が働いていた 部署は1係から6係まであって、業務が6つに分かれていた。
1係は50名の大きなチームで全員がパートさんだ。あ、パートって言葉は禁止だっけ。えーと、契約社員?さん
2係は1係のパー…契約社員さんを束ねる総合職の女性社員達10名。
3係は総務系の事務で社員さんとパ契約さんで合計10名
4係から6係は地域別に営業支部のバック事務を行なっていた。各10名ずつで俺を除き全員が社員さん。
俺のみ派遣で、この部署でも派遣は俺だけだった。
話を聞いてみると、各チーム公平に6:4という部長の指示は無視をされ、1係2係の合計60名全員が開拓村を譲らず。
残りのチームも古株社員及び彼女らのお気に入り社員が開拓村を主張。さらに古株社員同士でも牽制はあり、なんだかんだ揉めた上、結局8:2の割合で決まったらしい。
80名+副部長が開拓村で、20名+部長が神殿残りとなったそうだ。
ちなみに土屋さんらは開拓村組から追い出されたらしい。
開拓村は社員及び夫が社員である1係のおばちゃん達が勝ち取ったそうだ。
しかし。甘い、甘いな、みなさん。
「開拓村って現在開拓中だから開拓村なわけで、街よりずっと厳しいんじゃないか?あの人たち、たぶんそれわかってないと思うよ」
俺は思っていた事をボソっと口に出した。
まぁ、現在の日本に開拓村なんてないからわからなくてもしょうがないと言えばしょうがないけど、少しは自分の頭で考えないとこの世界ではやっていけないと思うぞ。
「開拓村って、もう村が出来てて、家もあって、そこに住んで、三食ご飯もらって遊んで暮らすわけではないからな」
そこまで言うと中松さんも大森さんもハッとした顔になった。
「確かに、神殿の寝床が床とか食事が朝晩二食だけとか仕事を探せって言葉にみんな開拓村に飛びついていたけど、あっちの食事や仕事については何も言ってませんでしたね」
神殿での食事は最初1日1回だったが、あまりに皆の抗議が激しく1日2回になったそうだ。
「そうだね。仕事探すなら田舎より都会のが見つけやすいし、開拓村の仕事ってもしかして農業とか林業?かもしれないし」
いや、俺も開拓村での仕事なんて想像つかないけどな、ゲームの知識のおかげで冒険者登録と仕事(依頼)にありつけるから助かった。
「それで、みんなはいつ開拓村へたつの?」
「ここから開拓村は歩いて半日くらいなので、明日の朝、日が昇ったらさっそく出発するって言ってました」
「半日ってぇとどのくらいだ?……12時間くらいか?」
「あ、いえ、こっちの人で徒歩4、5時間って言ってました〜」
「うんうん、でもうちらの足だと6、7時間でも着くかわからないからなるべく早く出発するって言ってたねー」
あぁ、やまとの社員さん達のダラ歩きで6、7時間ね。
普通の人で徒歩4時間って事は……1時間4kmとして、16〜20kmって事か。
車の無い徒歩主流のこの世界、それだけ離れていればアイツらとは滅多に会う事はないな。
あ、いや、20人はこの街に残るんだっけ。
「島係長はアッチだろ?」
「うんそう、島のヤローは開拓村! フンっ!」
な、中松さん、島係長を呼び捨て通り越してヤロー呼びかいw
まぁ中松さんも島に色々イジメられてたからな。
気がついた時は庇っていたけど、俺が資料庫で作業してる時にもかなりやられたみたいなんだよな。廊下で泣いてるのを数回見た。
「大丈夫か?」と聞いても「うん」としか言わなかったから心配してた。
大丈夫じゃない人は「大丈夫」って言いたがるからなぁ。
「そっか、ふたりはどうする? 今夜は神殿に帰る? 一応、宿は中松さんの部屋を二人部屋に変更はしておいたけど」
ふたりに向かってブイならぬ3本指を立ててニカっと笑った。
「「もちろん宿ですよー」」
ふたりは声を揃えて元気に返事をした。
うん。俺たちは島の事なんか忘れて異世界を楽しもうぜ!




